長門ふたり

第3章 急進派の逆襲

次の日、僕はずきずき痛む頭をかかえて坂道を登っていた。
あのあと、彼に呼び出され「なぐらせろ」というので
「どうぞ」というと思いっきり頭を殴られた。いや、
彼は暴力なんてふるわないタイプだと思っていたが、
よほど腹にすえかねたんだろうな。
今回は僕にも責任があるから殴られてもしかたない。
それにしてももうちょっと加減してくれてもよさそうなもんだが。

学校に着くとまっすぐ教室に向かった。なんだか、だんだん、
どうでも良くなって来た。長門さんは二人いっしょのところを
目撃されないようにそれなりに気は使っているみたいだし、
彼が二人になる破目になったのももともとは、僕が
なんとか長門さんが二人ともこの時空にいるという状態を
無理矢理解消しようとしたせいだ。要するに長門さんが
二人でいっしょにいるところを第三者に目撃されなければ
いいわけだし、最悪、目撃されても、それが涼宮さんでないなら
致命的でも無いし、ごまかしようもある。
長門さんも涼宮さんにだけは目撃されないように
細心の注意を払うだろうし、そうなると、変な術策を弄するより
静観した方がましかもしれない。

その日は、普通に授業を受けた後、時間を見計らって部室にむかった。いたのは
長門さんB。どうやら、一日交替のルールはきちっと守っているようだ。
彼もいつもどおり、涼宮さんのとっぴなアイディアに文句を
つけている。いやいや、ご苦労なことで。
「.....って思わない?古泉くん」
おっと、聞き逃したぞ。まあ、どっちにしろ答えはいっしょだ。
「大変、よいアイディアかと」
涼宮さんは勝ち誇ったような笑顔をうかべながら、彼の方を
見返した。彼は苦虫を噛みつぶしたような顔で僕の方をにらみかえした。
いやいや、昨日のゲンコツのお返しはしっかりさせてもらいましたよ。
「じゃ、いくわよ、古泉くん」
どこへ行くのかな?まあ、いいか。とりあえず、部屋を出る涼宮さんの
後について部屋をでる。
「おい、待てよ」
おっと、彼もついて来たな。彼には悪いけど、これはおもしろいことになりそうだな。
部屋を出際にちらっと長門さんBの方をうかがったが黙々と読書にふけっている。
まあ、いいかな、別に。

3人が出て行くと部屋には長門だけが残った。長門がページをめくる音だけが
響く。と、長門は突然、文芸部室が情報封鎖されていることに気づいた。
怪訝に思って顔をあげた長門が目にしたのは涼宮ハルヒとはまたちがった
タイプとはいえ、100ワットの笑顔と言ってもどこからも文句が出そうもない
笑顔だった。
「今度は、邪魔させないんだから」

彼と涼宮さんは何ごとか口論しながら僕の前をスタスタと歩いて行く。
僕はあとからゆっくり付いて行く。さてと、今日はどんなおもしろい
展開が見られるかな。と、突然、二人が立ち止まった。
「なんだこれは」
慌てて周囲を見渡すと、まわりの風景が脱色している。さっきまでまわりを
歩き回っていた生徒達の姿もない。
「何よ、これ、どうなってんの?」
涼宮さんも慌てている、まずいぞ、これは情報封鎖だ。
誰かが、いや、何かが、学校ごと情報封鎖を行ったんだ。
「ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
後ろから声がする。振り向いた僕等の目に飛び込んで来たのは
カナダに転校したはずの彼の同級生だった。

長門はすかさず、部室の備品を槍に変形させると投げつけた。
しかし、敵もさる者、あっさりかわして反撃して来た。
「今度は、崩壊因子を仕掛ける暇なんかなかったわよね」
腕をライトソードに変形させて攻撃してくる。
「同じ手は通用しないわよ。崩壊因子さえなければこっちが有利。
ここはわたしが情報操作した世界なんだから」
長門はとっさにバリアを展開して攻撃を受け止めた。
「前回よりも有利なのはこちらも同じ。今度は彼を守りながら
戦う必要は無い」
一端、跳んで間合いをはかるとエネルギー束をたたきつけた。
「あくまで邪魔する気ね」
相手もバリアを展開してあっさり攻撃を避けた。
不敵に微笑むその笑顔の持ち主の名は...朝倉涼子。


「朝倉さん、なんであなたがここに?」
涼宮さんが朝倉涼子に話しかけている。
「すごく探したのよ!」
「そう、ありがとう。でも、質問してるのはこっちなんだけどな。
質問はね、死ぬのっていや?死にたくない?ってことなんだけど?」
「何言ってんの、あんた、頭がおかしいんじゃないの」
朝倉涼子は無言でいきなり、涼宮さんに槍をなげつけた。
「きゃっ」
さすがの涼宮さんもこの間合いではよけ切れない。
が、予想と異なり、槍は空を切った。彼がとっさに涼宮さんを押し倒したのだ。
「ちょっと、キョン、なにやってんのどきなさい!」
涼宮さんは事態を良く把握してないようだが、さすがに彼は二度目だけあって
反応が早い。とっさに体を起こしてゆだんなく周囲を伺う彼。
「長門さんを探してるの?無駄よ、今度は誰も助けに来ないわ」

おかしい、攻撃が弱すぎる。朝倉の攻撃がまるで長門を弄ぶような
奇妙な間合いだ。時間稼ぎ?
「さすがね、もう気がついたのね。でも、もう遅いわ。
いまごろ、もうひとりのわたしが涼宮さんと彼のお相手をしている頃よ。
生身の人間がわたしとサシで戦って何分もつかしら?
それとも、秒、かな?」
長門は全パワーを注ぎこんで朝倉涼子の抹殺にかかった。
相手を圧倒するのは難しくは無い。問題は時間。
長門は微かにもう間に合わないのではないかと観念した。

「じゃ、死んで」
朝倉は腕を巨大サーベルに変形させると彼と涼宮さんの上に
ふり降ろす。気づいたときには僕はその下に回り込んで攻撃を
受け止めていた。体が赤く輝いている。
「邪魔する気?」
朝倉はターゲットを僕に切替えるとこっちに攻撃を集中してきた。
飛んで来る槍をつぎつぎとはたき落とす。

朝倉は素早く動きまわり長門の攻撃をかわし続けた。
「無駄よ、それにもう遅いわ」
貴重な時間が過ぎ去って行く。エネルギー束をたたきつける。かわす朝倉。
槍が飛んで来る、はたき落とす。まずい。早く決着をつけないと。

朝倉涼子は次々と槍を投げつけて来たが、僕の赤い光はことごとく
それを中和し続けた。涼宮さんはこの状況に早くも適応したようで
彼のネクタイをつかんでひきずりあげながら、何時の間にか
僕のうしろにピタッとついている。さすが、涼宮さん。素早い。
「離れないでください」
「わかってるわよ、勝てそう?」
「わかりません」
エネルギー束をたたきつけて来る朝倉。
「そいつらを守りながらいつまでつづくかしらね?」

一瞬のスキをついて、朝倉と間合いをつめる。咄嗟に腕をライトソードに
変形させて朝倉の胸に叩き込む。勝った!
「かかったわね」
朝倉は表情をかえないまま、ふいに輝きを増した。
まずい、トラップ。
次の瞬間、光の爆発が文芸部室を襲った。

朝倉はすばやく動いて回り込むと、横から涼宮さんを狙った。
「きゃっ」
爆風で飛ばされた涼宮さんが床にころがる。まずい、思わず、朝倉から
目を放してしまった。
ドスッ、という鈍い音。胸から金属の棒がつきでている。一瞬のスキをつかれた。
あれ、痛くないや。槍をぐいっと引き抜く。
「だいじょうぶですか、涼宮さん」
と僕は言ったつもりだったが、実際に口からでてきたのはゴボゴボっという音と
赤い血だった。部屋がゆっくりと回る。いや、回っているのは自分の方だ。
いつの間にか涼宮さんがそばに来て僕を抱きあげている。
「大丈夫?、古泉くん」
涼宮さん、あなたはすごい。あんな化け物に命を狙われているのに
この状況で他人の心配ですか?「大丈夫です」と言おうとしたが出てくるのは
ゴボゴボという音と血潮ばかり。
「死んじゃダメよ。SOS団の副団長でしょう。死んだりしたら死刑だから!」
涼宮さん、言ってることめちゃくちゃですよ。
「じゃあ、次はあなたね?」
「ハルヒに手を出すな。目的は俺だろう。さっさと俺を殺して出て行け」
「残念だけど、今度のターゲットは涼宮さんなの」
「キョンに手をだしたら承知しないわよ。さっさとあたしを殺しなさい!」
涼宮さん。あなたと彼はすばらしい。何の力もない生身の人間なのに、
この状況で朝倉に立ち向かえるとは。どこにそんな勇気が詰まっているんですか?
「望みどおりにしてあげるわ。じゃ、二人とも死んで」
ビュッという鈍い音が聞こえた。気づくと黒い小さな影が朝倉に体当りしている。
光の中に輝く銀髪。長門さんA!
「どうしてあなたがここに!あのトラップから逃れられるわけは無いのに!」
慌てて反撃しようとする朝倉涼子。が、長門さんAは既に朝倉涼子の懐に
飛び込んでいた。
「情報連結解除」
朝倉の体が輝いて薄れ始めた。もがく朝倉。が、一瞬のスキを付かれた朝倉には
もう勝機は無い。見る見るうちに朝倉の体は消滅して消えてしまった。
ガシャン。ガラスが割れるような音がすると、周囲は元に戻った。
ふいに周囲の喧騒も元に戻る。
「有機体の再構成を行う」
長門さんAは僕のそばに来ると胸の傷にキスした。
ナノマシーンが注入され、みるみる傷口が塞がって行く。
「古泉くん、大丈夫?」
「出血が多かった。しばらくはふらつくはず」
よろける僕を彼が支えた。
「すみません」
涼宮さんは部室に向かって歩き始めた。
「どうなるんですか?これから」
「軽微な情報操作をした。涼宮ハルヒは今の経験を夢、
または、幻覚とみなすはず。問題は無い」
「でも、このまま部室にもどっては長門さんBが」
「彼女は消滅した」
「え?」
「朝倉涼子のトラップにかかった。彼女は自爆した朝倉に巻き込まれて消滅した」
部室にもどると誰もいなかった。
そのままその日は解散になった。
涼宮さんも無言のままだった。情報操作がうまくいったのかもしれない。

その日の夜。僕はベッドでなかなか寝つけずにいた。
僕の望みどおり、長門さんBは消滅し長門さんは一体になった。
本当なら喜んでいいはずが複雑な気分だ。
長門さんBは僕等を守るために消滅したんだ。
あの朝倉と刺違えて。長門さんAが来てくれなければ僕等はいまごろ
息をしてはいないだろう。結局、ぼくらは長門さんABのおかげで
こうして生きているのだ。もし、長門さんが早々に一体に減ってしまっていたら、
僕等は生き残れただろうか?僕はその夜、長門さんABに申し訳ない気持ちで
いっぱいだった。ごめんなさい。長門さんAB。残った長門さんAにはきっと
恩返しするから。さようならふたりの長門さん。短い間だったけど、
楽しかったよ。









翌日。部室に踏み込んだ僕はとんでもないものをめにすることになった。
長門さんの人数は元通り2名になっていた。
彼女たちは事も無げに単調な口調でこう言い放った。
「情報統合思念体のミス」
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いい加減にしろ!



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