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人間は、集団を作る。その中で核となる人物や手足として動く人間もいれば
余計な存在としてあぶれる人間も現れる。
そしてあぶれた人間は、稀に集団の中で陰湿な目に遭い、それを黙認される。
それがいじめ。私が今受けている屈辱。

「ブス~なに読んでんの?」
「無視すんなよ」
「オタクくさっ、邪魔なんだけど」

邪魔、と言われて大人しく退室に従う。途中で足を引っ掛けられて転ぶ。
本が取られないように抱き抱えていたため、制服がほこりにまみれる。
事前に床にほこりをまいていたようだ。

「ダサっ」
「ほこりすごーい」

一度、足を避けてみたことがある。不自然に思われぬよう注意して、ごく自然に
足を避けた。すると、私が転ぶまでみんなで蹴る。
最近は大人しく足に引っ掛かり無様に転んで見せる。そうすることで彼女たちは安心し、
次からはもっと無様に、更に派手に私が情けない姿を晒すようにと張り切っている。

「また部室?」
「ブスもコスプレしろよ」
「きもーい」

笑い声が教室中に響いて、教室から離れても離れても私の後ろに付き纏う。

なんて、孤独なの。
人には寿命がある。私たちと違って永遠に続く存在ではない。
だからこそ一日を大切に生きているのではないのだろうか?
私が読む本の中の美しい人たちと、教室の中はなぜこんなにも差があるのだろうか。
分からない、美しい人とそうでない人。私は美しくなりたい。
部室の扉を開けると、中には彼がいた。

「あ……すみません」

何かに怯えたように彼が隅の方に移る。落ち着きが無く、私を避けている。

(あなたにまで避けられたら、消えたくなる)

何度も言おうとして、何度も飲み込んだことば。
私は空気のように気配を殺し、定位置に座り本を開き読む。文字を目で追い咀嚼しながら彼の動きに注意する。

(私を疎ましく感じている)
(私を醜いと嫌っている)
(私を避けて無視している)
(どれ?)
(どれが正解?)

言えたらいいのに、言えない。言葉はときに難しくて、傷つけたり距離を離してしまう。
彼は私を見ないように、隅の方で俯いて靴の先を床に擦りつけて気分を紛らわしている。
私といるのが気まずい? なぜ今日は部室に来たの? 涼宮ハルヒと私なら……
(この考えは、正しくない)
本を捲る。その音だけが部室に渡る。

「なんで来たの」

私の問い掛けに彼は少し体を反応させ、俯いていた顔を上げる。

「……ハルヒに言われたから」
「部室で会うのは久し振り」
「そうだな」
「……」

やっぱり、緊張している。
私がいじめを受けているから、惨めな私と話すのが嫌?気持ち悪い?
あなたにも嫌われてしまったら、私はこの場で消えてしまいたくなる。
私はあなたの側にいたい。出来れば長く、涼宮ハルヒの観測と同時にあなたの寿命まで
寄り添いたい。叶うのであれば、私に側にいてもいいと、許可が欲しい。
言わないけど思っている。言えないのは私が美しい人ではないから。
(ブス、醜いという意味)
私は美しい人でも、ましてや人間でもなくて、あなたの側にいられるか分からない。
私も人間のようになりたい。
自由な表情や活発な心、制限された身体機能、いずれ訪れる寿命。
私にはないすべて、手に入れられたら……

「キョン」

彼は私の顔を見ない。私は本から顔を上げ、真っ直ぐ彼の顔を見つめる。

「私を避けないで」
「え?」
「私を大切に思って」

やはり言語化は難しい。うまく伝わらないことに動揺する。

「あなたは私を避けている。とても不安」
「俺は……お前らに避けられてるんだと」
「私は避けてない」

それっきり言葉が浮かばない。体が痛くて思考が止まる。本で読んだようにすらすらといかない。
私に人間のような感情があったなら、表情があればきっと泣いていた。
彼は私を奇異な存在のように一瞥し、また俯いてしまう。
廊下からぱたぱたと足音が聞こえる。

「ハルヒだ」

彼はまた怯えて隅の方で縮こまる。
私も本に顔を戻し、そして涼宮ハルヒが部室の扉を開ける。

「来たわねキョン!」
「……はい」

思い出す。私は観測者。深く関わってはいけない。
だから、私は今日も静かに観測に徹する。
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