この状況はまたも俺の意向に関係無く降って湧いた様だ。
 
俺は確かに2年目の夏の休暇を有意義に楽しんでいた(まぁ半ば惰眠を貪っていた様なものだが)。
そう確かに俺は、自分の部屋の、ベッドで、下着姿のまま、眠りこけていたはずなのに。
 
1年通い続け見慣れた校舎、そこに似合わない活気を忘れた無音、色を忘れた灰色の世界。
 
またなのか?と考える理性と、その考えを拒絶したい、俺の本心とが交錯する。
 
ハルヒが創り出した世界、と アイツら は言うのだが実の所、いまだここの所は半信半疑であるのも事実だ。
 
いや、まぁ知覚という点では理解しているつもりだが、道理という面で見ればそうはいかない。
世間様から見てもハルヒは単なる1健全な女子であるのは周知の事実であり、
世界の創造主などという不似合いな称号とは無縁の様に思える。
 
だからこの世界(もとい現実世界)がハルヒによって創られた(操作された?)物であるという見解は俺には未だ理解出来ない。
 
ほどなくして眠りのまどろみの中にあった意識が段々と鮮明に現れてくる。
 
とりあえずアイツを見つけるか、あっちの世界の奴らに手助けしてもらわんといかんな・・・。
そう思い立ち、俺はゆっくりと通いなれた校舎の方に足を進める。
 
まーさか、あっちの世界と内部構造が違ってたりとしないよな・・・と密かに思いつつ。
 
若干、学園内の細部が異なっている様な気もするが、それは創造主様の記憶違いによるものだろう。
校舎内を歩いていて、ここはこんな感じだったっけか?とか、こんな所に落書きなんかあったっけか?とか思えてくる。
何かしらの文章を書いていて、「あれ?この字ってこんな風に書いたんだっけ?」みたいに思えてくる奴だ。
 
…さて余談はさておき
 
俺はこれまたこの一年間で通いなれてしまった文芸部部室、もといSOS団の部室まで辿り着く。
灰色の世界がまたやけに寂れた雰囲気を醸し出してくれている。
 
ゆっくりと俺は部室のドアノブに手をかける、やけに冷たく感じるのはこの世界の灰色のせいか?
ノブを捻り、ドアを押し出す。キィーっと、開ける度に軋むドアの悲鳴はこの部室特有のもので、
やっぱりここがSOS団の部室である事にこっちの世界もあっちの世界も違いは無い事を感じさせくれる。
 
音夢い
 
ドアが悲鳴を上げ、ゆっくりとその身を引きずる。
 
意外だった。
単に外との連絡を取る事を前提にこの部屋を訪れたが、よもやこの世界の創造主様とご対面とは。
ソイツは普段の部の活動時の様に、イスに座るのではなく団長机によりかかるに立っていた。
こんな展開、第三者の何かしらの力が及んでいるとしか考えられない(作者とか作者とか作者)。
 
「遅かったじゃないの。」
 
パッチリと見開かれた眼からの視線が俺に向かってくる。
その顔はあまり表情の無い顔で、ブスっとしている様な、かといって何も考えていない様な、
時たまコイツが窓から空を見上げる表情と似ている。
 
ここで俺はふとその言葉にちょっとしたひっかかりを覚えた。
遅かったじゃないの・・・?
いやいや、オカシイじゃないかハルヒさんよ、
「遅かった」そんな言葉はその人間が来る事を知っていなければ使わないじゃまいか。
 
「ずっと待って・・・待って待って・・・もしかしたらこのまま来ないのかなーとか思った。」
 
そう言うとハルヒはすっと机から離れ、こちらへと歩み寄って来る。
 
コイツは・・・何を言ってるんだ・・・?
 
俺とハルヒの間でどこか噛み合ってない気がしてならない。
でもその何かが分からない。畜生、歯に詰まった鶏肉みたいないじらしさだ。
 
「ちょっと待てハルヒ・・・イマイチ俺は今の状況が掴めてないのだが・・・」
 
とりあえず俺は頭に浮かんだ疑問をそのまま言葉に出してみた。
自分で言うのもなんだが今の俺は、素直というか、安直というか、愚直というか
ともかく今、自分の置かれた状況下を把握出来ていない事に言い様の無い不安を浮かべていた。
 
「大丈夫・・・私とアンタならきっと・・・うまく行くはず・・・」
 
そう言ったハルヒはゆっくりと微笑んだ。
その顔にはそれまでの屈託の無い笑みとはまた違う、温かな物を俺に感じさせた。
 
音も無い灰色の世界に1つの光が見えた。
遠くからみればロウソクの灯にも見えなくも無い。
だがそれは確かに人工物、更に言えば部室に置かれていたパソコンのディスプレイ。
文字が踊り始める。最初は「この文章は一方的なものであり」と読めてとれた。
 
この文章は一方的なものであり、貴方がこの文章を読む事は無いかも知れないが告げておく。
これは明確な誤算だった。
この事はこちら側も、もちろん朝比奈みくるや古泉イツキの側にとっても予期していなかった。
涼宮ハルヒはこの世界とそちらの世界を空間的、時間軸的に仕切ってしまった。
もうこちら側の世界に涼宮ハルヒと貴方の存在を確認出来ない。
恐らくこの断絶は最終的な物、この断絶を修復する事は不可能と言い換えてもいい。
そちら側の世界への干渉が出来るのも時間の問題。
 
彼女は貴方を選び、この世界を捨てた。その理由は分からない。
しかし、その証拠にそちら側の世界に、生命、及びそれに準ずるもの存在を貴方達以外確認出来ない。
(これから生命が誕生すると示唆出来る様な確証も今の私達には無い)
よってそこは貴方と涼宮ハルヒだけの世界。貴方達の、貴方達による世界。
これからこちらの世界はどうなるかは統合思念体でさえ予測不能。
 
だけど忘れないで。これからそちらの世界も、こちらの世界もどういった末路を辿るか分からない。
現時点で1つだけ、こちら側から確信して言える事がある・・・。
 
そこは涼宮ハルヒによって『望まれた世界』である事、それを忘れないで欲しい。
 
                     YUKI.N
 
終わる

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最終更新:2020年03月15日 18:23