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大きな白い翼で空を飛ぶそれは、まるで天使のようだった。

だが、そいつは幸福を届けるエンジェルでは無い。

敵意を湛えた目が俺を捕らえる。

解かってる。

逃げることは出来ない。

この戦いは避けられないんだ。

夏。それが待ち遠しかったような頃が、俺にもありました。

「暑い・・・暑すぎる・・・」
俺の言葉とは関係無く、太陽は容赦無く熱と紫外線を放射し続ける。
俺はこの暑い日にも、SOS団団員の義務としてこの部室に来ている。本音を言うといますぐ家に帰ってクーラーの効いた部屋で寝たい。
当然だろう?人間だったらそう思う筈だ。
「畜生・・・太陽なんか爆発しちまえ・・・」
「そんなことになったら、人類は滅亡ですよ」
古泉が微笑みながら言う。
うるせぇ、解かってるんだよそんなこと、いちいち突っ込むな!
と言ってやりたかったが、それに使うエネルギーがひどくもったいないように感じられ、俺はそっぽを向くことで古泉への反抗とした。
「本当暑いわね・・・何でかしら・・・知らないわよ・・・」
ハルヒも何となく言ってることがおかしくなってきた。これは危ない。
「あ、そうだ。明日は市内探索パトロールにしましょう」
ハルヒの突然過ぎる提案に俺はバッと体を起こした。
「何でだよ?暑いだけだろ」
「暑いからこそよ。火星あたりから誰か遊びに来てるかもしれないわ」
この猛暑と火星人の関係については一切触れない。エネルギーの無駄だ。
「それじゃぁ明日の・・・朝8時でいいわ!いつもの駅前に集合ね。じゃ、今日は解散。家に帰って明日のために力を蓄えておきなさい」
こい言い放つと、ハルヒはさっさと部室の扉を開けて帰っていってしまった。
多分ハルヒも早くクーラーの効いた部屋でゴロゴロしたかったんだろう。俺もそうだ。

「・・・じゃぁ俺も帰りますけど、朝比奈さんはまだ居ますか?」
「私は皆が帰るなら帰りますけど」
誰かが居るなら残ってあげようということだろう。なんて優しいんだ。
俺は「やっぱ帰らずに残ります」と言おうかと本気で悩んだが、それでは朝比奈さんがかわいそうなのでやめておいた。
「お前等は?」
「皆さん帰られるようですし、僕も帰りますよ」
「長門は?」
コクリ。
「そうか、じゃぁ俺はお先に失礼します」
部室は朝比奈さんの更衣室となるため、俺は早めに退散しなくてはならない。
「はい。さようならぁ」
笑顔で手を振る朝比奈さん。ここに残りたいという欲求がまた強くなったが、なんとか抑える。
「さようなら」

部室から出された男性人、つまり俺と古泉なのだが、俺達は成り行きで二人で帰ることになった。別に古泉も何か特別な意図があるわけでは無いだろう、多分。
5時過ぎとは言え、まだ暑い中を男二人が肩を並べて帰るというのは、あまり気持ち良いことでは無いけどな。
「最近の仕事はどうだ?」
俺はなんとなく聞いてみた。
「ええ、以前に比べると少なくなりましたよ。これも貴方のお陰です」
俺は何もやってないぞ。
「貴方から見て、最近の涼宮さんはどうですか?」
「いつもと変わらず元気一杯だな」
今日は暑さのせいで半減していたが。
「それでは、貴方は涼宮さんをどう思いますか?」
最高に解からないタイミングで最高に解からないことを聞いてきた。
「それはどういう意味でだ?」
「どういう意味ででも結構です。クラスメートとして、団長として、女性として」
難しい質問だな全く。真面目に答える気にもならないが。
「別になんとも思ってない」
「本当にそうですか?」
「本当だ」
「そうですか、それは残念です」
何でお前が残念がるんだ。
「貴方の回答によっては僕の仕事がまた減る・・・もしくは無くなる可能性もあったんですけど」
「どういうことだ?」
「今は言えませんね。貴方の中で涼宮さんが変わったときには僕に相談してください。喜んで力になります」
訳が解からない。
「それでは、また明日会いましょう」
いつの間にか俺達は方向が分かれるところにまで来ていた。
「ああ、明日な」
俺は右手を軽くあげて古泉に向けた。

俺の中でハルヒが変わったら?どう意味だ?
そんなことを思案しながら、俺は家路を辿った。


朝7時。
今日もいつもと変わらない。
一度も休むことなく働き続ける太陽に畏敬の念を抱きつつ、俺は起床した。
簡単に朝食を取り、歯を磨き、服を着替え、髪を整える。
外に出て、愛車に跨り、駅に向かい始める。
今日もいつもと変わらない、


筈だった。

「遅い!罰金!」
という言葉で迎えられる筈だった俺は、正直かなり驚いた。
集合場所には、なんと古泉しか居なかったのだ。

俺は古泉に軽い挨拶をしたあと聞いた
「それで古泉、ハルヒ達は何処に行った」
「それが・・・まだ来てないんです」
「何?」
てっきりその辺の探索を既に開始したりしているのかと思っていた。
「初めてですね。貴方が最後で無かったのは」
「ああ・・・」
本来なら喜ぶべきなのかも知れないが、どうもそういう気になれない。何かおかしい気がする。
「時間までは待ちましょう」
古泉の笑みが、何となく薄まっているように見えた。
「今、7時55分です。あと5分待って来なかったら」
「来なかったら?」
「異常事態です」
早ぇだろそれは!喉まで出掛かったツッコミの言葉を何とか抑え、俺は聞いた。
「何でそうなるんだ?」
「誰か一人ならまだしも、3人同時に遅れるなんて考えられることではありません。これは何かあったとしか」
「ハルヒが何か企ててるのかも知れん」
「解かっていないのかも知れませんが、涼宮さんは本当に真面目にこのパトロールを行っているんです。そこに遊びの要素は存在しません」
うーん、一応信用しておこう。

5分後。ハルヒ達は来なかった。

「・・・ダメだ。長門も出ない」
「そうですか・・・」
俺は携帯をポケットにしまった。
「電話にも出ないとなると・・・一層怪しいですね。これは非常事態かも知れません」
お前はどうしても事態を大きくしたいようだな。

俺達はここから近いいつものファミレスや公園などを探したがハルヒ達は居なかった。それで仕方なく俺達は元の駅前に戻ってきている。
「これは間違い無く非常事態です」
何処かに電話をしていたらしい古泉が、戻ってきて言う。
「何故だ」
「機関の者とも連絡が取れません。これは流石に有り得ません」
「携帯が壊れてるんじゃないのか?」
「他の場所には問題なくかかります」
それは・・・危ないのか?
「じゃぁ、どうするんだ?」
古泉は肩をすくめる。
「正直、お手あげです。思索のしようがありません」
お前に解からないなら俺に解かるわけも無いな。
「それでも、ずっとここにいる訳にも行かないだろ?」
「そうですね・・・それではまず現状の把握――――」
古泉の言葉が止まる。
「どうした古泉?」
古泉は無言で前方を指差す。

俺がその方向を見ると、明らかに見覚えのある人影が3つ、そこにあった。
なんのことは無い、ハルヒと朝比奈さんと長門だ。
「何が非常事態だよ。時間が違っただけじゃないのか?」
でもハルヒは俺達にハッキリ8時と言った。変更されたとすれば、俺と古泉には何も言ってないことになるな。ハルヒだったら普通にやりそうだ。
「・・・・・・」
古泉は心底驚いた様子だ。こんな表情初めて見る。
「やっぱり早計すぎるんだよ、お前は」
俺は古泉にそう言ってやった。

3人はこちらに気付いたらしい。ハルヒが走り出した。元気一杯だなぁもう。
「ようハルヒ、おそか―――――」
俺の言葉は最後まで続かなかった。何故かって?
「・・・!?んー!?ん~!!?」
何か柔らかいものが、俺の口を塞いでいたからだ。それがハルヒの唇だと解かるのに、30秒は要した。
俺は渾身の力でハルヒを引き剥がすと、目一杯叫んだ。
「な、何すんだよ突然!?お前誰だ!!?」
「何よ?あたしはあんたの涼宮ハルヒよ?」
そう言ってまた俺に抱きついてきた。あたってる!あたってますから!!
俺は再びハルヒを引き剥がしにかかったが、今回はハルヒも全力だ。なんだこのバカ力は?つーかさっきからあたってるんだよ!
「ちょっと待てハルヒ!何があった!?聞いてやるから落ち着け!俺が全力で対処してやるから!!」
「んー?あんたこそ何かあったのキョン?そんなに目一杯拒絶しないでよ」
何となくハルヒの目がトロンとしているように見える。こいつ、酒飲んでるんじゃないだろうな。
「とにかく離れろ!人が見てるだろ!」
「もう・・・バカキョン・・・」
ハルヒはやっと俺から離れてくれた。名残惜しそうなのは見間違いだ。そうに違いない。

「ハルヒ、一体何があった?聞いてやらんことも無いぞ?」
俺達はクーラーの効いたファミレスに移動した。
俺はファーストキスを奪われたショックと、ハルヒのあまりの変わりように狼狽しながらも聞いてやった。優しいなぁ俺。
「何かあったって何?あたし何かおかしいことした?」
おかしいことしかしてねぇよ。
「さっきのこと?別に、いつもしてるじゃない」
したことねぇよ。これからも絶対しねぇよ。
「別に良いじゃない」

「だって、あたし達付き合ってるんだし」

何?付き合ってる?誰が?俺と、ハルヒが?
「は?おまえ何言って―――」
「それはそうかも知れませんが、街中であのようなことをするのは流石にどうかと思いますね」
俺の言葉を古泉が遮る。なんだ、そのアイコンタクトは。
「別に良いじゃない。あたし達愛し合ってるんだから、あのくらいは普通よ」
「何がふつ―――」
「ははは、羨ましい限りですね」
またもや古泉が俺の言葉を遮る。
「それにしてもキョン。あんた早かったわね。珍しい」
…喋っても問題無いよな?古泉。
「お前が8時って言ったんだろ?お前等が遅いだけだ」
「は?あたしは昨日9時に駅前って言ったけど」
「何?」
話が食い違う。何なんだよもう。
「まぁいいわ。全員集まれたことだし、グループ分けのクジ引しきましょう。ハイ、どうぞ」
俺は事態の流れについていけず、結局余った一本を取ることになってしまった。
俺のは印無しだった。
見るに、古泉と長門が印無しのようだ。よし、今の状況では最高のメンバーだ。
「キョン印無しなの?・・・まぁ仕方ないわ、クジ引きは絶対だから。1時になったらここに戻ってくること。いいわね?じゃぁ行くわよみくるちゃん」
「ちょ・・・ひょえー」
良かった、朝比奈さんはいつもと変わらないようだった。

「長門さんに頼んで、この班分けにしてもらったんです」
よく手が回る奴だな。
「長門さん、この状況の説明をお願いします」
長門は古泉と俺の顔をしばらく見つめたあと、喋り始めた。
「貴方達は、1年前の過去から来た」
…は?
「どういうことだ?」
「原因は解からないが、貴方達は貴方達から見て1年後に飛ばされた。そして今ここに居る」
ハテナマークが俺の頭の中で輪を作る。
「じゃぁここは1年後の世界なのか?」
「そう」
「何で俺達はここに?」
「原因は不明」
それが一番大事なんだよ。
「恐らくは涼宮ハルヒの力。彼女には何か意図がある筈。貴方達が苦心することは無い」
だったらいいんだが。
「この一年での貴方達の大きな身体的変化は無い。話を合わせていれば、涼宮ハルヒに違和感を与えることは無い」
「それでは、SOS団がこの1年で何か変わったことを教えてくれますか?」
古泉がこう聞くと、長門はしばらく俺の顔を見つめたあと、言った。
「一つ」
何だ。
「貴方と、涼宮ハルヒは交際している」

「・・・は?」
「なるほど・・・」
なるほどじゃねぇよ古泉。今長門は何て言った?
「つまり1年後、貴方と涼宮さんは恋人同士になっているわけですね。それも、街中で平気で接吻出来るほど深く」
信じがたい。と言うか信じられるかそんなこと。
「規定事項。1年後には嫌でもそうなる」
嫌だったらならないと思うんだが・・・。

「・・・まぁ事態は把握出来た」
常人なら最初から最後まで訳わからないだろうが、俺はもうこんなことには慣れ始めている。そんな自分に嫌気が差すね。
「それで、俺達はどうすれば帰れるんだ?」
「繰り返す。涼宮ハルヒには何か意図がある筈。つまり、涼宮ハルヒが満足すれば恐らく貴方達は元の時間へと回帰出来る」
「そのためにはどうするんだ?」
「これは貴方達の時間の涼宮ハルヒの所為。私達には何も出来ない」
なんだよそりゃぁ・・・。
「じゃぁ俺達は、元の時間のハルヒが満足するのを待つしか無いってことか?」
「そう」
「・・・・・・」
それじゃぁいつ帰れるのか解からないじゃねぇか。
いや、でも俺達が苦心することは無いんだからむしろ喜ばしい状況か?
…そんなわけ無いな。
「今の貴方達に出来ることは、なるべくこの時間の涼宮ハルヒに違和感を与えないこと」
はぁ・・・そうですか・・・。
「貴方にこれを渡しておく」
そう言って長門が差し出したのは、一つの携帯電話だった。
「何だこれ?」
「貴方の携帯簡易ネットワーク端末。この時間ではこれを使って」
俺がその携帯を受け取ると、長門が付け加えるように言った。
「彼女とおそろい」

「何か見つかった?キョン」
俺達は再び、例のファミレスに集まっていた。
午前の間を俺はひたすら状況の把握に努めていた。それはもう掃いて捨てるほどの不思議が見つかったな。
「いいや」
「そう・・・惜しかったわね」
惜しくねぇよ。
「じゃぁ午後の班分けをしましょう」
長門と古泉と朝比奈さんがサッとクジを引く。何だその行動の早さは。
そして、3人のクジを見て俺は愕然とした。3人共、無印だった。
「あら?キョンと私が組ね。じゃぁ行きましょうキョン。不思議が私達を待っているわ!」
マジかよ・・・。
さっきちょっとキスされたり抱きつかれたりしただけで心臓が爆発するかと思ったんだ。二人きりになったら何をされるか解からない。
「キョン!何ボーっとしてるの?ホラさっさと行くわよ」
「あ、ちょっとま―――」
言い終わる前に、俺は物凄い力で腕を引っ張られ、音速かと思えるほどのスピードでファミレスから出た。

ハルヒとのパトロールで何があったのかは割愛させて頂きたい。思い出すと今すぐにでも手首を切れそうだ。

長門によると帰宅しても問題無いとのことだったので、俺は自宅に帰ることにした。

帰宅後、家族との会話にも違和感が出るのでは無いかと危惧し、俺は帰ってすぐ入浴しすぐにベッドに入った。
なるべく人間と関わりたくは無かったのだが、それを許さない者が一人居た。
「キョン君寝るの早い!反則ぅ!」
俺が被った布団をものすごい力で引き剥がされる。
言うまでも無い、わが妹の仕業だ。
「何だよ?俺の眠りを妨げる奴は何人た――――」
「キョン君うるさい!」
「ぬぉ!?」
我が妹は1年でさらに凶暴さを増したようだ。本当に将来はハルヒのようになるのかも知れない。
「なぁ、お前今何年生だ?」
「1年生!」
元気一杯に右手で1を表しながら、妹は言った。
俺の知ってる妹は小学6年生だ。俺は本当に一年後の世界の来たのだと、再認識した。
妹が中学生か・・・想像出来ん。
「キョン君明日用事あるの?何でこんなに早く寝るの?」
「いや、別に無いけど」
「じゃぁちょっと宿題手伝ってよぉ。終わりそうに無いの」
宿題。そうだ、宿題。俺もやらなければ。
「よし寝るのはやめだ。俺は自分の宿題をする」
「え~?キョン君のイジワル!」
ぶつくさ言う妹を追い出し、俺は自分のカバンの中から宿題らしいプリントを取り出した。
…???
どうみても3年の宿題です。本当に・・・ありがたくねーよ。
普通に考えれば1年たてば俺も3年生な訳で、宿題も当然俺の守備範囲外だ。そこ、習ってても範囲外だとか言うな。
俺はそのプリントをカバンに戻した。提出機嫌が来る前に元の時間に戻れることを祈ろう。

1年後も夏の暑さは変わらないらしい。太陽は今も一生懸命過ぎるほどに働いている。
元の時間と日付がズレて居ないなら、今日は月曜。登校しなければならない日だ。
困ったな。教室やら靴箱やらの場所が解からん。それを捜して校舎を彷徨うことになるか。
なんて、俺の危惧は杞憂に終わった。
「キョーン!迎えに来たわよ!!」
外からそんな声が聞こえてきたからだ。

どうやら俺とハルヒは毎朝一緒に登校しているらしいな。
俺はさりげなく唇のガードを固めつつ、玄関を開けた。
「あ、キョン!!」
ガードが甘かった。
物凄い勢いで俺に向かって飛び込んで来たハルヒの唇が俺の唇に重なる。歯がカチッと音を立てた。
「んー・・・キョン、おはよう!」
「・・・おはよう」
もう俺は半分諦めていた。
このハルヒがこんなハルヒであることはもう解かっていたし、もしかしたらこの時間に来ちまった俺の方が悪いのかも知れない。
…それに、こんなハルヒも悪く無・・・いや!そんなことは無い!今のは忘れろ!
何はともあれ、ハルヒと居れば教室を無駄に歩き回ったりすることも無いわけだ。
「ほらキョン遅刻するわよ!」
笑いながら俺の手を引くハルヒは、悔しいがかなり可愛かった。

3年の授業はさっぱり解からなかった。
馴染みある教師の顔が急に宇宙人みたいに見えてきた。ハルヒに教えてやろうか。
「何?あんたこんな簡単なことも解からないの?簡単な応用じゃない」
悪かったな。まずこれが何の応用かも解からないんだ。
「解かった解かった。じゃぁ今度あんたの家に行って教えてあげるから」
…俺の家でするのは勉強だけだよな?

ハルヒは今日掃除当番らしい。好都合だ。
俺は早足で部室へと向かった。

「待っていましたよ」
古泉が俺を向かえた。
部室には古泉と、長門と朝比奈さんが既に来ていた。
「あのぉキョン君、一年前から時間移動をしてきたって本当ですか?」
聞いていたのか。頼りなさそうな人でも一応未来人だからか。あ、今の俺は過去人か?
「どうやら、そうらしいですね。何も知らないんですか?」
「はい・・・私は全く・・・」
そうか。時間絡みのことなら朝比奈さん関係なのでは無いかと疑っていたりしたんだが。
「原因は解かりませんか?」
「・・・すみません」
まぁ期待はしていなかったので大丈夫ですよ。

「長門は?何か解かったが?」
「何も」
…お前には期待してたんだが。
「今の状況では推測しか出来ない。それも、全て一昨日に話した」
そうか・・・。
「解からないことが一つある」
本当は一つどころじゃ無いんだが、特に気になる点があった俺は、この機会に聞いてみることにした。
「なに」
「何で、古泉が居るんだ?」
いつもこういう役は俺一人が押し付けられるところだろう。
それなのに今回は古泉も一緒なのだ。これは少々おかしいと考えて良いんじゃないのか?
それに対する長門の答えは釈然としないものだった。
「それは、特に意味は無い」
「は?」
「一人より二人の方が可能なことは多い。単にそれだけだと思われる」
「・・・・・・?」
俺はそのときの長門の表情に・・・なんて言うんだろうか、言い表し難い違和感を覚えた。
「長門・・・お前何か隠してるんじゃないか?」
「・・・何も」
やっぱりおかしい。長門の顔には俺にしか解からない程度にだが、困惑と焦燥の間のような表情が表れている。
…といっても俺はそれ以上問い詰めるようなことはしなかった。
1年経って長門も変わった。そう考えるのが妥当なんじゃないだろうか。
ま、重要なことだったら、長門が俺に隠し事をするわけないしな。

と、思っていた。

「そこで、僕はこの事態の調査をしようと思いますが、貴方も来ますか?」
古泉がいたって真面目な顔で言う。
「何かあてはあるのか?」
「いえ。昨日機関に協力を要請してみましたので、そちらで何か解かっていれば良いんですが」
機関か。一年後でも健在なんだな。
「・・・ん?機関とは電話が繋がらないんじゃなかったのか?」
「機関は頻繁に連絡先を変更するんです。昨日僕の元に知らせが来ましたよ。
 事情は解かってくれていますので、僕はしばらく神人狩りに出なくて済みそうです。
 と言っても、最近はほとんど閉鎖空間が発生していないそうですけどね。羨ましい限りです」
「そうか、良かったな」
1年後には世界は安定するわけだな。それは俺としても嬉しいことだ。
「ま、涼宮さんの力は消えてないようですけど」
…まだ根本が生き残ってたのね。

「それで調査ですが、来ますか?」
「ああ、俺も行かせてもらうよ」
ここに居たらまたハルヒに何されるか解からないからな。別に嫌じゃないんだけ・・・いや、何でも無い。忘れろ。
「はい、では行きましょう」
俺と古泉が席を立ち、部室から出て行こうとしたその時、
「待って」
長門が俺達を呼び止めた。
「どうした?長門」
「私も行く」
言い終わる前に長門は席を立ち、幽霊のような動きでスーっと俺達のところまで来ていた。
「あー・・・別に良いが、お前はハルヒのところに居なくていいのか?」
「いい」
「お前が居ないとハルヒと朝比奈さんしか居なくなるぞ?」
「いい」
「1+1は?」
「2」
うーん・・・。何となく長門らしくない行動だ。長門は自ら意見を言ったり行動を起こしたりすることが少ない。これも1年でも変化か?
「ダメ?」
「べ、別にダメとは言わないさ。じゃぁ来いよ長門」
…まぁ、長門の変化なんかハルヒに比べたら微々たるものだ。気にすることも無いだろう。
それにこれは長門にとって確実に良い変化だ。自分の意見はやっぱり持つべきだ。

「じゃぁ朝比奈さん・・・はどうしますか?」
「あ、私はここで涼宮さんを待ってますっ」
優しいなぁ朝比奈さん。あの横暴団長のために一人で待ってようなんて。
「そうですか。じゃぁ俺達は用があって帰ったと伝えておいてくれますか?」
「はい。解かりました。いってらっしゃ~い」
俺は朝比奈さんのあまりの可愛さに「やっぱ行くのやめます」と言おうかと本気で考えたが、それは俺も困るのでやめておいた。ん?何かでジャヴだな。
「はい、じゃぁ行ってきます」
そんなわけで、俺達は北高をあとにした。

「で、まずは何処に行くんだ?」
「貴方の家です」
Why?何故?
「僕達が時間を移動したのは3日前の夜、寝ている間のことでしょう。
 となれば貴方は貴方の自宅で、僕は僕の自宅で移動をしたことになります。
 僕の家には何もありませんでしたが、貴方の家にはもしかしたら何かしらの手がかりがあるかも知れません」
「そ、そうなのか・・・?」
まずいなこれは。
何かしらの手がかりとやらが出てくるだけなら良いが、見られちゃ困るものまで出てくるやも知れん。
「大丈夫ですよ。僕も長門さんも、貴方の部屋で見つけたものを口外したりはしません」
心を読んだように古泉が言う。
そうじゃないんだ古泉。見られることに問題があるんだよ。解かるか?
「ま、朝比奈さんが居なくて良かったですね、と言っておきましょう」

しかし、そんな俺の危惧は杞憂に終わったようだ。
俺が先に自分の部屋に入り、ベッドの下やタンスの中なんかを探してみたが、何処にも『それ』は無かった。
「貴方には美しい恋人が居るのですから、そんなものは必要無いのかも知れませんね」
古泉には苦笑されながらそうまとめられた。

「とりあえずは、見られて困るものは無いですね?」
「ああ」
多分。
「では、手がかりを捜しましょう」
古泉と長門が殺人事件に出くわした素人探偵のような感じで現場検証を開始した。
俺では何か見つけても何も気付かないようなことがありそうだから、二人の探偵を眺めることにした。
古泉はまず引き出しを片っ端から調べている。それで本当に何か手がかりが見つかるんだろうか。
長門は俺のほとんど漫画しか無い本棚から手をつけている。
いや、あれ?
長門が一冊の本を手に取り、眺めていた。
「長門、その本。お前から初めて借りた本だよな?」
「・・・そう」
「ちょっと貸してくれよ」
俺が手を出すと、長門は何故か一瞬躊躇うような仕草をしたが、すぐに本を渡してくれた。
俺はその本をパラパラと捲る。そして見つけた。
「あった、栞だ」
「何か見つけたんですか?」
古泉がタンスの検証をやめて俺のところに来た。
「この本の栞に、長門からのメッセージが書いてあるかも知れない」
長門ってのは元の時間の長門のことだ。
俺はその栞を指でつまみ、そこに書いてある字を見た。
そんなに期待はしていなかった。こんな簡単に手がかりが見つかるなら、俺はいつもそんなに苦労していない。
しかし、そこに書いてあったのは、時間と場所だけが書かれた手紙では無かった。

良い意味で期待を裏切られた俺は、慌ててその文章を声に出して読んだ。
「・・・に近づかないで」
「何ですかそれは?」
「・・・解からん」
栞には『に近づかないで』としか書いていなかった。『に』の上に不自然なスペースがあるが。
「これは・・・どういうことだ?」
俺は一人で考えあぐねいていたが、一つ大きなことを忘れていた。
「長門さん、これは貴方が書いた物ですか?」
古泉が長門に聞いた。
そうだ、これが過去の長門が書いたものなら、今の長門に意味が解からないわけが無い。バカだな俺。
しかし、長門の答えは俺達の期待していたものでは無かった。
「違う。私では無い」
「長門じゃない?他の誰が本に栞挟んでメッセージを寄越すんだ?」
「解からない」
「んん?」
そんなことをするのは世界の何処を捜しても長門だけだと思うんだが。
「まぁそれが誰のメッセージかはあとで考えましょう。問題はその文です」
―――に近づかないで。か
「それは誰かが僕達に危険を知らせようとしているものかも知れません。誰か近くにいては危険な人が居るんですよ」
誰だそれ?ハルヒか?近くに居たら確かに危険なんだが。
「そういう意味では無く、真面目な意味でです」
そんなこと言われても考えようが無いんだが。
「そもそも、危険を伝えるなら何でその対象を書かないんだ?」
俺がこう聞くと、古泉はしばらく真面目な顔をして考え込んだ。らしくないな。
「それは恐らく・・・その当人に見られても警戒されないようにするためか―――」
古泉は、完全に真面目な顔になっていた。
「もしくは、もう当人にその部分を消されてしまったかですよ」
「・・・・・・」
じゃぁその当人ってのはここに来たのか?
そう考えるとゾクッとする。それはリアルに怖い。

「他に手がかりらしい手がかりもありませんね。その栞は僕が持っておきます」
「ああ」
俺が古泉に栞を渡そうとすると、細く白い指がそれを遮った。
「それは私がもたらしたものかも知れない。私が解析する」
そう言って長門が俺の手から栞を取った。
長門らしくない行動だが・・・まぁ長門に任せた方が良いだろう。
「別に問題は無いよな?古泉」
「え、ええ・・・」
何故か古泉は煮え切らない様子だった。
そんな古泉を、長門のミネラルウォーターのような目が見つめていた。

「何で昨日帰っちゃったの!?みくるちゃんしか居なかったじゃない!」
翌日、登校した俺はそんな言葉で迎えられた。
「ちょっと用があってだな、長門と古泉にも手伝ってもらってたんだ」
「何よ、何かあるなら私を頼ってくれていいのに・・・」
お前本当にハルヒか?ハルヒの1年後って本当にこうなるのか?
「調度長門と古泉が居て調度良かったんだ。ごめんなハルヒ」
まぁ一応謝るべきだろうな。ハルヒの身勝手で出来た団とはいえ、それをハルヒに告げず休部したわけだからな。
しかしこのハルヒは、俺の知るハルヒとは大分違うらしい。
「別に良いのよ!今度デートしてくれるならね!」
なんだよこのデレデレ・・・もう一回聞くけど、お前誰だ?」
「だから!私はあんたの涼宮ハルヒよ!」
そう言うと、ここは教室だというのにも関わらず、ハルヒは俺に抱きついてきた。

勝手にしろよもう・・・。

「よう長門、何か解かったか?栞で」
部室には長門しか居なかった。ハルヒは俺より早く出て行ったと思うんだが。
「何も」
「そうなのか?誰に近づいちゃいけないのかとか」
「解からない」
「何もか?」
「何も」
「・・・・・・」
うーむ・・・長門にも解からないなら多分誰にも解からないだろう。

1年後もSOS団の活動内容はそんなに変わっていないらしい。
俺は古泉とゲームをしているだけだったし(まぁこの古泉は当然なんだが)長門はひたすら本を読んでいたし、ハルヒはネットサーフィンに興じていた。朝比奈さんはこの暑い中何故か編物に興じていたのだが、それを見るのも初めてではない。
しばらくすると帰る頃合になると長門が本を閉じ、皆がいそいそと帰宅の準備を始める。それも変わっていないらしい。

「キョン一緒に帰りましょうよ!」
女子と肩を並べて下校する、か。良いね、うん。しかし・・・
「すまん。俺、ちょっと用があるんだ。帰っててくれ」
「え~?何か最近キョン付き合い悪いわよ?」
ブーブー言うハルヒをなだめ、なんとか帰らせることに成功した。
俺も一度はイチャイチャしながら彼女と下校してみたかったがねぇ、今日は無理だ。

俺は一つの懸案事項を抱えていた。

その懸案事項は靴箱の中に入っていたノートの切れ端だった。
ああ、前にもあった状況だな。それと全く同じだ。嫌な記憶が蘇る。

「toキョン  放課後6時に教室に来て」

その切れ端には、そう書かれていた。

正直言うと、俺は油断していたんだろう。
本来なら真っ先に長門に伝えるところだろうが、まさか2回もとタカをくくっていた。
それに、もし本当に誰かが俺に告白するのだとしたら?そこに長門を連れて行くのは失礼極まりない。
…まぁこの時間の俺にはハルヒという彼女が居て、この俺もそれを悪く無いと感じているわけだから、もしそうだったら断ることになるだろうが。
今から謝っておこうか。ごめんなさい。

俺は教室に居るのが誰でも驚かなかっただろう。いや、朝倉なら驚いた。すったまげる。
しかし、そこに居た人物を見て、俺は全く驚かなかった。というかひどく落胆した。
「やぁキョン。来てくれるか心配してたよ」
どうみても国木田です。
「本当にありがとうございました~♪」
そう言いながら教室の扉を閉める。
「あ!ちょっと待ってよキョン!」
慌てて国木田が半分閉まったドアを開く。俺はしぶしぶ教室へと入った。
「何だよ、なんか改まって言うことでもあるのか?」
言っておくが、国木田との付き合いはSOS団関係者(にしちまっていいのか?)の中で一番長い。今更別に何も話すことは無いと思うんだが。
「いや、ちょっとキョンに用があって」

俺はため息をついてから聞く。
「何だ?真面目な話か?」
「うん。涼宮さんのこと」
…は?
「ハルヒ?何でハルヒが出てくるんだ?」
まさかハルヒを好きになっちまったから僕を紹介してくれとか言うんじゃないだろうな。
「まぁちょっとね。他の人に聞かれちゃ困る話なんだ」
そう言って国木田は俺が開けた教室のドアを閉める。別に閉めなくても今の時間は誰も通らないと思うんだが。
「まずね、涼宮さん。最近どうかな?」

「ま、まぁ普通だが・・・」
「そうなんだよね」
こいつは一体何が言いたいんだ?
「僕達が入学したての時は凄かったよね、涼宮さん」
「あ、ああ・・・」
「今涼宮さんが安定してるのは、キョンのお陰なのかな?」
はい?
「なぁ、お前何が――――」
「僕はそれがね。すごくつまらないんだよ」
国木田が俺の言葉を遮って言った。

「最初は楽しかったなぁ・・・。涼宮さん、いっつも訳解かんないことして。そのためにキョン達が走り回って。それを見てるのが、楽しかった」
訳が解からない。帰っていいか聞こうと思った俺の耳に、信じられない言葉が入ってきた。

「フフ、すごいよね。宇宙人と未来人と超能力者が全部居る部活。しかもその部長が創造神だなんて」

俺はまず耳を疑った。今の言葉は俺の聞き間違いじゃないのか?いや、宇宙人と未来人と超能力者。こいつはそう言った。
次に目を疑った。俺の前に立っているのは本当に国木田か?いや、こいつは俺の親友の国木田だ。
そして最後に頭を疑った。これは夢じゃないのか?何で国木田がそんなことを知ってるんだ?俺の記憶がおかしい?国木田は元々知っていた?

「キョンは何処もおかしく無いよ。僕が何も言ってなかっただけだから」
国木田が笑いながら言う。
俺は早速話についていけなくなる。こいつは今何を言っている?
「でも最近の涼宮さんはおもしろく無いね。異空間を作って巨人を暴れさせることも少なくなってるし。
 そもそも涼宮さんがその力を使うことがまず少なくなってるんだよね。これじゃ僕がここに来た意味が無いよ」
国木田が何を言ってるのかは解からない。しかし、これが異常事態だということは解かった。
「国木田・・・お前知ってるのか?」
「うん、全部ね。あと僕はね、君たちの待ち望んでいた・・・あれだよ、異世界人ってやつなんだ」
超衝撃事実をサラっと、国木田はカミングアウトした。
「言っておくけどね、僕は涼宮さんを観察するために来たわけじゃないよ?あ、ある意味では観察か。
 うーん・・・なんて言うんだろうな・・・そう、鑑賞。観察じゃなくて鑑賞しに来たんだよ」
よく解からないが、悪趣味だ。
「でも、最近の涼宮さんはツマラナイんだよね。じゃぁ、もしキョンが僕だったらどうする?」
 ・・・・・・・・・。

「とりあえず何でもいいから変えてみようと思うんじゃないかな?どうせ今のままだったら何も変わらないんだし」

その言葉を聞いた瞬間、俺は出口に向かってダッシュした。
頭でじゃない。本能で危険を感じ取った。青い長髪の女の映像が脳裏を掠める。
俺は渾身の力でドアを開けた・・・いや、開けようとした。
…扉は開かなかった。
何故だ?鍵は掛かっていない。焦る。ここに居てはまずい。
「ごめんねキョン。そこはもう開かないよ。朝倉さんみたいに出来たらカッコ良かったんだけどねぇ、僕には開かないようにするのが精一杯だよ」
国木田はいつもと変わらない、おっとりとした口調で言った。俺は今している行動が無駄なのだと悟った。
「お前は・・・何者なんだ?」
「さっき言ったじゃない。涼宮さんを鑑賞しにきた異世界人だよ」
「国木田・・・国木田は何処に行ったんだ!?」
「何言ってるのキョン?僕が国木田だよ」
国木田・・・いや、その異世界人は、俺にゆっくり近づいてきた。
「お前は、俺をずっと騙してたのか?」
「人聞きが悪いなぁ。最初は純粋にこの世界での生活楽しもうと思ってたんだよ。でも流石に3年もここに居ると飽きちゃってね。
 どうしようか考えてたときに涼宮さんに出会ったんだ。本当に嬉しかったよ。」
俺はそいつと距離を取りつつ、聞いた。
「俺とハルヒが接点を持つように仕向けたのはお前か?」
「違うよ。本当に偶然。僕じゃ無かったのは残念だけど、それでも僕の親友に涼宮さんが好意を持ったと知ったときには運命感じちゃったね」
本当に嬉しそうに話すそいつに、俺は確かな恐怖を覚えた。

「じゃぁキョン。経験があるみたいだし、僕が何をしようとしてるかは解かってるよね?」

「こんなセリフを言ってみるとそれっぽくなるのかな?」


「あなたを殺して、涼宮ハルヒの出方を見る」

身構えていた俺は、間一髪でそれをかわすことが出来た。俺はそいつと距離を取るために後ろへ飛んだ。
そいつの手には、いつか見たナイフが握られている。
「朝倉さん、何でナイフなんか使ったんだろうね。銃でも使えば良かったのに」
その言葉を聞いて俺は愕然とした。もしかしてこいつは銃を持っているのか。
「フフ、大丈夫だよキョン。僕も銃なんか持ってないから、日本じゃ手に入らないしね」
安心とまではいかないが、心の負担が少し軽くなった。そいつは「でも朝倉さんなら銃ぐらい作れるよねー」などとぼやいていた。

クソ、なんなんだこの状況は。
国木田は俺の親友だろ?何故俺が親友にナイフを向けられてる?
いや、こいつは国木田じゃなく、見知らぬ世界の人だ。
それが俺を殺そうとしている。

オレヲコロソウトシテイル。

「フフッ、流石キョンだね。もう完璧に状況を理解してる。普通の人なら訳も解からず自分を攻撃してるところだよ」
ねぇよ。
そんなツッコミをする気にもなれない。それが正常な人間だろう。
「あ、良いこと思いついた」
そいつは、漫画かアニメのようにポンッと手をついた。今の状況では可愛げの欠片も感じられない。
「ねぇキョン。僕達親友じゃない?じゃぁさ、最後に遊ぼうよ」
「お前は親友なんかじゃねぇ・・・」
腹から声をひねり出したが、そいつはそれを無視した。
「ハイ、これ貸してあげる」
そいつがこっちに投げて寄越したそれは、どうみても日本刀。
「ルールは簡単ね。僕達でチャンバラして、勝った方が勝ち。ん?勝った方が勝ちっておかしい?まぁいいや。とりあえず抜きなよ」
俺はそいつに注意を向けながら日本刀を拾う。何か仕掛けがしてあるようには見えない。
「言っておくけど、その刀はこの世界で手に入れてから何もやってないよ?本当にただの日本刀」
こいつ、心が読めるんじゃないのか?
「最後に聞きたい」
「何?」
「お前の・・・本当の名前は何だ?」
別に刀を握ったら武士道に目覚めちまった、なんてわけじゃない。俺を5年以上騙しつづけたそいつの名前を、俺は純粋に知りたくなった。
「僕の名前か・・・無いよ。そんなもの。僕の世界には『個』っていう概念が無いんだ。だから名前も無い。
 僕はそういう世界を捨てて来た訳だけどね。強いて言うなら国木田。それしか無いよ」
「そうか・・・」
俺は刀を鞘から抜いた。

「国木田。俺昔からそんなに怒ったりしたこと無かったんだ。ケンカもそんなにしたこと無いな」
「僕は一回も無いけど」
「でもさ、俺、今まで3回。本気でブチ切れたことがあるんだ」
「何で?」
「1回はハルヒが朝比奈さんをおもちゃ扱いしたとき」
「・・・・・・」
「2回目は、ハルヒが俺のプリンを食ったとき」
「・・・最後は?」
「言わなくても解かるだろ?」
俺は鞘を投げ捨て、両手で刀を構えた。
「親友だと思ってた奴が、ずっと俺を騙していたと知ったときだよ」
俺はそう言うと、そいつ・・・国木田に向かって突進した。

よく考えると有りえない行動だ。
国木田も何時の間にかちゃんとした刀を持っていたし。俺は剣道とかやってないしな。
つーか相手は異世界人だぜ?
異世界人だからってこの世界の人間である俺より強いとは限らないが、確実に何かしらの能力は持っている。
じゃぁ何で俺はこんなことをしてるのか?
当たり前だろ?
怒ったからだ。
あーもうキレた。ぶちギレた。悪いか?
いや、悪いとか悪く無いの問題じゃ無くて、これは俺の命がかかってる問題なんだけどな。
それでも、このとき俺はやめておくべきだったのかも知れない。

「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
国木田に向かって走っていってるとき、そんな声が聞こえた。それが俺の声だと気付いたのはそれを認識したすぐあとだ。
あ、俺こんな声も出せるのね。
そんなことを考える余裕があったのには驚きだ。ハハ。


国木田との距離が縮まる。

残り3mかと言うとき、

国木田が笑った。

その瞬間、俺の腹に横線状に熱が走った。

次に生暖かい間隔が腹に広がる。

「あ・・・」

俺の体は骨が抜かれたように頼りなく倒れる。

熱が引き、激痛が襲ってくる。

国木田が俺を見下ろしている。

「つまらない・・・」

国木田がそう呟いた。

「じゃぁもう、死んでよ」

国木田が俺の心臓を狙って刀を構えた。

「じゃぁねキョン、割と楽しかったよ」

「待・・・て・・・くに・・・き・・・」

俺の言葉の前に、国木田の刀が俺の心臓に真っ直ぐ落とされた。

俺は生まれて初めて、本気で死を覚悟した。
いや2回目か。こんな経験2回も出来る奴なんか今の時代じゃヤクザぐらいだろう。
一回目は、世界の消失のとき朝倉に刺されたときだな。あれは本気で死ぬかと思った。
そのとき助けてくれたのは誰だったけな?

「な・・・がと・・・?」

頼もしいその小さな手が、刀身を掴んでいた。

長門はその刀を奪い取り、投げ捨てた。
「来るのが遅くなった。謝罪する」
確かに・・・ちょっと遅かったな。
「あら?長門さん?」
国木田がそんな間抜けな声を出した。
その顔を長門が殴り飛ばした。いや、こんな表現じゃ表しきれてないな。
まず長門の拳が国木田の笑顔にヒットした。さらにそこに何か見えない力が働いた。見た目には高速で2発パンチを入れたような感じだ。
説明下手ですまん。
と、今はそんなことはどうでも良いな。
そしてその長門の何かわからんスーパーパンチを受けた国木田は、教室の前から後ろまでの強制小旅行を余儀なくされた。
俺は国木田が盛大に壁に頭をぶつけでもすると思ったのだが、なんと国木田は空中で一回転し、キレイに着地して見せた。
「やぁ長門さん。こんにちは」
しかもオットリとそんなこと言いやがった。
その国木田を無視し、長門は俺の近くに肩膝をついた。
…見えてしまったが、この状況ではそんなことは気にしてられない。この状況でもそれを追い求めるってやつは死んでくれ。
「損傷部の再構成を開始する」
長門が俺の腹に手をあてる。痛みが引いていくのが解かった。

俺はゆっくり体を起こし、教室の後ろの黒板の前でニヤニヤしている国木田を見た。
「傷はもう大丈夫?キョン」
「・・・お陰さまで」
たっぷり憎悪を含んでそう言ってやったが、国木田には全く堪えていないらしい。
国木田の視線は俺から長門へと移った。
「やぁ長門さん。まさか入ってこられるとは思わなかったよ」
「空間封鎖が極めて原始的。しかし同時に複雑」
「フフ、あんまり古いのは簡単に開けないんだよね。長門さんは新しいもの好きだから」
笑いながらそう言う国木田をまたしても長門は無視する。

「敵性 特殊有機生命対 属性変更を申請特殊戦闘モードA」
長門がそんなことを呟くと、何て言うんだろうか・・・赤いエネルギー弾のようなものが長門の周りに出来始めた。
「放出」
その弾の一つ一つが国木田に向かって高速で飛んで行った。何かデジャヴだな。
10数このエネルギー弾に迫られ絶体絶命かと思われた国木田は、なんとそれを手をかざしただけで全て防いだ。国木田の前に見えない防御壁が出来ているようだ。
「再び属性変更を申請 中距離戦闘モードA」
今度は何か鋭そうな物が長門の周りに形成され始める。
・・・つか俺は今何を見てるんだ?何これ?疑問を持つのが遅すぎたか?
長門の周りのそれが再び国木田に向かって飛ぶ。
国木田はそれを高速移動でかわした。
……!?
かわしたと思ったら、国木田は消えていた。少なくとも俺の目には見えない。
「近距離戦闘モードC」
長門がそう呟いた。
その次の瞬間、長門の拳が俺に向かって高速で伸びた。
長門に蹴り飛ばされた経験のある俺はまたそんな感じかと思い半分諦めたが、それは違ったようだ。
長門の拳は俺の顔のすぐ横を通りすぎ、ガッと音を立てた。振り向くと吹っ飛ばされた国木田が見えた。
またしても器用に着地をした国木田は、真っ直ぐに俺達を見据えた。
「離れないで」
長門が俺の前に立ち、構えた。
その構えは俺も本で読んだことがある。何かの中国拳法の構えだったと思う。近距離戦闘モードCってのはカンフーのことなんだろうか。
「カンフーじゃない、クンフー」
そんなツッコミをするほど余裕があるんですか長門さん!?

「ハハ、いいね長門さん。ちょっと今楽しいよ」
国木田は笑みを絶やさずに言う。
「・・・貴方はとても愚か」
長門が構えを崩さずにそんなことを言った。国木田の顔は変化しない。
「どういう意味?」
「あなたは気付いていない」
「何に?」
長門は応えない。その長門に対して国木田は、
「・・・ま、どうでもいいんだけどね」
国木田が長門に突進を敢行する。
その勢いで突き出された拳を長門は右手一本で弾き、開いたボディーに高速で左の肘を入れた。再び国木田が吹き飛ばされる。
「貴方の戦闘能力では私に勝てない」
淡々と長門が告げる。
「フフ・・・どうかな・・・」
国木田には何か秘密兵器的なものを隠し持っている感があった。大丈夫なのか。
「大丈夫」
長門が構えをといた。
「もう終わる」
長門が国木田に手をかざす。
「強制転移プログラム発動 対象 敵性特殊有機生命体座標 W5-2」
長門はそう言ったあと、さらに聞き取れない速度で何か呪文を唱えた。
それと同時に長門の手から網のようなものが放出された。その網はまっすぐ国木田に向かって飛んだ。
「・・・・・・!!!」
国木田はなす術も無くその網に捕らえられた。
数秒後、その網がキューブ状に変化し、国木田を隔離した。

「貴方は、元の世界に回帰する」
長門がそう告げる。
「元の世界・・・?」
国木田が呟く。
「そう・・・そうなの。負けちゃったねぇ長門さん。でも楽しかったよ。本当に」
俺と国木田の目があった。
「ごめんねキョン。心から謝るよ」
「・・・・・・」
俺は何も言えない。
「本当に楽しかったんだよ?キョンと過ごした4年間。キョンは騙したって言ったけど、僕は本当にキョンを親友だと思ってたんだ」
「親友なら・・・何で殺すんだよ」
俺はやっとのことで声を出した。
「・・・・・・・・・」
黙り込む国木田。
「仕方無かったんだよ・・・」
「ハルヒを楽しく鑑賞するためなのがか・・・?」
「違うよ・・・それはそのうち解かると思うよ」
いつもと変わらない微笑を浮かべながら国木田は言った。
「転送を開始する」
キューブが、国木田ごと消え始めた。国木田が元居た世界に帰るんだろう。
「国木田・・・」
「いいよキョン。僕のことはどう思っても構わない。全部僕が悪いんだ」
国木田の姿が、ほとんど見えなくなる。

「じゃ、涼宮さんと仲良くね」

国木田と言う人間は、この世から消えた。

「・・・・・・」
俺と長門しか居なくなった教室で、俺は立ち尽くしていた。
「大丈夫?」
「ああ・・・」
自分でも驚くほど力ない声だった。
「事後処理は私が行う。貴方は帰って」
「でも・・・」
「貴方は、それを望んでいるはず」
…確かにそうだ。一人になりたい。そう心の奥で叫んでいる。
「長門・・・すまん・・・」
俺はもう簡単に開くようになったドアを開け、教室を出た。

「WAWAWA忘れも―――あれ?キョンどうしたんだ?」
何故か、靴箱のところで谷口と出くわした。くそっ、いつもいつも最悪のタイミングで現れるなこいつは。
「別に・・・何でも無いが・・・」
時刻は既に7時を回っていた。SOS団の活動が終わってから1時間以上経っている。不自然といえば不自然だろう。
「キョン・・・?お前、泣いてないか?」
「断じて違う!黄砂が目に入っただけだ!」
思わず叫んでしまった。
「お、おう・・・そんなに全力で否定しなくても大丈夫だ・・・」
多少ビビりながらも谷口は応える。
「でも良いのか?涼宮、ずっと待ってたぜ?」
…何?
「ハルヒが待ってる?」
「おう、校門の前で。お前をだろ?」
なんてこった・・・。
「恩に着る谷口!」
俺は高速で上履きを靴箱に入れ、俺のスニーカーを取り出した。
「熱いねぇ・・・」
谷口がそう呟いたのが聞こえた。

「ハァ・・・ハァ・・・」
俺は無我夢中で走った。多分さっきあったことなんか忘れてたんじゃないかと思う。
見つけた、校門の前に立っている小さな影。
「ハルヒ!何やってんだよ!」
ハルヒが俺に気付いた。
「あ、キョン!遅いわよ!」
俺はハルヒの元に辿り付くと、間髪入れずに抱きつかれた。まだ息が整っていないんだが。
「もう何やってたの・・・?」
…まぁ俺が待たせたわけでは無いが、待っていた人間がそう聞くのは当然のことなのだが、今の俺には十分破壊力のある言葉だった。
「何を・・・」
国木田の笑顔が頭に浮かぶ。
「うっ・・・うっ・・・」
「ちょ、ちょっとキョン!?泣いてんの!?」
ハルヒの背中に腕を回した。どう見ても抱き合っている。
「キョン・・・何があったのかは知らないけど・・・私の胸ならいくらでも貸してあげる」
ハルヒはそう言って俺の頭を優しく撫でてくれた。

俺は泣いた。女の胸で泣く日が来るとは夢にも思わなかった。

後で考えると情けない話だ。

でも、それだけのことが俺に起こったのだ。



今日、俺の親友が居なくなった。

翌日、岡部の口から国木田の転校が伝えられた。
谷口を始め仲の良かった連中は心底驚いていた。
ちなみに、国木田は童顔で割と女子にも人気があったらしい。数人の女子が泣いていた。

栞に書いてあった「―――に近づかないで」ってのは国木田に近づくなってことだったのだろう。
…解かるわけねぇだろ。

「国木田・・・なんで俺に何も言わなかったんだろうな・・・」
谷口は本気で落ち込んでいるらしい。初めて見た気がする。
「キョン、お前は何か聞いてたのか?」
「まあな・・・」
俺は生返事を返す。
「そうか・・・まぁお前等は中坊のときから友達だったんだもんな。そりゃそうか」
友達・・・。
「谷口・・・俺達って、友達だよな?」
俺の問いに、谷口は目を丸くする。落ち込んでいた谷口の目が、みるみる変化した。
「・・・プッ、アッハッハッハッハッハ!アーッハッハッハッハ!!」
真面目に聞いているんだが。殴ってやろうか。
「いや、すまんすまん。そうだな、俺達は親友だ。例えお前が涼宮みたいになっても、親友で居てやるよ」
…ありがとう、谷口。
「でも、別に一生付き合ってくれなくても良いぞ?」
「・・・・・・」
そう言った俺の顔を、谷口が軽く殴る。
「・・・プッ」
俺達は笑った。教室だってのに、大声で。


「長門、昨日はすまなかったな」
「いい」
今俺は部室で長門と二人きりだ。いや、別にだから何ってわけじゃないぞ?
「国木田のこと、お前は知ってたのか?」
「一応」
長門が小さな声で言う。
「しかし、昨日までの彼に貴方への殺意は皆無だった。突発的な思索だったため、私も対処が遅れた」
「そうか・・・」
「謝罪する」
「いや、別にお前は――――」
俺は、思わず言葉を止めた。
長門が、本当に申し訳無さそうな目をして、俺を見ていた。
「謝罪する」
繰り返し言う。
俺はさっき言えなかった言葉を、改めて言ってやった。
「・・・いや、お前は全然悪くない。むしろお前は俺を助けてくれたんだ。ありがとうな、長門」
「・・・・・・」
長門は何も言わなかった。いや、これが長門のデフォなんだろう。

「そういえば、古泉はまだか?」
国木田のことを真っ先に話すべきなのはあいつだと思うんだが。
その質問に長門は読んでいる本から目を離さずに答えた。
「・・・古泉一樹は、欠席」
「欠席?学校をか?」
「そう」
古泉が学校を休んだ?
仕事か?いや、あいつはこの時間では仕事に参加しなくて良いとか言ってたな。俺達が元の時間に帰る方法でも探してるんだろうか。
「恐らく古泉一樹は、明日も欠席」
「何で解かるんだ?」
俺の質問に長門は数秒間を空けてから答えた。
「聞いた」
「誰に?」
「古泉一樹」
ふーん、長門に言うってことは、やっぱりそれ系のことをやってるんだろうな。

習慣というのはやはり恐ろしいもので、いつもは古泉のゲームに嫌々ながらも付き合ってやっているものと思っていたのだが、その相手が居なくなっても、部室では古泉とゲームをしていないと落ち着かない体になっていた。
しかも、昨日あんなことがあったにも関わらずだ。というか今俺と古泉はリアルタイムで不思議体験中なんだが・・・。おかしいよなぁ俺。
…いや、むしろこういう時こそゲームでもして、気を落ち着かせるのが良いのかもしれない。
それで今は、朝比奈さんを相手取ってオセロに興じている。
俺の圧勝・・・だったら良かったのだが、意外と朝比奈さんは強かった。
1勝4敗。いつも弱小の古泉とゲームをしているせいだろうか。

部活動中、ハルヒは昨日のことには触れてこなかった。
多分国木田が転校すると知ったからだとでも思っているんだろう。ありがたいことだが。

まぁそんな感じで、今日の活動も終了した。

昨日はずっと待たせてしまったわけだし、今日はハルヒと帰ってやろうと思っていたのだが、そのハルヒは「今日用事がある」とのことだ。マイペース振りは変わっちゃいないな。
そんなわけで俺は一人寂しく帰宅した。

1年経っていても、俺の家族はなんら変わっていない。
妹が中1になっていたのは大きな変化だが、別にそれ以外は特に無し。
学校生活でも、家庭生活でも、たまに違和感を感じることはあったのだが、そこは1年後だからだろうと納得していた。

それでも、俺は気付くべきだったんだ。





この世の変化に。

俺が時間移動をしてから、既に9日が経っていた。
古泉はあのあとも学校を欠席し続けた。次会うときは元の時間に帰るための情報を手土産にしてくるところだろう。
しかし、俺はこの1年後の世界にも慣れはじめていた。まぁ元は俺が居た世界と一緒だからな。
教師の言葉は右耳から入って左耳から抜けていくが、まぁ良い。ちゃんと一年こなしていても理解出来ていたか怪しい。

そんな感じの6限目の数学の時間のことだ。
「ねぇキョン、キョン」
背中に突起物を感じ、俺は振り返る。
「何だよ」
涼宮ハルヒの、何処か暗い顔がそこにあった。
「あの・・・キョン?笑わないで聞いてくれる?」
・・・?
「何だ?」
「あの・・・なんて言うかね・・・?」
ハルヒは、言葉を捜すように言った。
「何だか・・・良くない予感がするの」
「は?」
「だから、何か悪い予感がするのよ」
何を言ってるんだこいつは。
「あー、ハルヒ?お前の予感がもし当たるとしたら、お前は予言者だ。もう不思議探しはしなくても良くなるな」
「そう・・・かな」
何だよそれは。
「そうね。私がそんな力持ってたら不思議を探す意味が無いわよね。それに、なるとしたら超能力者じゃないと」
お前はそれ以上の力を持ってるけどな。

結局ハルヒがこんなことを言ったのは一回きりだったし、俺はそれをほとんど気にしなかった。

古泉が欠けたSOS団は、古泉には悪いがいつもとまったく変わらず動いていた。
しかしその変わらずってのがこのうだうだ活動を指すのなら、ただこれ以下が無いというだけだろう。
そして今日も活動が終わりを迎えた。

「待って」
帰ろうとしていた俺を、長門が呼び止めた。
「何だ?長門」
「話がある」
「話って・・・ここでか?」
「そう」
何か急だな。俺が帰る方法でも見つけたんだろうか。
「あの、長門さん・・・着替えられないですけどぉ・・・」
「貴方は他の部屋で着替えて」
恐れながらも果敢に長門に意見した朝比奈さんの勇気は、長門の無機質な声に一蹴された。
「ヒッ、すみませんでしたぁ~!」
朝比奈さんは、高速で部室を出て行った。

「彼を少し借りる」
俺達のことを何故かじーっと黙って見ていたハルヒに、長門が言った。
「うん?あ、ああ、良いわよ。有希なら安心だもんね」
良いのかよ。お前本当に俺と付き合ってるのか?
「じゃぁキョン。私みくるちゃんの教室で待ってるから」
そう言ってハルヒも部室を出て行った。
ドアがバタンと音をたてて閉まる。







俺は、砂漠に立っていた。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・?

 ・・・・・・!!?



何処だここは・・・?

「私が創造した。異次元空間」
俺から5mほど離れたところに、長門が居た。
「お前が作った?」
俺はあたりを見回してみた。
薄気味悪い砂漠。カマドウマの映像が目に浮かんだ。
「何でまた?そんなに聞かれたく無い話でもあるのか?」
「違う」
長門は小さな声で、しかしハッキリとこう言った。
「貴方が知る必要は無い」






「死んで」

「・・・は?」
「属性変換を申請 中距離戦闘モードB」
長門の周りに、青い弾が形成され始めた。
「なぁ、長門・・・それはどう意味だ?その青いのは何だ?」
「荷電素粒子弾」
長門が淡々と答える。
「お前・・・何やってるんだ?冗談だろ?」
「放出」
長門の言葉で、その青い弾たちが飛散した。その一つ一つが俺の方に向かってきているのが解かった。

「クッ・・・!」
訳が解からないが、とりあえずあれを何とかしなくてはならないと言うのだけは解かった。
といっても、俺になんとか出来るはずも無く。俺は踵を返して逃げ始めた。
しかし、その弾のスピードは俺よりはるかに早かった。
「うぉわ!!」
俺は追いつかれる直前に右方向に飛び込むことで、それを回避した。地面に当たったそれがドンッと音をたてる。
あお向け状態になっていた俺の目の前に、新たな弾が飛んでくる。
「うおっ!」
横に転がりそれをなんとかかわした。地面が黒く焼け焦げる。
俺は素早く立ち上がり、長門に向かって叫んだ。
「おい長門!どういうつもりだ!お前流のジョークか!?」
その俺の言葉を無視し、長門は呟いた。
「荷電素粒子砲 放出準備開始」
結構距離があるのにも関わらず、その声は何故かハッキリと聞こえた。
「長門!!何なんだよ!!長門!!」
またしても長門は俺の言葉を無視し、まるでかめはめ波か波動拳のような構えを取った。
「長門!!」
「発射」
尋常じゃない大きさの光の弾が、俺に向かって伸びてきた。

俺は本能的にこれに当たったら死ぬのだと悟った。そして次にはこれをかわすことは不可能だとも。
ハハ、こんな短い間に2回も死を覚悟することになるとはな。俺ヤクザになった方が良いんじゃないか?
いや・・・もうなれないな。
2回助けてくれた長門は、今俺を殺そうとしている。
よく考えたら俺の命は長門に救われた命なんだから、長門に殺されても何も文句は言えないのかも知れない。
ハハ、どうした俺。俺はそんな悲観主義者じゃないだろ?
…でも仕方無いな。

俺を助けてくれる奴は、もう誰も居ないんだ。


「僕が居ますよ」

俺とその光の弾の間に、何かが割って入ってきた。
それが人間だと解かったのはその弾が消えたあと。それが誰か解かったのはそいつが振り向いたときだ。
「こ・・・古泉!?」
「ハハ、大丈夫ですか?」
俺は今ほど、こいつを頼もしいと思ったことは無い。

「古泉、お前が何でここに居るんだ?いや、それより何で長門が俺を殺そうとしてるんだ!?」
こっちは聞きたいことが山ほどあるんだ。
だがその古泉は、俺に向かって微笑みかけただけだった。畜生、それが頼もしいもんだから悔しいことこの上ない。
「・・・貴方は私が閉鎖空間に隔離した筈」
長門が言う。
どういうことだ?古泉が閉鎖空間に隔離?って何?
「ええ、そうですね。そのときは本当にどうしようかと思いましたよ」
「・・・どうやって脱出を?」
「・・・貴方に教える義理はありませんね」
この距離でも解かる。長門は今明らかな悪意を古泉に向けている。
「古泉。訳が解からないんだが、どういうことだ?」
古泉は、長門を見据えたまま振り向かずに答えた。
「僕はここ5日。閉鎖空間に閉じ込められていたんです。長門さんによって」
長門が・・・お前を閉じ込めた?
「いや・・・そんなことは良い。一つ聞きたい」
「何でしょうか?」
「あれは・・・あそこに居るのは、長門なのか?」
俺の知る長門は、こんなやつじゃない。古泉を閉じ込めたり、俺を殺そうとしたりはしない。
俺は古泉が「違います。あれは長門さんではありません」と言うことを望んでいた。
しかし、古泉の答えは残酷なものだった。
「・・・ええ、長門さんです」
俺は愕然とした。今ほど愕然としたことは無い。
「話は最後まで聞いてください。あれは長門さんですが、長門さんではありません」
と思ったら、意味不明なことを言い出した。

「お前何が――――」
「国木田氏は・・・」
古泉が俺の言葉を遮る。
「貴方の親友ですよね?」
・・・国木田・・・。
「本当のあいつがどう思ってたのかは知らんが、俺は親友だと思ってた・・・」
「そうでしょうね」
古泉がはじめて振り向いて言う。
「それでは、貴方は親友が本当に貴方のことを騙しつづけていたと思いますか?」
それは・・・どういう意味だ?
「単刀直入に言うと、国木田氏は異世界人などでは無く、ただの人間で、貴方の親友です」
「・・・何?」
だが実際に国木田は・・・。
「簡単なことです」


「僕達は、1年後の未来に飛ばされてきたわけでは無いのですよ」

な、なんだってー!?
…なんてオーバーリアクションが取れる空気では無いな。
「何?」
「解かりやすく言うと、異世界人は国木田氏では無く、僕達ですよ」
……。
「は?」
「解かりませんか?僕達は、いつのまにか世界を移動していたのですよ」
……。
「な、なんだってー!?」
空気読め、俺。
「今から話すのは全て僕の推測です。良いですか?」
古泉が長門に視線を戻した。
「まず、この世界は僕達の知る涼宮さんが創造しました。その目的についてはよく解かりません。
 この世界が出来たのは本当に最近のことなんでしょうがね『この世界は今生まれた』と気付けたのはただ一人です」
長門か。
「ご明察です。しかし彼女には彼女の使命があった。この世界の涼宮ハルヒの観察を続けることです。
 しかし、この世界は僕達の涼宮さんが突発的に生み出した不安定な世界。いつ崩れてしまうか解かりません」
古泉はここで一呼吸置いて、言った。
「そこで、長門さんは貴方をこの世界に連れてきて、貴方がこの世界を安定させることを見込んだのです」
……・。
いきなり話が大きくなりすぎて頭がついていかないんだが・・・。
「次に長門さんは国木田氏を操作し貴方を襲わせ、それを助けることで貴方・・・専ら僕を信用させることを狙いました。
 ま、僕はその話を聞く前に全てに気付いてしまったので、それは意味を成しませんでしたが」
「操作?国木田を?長門が?」
「そうです・・・普通ならそんなことは出来ない筈なんですが・・・」

俺は離れたところで一人佇んでいる長門を見た。
古泉を警戒しているのか、攻撃をする素振りは無い。
「この世界には・・・」
その長門が、初めて意味のある言葉を喋った。
「この世界は非常に不安定」
長門はゆっくりと喋り始めた。
「それが有機生命体の操作を安易にしている。
 それは涼宮ハルヒの突発的思索により創造された世界故の不良。しかし、そのままでは簡単にこの世界の崩壊に繋がる可能性があった。
 そこで私は、主次元での重要な鍵となっている貴方をこの世界に呼び出した」
貴方、というのは俺のことか。
「しかし、私の予期しない因子が一つこの世界に現れた。それが貴方、古泉一樹」
古泉と長門の視線がぶつかる。
「貴方が来た原因が解からない。どうして?」
「教えて差し上げるとお思いですか?」
「・・・結構」

「どうでも良い。貴方達はここで死亡する」
再び長門の周りに青い弾が形成され始める。
「古泉一樹。貴方の身体能力、思考能力、総合戦闘力は検知済み。私には勝てない」
「さぁ、どうでしょうか・・・」
古泉のその余裕は何処から来るんだ?
「お、おい古泉。一番肝心なことが解からない。何で長門・・・この世界の長門が俺達を殺すんだ!?」
「それは・・・説明している暇は無さそうです」
「放出」
青い弾が俺達に向かって飛来する。
「離れないで下さい」
そう言う古泉の両手には、いつか見た赤い弾が出来ていた。
「それっ」
古泉はそう言って軽く左手を振っただけに見えた。
しかし、古泉の右手から放たれた弾はもの凄いスピードで飛んで行ったかと思えば、長門のそれと同数に分散し、その全てを迎撃した。
「うぉわ!」
大きな爆発音が響く。
「見ていてください」
古泉は今度は大きく右手を振りかぶった。

「サギタ・マギカ!」
そんな本当なら痛々しすぎる技名を叫びながら古泉は腕を振り切った。
さっきとは比にならない速度でその弾は分散・飛行し、長門を襲った。
「・・・・・・」
長門はそれらに向かって右手をかざし、呪文を唱えた。
その瞬間長門の目の前に見えない盾が発生し、その全てを防いだ。爆煙で長門の姿が見えなくなる。
しかし、俺はその様子をすべて見る前に、足が地面から離れていた。
「いっ!?」
訳が解からないが、俺は足が地面から離れたまま、高速で長門に向かって近づいている。
それが古泉に手をひかれて高速低空飛行をしているせいだと気付いたのはちょっとあとだ。
「少々気をつけて下さい」
空気の掠れる音でよく聞こえなかったが、多分古泉はそう言ったと思う。
俺達はそのまま爆煙の中につっこんだ。
「・・・・・・!!」
古泉の拳が、長門の顔にめり込んだ。

長門は吹き飛び、団長席に派手に頭を打った。
…団長席?
「回帰できたようですね」
近くに居た古泉がそう言った。
俺達はいつのまにか元の部室に帰ってきていた。古泉が長門を殴ったからだろうか。
…古泉、今の状況では言い難いが、手を放してくれ。
「おっと、失礼しました。ですが、そんなことは言ってられませんよ」
見ると、長門がむくりと立ち上がり、俺達を睨んでいるところだった。額から血が流れている。
「・・・エラー発生。古泉一樹の再検知を開始する」
そんなことを小さく呟いた。
「逃げます」
古泉が俺の手を引き、部室のドアを開けた。
「・・・逃亡は許可しない」
俺達に向かってかざされた長門の手から、さっきの青い弾が放たれる。
「フッ・・・!」
それを古泉は、なんと素手で弾いた。その弾は跳ね返され、真っ直ぐ長門に向かう。
「・・・・・・あ」
それは長門に命中し、大きな音をたてた。
「さぁ、早く」
俺は古泉に促されるがままに部室を飛び出した。

「お、おい古泉!お前閉鎖空間じゃないと戦えないんじゃなかったのか!?」
俺は古泉に腕をにぎられたまま、学校の廊下を走っていた。
「ええ、そうです。しかしそれは力を必要とするのが閉鎖空間内しかないというだけです。僕の力は、必要だと判断されれば何処でも使うことが出来ます」
聞いてねぇよ・・・。
「ええ、初めて話しました」
古泉が振り向いて微笑しながら言った。
「で、古泉そろそろこの手を放してくれないか」
「あ、すみません。それでは、突然長門さんに襲われても一人で対処出来ますね?」
「・・・いや、このままで頼む」
古泉はまた笑った。そんな余裕のある状況じゃ無いだろうよ。

俺は廊下を走りながら、一つ重要なことを思い出した。
「そうだ!ハルヒは!?ハルヒと朝比奈さんは!?」
これに対し古泉はいつもと変わらない様子で言った。
「あの二人は貴方の知る二人では無く、この世界の人間なんです。どうせこの世界の崩壊は近い、あの二人がここでどうなっても関係ありませんよ」
俺は、その言葉を聞いた瞬間、立ち止まって古泉の手を振り払い、古泉の胸倉を掴んでいた。
「てめぇ、あの二人だって人間だろ!どうなっても良いってのか!?」
ああ、一応命の恩人に、俺は何やってるんだろうね。
しかし古泉は本当にいつもと変わらない様に言った。
「ええ、失言でしたね。どちらにしろ二人が狙われることはありません。長門さんの目的はこの世界の安定なんです。だからよその世界から来た僕達は殺しても、元の世界の人たちには何もしません」
「そ、そうか・・・」

「あ、そうそう・・・」
古泉が思い出したように言う。
「その朝比奈さんですけどね・・・」
再び古泉が俺の腕をつかんで走り出した。
「思い出して下さい。僕達は、元の世界では何年生だったでしょうか?」
…?
「に、2年だが?」
「では朝比奈さんは何年生でしたか?」
「3年―――あ」
俺は古泉の言いたいことを理解した。
「そうです。一年経ったら朝比奈さんがあそこに居るわけが無いんです。それでは何故居たか。それも長門さんの仕業です」
「どういうことだ?」
「元々僕達は1年後の世界に来たことになっていましたが、それは長門さんが僕達が来てから決めた設定。後付けなんです」
そろそろ解からなくなってきた。
「もともと不安定な世界。長門さんにとって、僕達の世界の一年後をつくることなんて造作もありません」
「・・・・・・」
「しかし、朝比奈みくるはこの団にとって必要な存在だった。SOS団からは誰が欠けてもいけないんです。
 そこで長門さんは、誰にもに違和感を与えることなく朝比奈さんをこの学校に在籍させるように情報操作を行ったのです。
 僕も閉鎖空間に閉じ込められるまで気付きませんでしたよ」
古泉はもう真面目な顔だった。

「・・・じゃぁお前、何でこの世界が本当は1年後の世界じゃないって解かったんだ?」
こう聞くと古泉は真面目な声で。
「最初は推測の域を出ませんでした。それでも僕はその推測が間違っているとは思えなかったんです」
「何故?」
「勘です」
…なんじゃそりゃ。
「そこで僕は調査に出ました。そして発見しました」
「何を?」
「『壁』です」
「壁?」
「閉鎖空間にある。あの壁です」
あの寒天みたいな奴か。
「これも推測ですが、この世界は涼宮さんの・・・僕達の世界の涼宮さんですが・・・が見たことのあるものしか存在していないんです。見たことの無い場所からは壁が出来ていました。」
「何でそこでハルヒが出てくるんだ?」
「この世界は、涼宮さんが作ったものだからですよ」
「何故そういい切れる」
「涼宮さん以外に居ないからですよ。こんなことが出来るのは」

俺達は上履きのまま外に出た。流石に靴を履き替えている時間は無いだろう。
グラウンドに出たところで、古泉が俺の腕を放した。腕にはしっかりと古泉の手のあとがついていた。
「どうせ長門さんからは逃げられません。戦うならあそこの方が僕にとって有利です」
「あそこって何処だ?」
あそこ?グラウンドのことか?
古泉は制服を袖を少しまくり、うで時計を見た。
「良いですか?僕が合図したら、歯を食いしばってください」
「は?何故?」
「良いですから。あと十秒程で来ます」
何が?
そう聞く前に、バリンと言う音が俺の耳に入った。
俺がその方向を見ると――――。


長門が居た。




白い翼を生やした長門有希が、そこに居た。

長門は空を飛んでいた。
長門の目がこちらに向いた。いや、それはもう長門の目では無かった。
敵意をなみなみに湛えた、獣のような目。

「私は・・・」
長門は、突然喋り始めた。長門の声は、耳からと言うより、頭に直接伝わるようなそんな声だった。
「私は・・・心が欲しい」
……????
「私には・・・この世界の有機生命体、人間には心と呼ばれるものが無い。それがこの世界を不安定にさせている」

長門が空をパタパタ飛びながら言ったことを要約するとこうなる。

この世界はある創造神が、ある目的を持って生み出したものらしい。その創造神と言うのは元の世界のハルヒのことなんだが・・・。
しかし、作りが半端すぎたのか、この世界の人間には心が無い。それがこの世界の不安定さの原因なんだそうだ。ちなみにこちらハルヒの力も半端なものらしい。
長門はハルヒの観察という仕事を続けるため、この世界を安定させる・・・人間に心を持たせる必要があった。
そこで、その観察対象として呼び出されたのが俺。
ここでまず最初のイレギュラーな事態が起こった。古泉までこの世界にやってきてしまった。
国木田を使って自分を信用させておいてから安全に事を運ぶ予定だったらしいが、ここで2回目の予期しない事態が起こった。
古泉が真相に気付いた。
とりあえずは閉鎖空間に閉じ込めることに成功したものの、それが俺の耳にそれが伝わるか、俺がそれに気付くことを長門は初めて危惧した。要するに、長門は最初俺達のことをなめていたらしい。
そこで長門は、一つの方法の思いついた。

それは、俺を殺すこと。

「貴方を殺せば、主次元の涼宮ハルヒが自分の世界を崩壊させるかも知れない。そうなれば消えた涼宮ハルヒの能力がこちらの彼女に移るかも知れないと考えた」
長門はなおも話続けた。
「そうなればこちらの彼女の力によって世界は心を取り戻す。私は仕事を続けられる」
宙を見つめていた長門の目が再びこちらに向いた。
「だから、私は貴方達を消去する」

何だ何だ?何なんだ?これなんてゲームだ?何ハーツだよ?

しかし目の前にある光景はゲームの世界などではなく、紛れも無い本物だ。
その光景に、俺は確かな・・・今まで感じたことも無い程の恐怖を覚えた。
大きな白い翼で空を飛ぶそれは、まるで天使のようだった。
だが、そいつは幸福を届けるエンジェルでは無い。
敵意を湛えた目が俺を捕らえる。
…ああ、解かってるんだ・・・。
逃げることは出来ない。
この戦いは避けられないんだ。

「僕の・・・」
長門に注意を取られていた俺は、不覚にも古泉の言葉で心臓を破裂させそうになった。今死んだらカッコ悪いどころの話じゃないな。
「僕の指示は覚えていますね?」
「あ、ああ・・・」
合図したら歯を食いしばれ、だったか。意味が解からないが。
「長門さんは僕達に全てを明かしました。これは覚悟の現れです。ここで僕達を逃がす気は全く無いようです」
そうなのか・・・?
「一応聞きますが、覚悟は良いですか?」
覚悟・・・。
「・・・どうせ覚悟決められなくてもやるしか無いんだろうが」
「フフ・・・そうですね・・・」

「おしゃべりは終わり」
長門の体が宙高く飛ぶ。
「さよなら」
そして、こちらに向かって急降下してきた。
「良いですか!?合図したら歯を固く食いしばってくださいよ!?」
大声で古泉が言った。
「ああ!解かってる!」
その間にも長門は俺達にみるみる近づいてくる。
「まだ・・・」
古泉が呟く。
「3・・・2・・・1・・・今です!!」
俺は古泉の声で言われた通りに歯を食いしば・・・ろうとした。
その前に、俺の頬に何かがものすごい勢いで当たった。それは、前長門に蹴られたときの感触に何処か似ていた。

数メートル飛ばされた俺は、慌てて古泉を見た。
長門との距離はもう数メートルしか残されていなかった。
「古泉!」
俺の叫びに、古泉は笑みで答えた。











古泉と長門の姿が消えた。

「こい・・・ずみ?」
俺は目の前で起こった事態が理解出来ないで居た。それをハッキリと認識するまでには10数秒かかった。
「古泉!」
俺はさっきまで古泉が居た場所に走った。しかしその行動には何の意味も無かった。

…古泉と長門が、消えた?

どういうことだ。
何が起こった。
ここは何処。
私は誰。

落ち着け。落ち着いて考えろ。
まずあれは古泉と長門、どっちのせいだ?
それは恐らく古泉だ。だから古泉は俺を蹴り飛ばしたんだ。俺を巻き込まないために。
じゃぁ、何処に行った?二人は何か言ってなかったか?

「戦うならあそこの方が僕にとって有利です」

古泉が戦うのに有利な場所・・・。
何処だ・・・?
「・・・・・・!」

俺は気付いた。





――――閉鎖空間だ。

「キョーン!!」
心臓が破裂しそうになったのは本日2回目のことだ。
「キョン!何やってんの!?」
その方を見ると、ハルヒと朝比奈さんが揃って俺のところに走ってきているところだった。
「な、ハルヒ!何やってるんだ!?」
「何やってるんだ!?それはこっちのセリフよ!部室の窓まで割っといて!」
そういえば長門が窓を破って出てきてたが。
「・・・そんなことはどうでも良い!ここから離れろ!ここは危ない!」
「は?何が?」
「え・・・」
説明して・・・大丈夫なんだろうか。
「あー・・・何というかだな・・・古泉がここで爆弾か何かの不発弾を発見したんだよ」
いや、ここは何も言わない方がベターな筈だ。
「は?古泉君が?で、その古泉君は?」
「あー・・・人を呼びに行った」
「へー・・・うちの学校、そんな物騒なもんが埋まってたのね・・・」
嘘上手くなったな、俺。

「何て騙されるとでも思った?そんなわけないでしょ!本当は何なの?」
前言撤回。
「と、とにかくだな、ここから離れろ。本当に危険なんだ」
「だから!私はあんたと一緒に―――」
「帰りましょう!涼宮さん!」
朝比奈さんがハルヒの言葉を遮った。
「キョン君がこんなに言うんだから、きっと何か理由があるんですよ。恋人だったら解かるんじゃないですかっ?」
「そ、そう・・・?」
「そうですよ。さぁ行きましょう」
朝比奈さんが珍しくお姉さんっぷりを発揮した。まぁ彼女はこの高校の『4年生』なんだ。たまにはそんな風であってくれても良いな。
「ありがとうございます。朝比奈さん」
俺は口の動きで、朝比奈さんにそう伝えた。
「いえ」
朝比奈さんも同様にそう言った。
「さぁ涼宮さん、帰りましょう」
「え、ええ・・・じゃぁキョン!明日は一緒に帰るわよ!」
「ハイハイ」
これでひとまずは安心・・・。
と思ったそのとき。



ドーンという大きな爆発音が、グラウンドに響いた。

戻ってきたのか?
このタイミングで?最悪だ。

「な、なに!?不発弾って本当だったの!?」
「ハルヒ!早く朝比奈さんを連れて逃げろ!!」
「あ、あんたは!?」
「俺は古泉と長門を呼んでくる!良いから早く逃げろ!」
「わ、解かった―――」

ハルヒの言葉が、途中で止まった。
「古泉君・・・」
「何?」
「古泉君が!倒れてる!」
俺はハルヒの言葉でグラウンドの方へ振り向いた。
爆煙の薄くなった地面に、一人の人間が倒れている。それはどう見ても古泉一樹その人だった。
俺は絶望した。
古泉でも、長門を倒すことは出来なかった。
じゃぁ・・・誰があいつを止められるってんだ?
「古泉君!爆発に巻き込まれたの!?」
クソ、ハルヒ達が居なければまだ何とか出来たものを。
「お、落ち着けハルヒ!あいつは俺が助ける、だからお前は―――」

「ちょっと!キョン!?」
ハルヒが俺の顔を見下ろしながら叫んだ。
そのとき俺は初めて自分が倒れていることに気付いた。
逃げろ。
そう言おうとした。しかし声が出なかった。
「キョン!キョン!生きてる!?」
俺は右手を少し動かす。
「キョン!?背中が・・・その・・・す、すごいことになってるわよ!?みくるちゃん、救急車呼んで!」
「は、はいぃ!」
朝比奈さんが携帯を取り出した。しかし手が震えて上手くボタンが押せていない。朝比奈さんの携帯からは明日の天気予報が流れている。
「みくるちゃん何やってんの!?貸して!私がやる!」
ハルヒがその携帯を朝比奈さんの手から引ったくった。
まずい。救急車を呼べば人が集まる。そうなれば被害甚大だ。
長門は居なくなった人間を元の世界から全部補給するような暴挙に出ないとも限らない。
「や・・・め・・・」
俺は必死で声を出そうとした。しかし、出ない。
「もしもし!?怪我人が居るんです!背中に火傷やら何やらで―――」
携帯に向かって大声で喋り始めたハルヒの言葉は、何故かそこで止まった。
しかも、そのまま倒れてしまった。朝比奈さんも一緒に。
俺は焦った。もしかして二人とも長門に――――。
「ハ・・・ル・・・」
「喋らないで」




「損傷部の再構成を開始する」

え・・・?
「来るのが遅くなった。謝罪する」
小さな体。
灰色のショートヘアー。
水晶球のような目。
セーラー服の上にカーディガン。
そいつはどう見ても・・・
「長門!?」
長門有希だった。

本当だったらここで俺はまた死を覚悟しなければいけないところだろう。
しかし俺は本能的に理解していた。
この長門は・・・
「お前は・・・俺の知ってる長門だよな?」
「そう。貴方が生きてきた次元の長門有希」
…今以上に安心感を感じたことは無い。

その長門は、まだ爆煙と立ち上っているところまでテクテク歩いていった。
「お、おい長門!」
「貴方の損傷部と衣服の再構成は完了している。今の状況も理解している。まずは古泉一樹の救済を行う」
俺が聞きたかったことに対する答えを、長門は聞く前に全て言ってくれた。
とりあえず俺は自身の無事を確認し、立ち上がった。
「一帯の大気の浄化を開始」
長門がそう呟くと同時に、辺りに強風が吹いた。
爆煙はあとかたも無く消え去り、倒れていた古泉と―――――

俺は絶句した。
倒れている古泉の体は制服の至る所が裂け、背中はさっきまでの俺のように真っ赤になっていた。
しかし、それよりも俺が目を奪われたのは、長門のその姿だ。
その翼は片方が無くなり、片翼になっていた。
残った方の翼も、血で真っ赤に染まっていた。よく見れば体にも古泉と変わらないほどの傷がついている。

それでも、その長門は立っていた。
俺達に向かって、殺気を放ちながら。

「・・・・・・」
ペタン、と俺は尻餅をついた。
腰が抜けるってのはこう言うことを言うんだろう。リアルでそうなったのはこれが初めてだ。
片翼の長門の目に、俺は言い表せないほどの恐怖を覚えた。
睨まれてるだけでこれだ。さらにこっちの向かってきたりしたらそれだけで死ねるかも知れない。

「敵性長門有希・・・同名のファイルが存在、変更する。長門有希(2)の敵性を判定」
それでもこっちの長門は、目なんか有機生命体を構成する部品の一つに過ぎないのだと、そう思っているようだ。
「救済対象を古泉一樹に変更。最優先事項に設定」
長門は多分そう言ったと思う。
多分と言うのは、その言葉の理解の前に優先して考えなければならないことが出来た為、そっちの理解に頭を傾けたせいで起こった理解不足だ。

長門はそう言ったあと、消えたのだ。

違った。これは長門は瞬間移動をしたのだ。
長門は一瞬で古泉のところまで移動し、また一瞬でその体を抱えてこちらへ戻ってきた。
「古泉一樹の損傷部の再構成を開始」
そう言って長門は古泉の体に右手をあてた。
みるみるうちに古泉の傷が治っていく。
「・・・古泉一樹の再構成完了率75%。時間が無い。古泉一樹は貴方に一任する」
そう言って長門は古泉から手を放した。
「敵の活動は古泉一樹の能力によって一時的に停止状態に入っている。あと32秒でその効力が解ける」
古泉はそんなことが出来るのか・・・?
「なぁ、長門―――」
「詳しい話はあと。彼女は私に任せて」
長門は立ち上がり、片翼の長門の方を見た。
二つの視線がぶつかる。
その目は変わらず殺気を発している。

長門の目からは、何の感情も感じられなかった。

「今回は、私も貴方を守りきれないかも知れない。出来る限り、自分の身は自分で守って欲しい」
「・・・解かった」
正直、かなり不安だが。
「そして貴方は、古泉一樹と・・・」
長門は倒れているハルヒと朝比奈さんの方を見た。
「彼女達も、守らなければいけない」
「・・・・・・」
「出来る?」
…。
俺が守る・・・か。
「・・・精一杯努力するよ」
俺はそう答えた。どう取ることもセリフだが、
「そう」
それに対する長門の返事はそっけなくも、何処か安心感のようなものを帯びていた。
「彼女達は眠らせただけ。命に別状は無い」
そういうことは最初に言って欲しかったが。
「そうか」
「じゃぁ」
長門は歩き始めた。
「行く」

俺と長門が話をしている間に、もう20秒は経っている。
あと10秒程で敵の長門は動き出す筈だ。
カウントダウンしてみようか。いや、止めよう。怖いから。
「長門有希(2)の再起動完了まで残り5秒」
おいおい。お前がやるのかよ!?
「4、3、2、1・・・」
心の準備が出来ない俺を放って、長門は呟いた。
「0」

その瞬間、二人の長門が背中にロケットブースターでも付いてるんじゃないかと言うスピードでお互いに向かって加速した。
一瞬で二人の距離は0になる。

多分長門が右キックを繰り出した。
多分敵の長門はそれをかわして右・・・いや左ストレートを繰り出した。
多分長門は・・・
…要するに、ほとんど見えなかった。

速過ぎる。
こんな動きが出来る生物がこの世(基本は同じだからな)に存在したのかと、疑問に思った。

二人は物理法則を完全に無視したスピードで格闘を続けていたが、多分長門の右キックが敵の長門にヒットし、それを受けた敵の長門は吹っ飛んだ。
そこで長門は間髪居れずに呪文を呟いた。
その瞬間長門の手から赤い弾が発生し、敵の長門に向かって高速で飛んだ。
体制を崩していた敵の長門は成す術もなくそれを身に受けた。赤い翼が大きく揺れたのが見えた。また爆煙が立ち昇る。
「やったのか・・・?」
そんな俺の声は無視され、爆煙の中から片翼の長門が飛び出してきた。手には長門と同じ赤い弾。
長門は0距離でそれを炸裂させようとしたらしいが、それを長門はヒラリとかわし、おまけに足を掛けた。翼をバタバタ羽ばたかせながらも敵の長門は倒れる。
「この世界の崩壊は近い。貴方の力は非常に弱まっている。私には勝てない」
そう言う長門の目は驚くほど何の感情も含まれていなかった。
「・・・・・・」
それとは対照的に敵の長門の目は殺気に満ちていた。
…その目が今、俺を睨んだ。
敵の長門が、先ほどのロケットダッシュで、俺の方へ向かってきた。

状況の理解に要したのは0. 1秒。
が、やっぱり俺の体は勝手に動き、古泉とハルヒと朝比奈さんを守る形になっていた。
すごいな俺。カッコ良いじゃないか。

死を覚悟するまでも無かった。
本当に光の速さと同じぐらいあるんじゃないかというスピードで長門が俺の前に立ち塞がったからだ。
長門は右手で、迫ってきていた敵の長門の顔を掴んだ。その勢いがピタッと止まった。
「終わり」
長門がそう呟いたとき。長門の右手と敵の長門の顔が爆ぜた。

そのままどれだけ時間がたったか解からない。



「終わった」
長門がそう呟いてその体を地面に横たわらせた。
その体は既に力が抜け、活動を停止させていた。
爆発を受けたのにその顔は変わらず、白く透き通っていた。

「・・・・・・」
言葉を失う俺。
確かにこいつは俺を殺そうとしていた敵だった。
こいつは自分の使命を果たそうとしていただけなんだ。
しかも―――
「・・・・・・・」
そこに全く同じ顔をした奴が、同じように沈黙して立ってるんだ。
そんなときでも俺は笑う、ってやつが居たら、俺はそいつを軽蔑する。
「彼女は・・・」
長門が喋り始める。
「私と同じ。自分の次元の涼宮ハルヒと貴方を観察、保護する義務しか負っていない。そのためならなんでもする。
 自分が最良の手段だと判断すればそれには逆うことは出来ない」
長門はここまで言うと一呼吸置いた。
「彼女を、許してあげて欲しい」
許すもなにも・・・。
「大丈夫だ。お前と・・・この長門のことはちゃんと解かってるつもりだ。と言うかもう慣れた」
自分でも驚きだがな。
「そう」
長門の顔に、心なしか笑みが浮かんだように見えた。
「ありがとう」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・。
そんな音が、突然鳴り始めた。そしてそのすぐあとに大きな揺れを感じた。
「うぉ!?」
俺は立っていられず尻餅をついた。
「地震か!?」
だったら震度6はありそうだ。
「違う」
しかし長門はそれを否定する。
「この次元の崩壊が始まった」
「何?」
それは・・・この世界が無くなるってことか?
「そう。崩壊に巻き込まれる前に回帰する。古泉一樹を連れてこっちに来て」
その言葉を聞いたおれはフラフラしながら立ち上がり、古泉を半ばひきずるようにして長門のところまで連れて行った。

「掴んで」
そう言って長門は俺に手を差し出した。俺は黙ってその手を握る。
「次元回帰プログラム起動開始・・・」
長門がそう言ったとき俺と長門と古泉の周りに、何か透明な壁のようなものが出来た。
これがそのプログラムとやらなんだろう。
俺は最後に眠っているハルヒ、朝比奈さん、そして長門を見た。
…頭では解かってるんだが・・・。
「なぁ、長門・・・」
「大丈夫。彼女達は私達の世界の彼女達と繋がっている。この世界で消えても、存在自体が消えるわけでは無い」
「・・・そうか」
よくは解からなかったが、このいつらとはいつでも会えるってことだよな?
「そう」
壁の色がだんだん濃くなってきていた。3人の顔が見えなくなる。
「転移開始」







やっぱり太陽は変わらずせっせと働き、地上に熱と紫外線を送り続けていた。
俺は昨日まであんなことがあったにも関わらず、いつもと同じように起き、いつもと同じようにダルダル言いながら登校した。

昨日、元の世界に帰ってきた俺は、長門によってすぐ家に帰された。
長門に説明を頼んだのだが、それは明日部室で、とのことだった。
ちなみに、古泉は長門が何処かに持って行ってしまったが、大丈夫だろうか。

それで俺は今になって初めて帰ってこられたことを実感していた。
登校時には国木田(ついでに谷口)とちゃんと3年生をやっている朝比奈さんに会った。
朝比奈さんは何も知らないようだったが、まぁ特に教えてあげることも無いだろう。

…しかし、何故かこれはこれで・・・何か違和感があった。
昨日までの世界に慣れてしまったとかそういうものじゃない。そもそも昨日までに感じた違和感なんか微々たるものだ。
だが今回はハッキリとそれを感じ取れた。
国木田はそうでも無いが、谷口と朝比奈さんの接する態度がいつもと違う。
個々に尋ねてみても、
「お前・・・解かるだろ・・・?」
「・・・・・・キョン君・・・」
だ。訳が解からない。

教室に入った俺は、何故か妙な視線を感じながらも自分の席についた。
俺の後ろの席にはハルヒが既に着席している。
「よっ、おはよう」
あのデレデレのハルヒも良かったが、やっぱり俺はこっちの方が良いな。いや、良いっていうのはそういう意味じゃなくてだな・・・?
「・・・・・・」
しかし、そのハルヒは返事を返してくれなかった。
「ん?ハルヒ?どうした?機嫌悪いのか?」
するとハルヒは俺をチラッと見た。そしてその顔がみるみるうちに赤くなっていった。
・・・おかしい。
「すまん」
そう思うと同時に俺はそう言ってダッシュで文芸部室を目指していた。

そこには運良く・・・いや俺が来るのが解かってたのかも知れないが、長門が自分の定位置で本を読んでいた。
「長門・・・良いか?」
俺がこう言うと、長門は本をパタンと閉じた。
「説明する」
俺が聞く前に長門が喋り始めた。
「おおよそのことは古泉一樹と異次元の長門有希から聞いていると思う。
 涼宮ハルヒはある目的を持ってあの次元を発生させた。
 昨日までのことはその不安定な世界を長門有希が安定させようとして起こしたもの」
まぁそこまでは解かってるんだが。
「貴方がその次元の長門有希に呼び出されたとき、私はそれを察知した。
 そして、そのままでは貴方に危険が及ぶと考えた。
 しかし私はこの次元の涼宮ハルヒの観察を続けなければならない。
 そこで、貴方を守る存在として、古泉一樹を貴方が居た次元に送った」
…なるほど、それで古泉まで。
「それでも古泉一樹が異次元空間に隔離された際には私もその次元に行くことを余儀なくされた」
ん?
「閉鎖空間に古泉が閉じ込められていたのを助けたのはお前ってことか?」
「そう。私は一度は回帰したが、貴方達は生命の危機的状況に陥った。そのため私は再びその次元に転移した」
何というか・・・すまん。あと、ごくろうさん。

「まぁ昨日までの話はなんとなく解かった・・・それで、俺が聞きたいのはだな・・・」
「解かっている。貴方が今日感じている違和感について」
情報伝達が早いな。
「これ」
そう言って長門が差し出したのは、卓上のカレンダーだ。
「これがどうかしたのか?」
「貴方が転移されたのは、土曜日の午前2時12分。今日は月曜日」
えっと・・・つまり?
「貴方は10日、あの次元で活動していたように感じているが、実際には3日しか経っていない」
「で・・・それがどうした?」
日付のズレ?それはこの違和感の理由としては弱い気がする。

しかし長門の次の言葉で、俺は全てを悟った。

「あの次元で、貴方と涼宮ハルヒは恋人関係」

ああ。

「場所を選ばず接吻も出来る」

…ああ。

「貴方はこの次元の時間で三日間、その次元に居た」

…。

「そしてその次元の貴方は――――――





end.

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