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長門ふたり

プロローグ

我々は情報統合思念体。宇宙を統べるもの。全ての時間と空間を超越し、全存在の
上位に位置する。我々は無誤謬であり決して間違いを犯さない。ごく少数の例外を
除いては....。

第一章 ある日、突然に。

授業が終わってから教室で宿題をやった後、僕は団室に向かった。団室に行くのも
なかなか難しいタイミングが必要だ。一番理想的なのは最後に部屋に入るというパターン。彼や涼宮さん
がすでにその日のパターンを作ってくれているから、それに乗ればいい。
ただ、このパターンの場合、部屋の扉を開けたときに何が起きているか解らないから
とっさの対応が難しい場合もある。あの5月の日、世界が消滅の危機に瀕した日の前日、
部屋に入って行くと涼宮さんがバニーガール、朝比奈さんがメイドの格好、そして
なんか険悪な雰囲気、僕は
「今日は仮装パーティの日でしたっけ」
などととっさにボケてみた。間違ってもここで「なぜ、そんな格好をしているんですか」
などと突っ込んではいけない。もっとも、その僕の努力も報われずに世界は消滅の
危機を迎えてしまったわけだが。
僕は機関の中でも最前線に位置するわけで、いろいろと責任が重い。唯一の
救いは、SOS団のメンバーが非常に魅力的な面々で構成されていることだ。
涼宮さんは言うに及ばず、非人間の長門さん、未来人の朝比奈さんの挙動は
常人離れしていて実に飽きない。彼も普通人にしては本人が思っている以上に
個性的だ。彼の友人の、御世辞にも賢いとはいえないあの谷口くん風の
言い方を借りるなら
「涼宮ハルヒに声をかけられた時点でおまえはもう普通の高校生じゃねえよ」
ってところだろうか。美少女3人と彼の間の「四角関係」も実に見ていて飽きない。
もっとも、任務から言えば、こういう関係は涼宮さんの精神の安定を
壊す可能性があり、あまり歓迎はできないのだが。
さて、と。今日は中はどうなっているのかな?ドアをノックすると
「どうぞ」
という抑揚の無い声。今日はどうやら長門さんしかいないようだな。
ドアを開けると、いつもの窓際の左隅で長門さんが本を読んでいる。
とりあえず、今日はとっさの対応を迫られなかったな、と安心しつつ、
扉を閉めて振り返った時点で僕は不覚にも3秒程凍り付いた。
長門さんは窓の右隅で本を読んでいた。問題なのは、
左隅にもやっぱり長門さんがいることだった。
「これはいったいどうしたことでしょうか?」
ととりあえず、聞いてみた。左隅の長門さんが答える。
「情報統合思念体のミス」
右隅の長門さんが引き取る。
「ヒューマノイドインターフェースの耐用年数は1000年。
耐用年数に達すると新しいユニットを作ってデータをコピーして
取り換える」
「情報統合思念体はミスを犯して私が耐用年数に達したと誤認して新しいインターフェースを作成した」
「そうでしたか。それはそれは。でこれからどうされるつもりですか?」
「特に問題は無い。我々は完全に同期している」
というと二人の長門は読書を再開した。
いや、問題は無いのかも知れないが、ここに涼宮さんが入って来たところを
想像すると
........
....
..
「おまったせー」
入って来る涼宮さん。長門さんが二人いることに気づいて....
...
....
.........
あまり考えたくない。鶴屋さんじゃないんだから、朝比奈さんの異時間同位体が
出現したときに「朝比奈みちる」だと言って彼がごまかしたような時の様な
わけにはいかないだろう。
涼宮さんはもう一人が「長門早紀」だとかいう説明を受け入れるとは思えない。
「申し訳ありませんが、長門さん」
二人は同時に顔を上げた。
「どちらか、一方は私といっしょに来ていただけませんか?」
左隅の長門さんが答える。
「なぜ?」
「今は説明している時間はありません。とにかく、来てください」
長門さんは二人とも立ち上がった。
「いえ、どちからかおひとりだけ」「それは不可能」
「私達は一心同体」
「自分では選べない」
仕方ない。僕は右隅の長門さんの手をとると
左隅の長門さんに
「長門さんはここにいてください」
右隅の長門さんが席に戻ろうとする。
あー、面倒だな。
とにかく、長門さんの手をとると部屋を出る。もう一人の長門さんは椅子に
座り直したのがちらっと目の隅に入る。
とにかく、この長門さんをどこかに連れて行かないと。
廊下を歩いていると
「古泉君」
心臓が飛び出しそうだった。よりによって涼宮さんに見付かった。
後ろから声をかけられて、必死に笑顔をとりつくろって振り返る。
「おや、涼宮さん、これから団活ですか?」
「そうよ。古泉くんは?」
「いえ、長門さんが気分が悪いと言うので保健室におつれしようかと」
「へえ、有希が体調不良なんて珍しいわね。じゃあ、先行ってるから」
やれやれ。
「それにしても古泉くんが有希と手つないで歩いてるなんて珍しいから
何かと思っちゃったわ」
慌てて手を放す
「いえ、これは長門さんの足元がおぼつかないようでしたので」
「ま、いいわ。じゃあ有希をよろしくね」
ああ、危なかった。そうだ、団室にいる長門さんはうまくやってくれるかな?
「大丈夫。今、同期した。問題は無い」
いや、助かった。とりあえず、人目につかないところに行かなくては。
「どちらかが、『帰る』ことはできないのでしょうか?」
「それは可能」
「では、なるべく早くどちらかにお帰り頂きたいのですが」
「了解した」
ふう、これはなんとかなりそうだな。

そのまま団活が終わる時間まで待っていると、もう一人の長門さんがやってきた。
「どうでした?」
「問題ない。誰も気づいていない」
「そうでしたか。では早速で申し訳ないのですが、どちらかにお帰り頂きたいのですが」
「わかった」
二人の長門さんは異口同音に告げた。いや、大事に至らなくて良かった。
....
5分後。
「あの、何をしておられるのですか? 」
二人の長門さんは異口同音に言った。
「彼女が帰還するの待っている」
二人とも、相手を指さしている。
「いや、そうじゃなくて、どちらかに自主的にお帰り頂きたく」
返事は無い。
「それでは、僭越ながら僕が指名させてもらいます」
僕はもとからこの部屋にいる長門さんにお願いしてみた。
「お帰り頂けますか?」
「断る」「じゃあ、そちらの長門さん..」
「断る」
さあ、困った。こういう事態は想定外だな。
「しかし、お二人がここにおられるところを涼宮さんに目撃されると
非常に困ったことになります」
「それでは、お互いを消去しあうことにする」
「理解した」
突然、教室は見たことの無い異空間に変化した。
「★×◯◎□αβγ...」
「★×αβγ◯◎□...」
ふたりの長門さんは突然、呪文を唱え始めた。
教室の机や椅子が槍に変形すると飛び交い始めた。
僕はあわてて床に伏せる。
「わ、わかりました。どちらもお帰り頂かない方法をこれから考えますから!」
ふいに教室は元に戻った。
僕は埃をはらいながら立ち上がった。
「それでは、と。お二人が帰りたくない理由をお聞かせ頂けますか?」
答えない。
「ひょっとして彼が問題ですか?」
依然として答えないが、二人の長門さんはお互いに顔を見合わせてから
再び、僕の方に視線を戻した。YESってことだなこれは。
彼も罪作りなことだ。
「わかりました。それではこうしましょう。
お二人には交代で登校してもらいましょう。
登校しない方は人目に晒されないように、マンションでおとなしくして
頂く。いかがですか?」「異存無い」
「異存無い」
ふう、第一関門は突破だな。
「さて、では、今日はどちらが残られますか?
決めて頂けますか? ジャンケンでもして」
「ジャンケンは不可能」
「私達は完全に同期している」
溜息が出た。面倒なことだ。
「それでは、と。僕がコインを投げます。
表が出たらこちらの長門さん、裏が出たら、
こちらの長門さんに残って頂きます。
よろしいですか?」
二人の長門さんは全く同じしぐさでかすかにうなずいた。

学校からの帰り道。とりあえず、心配だったので、
はずれの長門さんといっしょに帰宅してマンションまで送って行くことにした。
僕と長門さんが肩を並べて歩いていても不審がるものはいまい。
もう一人の長門さんは団室。人間、異なった場所に同一人物が
いることを認識することは難しいから、万が一、何か問題が起きても
「思い違い」で済まされる。要するに、二人の長門さんが同じ場所にいる時間を
なるべく短くすることだ。それにしてもl、
あの好奇心旺盛な涼宮さんがこの事態をいつまでもきづかないとはとても思えない。
長期的にはこの事態をなんとかしなくては。
「こういうことはしょっちゅうあるのですか」
「わりと」
「どれくらいの頻度で」「百万体に一体」
めまいがするな。
「どちらかがお戻り頂くわけにはいかないのですか?」
「その点についてわたしは異存無い。どちらがもどるべきかを
決しようとしたのにとめたのはあなた」
それはそのとおりだが、戦わないと決められないのだろうか。
マンションの入口につき
「それでは」
と帰ろうとすると長門さんは
「入って」
と言う。そういえば、長門さんの部屋に二人っきりというのも
一度もなかったな。通常なら
「いえ、せっかくですが失礼します」
と固辞するところだが、状況が状況だけに、
ちょっと心配だ。ちょっとだけ様子を見て行くか。
「それでは、御言葉に甘えて」
部屋に入るまでの間、ずっと長門さんは無言だ。
部屋にはいってこたつに座ると長門さんはお茶をいれてくれる。
「頂きます」
と飲み干すと
「おいしい?」
と聞くので
「ええ、たいへん、結構なお点前です」
と答えておく。彼だったら「長門がうれしそうだった」とか
いうところなのだろうが、残念ながら、僕にはさっぱり解らない。
更に二杯程ごちそうになったあとこちらから切り出す。「どういう御用件でしょう」
「わたしは帰りたくない。もう一人の長門を送還したいので協力して欲しい」
これは面倒なことになったな。
「しかし、そう言われましても僕にはお二人の区別が全くつきません。
協力したいのはやまやまですが」
長門さんは呪文を唱えた。
「◎□★×αβγ◯...」
「あなたの脳に改変を加えた。これであなたは私達ふたりを識別できる」
確かに。何をやったのか知らないが、今は区別できる。
ややこしいから、今、目の前にいる長門さんを長門さんA、
今、団室にいる方を長門さんBとしよう。
「これで問題はない。協力して」
「ですが...」
まずいなあ、軽率に「協力したいのはやまやまですが」などと言うんじゃなかった。
「あなたはさっき、『協力したいのはやまやまですが』と明言したはず」
「前言をひるがえした場合はどうなりますか?」
ととりえあず、聞いてみる。長門さんAは答えない。
答えずに黒檀の様な目で僕をじっとみつめる。
僕は二人の長門さんが戦い始めた時の異空間を思い出した。
とびかう机や椅子が変形した槍...
「わかりました。協力しましょう。それでは本日はこれで」
いやー、面倒なことになった。これからどうすればいいんだ。


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