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 みんなが羨ましい。
 一人一人違った個性を持っている。
 わたしには何もない。本当は……個性が欲しかった。
 朝倉涼子みたいになりたかった。喜緑江美里みたいになりたかった。
 どうしてわたしだけ、人間的じゃないの?
 だから彼の心を惹きつけられない。
 どうしてわたしは……。
 
 
 わたしが部室に入る。いつもの通り一番……だと思ったが違った。
 机に伏せて寝息を立てている涼宮ハルヒがいた。
 彼女は進化の可能性であり、わたしの居場所《SOS団》の団長であり、……憧れでもある。
 彼女の行動力はすごい。わたしには出来ないこともすぐに決断する。羨ましい。
 そして……。
 一歩、二歩と近付いて、涼宮ハルヒの髪を撫でた。
 わたしの髪と違う、サラサラの髪。羨ましい。
 二度、三度と彼女の綺麗で滑らかな髪を撫でているとゆっくりと体を起こした。
 しまった、眠りから醒めたようだ。
「ん……有希、おはよう。……頭撫でてたのって有希なの?」
 静かに頷く。それしか出来ないから。
「ふふん、あたしの髪が羨ましい? 長さかしら、それとも髪質?」
 わたしは考えた。羨ましがるだけじゃダメ。
 
 自分を変える努力をしなくちゃ。
 ……あなたの綺麗な髪が羨ましい。わたしもそんな髪になりたい。
「有希……。いいわ、今日はあたしの家に泊まりなさい! 髪をサラサラにしたげる!」
 一応、普段通りの部活を終え、涼宮ハルヒと共に準備もせずに彼女の家に向かった。
彼女の家で一緒にお風呂に入り、髪を洗ってもらっている。
「有希の髪も充分綺麗だと思うけどね」
 そんなことはない。現にあなたは時間をかけて洗ってくれている。
「それは有希がさらにかわいくなるようによ。もっと自信持ちなさい」
 髪を洗い終え、わたしは彼女から髪の手入れの知識を学んでから眠りについた。
 
 
 次の日、また部室に来たのは二番目だった。
「長門さん、こんにちは」
 朝比奈みくるが先に来ていた。
 彼女も羨ましい。スタイルも顔も抜群で、それに雰囲気が柔らかい。
「あ、長門さん。髪が綺麗になりましたねぇ」
 彼女の雰囲気の柔らかさは喋り方にあるのだろうか?
 最低限の言葉しか発さないから、わたしは堅く、暗いイメージしか無いのだろうか?
 返事に意識して言葉を付け加えてみるように実践した。
 そう。……かな?
「え……? ぜ、全然そうですよ! とっても綺麗です、それに話し方も……こう……と、取り付きやすくなってますよ!」
 ……ありがとう。
「そ、そうだ! お茶淹れますね」
 この喋り方は少しでも人間味を帯びて聞こえるらしい。少しだけ意識して使ってみよう。
 ……彼によく想われるように。
 その時、ノックの音が聞こえてきた。彼だろうか、古泉一樹だろうか。
「は~い、どうぞ」
 朝比奈みくるの返事と共に入って来たのは古泉一樹だった。
 彼にもまた、わたしが羨ましがる部分がある。
 それは……笑顔。
 
「あの二人は何かを買い出しに行くそうで、今日はお休みらしいですよ」
 そう言ってわたしと朝比奈みくるに交互に向ける笑顔。こんな笑顔を作ることが出来れば、彼も喜んでくれるだろうか?
 本をいつもより高く上げて、その陰で笑顔を作ってみる。
 こうだろうか? それともこう?
 しかし、確認出来ない所でいくらやっても仕方がないので、帰ってから練習することに決めた。
 本を閉じて、荷物を持って歩き出す。……あ、ちゃんと取り付きやすくなるように意識しないと。
 朝比奈みくる、古泉一樹……また明日。
 返事を待たずに外へ出た。これで少しでも雰囲気が柔らかくなるだろうか?
 とりあえず、家で笑顔を練習して、明日彼と話をしよう。
 少しでも変わった自分を見てもらうために。……喜んでもらうために。
 
 
 次の日の昼休み、部室に来てもらうように頼んだ。
 最低限の食事を取り、本を読みながら彼を待つ。
 少しだけソワソワして、髪を触ってしまう。これも人間が抱く感情だろうか?
「長門、待たせたな」
 彼がドアを開けて入ってきた。首を横に振ってわたしは答える。
 大丈夫。全然待ってない。……から。
 様々な本や、朝比奈みくるから話し方を真似た。
「長門……雰囲気変わったか? なんか……あれ?」
 どうやら変えようとしたことは成功したらしい。彼は少しだけ喜んでいる……と思う。
 少し、イメージを変えてみた。……どう?
 数秒の間、彼は黙っていたが、すぐに返事がきた。
「あぁ、いいと思うぞ。……髪も綺麗になったな。ハルヒにしてもらったんだって?」
 彼は頭を撫でてくれた。わたしが望んでいた願いが一つ叶った。
 気持ちよさについつい目を瞑ってしまうと、撫でていた手が離れたのがわかった。
 
 やめないで。……お願い。
 わたしの言葉に驚いていたが、すぐに再開してくれた。 ……とてもうれしい。
 ここで、わたしはお礼と共に昨日練習した笑顔を見せることに決めた。
 古泉一樹の笑顔の作り方を思いだしつつ、彼を見上げた。
 ……ありがとう。
 今作った笑顔を見せると、彼は一つ溜息をついて、わたしの顔を両手で挟んだ。
「長門。俺の前で無理して演じなくていいんだ」
 何故? こっちの方があなたは喜んでくれる。
「なんて言うかだな……お前はお前だからな。というか……」
 彼は気持ちを上手く言語化出来ていなかったが、しばらくすると思い出したように喋りだした。
「外見を気にして、少しおしゃれをするのはいいんだ。ただな、中身や話し方は変わらない方がいい」
 どうして?
「お前がお前でいるのは、いつもの喋り方や態度があるからだ。取繕った言葉や、作り笑顔なんか見ても俺はうれしくない」
 彼はわたしの頬を挟んだまま、真面目な表情で目を見て伝えてきた。
 ……わたしは間違っていた?
「違う。お前が努力するのはうれしいんだ。だけどな、俺が見たいのは心から笑うお前の顔だ」
 ……そう。
 
 わたしは柔らかい表情を作るのをやめて、気を抜いた。こんなことをしても彼は喜んでくれないから。
 努力した後が残ったのは、前より少しだけ綺麗になった髪だけだ。
「ありがとな、長門」
 彼はまたわたしの髪を撫でていた。何が『ありがとう』なのかはわからない。
 それでも、彼がそう言うのならそれでいい。
 わたしは彼の胸に頭を預けて、そのまま撫でてもらっていた。
 
 
 彼と別れ、午後の授業を受けて放課後。
 今日は一番最初に入った部室でみんなを待った。
 ノックの音、遅れて彼が入ってきた。
 笑顔で迎えようと思ったが、心から笑えそうにないからいつものように視線を合わせない。
「まだ長門だけか?」
 縦に首を振って肯定の動作。
 彼は『そうか』と言って自分の席についた。
 次いで朝比奈みくる、古泉一樹と入ってきた。
 あと一人で全員が揃う。みんながそれぞれ好きなことをして最後を一人を待ついつもの日常。
 わたしはやっぱり本を読むのが落ち着く。
「みんな! 朗報よっ!」
 涼宮ハルヒが満面の笑みで入って来た。それと同時に彼の表情も緩んだ。
 ……理解した。今の涼宮ハルヒの表情が、彼の求める心からの笑顔なのだ。
 あの笑顔をいつも保っている彼女が羨ましい。
 ……だけど今は何もしない。ゆっくり、彼と、みんなと心から笑えるようにする。
 そう思いながらも、彼を惹きつける涼宮ハルヒの表情をわたしは羨望のまなざしで見つめた。
 ……負けない。
 
 
おわり
 
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