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 パジャマ姿になりさてそろそろ寝る時間かというところで、ハルヒが懐かしいとも呼べるような代物を取り出した。へえ、と呟く俺と、準備のためと言って台所に行ってしまった古泉の反応は良いとして、朝比奈さんと長門はただそれを見ていた。
 ……別におかしなものじゃない、ただの湯たんぽなんだがな。
「何ですか、これ?」
「……何?」
 朝比奈さんと長門の声は重なりこそしなかったが、同じことを疑問に思っているようだった。そうか、二人とも湯たんぽを知らないのか。
「湯たんぽよ湯たんぽ、二人とも知らないの?」
 疑問形で詰め寄るハルヒ。
 ちなみにその湯たんぽなるものはハルヒと古泉が持ち込んだものである。どうしてこの二人がこんな物を長門の家に持ち込もうとしたのかは俺にはさっぱりだが、こいつ等の持ってきたものの割には割合まともだな、くらいには思っている。
 実用性のある代物だし、おかしなおまけが着いて来る可能性も低そうだしな。
「はじめて見ましたあ」
「……わたしも」
「どうやって使うんですか?」
「お湯を入れて、毛布とか専用の袋とかに包んで使うのよ」
 朝比奈さんに疑問にハルヒが答える。というか解説してやっている。感心する朝比奈さん。朝比奈さんが生まれた未来とやらにはこんな原始的な道具は無いんだろうなあ、なんて風に思う俺。まあ、お湯を入れる湯たんぽ自体、今でだって原始的な部類、とまでは言わないが、最近の湯たんぽの中にはもうちょっと進歩していたりもするものも有るらしいからな。
 長門はと言えば、やっぱりただじっと湯たんぽを見ている。
「お湯が沸きましたよ」
 ハルヒの解説が途切れた辺りで、お湯の入ったやかんを手にした古泉がやって来た。タイミングが良いな。
「あ、ありがと。じゃあ入れてちょうだい」
 ハルヒがそう言って湯たんぽを持ち上げ、古泉が湯たんぽにお湯を入れていく。
 しかしお湯が足りなかったのか、三つ目まで入れ終わった所でお湯がなくなってしまった。
「もう一度沸かしてきますね」
「うん、お願い」
 古泉がお湯を沸かすべくもう一度立ち上がって、残ったのは四人、お湯の入った湯たんぽは三つ。
 順番なんてどうでも良いと思うんだが、どういうわけか長門はお湯の入ってない湯たんぽを手に取り、専用の袋から中身を取り出した。当たり前だがお湯が入ってないから出来ることだな。お湯が入っているときにこんなことをしたら火傷しちまう。……長門が火傷をするかどうかは分からないが。
「……有希?」
「手に馴染む形、人体に当てることを計算して作られている模様。……でも、完璧とは言えない」
 長門、いきなりそんなことを口にするな。
 ハルヒが目を点にしているからさ。……すぐに理解の表情に変わったみたいだが。
「へえ、有希ってそんなことまで分かるのね、凄いわ」
 凄いで済まされて良い問題なんだろうか。
「ほええ、そうなんですかあ」
 朝比奈さんもハルヒと似たり寄ったりな様子だけどさ。

「お湯、準備できたんですけど」
「……」
 古泉が戻ってきて自分の分の湯たんぽにお湯を入れて、それから、長門の方を見た。
 長門はやっぱり剥き出しの湯たんぽを手に持ったままだ。長門、それじゃお湯が入れられないぞ。
「あの、お湯……。そのままだと入れられないのですが」
「……」
「ほら有希、古泉くんに渡してあげなさいよ」
 ハルヒが長門の手から湯たんぽを奪い、袋に戻してから古泉に手渡した。
 湯たんぽを取られた時長門がちょっと寂しそうな顔をしていたように見えたのは、俺の気のせいじゃないよな?
「はい、どうぞ」
「……」
 お湯の入った湯たんぽを古泉から手渡された長門は、さすがにそれを袋から出すようなことはしなかった。

 夜が明けて湯たんぽの中の水を捨てた後も、長門はどういうわけか湯たんぽを離そうとしなかった。気に入ったんだろうか。
「有希が湯たんぽを気にいるなんてちょっと意外だわ。……あ、そうだ、良かったら今度違う形のも買ってあげるわよ。お店に行けば色々あるもの」
 この家に五つの湯たんぽを全部置いていくつもりのくせに、これ以上増やすのかよ。
 一人暮らしの家に湯たんぽが幾つあっても仕方ないだろうに。
「……そう」
 いや、長門は嬉しいみたいだけどさ。
 長門と湯たんぽか……、良く分からない組み合わせだが、長門が湯たんぽを抱えている所ってのは、そんなに悪くも無いかもな。
 湯たんぽから始まって何だか良く分からない買い物計画を延々と喋り始めたハルヒと、それをただ聞いている長門、目を白黒させる朝比奈さん、苦笑気味の古泉という割りと何時も通りの光景を見ながら、俺はぼんやりとそんなことを考えていた。
 俺も今度、長門に何か買ってやるか。


 終わり

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