うだるような暑さの中、生ける屍状態の俺は、性懲りもなく部室へと向かっていた。
とっとと帰りたいはずなのに、習性とは恐ろしいもんで、気付けば既に部室前の廊下にいた。

ノックをするか否か。ノックせずに入れば、高確率でマイエンジェル、朝比奈さんの
着替えを拝める。今までの経験則から言えばな。

だが俺は谷口じゃない。理性に従う事にした。

コンコン

………、…………。

誰もいないのか? ガチャ、

いつもの定位置に、SOS団の備品と化した宇宙人が座っていた。
(なんか今日の長門は大きくないか?気のせいか。)


「なんだ、長門いたのか。いたんなら返事ぐらいしたって、罰は当たらんと思うぞ?」

読んでいた分厚いSF小説から目を離すこともなく、

「…………、そう」

と、だけ言った。長門に会話を求めるだけ野暮ってものか。

俺はひんやりとした感触を求めて机に頬をつけた。
ハルヒは掃除当番だし、小泉はバイト。朝比奈さんは進路相談だっけ?

…暑い。シャミセンのように冷たい感触を探して、頬の位置を変えたりしていると、
漆黒のビー玉のような目が、俺を見つめていた。

「なんだ、長門も暑いのか?」

「そういう概念はない。」

「そうかい。なぁ、ところで、この部屋の温度を下げたりは出来ないか?」

長門は少しだけ首を傾けて、
「出来なくは、ない。ただ、急激な…(省略)…は後の生態系に影響を及ぼす。
でも、あなたの暑さを和らげるものなら、ある。」
と、言って、冷蔵庫の上を指差した。コンビニのレジ袋だ。
あれがどうしたって?

「…、氷菓子。」

そう言って、また分厚い小説に目を落とした。

袋を手にとって、
「長門、俺が食っていいのか?つーか溶けてんじゃないのか?」
と、聞くと、

「…あなたのために買った。溶けては、いない。氷菓子に…(省略)…を施した。今、解除する。」

そう言って、いつもの、ビデオを早回しにしたような呪文を唱えた。

俺は、長門の行為を無下にするのもなんだし、とにかく暑い。
礼を言って、そのアイスをいただくことにした。

ペロペロ…、ペロペロ。 うん上手い。
しかし、なんだ、男子高生が、この棒状のアイスを舐めるのはちといやらしいな。
なんてくだらないことを考えていると、また視線を感じた。

「……。(じー)」

ん、どした長門?お前も食うか?っていうかお前のだしな。

「…いい。続けて。出来ればもっと口に含んで、恍惚の表情でお願い。」

!!!!!?

「ちょっ!!!おま!…まさか小泉か!!?」

ベリっ…、長門のマスクを投げ捨てると、その下には見慣れたニヤケハンサム野郎の顔があった。

「さすがですね。よく分かりました。…いやはや、機関の特殊メイクチームが
6時間かけて施した変装が、ものの数分でばれるとは。
さすが僕の見込んだ人だ。涼宮さんも興味を抱くわけだ。あぁ、そうそう、
長門さんに頼んで、この部屋に特殊なバリアーを張ってもらいました。
この部屋から出ることも、入ることも不可能ですよ。
さて、見破ったご褒美はなにがいいですか、僕のキョンたん?」


             おしまい

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