「……」

わたしは紅い夕日の差し込む教室で本を探している。
彼に買って貰った大事な本なのに、無い。
なぜ?わたしは鞄の中にしまっておいたはず。

ドアが開く。

わたしの目に映ったのは彼。
いつものように優しい口調で話し掛けてくる。

「長門、まだこんなところに居たのか」
「……ない」
「何がないんだ?」
「あなたに買って貰った本……」
「無くしたのか?」
「……ごめんなさい」
「お前……大切にするって言ってたのに」
「ごめんなさい」
「長門なんてもう知らん、別れよう」
「そんな……」

彼の後ろには涼宮ハルヒが見える。
そしてわたしの彼に抱きつく。

「今日からキョンはあたしのものよ」
「こらこら、俺は物じゃねぇぞ」

なぜ彼は涼宮ハルヒと仲良くしている?
わたしとの関係は……もう……。



光が窓辺から差し込む。
……朝……今のは……夢……?
そう、夢。
もう一度よく考える。
彼に本を買って貰ったことなんて無い。
……わたしと彼はあのような関係では……無い。

いつものようにのっそりと布団から起きる。
制服に着替え朝食を摂取し学校へと赴く。

今日も誰とも会話を交わさず机に向かい本を読み耽る。
けれど今日は本の文字がうまく思考の中へと入ってこない。
彼の事ばかり考えてしまう。
原因は解明し尽くしている。今朝あのような夢を見てしまったから。
放課後になるのが待ち遠しい。

昼休み。
わたしは食堂へと向かう。
今日もカレー。ここの食堂に勤務しているあの女性はなかなかの腕前。
食べ終わると部室で本を読む。
……やはり何も頭に入ってこない。
今日のわたしは少し疲れている。休息すべき。
なので睡眠をとることにした。


「……と………長門」
何者かによって体が揺さぶられる。誰?

「お、やっと起きたか」
視覚器官で認識するより先に聴覚器官が反応する。
……彼。
「それにしても宇宙人も眠るんだな」
「……」
「寝顔、けっこう可愛かったぜ」
「……」

……これも……夢……?
不安に駆られながらも目の前に居る彼を見る。
エラー、恥ずかしいという感情がわたしの心を支配する。
顔に血液が集中するのが確認される。

「いつから寝てたんだ?」
「……昼休み」
「もう放課後だぞ」
彼は笑いながら言う。

どうやらわたしは長い時間眠っていたらしい。
そして今この空間にはわたしと彼で二人きり。

「……あなたは」
「ん?なんだ?」
わたしは細々と言葉を紡ぐ。

「わたしのことをどう思っている?」

わたしはどうかしている。
このような質問を彼に投げかけるのは彼を困らせるだけ。それは理解している。
……けれど、投げかけてしまった。
なぜ?……原因は分かっている。やはり朝の夢のせい。
そう。わたしは不安でならない。
彼がわたしに対して嫌な感情を持っていないか、と。

「あー、長門……それは、どーいう意味で、だ?」
「……嫌い?」
「いや、嫌いじゃないぞ?でもな、なんていうかだな……」

彼を困らせてしまった。

「まぁ、す、好きだぞ?」
「……」
「あ!いやな、あのー、友達として、っていうか」
「……」
「好きってのはは恋愛感情とかも、入ってたりしないでもないんだがな、あの、な」
「……」

彼は自分の言った言葉を必死に説明している。
なんだかわたしは安心してしまった。ありがとう。

「好きっていうか、なんていうか、そもそも」

「わたしも……すき」

彼は数瞬固まる。

「……え?今、なんて言った?」

わたしは本を手に取りそれに目を向け文字を読み取り始める。
いつもの日常が始まる。

いつもと違うのは、彼とわたしだけ。

今はまだ、これでいい。
いつか彼に本を買って貰おう。
その時は無くさないように肌身離さず所持しよう。

彼を一度見るたび、待ち遠しくなる。

……だから早く、もう一度「好きだ」と言って。

「ん?何か言ったか?長門」
「……ない」
「そうかい」

彼は呟く。わざとらしく。

「……好きだ」

わたしはそれを聞き逃さない。逃すはずが無い。

「そう」

こんな返事しか出来ないわたしが疎ましい。
でも、彼はそこまで鈍感では無い模様。

「明日、一緒に本屋行こうぜ」
「……」
わたしは心底驚いている。
彼は何時の間に読心術を手にしたのだろうか。
「本、買ってやるよ」

わたしはわたしにとって精一杯の返事を返す。

「ありがとう」



翌日。
彼に本を買って貰ったわたしの心は今、喜びで溢れかえっている。
そして、昨日浮かんだ疑問を彼に問う。

「あなたはわたしに本を買ってくれた……なぜ?」

彼は失笑し、次第にその顔がニヤけていく。
……なぜ?


「はは、なんでって、長門、お前呟いてたぞ?……色々と」
わたしはどうやら彼のクセが移ってしまった模様。


……エラー、恥ずかしい……です。

~fin~

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