恋人の居る男なら、いや、女の人でもそうだと思うが、一度くらい恋人に渡すクリスマスプレゼントを何にするか迷ったという経験があることだろう。
 しかも付き合って一年目となれば尚更だ。
 加えて言うと俺の彼女さんはちょっと特殊な属性持ちと来ているので、普通の女の子が喜びそうなもので喜んでくれるかどうかという意味では結構疑問があった。
 そこで俺は、下策と承知しつつ本人に訊ねてみることにしたんだが、
「特に何も」
 という味気ない返答が帰ってきただけだった。
 味気なさの裏に何か別の感情が潜んでいたような気がしたんだが、残念ながら長門の表情を読むのに長けてきたこの俺であっても、そのわずかな変化から完璧な正解を見出せるほど鋭い勘の持ち主というわけではなかった。
 というかそんなものが有ったら最初から迷ってなんかいないだろうって気もするな。
「いや、何もってことは無いだろう」
「何も」
 食い下がる俺、突っぱねる長門。
「いやだから、何かこう、」
「何も」
 もう一度食い下がる俺、やっぱり突っぱねる長門。
「そう言わずに……」
「……何も」
 ヤバイ、長門の声が少しずつ鋭くなっている。
 これはちょっとまずかっただろうか……、うーん、長門がこうなるとこれ以上聞き出すってのは難しいよなあ。ああしかし、クリスマスプレゼントのことで喧嘩になるなんて馬鹿みたいだよな。いや、喧嘩というより長門が一方的に不機嫌になっているだけのような気もするんだけどさ。
 ここはもうちょっと上手く気を遣うべきだったか……、長門が、言わなくても分かって欲しい、何て雰囲気をかもし出してくること自体、予想外と言えば予想外だったんだが。……いや、そんな風に決め付けていた俺も悪いんだろうな。
 宇宙人とはいえ、長門だって女の子だもんな。
 ごめんな、長門。
「長門……」
「今日はもう寝る。あなたも寝るべき。……寝てから改めて考えるべき」
 ……えっと、長門さん、あなた今口調はともかく声の響きがすっごく命令調な気がするんですが?

 とまあ、そんなわけで俺達は寝ることになった。
 長門の家であるマンションに俺が泊まるって形なんだが、寝るのは同じ部屋だ。
 仲良く並べられた二つの布団。そう、二つの。
 今のところ俺達にそれ以上の進展は……、いやまあそのなんだ、人生焦っても仕方ないってことだよな!
 しかし相手は(それがエラーの原因になったとはいえ)二週間を一万回以上繰り返すなんてことをやってのけた人物だ。時間の感覚のずれってのを本気で考えるとちょっと怖い。
 まあ、長門の人生がどんなに長かろうと短かろうと、長門が俺に居てほしいって望む限り、俺は長門の隣に居てやるつもりだけどさ。……俺が生きている限りな。
「なあ、長門。……って、寝ちまったよなあ」
 すやすやと聞こえてくる規則正しい寝息を聞きながら、俺は小さくため息を吐いた。
 そのため息には幸福と、所謂『やれやれ』みたいな感じが半々、いや、7:3くらいで詰まっていると思ってもらえればよろしいだろう。
 なんだかんだ良いつつ俺は幸せなんだよな。こんな可愛い恋人が居るわけだしさ。
「……ん、うん……」
 吐息の合間から、寝言めいた言葉が聞こえる。
 こういうときの長門は本当に可愛いよなあ。普段の無表情系クールビューティも良いが、無防備な寝顔は別の意味で良い。
 思わず頬を突っついてやりたくなるな。
「ん、……き、きゅ……」
 寝言か? 一体何を言っているんだろうな?
 いや、意味のある言葉とは限らないわけだが、
「……ん、給料三か月分」
 待て、長門、それは本当に寝言か?
 大体給料って言ったって俺はまだ大学生の身の上だからバイトしかしていないし、そもそも給料三か月分ってのはクリスマスプレゼントではなくてだな、
「の、図書カード……」
 ……。
 ……。
 ……いや、もう、なんていうか、ツッコミどころ満載過ぎて突っ込めないってのはきっとこういう時のことを言うんだろうな!
 本当、これ以上ないくらいの長門らしい要求だよな……。俺には思いつかなかったけどさ。
 しかし給料三か月分なんて単語はどこから出てきたんだろうな。やっぱりあれか、あれなのか? 
 いやいやまさか、俺達はまだ大学なわけだし……、まあ、そんな先のことは良いか。今考えるのはそうういことじゃないんだ。
 とりあえずプレゼントは決まったから。その用意だ。
 しかしバイト代三か月分……、6桁かよ。
 大学生にとっては荷が重い数字だが、仕方ない、ここは頑張って工面してやるか。
 可愛い長門のためだもんな。


 終わり


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