今日は12月31日。 今年も今日で終わりだ。
さて、明日、1月1日といえば、お正月だ。お正月といえば、何と言ってもおせちだ。


俺はおせち料理が好きなので、毎年のごとく、31日の夜はなぜか嬉しい気持ちになる。
しかし、その楽しみな気分に浸かって、適当にカウントダウンのテレビを見ていると、
携帯が鳴った。 見ると、涼宮ハルヒ と出ていた。やれやれ、今年の最後くらい
ゆっくりさせてくれんかねぇ、と思いつつ電話に出た。
「もしもし?」
「あんた明日の朝、暇?」
全く、こいつはいつも用件をいきなり言うよな。
「朝って、どのくらいだ? 10時とかか?」
元旦くらいはゆっくりしたいと思ったが、まあ10時とかなら時間的にも余裕だし、
どうせ午前中は家にいてもやることは特にないしな。

「そうねぇ・・・8時くらいかしら」
8時って・・・AMの8時だよな? 朝っていってたし。
しかし8時ってどういうことだよ・・・一体何をやらかそうとしているんだこいつは。
「8時ってお前・・・さすがに早過ぎだろ。
元旦だから起きてると思うが、その時間はおせち料理をつついてるだろうよ」
そう、俺の家は、なぜか元旦の日だけは8時頃に家族そろっての朝食をとるのだ。
そのため8時前には、半ば強制的に起こされるというわけだ。
「その、おせち料理なんだけどさ・・・」
次の瞬間、ハルヒは驚くべき発言をした。

「うちに食べに来ない・・・? その・・・あたしったら、作りすぎちゃってさ!!」
「え・・・?」
俺はハルヒの意外な一言に驚いて、間の抜けた返事をしてしまった。
作りすぎた? てことはハルヒのお手製? ちょっと興味あるな・・・・・・いやいや、
今はそんなことより、ハルヒがうちに食べに来ないかだと?
一体どういう風に吹き回しなんだ。

「いや・・・でも・・・そっちの親とかに・・・迷惑だろ。朝からとか」
実のところ、俺はハルヒの作ったおせち料理が食いたいと思った。
しかし、何が楽しくて、一家団欒で楽しく食べるおせち料理、涼宮家の
朝食のひとときに俺が混じることができよう。いや、無理だ。
精神が磨り減るってレベルじゃないぞ、きっと。

「それなら大丈夫。元旦の日は、朝からいつも親出掛けてるから」
「え・・・そうなんだ」
ハルヒの仰天発言によって、俺はまたまた間抜けな返事をしてしまった。
「ええ、何か元旦は親の運命の日らしくて、思い出の地に行ってるのよ」
「ほう・・・」
そうだったのか。てか、そうだとすると明日はこいつ一人か。
親もかわいそうなことをするな。子供ひとり置いていくなんて。
「お前は、ついて行かないのか? てか連れてってくれないのか?」
「今までは行ってたけど、もう面倒くさいから断ったわ」
「そうか」
なんだ、冷たい親とかそういうのじゃないのか。良かった良かった。
さて、じゃあどうしたものか、と考えていると、ハルヒが先に沈黙を破った。
「やっぱり・・・やっぱり、こんな急に言って迷惑だったわよね!!
無理なら無理でいいから!」
俺には、ハルヒが空元気に言ってるようにしか聞こえなかった。
それに、どうやら親はいないから、あいつ一人でおせち食うんだろうが、
想像すると、なんかそれはむなし過ぎる。それに、俺が行って満足してくれるなら
それに越したことはないしな。 正直、あいつの作ったおせちも食いたいし。
だから俺は言ってやった。

「行くよ。  行く。」
「え・・・? 本当・・・?」
俺が行くって言うのが相当意外だったのか、ハルヒはさっきの俺みたいな反応になっていた。
「ああ、行くって。 お前の家に。おせち料理を食いに。いっていいんだろ?」
俺は何となく、おせち料理を食いに の所をわざと強調してみた。
するとハルヒは、威勢良く言い放った。
「あ、当ったり前じゃない!! 」
「お前のおせち料理がどの程度のものなのか、このおせち大好き人間の俺が評価してやろう」
俺はわざとらしくそう言ってみた。
すると、ハルヒもそれに乗ってくれたのか、元気よくこう言った。
「ふふん! 覚悟しておきなさい! あまりの美味しさに失神しちゃうかもね!!」
「はははっ、わかった。覚悟しておくよ」
ハルヒがいつもの調子に戻った感じがして、俺はなんとなく嬉しくなり、自然と笑っていた。
さあて、明日の朝どんな言い訳をして抜け出そうか考えなきゃな。


                  *


「うまい・・・」
俺は今、ハルヒの家でおせち料理を食っている。
そして、まあハルヒのことだから美味しいだろうという事くらい容易に想像できたから、
普通に美味しいって感じだったら、まあまあだな、とか言ってからかってやろうと
思っていたのだが、何というかこう、感動的な美味さだったので
つい本音がこぼれてしまったのだ。
「でしょ!? 自分で言うのもなんだけど、よく出来たと思うのよね!」
ハルヒが満面の笑みでそう言っている中、俺はまた別の物に手をのばした。
・・・・・・やっぱりうまい。

俺は、さっきからうまいしか言えていないという、自分のボギャブラリーの少なさに
少々絶望した。こ、これは! このまろやかな口溶け、そして決してしつこくない
程よい甘さ、などと美味んぼみたいなことは言えない。
そんなことを考えつつ、俺はふと、あることに気付いた。
「あれ? 栗きんとんはないの?」
「あ! ちょっと待ってて! 冷蔵庫に入ってるから」
ハルヒはそういって、パタパタと冷蔵庫に駆けていき、栗きんとんを取ってきた。
俺はまず、外見を把握する。・・・うむ、バッチリだな。そして、栗をひとつ取り、
きんとんを充分に絡ませて、口にひょいと運んだ。

「どう・・・?」
ハルヒが強張った表情で聞いてくるが、答えなんか決まっている。
しかし、本当にうまかったので、俺は少々絶句していた。
それにしても、俺は幸せ者だな。こんな美味いおせち、一生に何度食べられるだろう。
ああ、将来はこんなやつと結婚して・・・・・・って何を考えているんだ俺は。
「うまいよ・・・冗談抜きで美味い」
俺がそう言うと、ハルヒの表情が緩んだような気がした。
それからハルヒも食べ始めて、俺たちは、2年になったらクラス替えはどうなるのかとか
SOS団の今後の方針とか、他愛も無い世間話など、まあ適当なことを談笑しつつ、
朝のひとときを楽しんでいた。

「ふあー、食った食った」
俺は腹をさすりながら言った。そして、さらにこう続ける
「お前は本当料理上手いよな。将来、良い妻になれるぞ」
別に特別何かを意図して言ったわけではない。何気なく言ってみただけなのだが
「つ、妻って誰のよ!!」
ハルヒは異常に反応を示した。しかもちょっと恥らいながら。
まあこんなハルヒも乙なものだな、と思いつつ俺は言った。
「誰かって・・・この世の誰かだろ。俺には分からんけど」
「あ・・・そうよね!! そうだ、あたし食器片付けるね!」
ハルヒはそう言うと、食器を洗いはじめた。
その背中が妙に焦っているように見えたのは、気のせいではないだろう。

しばらくして、食器を洗い終えたのか、ハルヒがこっちに向かってきた。
俺はふと携帯の時計を見ると、10時くらいだった。もうこんな時間か、早いもんだな。
「さて」
そういって俺は立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ帰るわ」
「そう」
ハルヒは一言そう言うと、玄関までついてきた。
「あんた、この後何か予定あるの?」
靴を履いているとハルヒがたずねてきた。
「そうだな・・・午後から親戚の家を回るくらいかな。 これを貰いにな」
俺はそう言って、軽く笑いながら人差し指と親指で輪を作って見せた。
するとハルヒは呆れた顔で言ってきた。
「あ、あんたらしいわね・・・」
「まあそういうことだから。
じゃあな。 おせち、本当に美味かったよ。ごちそうさま」

俺はそう言って外へ出た。が、すぐにドアがバンッと開く音が聞こえ、
ビックリして振り返ると、ハルヒがこっちを睨みつけていた。
おれの ぼうぎょ が さがった! いやいや、ポケモンやってる場合ではない。
一体どうしたんだ?
「あんたが来たいんだったら、明日も来ても構わないわよ!」
ハルヒはそっぽを向きながら言ってきた。
なんなんだこいつは。つまり俺に来て欲しいってことなのか?
そう解釈しちゃっていいのか? あ、親はどうなんだろう。
「親は明日もいないのか?」
「明日の夕方か夜に帰ってくるらしいのよ。だから朝は大丈夫よ」
「なるほど」
それにしても、もうちょっと素直に誘ってくれれば、ハルヒはあの容姿だし、
俺なんか、行く行く~ってなっちゃうだろうに。まあ、あのおせちに再びありつけるというのは
ありがたい話だ。どうせ明日も特に朝からする事もないし、断る理由はないだろう。
「じゃあ、行かせてもらうよ」
そう言って、俺は手をひらひらさせて帰った。


                  *


『ピンポーン、ピンポーン』
時刻は現在、16時を回ったところだ。
俺はハルヒの家のインターホンを鳴らしているわけだが、
なぜそんな事をしているかと言うとだな、話せば長く・・・なるかは分からんが。
あのあと、俺は真っ直ぐ家に帰った。そして、昼飯を食った後に予定通り
親戚回りに行くことになり、俺は冷たい空気から己の手を非難させるべく、
ポケットに手を突っ込んで車に乗り込み、出発した。

それからしばらくして、ポケットに突っ込んでいた俺の手は気付いてしまった。
そう、携帯が無いことに。俺は焦りつつも、冷静に思考をめぐらせた。
待て待て、俺の部屋に忘れたか? いや、俺は家に帰ってから携帯に触れていない。
ということは家には無いだろう。じゃあ道で落としたか? それも無いだろう。
落としたら音するし分かるだろう。そして脳内会議の末、ハルヒの家に忘れてきた
という結論がでた。確かに思い返してみると、携帯で時間を見て立ち上がるときに、
そのまま机に置いてきてしまったような気もする。

不安な気持ちのまま、俺は親戚回りを何とか済ませ、
家に着くとすぐにママチャリにまたがり、ウルトラダッシュモーターに
放熱フィンを装着し、ベアリングローラーをつけ、極め付けにマシンの先頭に
小さいドライバーを、針が飛び出てるような形に無理やりとりつけた、
最凶のレイスティンガーを想像しながら俺はチャリをこいだ。そして今に至る。

「はい、どなたでしょうか?」
いつもより綺麗なハルヒの声が聞こえた。外用の声色なんだろうか。
「あ、俺だけど・・・」 
「え!? キョン!? ちょっと待ってて!」
慌てたようにそう言って、プツっと切られた。
てか俺だけど、だけでよく分かったな。それから2、3分して、ドアが開いた。
「どうしたの?」
「ああ、たぶんお前の家に携帯忘れたと思うんだが」
俺はそう言ってる最中、気付いた。ハルヒがエプロンをしている。
さらに家の方から、なにやら良い香りが・・・
「あれ、お前何か作ってるのか?」
ハルヒはさっきのインターフォン越しのような慌てた様子で
「え!? あ・・・ま、まあね!
・・・立ち話もなんだし、携帯探すんでしょ? とりあえずあがって」
ハルヒがそう促した。俺は片手で後頭部をおさえつつ、悪いなと一言いってあがった。

携帯はすぐに見つかった。やはりあの時の机にあった。
携帯を回収し、くつろいでいると、ハルヒがお茶を持ってきてくれた。
「あ、悪いな」
「いいわよ別に。ペットボトルのお茶だし」
そういって俺にコップを差し出してきた。俺はそれを二口ほど飲み、軽く質問してみた。
「そういや、何作ってるんだ?」
「おせちよ」
そうか、おせちか。でも、今朝結構食ったけど、まだそれなりに余ってたはずだが。
「あれ? でもまだ余ってたよな?」
するとハルヒが困惑していた。何か変なこと言ってしまったのだろうか。

「だから・・・その・・・今朝あんたが食べてるのを見て、
あんたは全部おいしいおいしいって食べてくれたけど、その中でも
特に美味しそうな顔をしていたものを観察して、メモっといたのよ・・・。それを今作っていたの。 
あんたに・・・好きなものをたくさん食べてほしかったっていうか・・・なんていうか」
俺はその言葉を聞くと、胸がかぁっと熱くなるのを感じだ。
ああ、こいつにもこんなに可愛らしい所があるんだな、そう思った時、
俺はハルヒを抱きしめていた。

「ちょ! ちょっとキョン!?」
俺はその声で我に返り
「すまん!」
そう言ってすぐさま離れた。 嫌な沈黙が流れる。
俺は、そんな重苦しい空気に耐えられなくなり、何か喋ろうと思ったその時、
ハルヒが何かぶつぶつ言い出した。
「・・・・・・・かったんだから」
なんだ、よく聞こえない。俺は聞き返した。どうした?
「だから! あたしはあんたに抱いてもらえて嬉しかったって言ってるのよ!!」
ハルヒの顔は真っ赤だった。もちろんこんなこと言われた俺だって真っ赤だろう。
それにいくら俺にだって、こんなこと言われれば分かるってもんだ。
どうでもいいような奴に抱かれて嬉しいってことは無いだろう。

「それってお前・・・」
俺がそう言いかけた時だった。
「もう言うわよ! ・・・あんたの事が好き!」
ピシャーン!! そうか、そういうことだったのか・・・って、コナンやってる場合でもないな。
俺は驚いた。ハルヒが俺のことを好きでいてくれたとは。
そして嬉しい気持ちにもなった。心の奥底に感情を押し込んでいたけど、
俺もきっとハルヒに惹かれていたんだ。
いつからだって? そうだな・・・三年前からか? なんてな。
そして俺はこう答えてやった。
「俺もだよ」



【エピローグ】
あの後、俺たちは晴れて付き合うようになった。まあ付き合うっていっても、
今までとそう大差は無くて、二人でいる時間が増えたくらいか。買い物とかな。
やっぱりそれもあいつの一方的な誘いでな。まあ、それも含めて、あいつと一緒に
いるのは楽しいから構わないんだがな。

そうそう、ハルヒと付き合い出したっていうのがクラスで知れたら、面倒くさい事に
なりそうだったので、学校では大人しくしていてくれよって思っていたのだが、
ハルヒもその辺は分かっていたらしく、学校では今まで通りの接し方をしてきてくれた。
まあ、その今まで通りでも、ハルヒとまともに会話するのは俺くらいなもんだから
すでに怪しまれてはいたんだがな・・・。

それと、SOS団のやつらにはバレバレだった。
部室に入ったとたん皆から、やっとですね みたいな事を言われたから驚いたよ。
それぞれに、なんで分かったのかを聞くと、

朝比奈さんは
「既定事項です」
長門は、というと
「・・・・・・フッ」
何、最後のふって言ったの何。
そして古泉にいたっては
「分かってしまうのだから仕方がありません」
何が仕方がありませんだ。ニヤケ面でそんなくだらない嘘を言うな。

そして、その日の帰り、ハルヒがすごい事を言ってきた。
「キョン、結婚しましょう!」
「おいおい、お前は16になったから平気だろうが、俺はまだできないぞ」
俺が苦笑しながらそう言うと、ハルヒは開き直ったかのように言ってきた。
「そうね! じゃあ3年後でも4年後でも5年後でもいいから、するって約束して!」
こんなに明るい顔して言われたら断るにも断れないよな。
いや、断る気などなかったけどね。
「ああ、約束する」
俺が優しくそう言うと、ハルヒから衝撃的な一言が。


「じゃあ、先にこれにサインしておいてちょうだい!!」

はやっ!!


END...

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