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「じゃあ、明日にでも図書館に行くか。久々に休日なんだ。たまにはおめかししてこいよ」
そう言って、彼は帰って行った。
「……おめかし?」
わたしはそう呟いた。《おめかし》って何?よくわからない、もし彼がわたしが《おめかし》することで喜ぶとしたら……誰か教えてほしい。
わたしは辺りを見回す。最初に帰ったのは古泉一樹と彼。まだ、涼宮ハルヒと朝比奈みくるは来てないはず。
わたしの視界に入る一人の影。小柄な人物だとわかり、朝比奈みくると判断した。
「あ、長門さん。涼宮さんはちょっとやることがあるから先に帰ってていいって言ってましたから……帰りましょうか」
わたしは再び歩きだした朝比奈みくるの手を掴んだ。
「ひぇっ!どどどどうしたんですかぁ?」
「………《おめかし》ってなに?」
朝比奈みくるは驚いた様子から、キョトンとした様子に代わり、わたしを見つめていた。
「なに?」
「ふえっ!あ、すいません……。えと…《おめかし》っていうのはなんと言うかですねぇ、普段と違う格好とかをして着飾って出かけたりすること……かなぁ」

なんともはっきりしない答え。でも、なんとなくわかった。彼はたぶんわたしに制服以外の物を着て、図書館に行こうと言っている。
わたしが図書館に行く時はいつも制服だから、彼はそう言った……と思う。
「あ……もしかして長門さん、明日キョンくんとお出かけなんですか?」
「……どうして」
「え…いや、なんとなくですけど……うれしそうだから、です」
こういう所は鋭い、朝比奈みくるの意外な一面。
「そうだ!長門さん、明日は何時に待ち合わせですかぁ?」
なんなのかわからない。……特に隠す必要はないから答えるけど。
「正午に喫茶店」
「よかった!明日わたし朝から長門さんの家に行きますから待っててくださいね?」
そう言うと、朝比奈みくるは走り去った。いったい何を考えているのだろうか。
「あれ?有希、あんたまだ居たの?まぁいいわ、どうせだし途中まで一緒に帰りましょ」
わたしは頷き、涼宮ハルヒと一緒に帰った。
明日は彼と図書館へ。この間の探索で朝比奈みくると涼宮ハルヒに選んでもらった洋服を着ていこう。値札は取ったから……アイロンをかけてしわを取っておかないと。


「おじゃまします」
午前10時。朝比奈みくるはなにやら大きめの荷物を持って、わたしの家にきた。
「うふふふ……長門さん、《おめかし》の時間です」
「……?着替えるにはまだ早い時間」
「違いますよぉ、これです!お化粧しましょう!」
朝比奈みくるの持ってきた大きめな荷物。その中には化粧品などがいろいろと入っていた。
「お化粧……わたしが?」
朝比奈みくるはニッコリと笑って答える。わたしでもかわいいと思う程、素敵な笑顔だ。
「はいっ!ほら、早く座っちゃってください!」

言われるがままに座ると、朝比奈みくるがわたしの顔をペタペタと触ってきた。
「長門さんの肌、きれいですねぇ……髪もきれいだし羨ましいです」
「……わたしはあなたが羨ましい。明るい性格に、かわいい顔。発育のいい体」
わたしは朝比奈みくるに少しだけ憧れている。彼の目を釘付けにできる人間だから。
「そんな……。っていうか長門さん、発育のいい体ってオジサンみたいです」
そう言うと、朝比奈みくるは荷物からなにやら取り出して、わたしの顔にいろいろと始めた。
わたしは知識がないから為されるがまま。正座のままでそのまま化粧を施された。


「うん、こんな感じかなぁ……。やっぱり元が良いとお化粧は楽しいです」
わたしは鏡を覗き込んだ。
いつものわたしとは何処か違う感じのするわたしがそこには写っていた。
頬を少し朱に染めている化粧のせいだろうか、なんだか別人が写っているように思える。
「気に入って……くれましたか?」
朝比奈みくるがわたしの顔をおずおずと見てくる。
「……けっこう」
「よかったぁ!あ、お洋服はどうしましょうか?」
わたしにはない満面の笑みを浮かべて聞いてきた。着ていく洋服は決めているので、それを見せて返事の代わりにした。
「あ、それはこないだのですね?気に入ってもらえたならうれしいです」
「……着替えてくる。待ってて」
そう言って部屋を移動して着替えた。まだ着慣れていないせいか、少し動きにくい。

着慣れない服の所々を引っ張りながら、朝比奈みくるのもとに戻った。
「あ、長門さんかわいいです。似合ってますよ!」
彼女は優しく微笑んだので、真似をしてわたしも微笑んだ表情を作って答えた。
「……ありがとう」

朝比奈みくるは驚いた表情で、頬を赤くしてこっちを見ていた。
「……どうしたの?」
「ふえっ!な、長門さん、今の表情すっごくかわいいですっ!見とれちゃいました」
女の彼女が女のわたしに見とれるということもあるらしい。わたしにはよくわからない概念。
「長門さん、そろそろ時間だからわたしは帰りますね?あと、お出かけが終わって帰ったらこれでお化粧を落としてくださいね」
そう言うと、彼女は化粧を落とすための物を置いて出ていった。
時間は11時、いまから向かえば問題なく間に合う。
わたしは家を出て喫茶店に向けて歩きだした。


喫茶店の前に彼は立っていた。わたしが遅れてしまった、不覚。
「……少しおくれた」
彼は口をパクパクさせている。驚いた時の彼の表情だ。
「長門……メチャクチャ綺麗だぞ。いや、綺麗っつーか、かわいいっつーか……」
なにやらゴニョゴニョと呟いている彼にわたしは言った。
「《おめかし》してみた。……うれしい?」
「……うれしい、かな。俺のためにしてくれたのか?《おめかし》は」
「……そう。あなたが休日だから《おめかし》をしてこいと言ったから」

わたしがそう伝えると、彼はわたしの頭を撫でながら微笑んだ。
「そっか。よし、お礼に飯奢ってやる。そしたら図書館に行こうな」
わたしは少しだけ頷いて答えた。彼がよろこんでくれてよかった。


その後、喫茶店で昼食を取り、図書館に行った。
図書館ではいつも通りにわたしは本を読み続けた。時折、様子を見にくる彼が頭を撫でてくれると気持ちよかった。
こうして、閉館時間まで幸せな時間を過ごした。

閉館間際にわたしは本を借りる。彼が作ってくれた貸し出しカードを使うことで、わたしはうれしかった思い出を思いだせるから。
「長門、満足できたか?」
優しい彼の声。今日は涼宮ハルヒはいないから、少しだけわがままを言おう。
「……まだ」
わたしの言葉を聞き、彼はやはり不思議そうな顔をした。
「まだ……って、あとは何がしたいんだ?」
「家まで……送って」
彼の表情が驚きに変わり、そして優しい独特の微笑みに変わった。
「よしわかった。さ、行こうぜ」
彼がわたしの手を取る。今日だけの、休日で二人の時だけのわがまま。
それを聞いてくれる彼を想い、わたしは少しだけ強く手を握り返した。


「着いたぞ、長門」
彼はわたしに声をかけた。今日が終わる、少し残念。
わたしは頷いて、オートロックの玄関に近付いて行った。
「長門!今日のお前は輝いてたぞ!また……《おめかし》しろよな!」
わたしの後方5メートル辺りから彼の声が聞こえてきた。このまま無視したらダメ。
何か……言わなくちゃ。
わたしは思いだした。朝に、朝比奈みくるに向けて送った、朝比奈みくるから学んだ微笑みの作り方を。
そして、広く使われていて最も柔らかいイメージだと思う別れの挨拶を。
わたしは振り返り、彼の目を3秒程見つめた。
「………ばいばい」
朝比奈みくるに向けた笑顔より、もう少しだけ微笑みながらわたしは彼に別れを告げた。

おわり
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