長門ふたり

第二章 彼、登場。


翌朝。僕は憂鬱な気持ちで学校へと続く坂道を上がっていた。
昨夜は機関上層部に連絡をとり、対応を打診したが、とりえあず、
様子を見るように、という以上の指示は無かった。平たく言うと
「良きに計らえ」ってことだろう。僕の本来の任務は涼宮さんの力の
監視であって、宇宙人がらみの三角関係(いや、厳密には
登場人物は彼と長門さんの二人だから、これは二角関係だろうか?)の
清算ではない。とんでもないことに巻き込まれてしまった。
全ての原因は彼にあるのだから、彼が全てを解決すればいいのだ。
とここまで考えて、彼はいつも同じ立場に置かれていると言うことに気づいた。
全ての原因は涼宮さんにある。僕と長門さんと朝比奈さんには任務がある。
だが、彼は?たまたま、涼宮さんに選ばれたという以上の理由は無い。
「何で俺なんだ」と自問しない日はきっと無いだろう。他人の
立場というのは実際に同じ状況に置かれないと解らないものだな、なかなか。
とにかく、彼と一刻も早く協議しなければ。

そう思いながら、校門にちかづくと、何と彼が憮然とした表情で校門の門柱に
よりかかって立っているのにでくわした。
「よう」
「あなたにお話したいことがあったところです。ちょうど良かった」
「それはこっちも同じだな。どこへ行く?」
「とりえあず、屋上入口前の踊り場へ」
朝のHRまでの時間は短い。手短に話をつけなくては。
「どうなってる」
「どこまで御存じでしょうか?」
「長門が二人いるってことくらいかな」
「それでしたら話は早い。そのとおりですから」
「部室にいる長門に『もう一人の長門を帰還させたいから協力を』と言われたんだが、
どういうことだ」
なんと。長門さんBは彼を味方につけたのか。同一人物だから
無理無いとはいえ、やることがまったく同じだな。
「で、あなたはなんと答えられたのでしょうか?」
「できることはする、と」
まあ、僕と同じ様な当たり障りの無い返事だな。誰かにもう一人の
自分を抹殺する手伝いを頼まれたら、他に返事のしようなどないだろう。
「なぜ、どっちが帰るかで大騒ぎするんだ?二人の長門は同一人物なんだろう?
少なくとも、昨日、俺と話した方の長門はそう言っていた。どっちが
戻っても同じじゃないか?争いの原因は何だ?」
僕は思わず、肩をすくめてしまった。本来なら溜息のひとつも出るところだろうか?
なぜ、彼のような著しくぱっとしない男性が、相手が非一般人限定とはいえこうも
モテモテなのか理解に苦しむところだが、それにまったく気づいていないのも
驚異的だ。わざとじゃないだろうな、まさか。
「原因はあなたですよ」
何度、このセリフを彼に向かって言ったことか。本当、毎度毎度、
同じ様な説明をさせられる身にもなって欲しい。
「俺?」
「そうです。情報体としての長門さんは互いに完全に同期していますし、
どちらが『消去』されても問題はありません。
仮にあなたに、すべての記憶、感情、意志の完全なコピー
を共有するクローンがいたとしましょう。しかし、どちらかが死ななくてはいけない。
但し、痛みも苦しみもない。あなたはどうしますか?」
「そうだな、俺じゃない方を殺そうとするかもな」
「そのとおりです。同じことを長門さんもやられているわけです」
「しかし、長門は厳密には生命体ではないだろう?生存本能なんてないんじゃないか?
朝倉は俺を殺そうとしたとき『生命体の死の概念はよく理解できない』と
明言していたし」
「本来なら、ヒューマノイドインターフェースに自己保存本能はないでしょうね。
しかし、あなたという存在が全てを変えてしまいました。長門さんはあなたと
『親しく』したいというただそれだけに世界を改変までしてしまったのですよ。
あなたと一緒にすごせるチャンスをむざむざふいにはしないでしょう」
「本当にそんなつまらない理由で長門はどっちが消えるかで
大騒ぎしてるのか?信じられん」
いや、その点だけは僕も同意しますよ。とここまで来たところで予鈴がなった。
「それでは、本日は部活が終了後、長門さんのマンションに集合して
前後策を協議することにしましょう」
「わかった」
「そうそう、大切なことをもうしあげることを忘れていました。
今日、学校にいらっしゃってるのは昨日の長門さんではなく、
もうひとりの長門さんの方ですのでくれぐれもお間違いなく」
「ああ、大丈夫だ。区別はつくよ」
彼も二人の長門さんを区別できるように脳を改変されたのかな?
それとも、彼は脳を改変してもらわなくても解ると言うことだろうか?

その日はいつもどおり、部室に行き、いつもどおり、涼宮さんの奇想天外
な発想の吐露とそれに激昂する彼のやりとりを堪能しながら、
適当なタイミングで涼宮さんに賛同してますます彼を怒らせてニヤニヤしながら
過ごした。本当にやめられない。この楽しみが無かったら、
任務にともなうストレスでとっくに首を吊っていただろう。
ただ、この時ばかりは窓際の長門さんが気になってしょうがなかったのは確かだ。
いつもと変わりなく読書に没頭しているようにみえるが、
実際には彼女こそSOS団内の最大の不安定要因なのだから。
こうなって初めて、僕がいかに彼女の不変不動の存在感に
心の安心を得ていたかがよくわかる。
何も知らされないこと自体が存在意義のために知識が意図的に制限されている
朝比奈さんを除けば、裏の事情に通じているのは僕と長門さんだけ。
半ば敵対する組織に属しながらも、陰に日向にいろいろ助け合って来たのは
事実だ。その肝心の彼女が今は最大の不安定要因である。
頭がいたい。

部活が終わると僕と彼と長門さんBの3人は、マンションに向かった。
無言のまま入った部屋の中では、長門さんAがこたつで本を読んでいる。
一同、やはり無言のままこたつの四辺にそれぞれに腰をおちつける。
さて、と。どう話を切り出したものか。
「長門」
と彼が口火を切った。二人の長門さんが同時に彼の方に顔を向ける。
「この状況は望ましくないと思うんだ」
「同意する」と長門さんA。
「どっちかがもどらないとまずい」
「異論はない」と長門さんB。
「じゃあ、簡単だ。どっちがもどる?」
ああ、昨日と同じ展開だ。彼も無駄なことを。
二人の長門さんはさっと互いを指さし
「彼女が帰るべき」
短い沈黙に続いて、長門さんAは僕を、長門さんBは僕をみながら
「あなたは私に協力すると明言したはず」
と異口同音で言った。更に長い沈黙。やはりこの事態の収拾は
彼には荷が重い様だ。
「ちょっと待ってください。事態を整理しましょう。
要するに彼が一人しかいないことが問題なのでしょう」
話しながら彼の方をちらっとみる。彼が心の中で
「勝手に整理すんな」
とつっこんでいるのが手に取るように解る。まあまあ、ここは抑えて。
「しかし、彼が一人しかいないと言うのは厳然たる事実です。
誰にも変えようがありません。そこで提案ですが、なんらかの形で
彼を共有することを考えてはいかがでしょうか?
例えば、お二人には一週間交替であちらに帰って頂く。
こちらにいらっしゃっている方の長門さんがその期間は彼を
独占する。帰還中の長門さんはその間は手を出さない。
いかがでしょうか?」
何かいいそうになる彼の方にすかさずウィンクする。
彼は顔をしかめながら顔を背けた。
長門さんAとBは黙っている。
「いかがですか?」
ここはダメを押す。
「本来、一人しかいない彼を争って、この時空に両長門さんが
滞在しても無意味です。お二人が同時に同じ場所で彼といっしょに
いるところを目撃された場合の事態の収拾は我々の
手に余ります。最悪、世界が二度目の終焉前夜を迎えかねない。
どうせ、共有できないなら、一方がこの時空の外で待機する、
というのは実に合理的な提案であると思いますが」
二人の長門さんは沈黙を守っていた。

「あれでうまく行くのか、古泉?」
長門さんのマンションからの帰り道、彼が不安そうに聞いて来た。
「それは解りませんが、論理的に考えて、あなたが一人しかいない、というのは
厳然たる事実ですし、本質的に論理的に行動するように
設計されている長門さんはこの事実に背を向けることはできないはずです。
一人のあなたに、二人の長門さん。ならば、長門さんの人数を
減らすしかない。実に単純な算数の問題です」
口では「解らない」といいながら、その実、僕は自信満々だった。
長門さんがこの簡単な論理を見逃すとは思えない。
2=1はありえない。これを等式にするには、1=1しかない。
いうまでもなく、僕はこのとき、2=1を正しい方程式に変えるための、
もうひとつのやり方があることをすっかり失念していた。


昨日とは打って変わって、爽やかな気分で目覚めた僕は学校へと向かった。
いつもの坂道も心なしか短く感じた。人間の感覚とは実にいい加減な
ものだな。学校につくと念のため、状況を確認しに行った。
登校しているのは長門さんA。昨日とは交替したと言うことだろう。
念のため5組にも寄る。窓際で、彼と涼宮さんが談笑している。
本当、彼と会話しているときの涼宮さんは顔が輝いているな。
あれで、自分が惚れられていることに気づかないでいられるというのも
一種の才能だろう。涼宮さんは異性として見た場合には、ちょっと僕としては
ごめんこうむりたいタイプだが、「仲良さそう」な二人をみると
ちょっと妬けないわけでもない。
長門さんも気の毒だな。天真爛漫に振る舞える涼宮さんと
長門さんでは最初から勝負は見えている。更に、「自分」が
もう一人出現してそいつとも彼の取り合いをしなくてはいけないとは.....

長門さんには申し訳ないが、これで問題は解決して平穏無事にもどったわけだ。
鼻唄を歌いながら教室への向かう僕の携帯が振動する。
おや、誰からかな?ディスプレイには彼のコール番号
が表示されている。おかしいな。学校に携帯をもってきてはいけないはずだが
(僕は勿論、「機関」の任務上、黙認されるように取り計らわれているわけだが)。
なぜ、彼が携帯を持っているのだろう?
「もしもし?」
「古泉か?」
「はい。どのような御用件でしょう?」
「いま、どこだ?」
「それはまあ、自分の教室に戻るところですが」
「すぐこい」
「はい?今、あなたのおられる教室の前を通ったばかりですが?」
「そうじゃない。長門のマンションに来いと言ってるんだ」
「は?意味が良く解りませんが」
「何でもいいからいますぐここに来てどうなってるのか状況を説明しろ」
「そうおっしゃられましても」
「いますぐ来い。来ないならここにいる長門といっしょにそこに行くぞ!
それでもいいのか?」
「いや、なんだかよくわかりませんが、長門さんのマンションに伺えばいいのですね?」
「そうだ、何度も言わせるな!」
彼は何を怒っているのだろう?大体、なぜ、長門さんのマンションに彼がいるのか?
念のため、1年5組に戻る。そこで僕が目にしたのは、所在無げに一人で頬杖をつく
涼宮さんではなく、100ワットの笑顔を彼に向けて談笑している涼宮さんだった。
わけがわからない。携帯を取り出して彼にかける。
「もしもし?」
「何だ?」
「本当にあなたですか」
「そうだ」
「間違いなく?」
「いい加減にしろ!いい加減にしないと本当に怒るぞ!」
ブチッ、ツー、ツー、ツー、ツー。
僕は一方的に切られた携帯をもったまま、
涼宮さんの「すばらしいアイディア」を苦味走った顔で聞いている彼を、
ただ呆然と眺めていた。

とりあえず、機関に連絡してタクシーを呼ぶ。
長門さんのマンションに急行し、マンション入口のコールナンバーをいれると
「どうぞ」
という聞きなれた長門さんの声。
エレベーターに乗って部屋までいき、チャイムを鳴らすと
長門さんがドアを開けてくれて中にはいる。
たったひとつの調度品であるコタツにお茶をすすりながら座っているのは
彼だった。失礼して、僕もコタツに座る。長門さんがお茶を入れてくれる。
お茶をすすっていると彼が口火を切った。
「どうなってる?」
「どうなってると言われましても」
「朝、目が醒めるとベッドじゃなくてここで布団に寝ていた。
となりでこっちの長門が寝ている。あわてて跳び起きたんだ。
で、二人の長門と飯を食い、学校に行こうとすると
『あなたは今日はここにいる番』とかわけのわからないことを言われて、
もう一人の長門だけが出ていった。俺は軟禁状態だ。
こっちの長門に聞いても何も返事しないし」
「何も、ではない。心配することは無い、とは言った」
「そうじゃなくて、俺は説明を...」
状況が飲み込めて来た。同時に僕の背筋を冷たいものが走った。
「長門さん」
僕が呼びかけると、彼と長門さんは口論をやめ(と言っても喋っているのは
ほとんど彼だけだが)、長門さんは僕の方を見た。
「まさか、同時間同位体を作ったのではありませんよね?」
「作った」
あちゃー。
「なぜ、そんな無茶なことを?」
「彼が一人しかいないのが問題と指摘したのはあなた。わたしは
それを建設的に解決しただけ。あなたには感謝している。ありがとう」
いや、感謝されても困るんだが。
「古泉、同時間同位体ってなんだ?」
「あなたも御存じのように、同一人物は時間を変えれば
二重に存在しているということもできます。これが異時間同位体です。
一方、同じ時間に異なった場所に存在するのが同時間同位体です。
あなたは、彼の同時間同位体のようです」
「つまり、どういうことだ?」
「今、この時間平面にはあなたが二人いると言うことです。
それも時間旅行で過去や未来から来たのではあなたがです」
2=1を正しい等式にするには2=2でもいい。うかつだった。
「俺はどうすりゃいい?」
「どうもすることはない」
と長門さんが口を挟んだ。
「あなたはあなたの同時間同位体と交替で登校する。
あなたは私のもの。もう一人のあなたはもうひとりのわたしのもの。
それで問題は無い」
いやいやいや、そういう問題じゃないぞ。
「長門さん、これはまずいですよ」
「なぜ?」
「もともと、あなたともうひとりの長門さんが一同に介して、かつ、
第三者に目撃されることがありえるから、それを防止するために
一方におかえり頂きたいとおねがいしているわけです。
彼を二重にしてしまっては更に彼が自分自身と
いっしょにいるところを目撃されるかも知れません。
つまり、長門さんだけがふたりいるという状態に比べて危険が倍加します」
「問題ない」
「はい?」
「その場合には情報操作を行う。目撃者の記憶には二人の彼は残らない」
これは参った。どうしようもないな、これは。
「長門」
今度は彼が口火を切った。長門さんは彼の方を向いた。
「俺はどうなる?」
「あなたは私といればいい。問題は無い」
「そうじゃない。お前たちはお互いに同期できるからいい。
二人いようが三人いようが、お前たちは同一人物だ。
が、俺はどうなる?同期なんて器用なまねはできない。
一日おきの登校じゃあ、前日の自分の言動に責任がもてない」
「問題ない。わたしが情報操作すする。
あなたたち二人の記憶も同期されるようにする」
「長門、そういう問題じゃない。嫌なんだ」
「嫌?」
「そうだ」
「あなたはわたしといるのが嫌だと?」
「そうじゃない、だけど、自分が二人いる状態には
耐えられない。やめてくれ」
長門さんはじっと彼をみつめていた。
「断る」
「なぜ」
「私にはあなたが必要。もう一人のわたしにもあなたは必要。あなたは二人必要」
彼は頭を抱えた。
「長門、人間は記憶だけ同期すりゃいいってもんじゃない。
例えば、今日、もう一人の俺が誰かを殴ったとする。
今日、俺はそいつの記憶と同期されて、明日、誰かを
殴ったと言う記憶をもって登校する。だが、それでも、
殴ったのは俺じゃない。心の底からそいつに対して
すまなかったと思うことはできないんだ」
「理解不能」
「なんのために俺を二人作ったんだ長門?俺といたいからだろう?
いま、おまえといっしょにいるのはこの俺であの俺じゃあない。
記憶を同期してもその事実は変わらないんだ。だがな、
記憶を同期されたら、それは本当の意味でおまえといっしょにいた俺じゃあない。
誰かといっしょにいるってことはな、長門、そいつと
かけがえの無い時間をいっしょに過ごすってことだ。
あっちの俺はあっちの長門と過ごしている。それはそれで
掛け替えの無い時間なんだ。
記憶の同期なんてされてしまったら、俺は明日、
今日を振り返ったときに、あっちの長門と
いっしょにいたときのことも思い出せるんだろう?だがな、
それじゃあだめなんだ。俺とおまえがいっしょに過ごした時間は
他の何かと混ぜたり交換したりできるもんじゃないんだ。
解ってくれ」
これは驚いた。彼がこんなまともなことをとうとうと語るとは夢にも
思わなかった。
長門さんはじっと彼をみつめていた。果してヒューマノイドインターフェイスに
こんな「人間的な」主張が理解できるんだろうか?
「あなたが言っていることは理解不能」
彼が何か言おうとすると、長門さんは続けて
「しかし、あなたが嫌だと言うことは解った。
この解決方法は妥当ではない。とりあえず、同時間同位体を消去することに
同意する」
ああ、助かった。これでここにいる彼は消滅し、学校の彼だけが残る。
やれやれだ。長門さんはしばらく沈黙していたが、こういった。
「おわった。同時間同位体を情報連結解除した。彼の同時間同位体
はこの世界にはもはや存在しない」
と宣言した。
ああ、よかった。が、僕はまだ彼がここにいることにきづいた。
どうなってるんだ?長門さんは説明を始めた。
「あなたは、同時間同位体を消去しろといった。
ここいるのはオリジナル。学校にいる方が同時間同位体」
ということは、学校にいる方が消えたのか?こりゃ大変だ!

再び、機関にタクシーを手配してもらい、学校にかけつける。
タクシーの中で僕は彼に聞いてみた。
「さっきのかけがえのない時間がどうのこうのというセリフは
本心からですか。何ごとにも斜に構えたニヒルなあなたらしくない『熱い』
セリフでしたね。」
「うるさい。おまえがへんなこと長門に吹き込んだからこうなったんだ。
何が単純な算数の問題だ」
いや、その点に関しては面目ない。更に彼は付け加えた。
「ハルヒには、死んでもいうなよ」
はいはい、やっぱりあなたは素直じゃないですね。ちょっと安心しました。

校門でタクシーをおりると彼のクラスに急ぐ。
彼の席と涼宮さんの席が空席だ。涼宮さんは職員室にいるという。
いってみるとそこには、パニック状態の涼宮さんがいた。
「キョンが消えたのよ。ぱっと、煙みたいに」
「まあまあ、おちつきなさい。それは錯覚だよ。
彼は窓から落ちでもしたんだろう。人が一人、ぱっと消えたりしないよ、涼宮くん」
「そんなわけないでしょ、じゃあ、彼はどこにいるのよ?
地面に落ちてたわけ?」
「それは違っていたがね」
涼宮さんと、なだめ役の教員の会話を聞いていると、どうやら彼の消失を目撃したのは
涼宮さん一人だったようだ。窓際、後ろから2番目、という彼の座席位置が
幸いしたようだ。これ以上事態が悪化しないうち収拾しなくては。
「さ、早く行ってあげてください」
「解ってるよ」
彼が入って行くと涼宮さんははっとして(目に涙が
溜っている様に見えたのは気のせいかな?)、それからやおら彼を
指さすとまくしたて始めた。
「この、アホキョン、どこにいたのよ?死ぬ程心配したんだからね。
どこで何をしていたかちゃんと説明しない限りは...」
僕はそっと職員室を後にした。彼にはとりあえず、修羅場は自力で切りぬけて
もらうしかないな。あとで、2、3発殴られるかもしれないが。
いやはや、困ったものだ。



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