「ちょっとキョン! あたしのプリン食べたでしょ!」

部室に顔を見せるなり、隅っこのほうをごそごそしていたハルヒがそんなことを言い出した。
「俺じゃないぞ」
なんでもかんでも俺のせいにするのはやめてほしいね。
とはいえプリンなんて、俺以外に盗み食いをするヤツもいそうにないが……

「食べたのはわたし」
「いいえ僕です」
「あ、あの……すみません、あたしお腹すいてて……」

おい。

「ちょっと、なんでみんなしてキョンを庇うのよ」
だから俺は食ってねーって。

「本当にわたしが食べた」
「おかしいですね。食べたのは僕のはずですが」
「ええ? で、でも、あたしも食べちゃったんですけど……」

……ハルヒ。お前は三つもプリンを隠していたのか?
「そんなわけないでしょ。ひとつだけよ」
じゃあ誰かがウソをついてるってのか?
まさか本当に俺を庇ってるなんてのはやめてくれよ。
俺は本当に食ってないんだからな。信用ゼロってことじゃないか。

「でもわたしは食べた」
「僕もです」
「??? あたしも……」

ふーむ。長門たちがここまで意固地になってるってのも珍しいね。
もしかして本当にひとつしかないプリンを全員で食べたのか?
それはそれで偉くやっかいなことのようだが。
「これは事件ね……どうやらあたしのプリンが3つに分裂したようだけど」
んなアホな……と言い切れないところが悲しいぜ。
「なんだってプリンが分裂するんだよ」

「あれはきっと宇宙プリンだったのよ!」

「ハァ?」
「宇宙からやってきた分裂するプリン……あーもったいない! なんでみんな食べちゃったの?」
いや、他のやつが食わなくてもお前が食ってただろ。
「残念。だから今日は帰る!」
ぷりぷり怒りながら、ハルヒは部室を出て行った。
まったく情緒不安定というか、喜怒哀楽が激しいというか。
そんなことよりも。
「種明かしをしてもらおうか」
「……宇宙プリン」
「マジかよ」
「うかつ。気づかなかった。宇宙プリンは食べた者の体内で増殖する……」
「なっ……!」
長門の衝撃的なネタバレに驚愕する暇もあらば、突然朝比奈さんが前かがみに腹と口を押さえた。
まさか――
「ううっ……ゲボーーーーーーー!」
どばどばどばーっ!
あ、朝比奈さんが大量のプリンを吐き出した!?
「これは参りましたねゲボーーーーーーー!」
古泉!
「……」
「な、長門は無事なのか……?」
「ゲボーーーーーー!」
「ぎゃあああああああああああ!」

「全て吐き出せば害はない」
散々プリンを吐き出した後、けろりと長門は言ってのけた。
しかしな、部室がプリンまみれなんだが。
「宇宙プリンはこうして子孫を残す」
生物かよ。
「このままでは地球はプリンに覆い尽くされてしまいますね」
冷静にバカなことを言ってるんじゃないよ古泉。
だがプリンどもはさっきからプルプル震えて、今にも分裂を開始しそうだ。
プリンに支配される地球ってどんなんだよ。
ああでもアイスクリームに支配される映画ってのがあったな。
いくらなんでもバカバカしすぎるが、しかし実際にプリンどもはこうして目の前にいるわけで、なんだか頭がおかしくなりそうだ。
こうなったら我らが長門に全て任してしまおう。
「よし。長門、こいつらをやっつけてしまえ」
「だめ」
なんでだ?

「彼らは宇宙でも希少種。宇宙ワシントン条約で捕殺は禁じられている」

「なんでも宇宙ってつけりゃいいってもんじゃないぞ長門」
「方法はある」
「なんだ」
「彼らは腸液をかけられると溶けて消える」
「まて」
「腸液の用意を」
「殺しちゃダメっていってただろうが」
「はやく」
「僕にまかせてください長門さん」

「アナルだけは! アナルだけは!」

「……っていうか、腸液だったら別に俺のじゃなくてもいいだろう」
「……?」
不思議そうに俺の顔を覗き込むなよ。言わなきゃわからんのか。
「長門、尻だせ」
「有機生命体のアナルの概念は理解できない」
「いいからいいから」
「だっ、だめですキョンくん! そんな不埒なこと……」
朝比奈さんが間に割ってはいる。
うーむ。宇宙人と未来人の友情か。感動のワンシーンだね。
「じゃあ朝比奈さんでもいいです」
「長門さん早く!」
ひでぇ。

「……」
長門は四面楚歌だ。もっとも古泉は俺のアナルにこだわっているようだがな。
俺と朝比奈さんに詰め寄られ、長門が仕方なくスカートをまくり、パンツに手をかけたところで、
「ちょーーーーっとまったーーーーー!」
部室に乱入する者があった。
「お前は! 朝倉涼子!?」
「長門さんのお尻を狙うなんて言語道断! この朝倉涼子が成敗するわ!」
「ちょうどいい」
長門がなにやら高速詠唱を開始する。
「ふぇ? あっ! か、身体が動かない!? 長門さん!?」
「よーし朝倉のアナルでいくかー」

「ひー! アナルだけは! アナルだけは!」

「WAWAWAわすれもの~……ってなんじゃこりゃー! プリンだらけじゃねーか!」
アホな歌と共に部室に飛び込んできたのは谷口だった。
「いやー! アナルだけは! アナルだけはー!」
「しかも朝倉がアナル!」
「ふふふ……どうやら新しい生贄が到着したようですね」
古泉め……朝倉のアナルにはピクリとも反応しなかったくせに、谷口には目を輝かせやがって。恐ろしいヤツ。
「そいつは任せる」
「お任せを」

「ぎゃー! アナルだけは!! アナルだけは!!」

「……宇宙プリンの存在は全て消えた」
「よかったよかった」
「ううう……新しい世界に目覚めちゃった……」
朝倉……不憫なヤツ。
「よかったですね」
朝比奈さん、慰めになってないですよ。
「ううう……新しい世界に目覚めてしまった……」
谷口……。
「いつでも僕のところにきていいんですからね」
「古泉ぃ……」
なんで谷口と古泉はキラキラした目で見詰め合ってるんだ?
……知らないほうがいいんだろうな、これは。

「WAWAWA忘れ物~……って、何やってんの?」
「ハルヒか。ちょっと遅かったな。プリンは全て片付けたぞ」
「なにいってんの? それより新しいプリン買ってきたんだから」
またかよ。
「ここに隠しておくから。食べたらダメよ。じゃーね」
なにしに来たんだアイツは。
「言ったら隠した意味がないだろうが……まあ誰も食わないけどな」
「あ、あれは……まさかそんな……」
「どうしたんです朝比奈さん?」

「未来プリン!」

「ざけんなよこのスベタ」
「未来プリンは放置すると禁則事項です! は、はやく腸液の準備をしないとっ」
ちっ。しょうがねぇな、と思ったら、
「待ってください。どうやら涼宮さんはプリンを二つ買ってきたようです」
おい。古泉。

「超能力プリンですよ」

「朝倉。ケツ」
「ひっ! い、いや、もういやぁ!」
「長門」
「高速詠唱」
「またっ!? 身体が! いやー! アナルだけは! アナルだけは!」
宇宙人もこうなっちゃお仕舞いだな。でもお前も悪いんだぜ? こんなときに部室に入ってくるから……。
「ふふふ……」
「古泉……アーッ!」
谷口は遠いところにいっちまったなぁ……。

「未来プリンも超能力プリンもなくなりました」
朝比奈さんがほっとしたように言った。
まったく。アホか。
「みんなー差し入れだよっ」
と部室に飛び込んできたのは鶴屋さんだった。
いやな予感がするんですが、
「まさかプリンとかいうんじゃないでしょうね」
「にょろ!? キョンくんてば予知能力者かいっ? そうなのさっ、プリンだよ!」
まてこら。
「あれはちゅるやプリン……食べるとみんなちゅるやさんになる」
「えーかげんにしなさい」

お後がよろしいようで。

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最終更新:2007年01月12日 02:03