最近毎日同じ夢を見続けている、終わらない悪夢を。
そこはとても暗いところ。そこにわたしは一人で立っている。
その夢は私を酷く攻める。そこでわたしを攻める声が私に突き刺さる。

「ねぇ何であなたは存在し続けているの?」
「どうして?」
「私は消されたのに、何故?」
「黙ってないでさ、答えてよ!」

そう、この声の主は朝倉涼子、四方八方から彼女の声が聞こえる。
わたしは彼女からこのような事を言われても仕方がない事をした。
だから彼女から何を言われても言い返せない。

「なんであなただけ特別なの?」
「あなたはあれだけの事をしたのに、何故?」
「何であなただけが………ずるいずるいずるいずるいずるい!!私だってまだ生きていたかったのに。」
「あなたは卑怯よ!!」

わたしは耐えられなくなり両手で耳を塞いだ、しかしその声は頭の中に直接響いてくる。
その呪う様な、妬む様な悲痛な叫び声がわたしの心を抉る。分かっているわたしは卑怯者だ。
(お願いもうやめて)心の中で呟く。

「どうしてどうしてどうしてどうして!?」
「ねぇ! 何とか言いなさいよ!!!」

目が覚めた、そしてわたしは布団にうずくまり呟いた。
「もう……許して…」

その夢を見始めたのはわたしが2年生になって数週間後だった。
最初その夢を見たときわたしは驚いた、何故なら朝倉涼子という存在はこの世に居ないからだ。
彼女が彼を襲った事件の後、情報統合思念体の主流派は急進派に対して、
朝倉涼子の情報を全て消去するように命じた……
だから、ありえない事だった。

「どうしたの長門さん? そのありえない物でも見るかのような顔は」

分からなかった、彼女はもうこの世に居ないはず、
彼女を構成する情報は全て消滅したはずなのに何故?

「私がここに居るのが不思議? クスッそんなのどうでもいい事じゃない。
そんな事よりさ、ねぇ長門さん、どうしてあなたはまだ存在しているの?」

??私は質問の意図が分からなかった。

「分からない? 私が言っているのはね、何故あなたが情報連結を解除されるでもなく、
全てのデータを初期化するでもなく、エラーデータを残したままのあなたが、
有機生命体として存在しているのかってことよ!」

ようやく質問の意図が分かった、しかし何故彼女がわたしが世界改変した事を知っているのか、
それについては分からなかったが私は答えた。

「私が急に居なくなると涼宮ハルヒが騒ぎ出す、それに……彼が許してくれた。だから私はここにいる」

「それだけ?そんなことで?涼宮ハルヒが騒ぐ?彼が許してくれたから?笑わせないで!」


そう言うと彼女は俯き体を震わせていた。そして怒りをあらわにして言った。

「確かに私は重要な存在である彼を襲ったわ! でも結果的には彼は死ななかったし、
怪我すらしていないわ。それに私が彼を襲ったのはあなたの為にした事だった。
あなたの話を信じようとしない彼に現実を見せる為に行ったこと。
私が彼を殺そうと思えば一瞬で終わっていた、そんなことはあなただって分かっていたでしょ?
それなのにあなたは私が全てを消されるとき何て言ったか覚えてる?」

わたしは記憶を検索し言った。

「自業…自得…」

「そう『自業自得』あなたはそう言ったのよ! それならば何故あなたは存在しているのよ!
自分でやった行いの報いを自分が受けるならば、あなたはもう存在してないはずでしょ!?」

彼女の言葉が心に突き刺さる。あの時のわたしは心や感情といったものをあまり理解していなかった。
だからあの時の彼女の行動が理解できなかった、彼女が何故手加減していたのかを。
それでも、彼を襲うことはいけないことだった、だから言った『自業自得』と。
でも、今なら分かる彼女のとった行動の意味を……わたしは彼女に感謝しなければならなかったのだ。
事実あの事件の後、彼は現実を受け入れ、そしてわたしを、命の恩人であるわたしを一番信頼してくれる。
ああ、わたしは彼女になんて酷いことを言ったのだろう。悔やんでも悔やみきれない。
色々考えていると、彼女が追い討ちをかける様に言った。

「あなたのした事は決して許せる事ではないわ、世界改変をし大勢の人の記憶をいじくり、
あまつさえ情報統合思念体の存在を消した。私はあなたの為にと思ってやったことで
全てを消されたのに……なのに、何故あなたはエラーデータを蓄積したまま自由に生きているの?
情報統合思念体の意思を無視して、自分で決めて、選んだ道を!!
独断専行は……勝手な行動は許されないんじゃなかったの!?あなたは卑怯よ!!」


わたしは俯いた、反論できなかった。そのとおりだったからだ。事実そのように行動している。
2年生になったとき情報を操作し鍵である彼と同じクラスになるようにしたことも、
席替えで、隣の席になるようにしたることも、彼に必要以上に接触し会話をしているのも、
これらは情報統合思念体の意思を無視した行動。彼女に勝手な行動はとるなと言いながら、
わたしは自分勝手な行動をしている。


そして『卑怯』……その言葉がわたしの心を抉った



世界改変の事件が終わった時、わたしは処分される筈だった、しかし彼がそれを許さなかった。
彼は言った、わたしが消えることになったら、涼宮ハルヒを焚き付け
もう一度存在を消すぞと、それはわたしが想像したとおりの言葉だった。
わたしはその言葉を情報統合思念体に伝え処分を免れた。
わたしは自身が処分されることが嫌だった、SOS団という心地よい場所から離れたくなかった。
わたしは処分されたくないがため、彼と涼宮ハルヒを利用した。
わたしは彼女にあんなことを言っておきながら、彼女のように潔く消えることが出来なかった。


………わたしは卑怯者だ。


「ねぇ黙ってないで何とか言ったらどうなの?」

彼女の声がする、わたしは何て言ったらいいか分からない。

「あなただけのうのうと生きているなんて……私はあなたを許さない。
苦しんで苦しんで苦しみぬかせてやる。あなたに安らぐ時なんて与えない。
あなたには終わることの無い悪夢を見てもらうから。」





そこでわたしは目覚めた、そしてすぐに自分自身をスキャンした、
が、何も検出されなかった。ほっと息をついた。が頭の中で声がした、
彼女の声が。

「あら長門さん、何を安心しているのかしら?言ったでしょ?
『安らぐ時なんて与えない』って」

わたしは訳が分からなかった。わたしの身体は何の異常も見られなかったからだ。
だが、彼女の…朝倉涼子の声が直接頭の中に響いてきた。

「あなたは今まで楽しい時を過ごしていた、でもこれからは苦しんでもらう。
あなたの精神をいたぶってあげる。」

そう言うと彼女は笑い出した、そしてこれがわたしの悪夢の始まりだった。

「あなただけのうのうと生きているなんて……私はあなたを許さない。
苦しんで苦しんで苦しみぬかせてやる。あなたに安らぐ時なんて与えない。
あなたには終わることの無い悪夢を見てもらうから。」

そのときから彼女の声が四六時中するようになった。
時たま飽きたのかどうか判らないが彼女の声が止むときがあるが、それはすぐに終わるつかの間の平穏。
だがそれは平静を保つので精一杯なわたしにとっての唯一の安らぎ。
彼女の声は登校しているときや授業中、部活中にもしてくる。
勿論、情報統合思念体にもわたしの身体を診てもらったが、何の異常もないとのことだった。
わたしは恐怖というものを初めて感じた。わたしはすぐにでも消えたかった。
この耐え難い精神的苦痛から逃げ出したかった。でも、それは無理なことだ。
彼と涼宮ハルヒを利用して処分を免れたのだ。
彼が『お前がいなくなったらハルヒを焚き付けもう一度存在を消してやる』と言っていたのを
伝えてしまってあるので、わたしは消えることを許されない。

そんなことを考えていたら、もう学校へと行く時間になっていた。
わたしは正直行きたくなかった。この部屋に引き篭もっていたかった。
だが、そんなことをすると涼宮ハルヒが騒ぐし、何より彼に心配を掛けたくなかった。

「さあ長門さん今日もいっぱいいっぱい楽しみましょうね」

彼女の…声がする。いったいいつになったら許してくれるのか。
でもわたしにも誰にもどうすることも出来ない。この声はわたしにしか聞こえないのだから。
わたしは頭の中の声を振り払い、学校に行った。
教室へ入り、彼の隣の席に着いた。

「お、珍しいな長門が俺より遅れてくるなんて、大丈夫か?
身体の調子が悪いのか?だったら無理はするなよ」

「別に何でもない、ただ少し寝坊しただけ。心配する必要はない」

「そうかい、でも最近のお前は何か変だぞ?何か悩みでもあるのか?」

彼はわたしの様子がおかしいことに気づいている。
わたしは彼に心配を掛けまいと嘘をついた。それに彼に話したところで彼には……

「あら長門さん、酷いんじゃない?せっかく彼が心配してくれるのに。
まあはっきり言って彼にはどうすることも出来ないけどね。」

わたしは彼女の声を無視していた。
そして授業が始まった。授業に集中して、彼女の声から意識を遠ざけて何とか我慢が出来た。
でも昼休みになりわたしはとうとう耐えられなくなった。
それは文芸部の部室で昼飯を食べているときだった。そこには彼も居た。

「あ~あ、羨ましいな、私は物を食べたり、おいしいと感じたりすることも出来ない。
でもあなたは食べておいしいと感じることが出来る。ほんとうに羨ましい」

途端にわたしの手が止まる。

「ん?どうした長門、何か変なものでも入っていたか?」

「どうしたの?箸が止まっているわよ?彼が心配しているわ。
さあ早くその箸を口の中に持っていきなさいな。そしておいしいと感じなさいよ」

(ヤメテ、お願い、これ以上わたしを苦しませないで。
ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ
ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ
ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ……)

「おい、本当に大丈「ヤメテ!!!!!」

「な、長門?」

「あ、………」

「酷いわね~長門さんせっかく彼が心配してくれるのにその言い方はないんじゃない?
朝から彼があなたのことを心配しているのに。あなたって本当に人の気持ちを踏み躙るのが好きね」

(チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ
チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ……)

「やっぱお前変だz「黙って!もうわたしに話しかけないで!」

「あ…ち、違っ…あなたに言ったわけじゃ……」

「あら、何が違うって言うの?ここにはあなたと彼しか居ないじゃない。
彼はそうは思わないんじゃないかな?どうするの?このままじゃ彼に嫌われるわよ?」

わたしは逃げた、とにかく一人になりたかった。

わたしは急いで部室を出て、学校を出て自分の家へと行き部屋に入ると鍵を掛け
布団の中で両耳を塞ぎうずくまった。

「お願い、もう止めて!わたしが…悪かった……」

「これぐらいのことで根をあげないでよね。あなたに分かる?
自分の全てが消えていくのが、自分という存在が消えていくのを見る気持ちが!
私だってまだやりたいことはたくさんあった。
退屈な三年間の待機期間を終えて、やっと学校へ行けるようになって、
友達と、なんてこともないくだらない話をしたり、一緒に食事をしたり
買い物に行ったりするのが楽しかった。
正直言って、涼宮ハルヒのことなんてどうでもよかった。」

彼女の叫び声は悲痛なものだった。

「私が消えるとき、あなたは擁護の一つもしてくれなかった、
『彼女の行為はわたしのためにしたことだ』と
そう言ってくれたら私は消えずにすんだかもしれないのに!
もしそれでも…消えることになっても、私は満ち足りた心で消えることが出来た!
なのに…なのに…あなたはっ…あなたはっ!!……」

「もう許してわたしが悪かったから謝るから、たくさん…たくさん謝るから
御免なさい御免なさいご免なさいごめんなさいごめんなさいゴメンナサイ
ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ
ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ
ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ
ゴメンナサイゴメンナサイ………」

わたしはその言葉だけを呟き続けた。何日も何日も、ただその言葉だけを。
時折呼び鈴や扉をたたく音をしたが全て無視した。



いつまでそうしていたのか、気付いたときには彼女の声がしなくなっていた。
許してくれたのだろうか、とりあえず洗面所にいった、わたしは鏡を見て驚いた。
頬はこけ、目の下には大きな隈ができ、ガリガリに痩せていた。
髪の毛は大量に抜け落ちていた。まるで別人だった。

「あ、ああ……」

「長門さん気が付いた?あなたずっとあんな状態だったから暇で暇でしょうがなかったわ」

「…な、なんで?消えたはずじゃ……」

「何言っているの?私が消えるわけないじゃないの。それにしても長門さんよかったね」

「え?何を…言って……」

「何って?あなた情報統合思念体からのリンクが切れて晴れて人間に成ったじゃない。
あの改変世界の様にあなた唯の人間に成れたのよ。喜びなさいよ」

気が付いた。わたしは情報統合思念体とのリンクが切れていて情報操作能力が一切使えなくなっていた。
何日も部屋に篭っていたため、わたしは見捨てられたのだ。

「あっそうそう涼宮さん達ね、あなたのことはもう諦めたみたいよ。
あなたが部屋に篭っている間にあなたは転校したことになったみたい。
今では別のインターフェースが任務に就いて皆と楽しくやっている。
あなたの従姉妹っていう設定だから涼宮さん喜んでSOS団に入れたわ。
キョン君は最初渋っていたけど理由を聞いて何とか納得して、今はかつてのあなた程信用しているわ」

彼女の声がわたしを更に追い詰める。

「……う、うそ……」

「嘘じゃないわ。でも良かったじゃない、あなた人間に成りたがっていたもの、世界を改変するほどにね。
これからあなたは自由よ。涼宮ハルヒの観察なんてしないで自由に生きられるの。
ほら、もっと喜びなさいよ。アハ、ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハ……」

彼女の笑い声が聞こえる中わたしは絶望した。

終わり

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