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(古泉一樹×鶴屋さん前提です)

「やっほー、ってあれ、今日は長門っちだけかあ」
 そろそろと文芸部の部室、というよりSOS団の溜まり場になっている場所の扉を開いたあたしは、そう言ってパタパタと中へ入った。
 今日は長門っちだけ。他は誰も居ない。
「あ、ねえ」
「古泉一樹は掃除当番」
「あ、そう……」
 即答されちゃったよ。
 いやいや、お姉さんびっくりだね。
「長門っちも、一樹くんが掃除当番だって知っているんだねえ」
「昨日もそうだったから」
「そっか」
 この学校の掃除当番って、一日毎じゃないしね。
 うーん、しかし、掃除当番かあ。
 長門っちも察している通り、あたしがここへ来た理由の半分以上は一樹くんだ。
 付き合い始めてというよりも、付き合っているのが全校に知れ渡って早一ヶ月。
 あたし達二人は順調なお付き合いとやらを続けている。
「ねえねえ、長門っち」
 あたしは、読書に舞い戻った長門っちに話し掛ける。

「長門っちは、好きな人っている?」

 こういう無口系な子には、ストレートに行ってみよう。

「……」

 長門っちは顔を上げてくれたけど、三点リーダで返されちゃったよ。

「居ないの? キョンくんとかさ?」

 うーん、ここはもっとズバリと行かないと駄目かな?
「……」
「ほらほら、キョンくんって長門っちに結構優しいみたいじゃん、長門っちの方はどうなのさ、そこんとこお姉さんにちょっと教えてくれると嬉しいなー、なーんて思うんだけど、どうにょろっ? あ、勿論みんなにはオフレコにしておくからさっ」
 今この瞬間に『みんな』の内誰かが来ないとも限らないんだけど、何となく、それはありえないことのような気がした。

「……分からない」

「へ?」

「わたしには、恋愛感情というものが理解出来ない」

 これまた、超ストレートな回答だね。

「そっか、分かんないのかあ」
「そう」
「でも、長門っちも恋愛小説くらい読んだことあるんでしょ?」
 今はもっぱら原書畑、SF世界の住人みたいだけど、あたしも長門っちが恋愛小説っぽいものに目を通している事を見たことが有る。
「有る」
「じゃあ……」
「でも、分からない」
 ううん、これは重症かもなあ。
「そっか……」
 これについては、あたしも説明し辛い。
 恋愛って人それぞれだからね。あたしと長門っちじゃタイプが違いすぎる。
 かといって一般論的なものもどうかと思うしなあ。どうも長門っちの様子を見る限り、そういうのを全部知識として得た上で『分からない』って言っているみたいだし。
「でも」
「おや、まだ何かあるのかい?」

「あなたと古泉一樹の関係を見て、良い、とは思った」

 長門っちは、表情一つ変えずにそう言った。
 『良い』って……、そ、それはどういう意味なんだろうなあ?
「えっと……」
「意訳すると『似合っている』という単語が相応しいと思う」
「そ、そう、ありがとね! いやー、長門っちに言ってもらえると嬉しいよ」
 何か意外な人物から意外な単語を聞かされた気がするね。
 長門っちからあたしと一樹くんの関係をどう思っているかなんて聞けるとは思って無かったよ。うんうん、でも似合っているかあ、言われると嬉しいなあ。
「そう」
「うんじゃあさあ、質問を変えるけど、自分が一緒にいて、そうだね……、二人っきりで居て『良い』って思える相手はいないかい? あ、これは『似合っている』ってのとは違うもっと、えーっと、そだね、根本的な感じでさ」
「……」
 長門っちは相変わらずの無表情だけど、ちょっと、ほんのちょっとだけ、何かを考えているようにも見えた。
 よし、もう一押し!
「居ないのかい?」
「……その範囲に該当する人物が居ないとは言えない」
 おお、回答があった!
 遠まわしだけど、その遠まわしな理由は聞かないでおいてあげよう。
 これもきっと、長門っち流の照れ隠しってことさ。
「おお、居るんじゃないか! で、それってキョンくん?」
「……」
「まあ、答えたく無いなら答えなくて良いよ」
 ここまで聞いておいてなんだけど、別に、無理に回答を聞きたいわけじゃないしね。

「長門っちもさ、好きな人がいるなら頑張った方が良いと思うよ」
「……」
「『待つ女』ってのも悪くないけどさ、待っているだけじゃ他の相手に取られちゃうよっ。だからさ、ちょっとでも押してみるべきだって。あ、やり方が分からないって言うのならちょっとくらいアドバイスできるよ? ま、あたしじゃあんまり参考にならないかもしれないけど」
「……」
「まずは、相手に恋愛対象として見てもらうことからだよね。やっぱり男の子としては綺麗な女の子がいいと思うんじゃないかな? 今度服でも買いに行かない? あ、あと長門っちはそのままでも充分可愛いと思うけど、化粧品も見に行くかい?」
「……」
「でさあ……」
 そのあと、あたしは長門っちに向ってずーっと喋っていた。
 どういうわけか、何時まで経っても他の4人はやって来ない。
 一樹くんの掃除当番はともかくとして、他の3人はどうしたんだろうね?
 というか、掃除だってそんなに長くかかるとも思えないんだけど。

 一頻り喋ったなあ、と思った辺りで、ノックがあった。漸く誰かやって来たのだ。
「あ、どうぞー」
 部外者の私が答えるのもどうかと思うけど、長門っちに任せておくと多分返事をしないから、これもまあ、仕方ない。
「あれ、お二人だけですか」
「お、一樹くん!」
 一樹くんが来た!
 おお、愛しのマイダーリン!!
 ここに長門っちがいなかったら飛びついちゃうよ。

「鶴屋さん、いきなり抱きつくのはどうかと……」
「あはは、ごめんねーっ」

 うん、やっぱり抱きついちゃった!!

「そういや、ハルにゃん達はどうしたの?」
「涼宮さんなら、彼と朝比奈さんを引き連れて校内を回っていましたよ。詳しい事も僕は聞いていないのですが、今日はもう帰宅して良い、とのことでした」
 ということは、近いうちにまた一波乱あるのかな?
 まあ、楽しければいいかな。あたしが参加することになるかどうかは分からないんだけど。
「ふうん、そうなんだ。そう言えば、一樹くんは掃除当番だったみたいだけど、それ以外も何か有ったの?」
「生徒会役員の知り合いに呼ばれてたんですよ」
「ふうん……、まあいいや、一緒に帰ろう。長門っちもおいで」
 あたしが手招きすると、長門っちは首を振った。
 おや?

「二人で帰れば良い」

「いや、でも」

「あなたたちは恋人同士、私が居ると邪魔」

 おおお、長門っちに気を遣われちゃったよ。
 お姉さんびっくりだよ。思わず一樹くんと顔を見合わせちゃったよ。
 でもね、長門っち、

「いーのいーの、こういう時は長門っちも一緒で」

 あたしがそう言って、一樹くんも横で頷く。
 それを見た長門っちが、何で、と言いたげな様子で首を傾げた。

「帰りましょう、長門さん」
「……」
「ほらほら、一樹くんもこう言っているしさ。3人で一緒に帰ろうよ!」
「……」
 長門っちが、漸く本を閉じて立ち上がった。
 うん、一緒に帰ろう。
 そりゃ恋人と二人っきりってのも良いけどさ、あたし達は、長門っちを一人で帰すほど薄情じゃないぞ!

 坂を下る間、あたしと一樹くんは長門っちに話し掛けてばかりいた。
 長門っちからの回答は殆どもらえなかったけど、たまに「そう」とか「違う」とかいう単語を言っていたから、聞いてないというわけではなさそうだ。

「んじゃ、またねー」
「それでは、また明日学校で」
「……」
 坂の下で、あたしと一樹くんは長門っちと別れた。
 あたしと一樹くんの家は近いけど、長門っちは方向が違うからね。

「一体長門さんと何を話していたんですか?」
 暫く歩いてから、一樹くんがあたしに問い掛けてきた。
 本当はバスでもいいんだけど、あたし達はゆっくり帰りたかったのだ。
「おや、別々の事をしていたとは思わないんだね」
「あなたの性格から言って、それはありえないでしょう」
 ありゃ、見抜かれていたか。
「うーん、ちょっとした恋バナさ」
「恋愛の話でしたか」
 一樹くんがちょっとだけ意外そうな顔をした。
「そうそう、長門っちの恋の話さ」
「……」
「まあ、見てれば分かるって言えばそれまでだけどね」
「……そうですね」
「あ、そうそう、今度さあ――」
 一樹くんがちょっと微妙そうな様子だったので、あたしは話を切り替えた。
 長門っちが誰を好きか? そんなことは見ていれば分かる。
 でもそれは、一樹くんのお役目にも関わる話だ。
 直接どうのって訳じゃないけど、一樹くんは長門っちの応援はしないだろう。
 妨害をするってわけでも無いと思うんだけど。

 とにかく、二人で居る時はこの話はやめておこう。

 でも、あたしはあたしだから、やっぱりあたしはまた、長門っちに何か言うのかも知れない。何かするのかも知れない。

 それはそれ、これはこれ。

 線を引く場所は、あたしと彼の中に有りさえすれば良い。

 名誉顧問のお姉さんとしては『みんなの味方!』っていう風な状態で居られるのが、一番いいと思うんだけど。

 まっ、現実は難しいってことかな。
 こればっかりは、仕方ないよね?


 ――終わり

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