この頃、彼がおかしい。
いつも涼宮ハルヒの横に居て、笑顔を絶やさない。
今までのようにわたしや朝比奈みくるに自分から話しかけることもなく、ただ涼宮ハルヒの側にいる。
……どうして?
その笑顔の向く先がわたしではないの?
……どうして?
『また、図書館に』と伝えた約束は忘れたの?
探索の時だって、とても分かりやすいインチキで涼宮ハルヒとずっと一緒。
一度読んだ本を読み返すしかなくなった。何故なら、図書館に行くことがなくなったから。
彼はもう、一緒にいることもしてくれない。かまってくれない。
…………どうして?


わたしは今日も部室で本を読んでいる。もちろん、一度読んだ本を。
「あれ?まだ長門だけか」
彼が入ってくる。隣りに涼宮ハルヒの姿はない。
「ハルヒの奴、岡部に呼び出しくらってさ。まったく……バカだよな、はははっ」
ようやく彼が話しかけてきてくれたと思ったら、また涼宮ハルヒの話。
その笑顔、どうしてわたしに向けてくれないの?
「……図書館、連れて行って。今から」
わたしは想いを口にした。
昔の彼なら、少し考えて、笑顔を浮かべて『やれやれ、しょうがないな』とでも言ってくれたはず。

今の彼はそうは言わなかった。
「……そりゃ無理だ。あいつ、『あたし以外の女と一緒にいたら死刑よっ!』とか言うんだぜ?それが長門でも、朝比奈さんでもダメだって」
……どうして?
彼がそんなに束縛されているのは?
……どうして?
それに反発しない理由は?
「しょうがない、誰にも言ってないが……実は付き合ってるんだよ。俺とハルヒは」
付き合う?交際する?……おかしい。
わたしのシミュレートでは、あと一年は交際を始めない予定。
情報が、狂いだした。
全てを凌駕する、涼宮ハルヒの能力のせい。
彼を独り占めにして、好き放題に世界を書き換える。
そして、その後始末をするのはわたしや古泉一樹。
どうしてこんなことが許される?神だから?進化の可能性だから?
……忌々しい。
彼女が、涼宮ハルヒの存在が忌々しい。
いなくなればいい。消えてしまえばいい。
そしたら彼もわたしに微笑みかけてくれるようになるはず。
「……長門?」
いけない。彼の前で考えごとをしたらバレてしまう。
……彼だけは、わたしの表情を見てくれるから。
平然を装い、再び本を読み始めた。……もちろん、一度読んだ本。

頭に入らない。彼がわたしの態度に不信感を持っている。来ることはないはずだが誰か来てくれればこの空気が変わる。
それまで……待とう。
「あ~もう!あのハンドボールバカ、むかつくわっ!……あれ二人だけ?キョン、有希に何もしてないでしょうね?」
今、この場にもっとも来て欲しくない人物がきた。
わたしの理性が音を立て、崩れて行くのがわかる。
この感情は……なに?
「痛いっ!ゆ、有希、やめて!冗談はやめなさいっ!」
わたしは彼女の頭を掴んでいた。映画撮影の時、朝比奈みくるにやったように。
「どうして、彼を独り占めするの?」
もう、何が起こるかもわからない。だけど止めない。
彼が……好きだから。
「あ……それはっ、キョンがあたしの彼氏だから……よ……うあぁっ……」
わたしの手に力が入る。どうしてあなたばかりが選ばれるの?
あなたさえ、あなたさえいなければ……。
「長門!やめろ!ハルヒを殺したらお前もタダじゃすまないだろう!?」
必死でかばいながら、わたしの手を剥がそうと必死な彼。あなたの力で勝てるわけないのに……。
「無駄。それに、この女の能力はもうそれほどまでに効果を持たない」
さらに力を込める。この女のこめかみにめり込み、呻き声があがる。
「ああぁっ!有希、お願い、やめて!痛い、痛いよぉっ!」
涙を流しながら懇願してくるこの女。醜い。
わたしが手を放すと、床に座り込み、失禁し始めた。
汚らわしい。これで彼も離れていく……。
「ハルヒ!大丈夫か!?恐かったか?大丈夫、俺がついてるから……な?」
「うあぁぁん……見ないで、恥ずかしいよぉ……。恐かった、痛かったよぉ……」
……どうして?
彼はそんな汚いこの女の体を拭いている。
ダメだ。こんな手緩いやり方じゃダメ。

やっぱり存在を消しておかなければ……。
《呪文》を唱える。今まで出来そうで出来なかった、この女を消す《呪文》を。
「え?や、やだ……あたしの足、消えてる……?」
足から順番に消す。彼と別れる時間を与えるのは、せめてもの情け。
「……っ!おい、長門!いい加減にやめろ!シャレにならないぞ!」
「シャレではない」
彼が抱き締める涼宮ハルヒを見下ろす。もう、会うことは二度とない。『元』進化の可能性。
「何が……起きてるの?ねぇ、やだ……あたし消えちゃう……?キョン?恐い……恐いよ……?」
もう胸まで消えている。彼は抱き締めて名前を呼び続けているだけ。
大丈夫。この女が消えればあなたは縛られる物がなくなるから。
わたしは用意していた最後の言葉を、首から上だけのこの女に伝えた。
「涼宮ハルヒ。わたしは……『宇宙人』」
「えっ……」
消失。これで彼はわたしの物。ただ、いくつかのプロセスを踏む必要がある。
まずはわたしに襲いかかってくるであろう彼の対処。
「……くそっ!長門ぉっ!よくもハ……何?」
腕と足を動けないように止める。
そして、一歩ずつ近付いて……キス。
「あの女を忘れて。そしたらこれ以上の情報操作はしない」
「ふざけるな!今すぐ元通りにしろ!ハルヒを返せ!」
彼は何故か反発する。……そうだ、あの女の最後の力なのだ。
「大丈夫。わたしがすぐにあなたの気持ちを元に戻してあげるから」
わたしは彼の体を横に倒し、服を脱がせた。
「お、おい……長門!やめろ!」
「あなたの記憶を改竄する前に、涼宮ハルヒへの気持ちが残らないように、わたしとの行為を印象付ける」
あとは、無言。わたしに拒絶の言葉をかけ続ける彼に跨り、行為を終わらせた。

「お前……最低だ。クソ野郎。情報統合思念体どころか、その下っ端のお前までクソ野郎じゃねーか!」
彼から激しい拒絶の言葉。もう関係ない。
何故なら、この彼はこの場で消えてしまうのだから。
わたしは彼を思いきりはたいた。
「あなたのせい。わたしを選ばなかったから。わたしを選んでいれば、涼宮ハルヒは消えなかった」
わたしが世界を書き替えるまで、自己嫌悪に陥ればいい。それが《この世界》の彼への反抗。
「お、俺の……せい……」
彼は呆然としていた。動かない体から涙を零して。
彼と会わなければ涼宮ハルヒとも仲良くしていたはず。
しょうがないから、彼女も新しい世界へ連れて行く。
変な思考のない、わたしの知り合いとして。
わたしが彼と付き合うのを、嫉妬しながら見ていればいい。……いい気味。
二人しかいない部室。すでに消した、古泉一樹と朝比奈みくるの肉体。
先程消した、涼宮ハルヒの肉体。
動かない彼の体。
全てを包み込んでいく、わたしの力……。
「さようなら。今度は、わたしの彼氏として……」
《こんにちは》を言って。

そして、わたしはこの世界を改変した。


おわり

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