体育の授業を終えて長門有希は教室に戻ってきて異変に気付いた
「……?」

彼女のカーディガンが無くなっていたのだ
いつもの彼女ならば、無ければ無くても良かったのかもしれない。だが…

「ない……あの人から貰ったのに……」
今までなら、モノが無ければ自分で構築すればいい。だがアレだけは何故か特別な品だった
長門有希本人は自分が動揺している事を自覚していないだろう。だが傍目には長門有希は明らかに動揺している

そんな長門をニヤニヤ笑いながら人の女子生徒が話しかけてきた
「長門さん?そんなに慌ててどうしたの?」
女子生徒は笑いを堪えて、さも心配しているように話かけた
「……カーディガン」
「カーディガンがどうした?」
「……ないの」

長門は必死に何より大切なソレを探した
「カーディガンならまた買えばいいじゃな~い」

この女子生徒は知っていた。長門がキョンからカーディガンをプレゼントされた事を。
そしてそれを長門が大切にしていた事を。

長門は昼休みの間中探していた
始めては長門有希の滑稽な姿を笑ったりもしていたが、この頃には必死な長門に対して女子生徒はイライラしていた

「長門さんもしかしたら貴女のカーディガンってコレ?」
そう言って女子生徒は隠していたカーディガンを取り出した

「あ……それ」

カーディガンを見た途端、長門有希は笑顔というか安心した顔を見せた
入学から今まで一度も見せた事がない優しい顔を

女子生徒はそれが気に入らなかった
この女を徹底的に痛めつけてやろうと思った

「あ、そういえば落とし物を拾えば1割貰えるんだよね」

そう言うと女子生徒は近くの机にあったハサミでカーディガンを切り裂いた

長門有希にはこの感覚が分からなかった
あの人からカーディガンを貰った時の穏やか優しい気持ち
それを無くした時の胸の締め付け
それを切り裂いたクラスメートへの……

ジョキジョキとハサミが音を立てている
あの人から貰ったモノを壊されている


なのに長門有希は動けなかった
何も考える事ができなかった


こみ上げてくるそれが何かも分からず、目の前で起きている出来事を他人ごとのように、ただ涙をながして見ていただけだった

カーディガンを切り終えた女子生徒は涙をボロボロ流している長門を見て満足した

「あ、カーディガン見つかってそんなに嬉しかったの?
じゃお礼なんて貰えないわ」

そう言ってカーディガンと切り裂いた部分を長門に投げてやった

長門はカーディガンを胸にギュッと抱き涙を流した



放課後、長門は珍しく遅く部室にやってきた

「今日は遅かったな」
「…………」
「今日はハルヒも朝比奈さんも古泉も用事があるらしいから、今日は活動なしだ」
「…………」


ふと長門の異変に気付いた
普段から無口だが自分に言われた事には何かしらで返事をする奴なのに、今日は全く反応しない
それに今日はカーディガンをしていない
いや、これはこれで新鮮な訳だが。

「長門、今日はカーディガン着てないんだな」
そう言うと長門は体をビクッとさせて立ち止まった
「ん?どうした?」いつもと明らかに違う長門が心配になり近づいてみた
「長門……お前どうしたんだ?」
俺がもう一歩長門に近づくと、長門が胸に飛び込んで……そして泣いていた

俺の胸の中
声も出さずに長門が泣いていた
「長門、どうしたんだ。何があった」

長門は胸の中で小さく首を振るだけで何も答えたい
きっと長門は答えないだろう。長門はそういう奴だ。それなら長門が泣き止むまで胸くらい貸してやろう

それから胸でボロボロ泣く長門を落ち着くまで支えていた



長門も落ち着いた頃にはもう外は薄暗くなっていた
「もう大丈夫か?」
「……問題ない」
「そうか。じゃ帰ろう」
「………(コクリ」


一歩踏み出そうとすると長門に袖を引っ張られた
「どうした?」
「………」
「?」
「……このまま……」

あぁ、長門は袖でも掴んでたいのか
「そこでいいのか?手でもいいんだぞ?」
「……これでいい」
そんな状態は正直気恥ずかしいが、まぁ長門も喜んでる……のか分からないが満足そうだがいいだろう

そして校舎を出ようとしている時一人の女子生徒に声をかけられた

「あ、ヤッパリ長門だ」
どうやらこの女子生徒は長門のクラスメートのようだ
「今日あんな事あったから……心配で…」
「あんな事?」

長門が俯いて俺の制服をギュッと握りしめている
「今日、長門さんがいきなり自分のカーディガンをボロボロにしたの」

長門は小さく…とても弱々しく首を振っていた
「みんなが止めてもやめなくて…もう大変だったの」
長門はそんな事はしない。という事はこの子が嘘をついてる?なんの為に。まぁ大方の予想はつくが。
何にしても長門はこの話題を嫌がっている。早々に切り上げるべきだろう
「俺は長門がそんな事をするとは思わないがね」
「でも…」
「それに長門のカーディガンは、今俺が絶賛手作り中だしな」
もちろん嘘な訳だが…
「……本当?」

そんな目を輝かせて聞かないでくれ
ってかさっきまでと違って生き生きし過ぎだ長門よ
「あ、あぁ。俺の手作りで作ってる」
「………楽しみ」

「って訳で早く帰りたいから失礼するよ」
「え?あ…はぁ…」
「長門も寸法合わせるから家に寄らせてもらうぞ」
「……構わない」

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