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 唐突だが今年の12月24日は仕事、いや、バイトだ。
 貧乏大学生の身の上ではバイトをしなければ生きていけないのは当たり前として、何故そんな日にバイトになってしまったかといえば、店長に泣きつかれたからに他ならない。
 そもそもクリスマス前が忙しいのが当たり前のバイトを選んだ時点でどうかって気もするんだが、何せこのバイトを始めたのはもう何ヶ月も前のことなんで、そのときはクリスマスの時期の事なんてちっとも考えてなかったんだよな。
 え、何のバイトかって?
 お菓子関係、というか、ケーキ屋だ。
 笑うなよ。俺だって中学か高校の頃の自分から見たら笑えるんじゃないかって気がするけどさ……、まあ、とにかく俺はケーキ屋でバイトをしているわけだ。
 今はクリスマス前なんで、サンタの格好でケーキを販売中だ。
 サンタ姿ってのもどうかと思うが、高校時代にやらされたトナカイよりは何ぼかマシだな。
「こんにちは、良く似合っていますね」
 慌しく販売作業に従事していたら、人が居なくなった合間に知り合いがやって来た。
「似合っているなんて言われても嬉しくねえよ。というかお前、何しに来たんだよ」
 たまたま他の客が居ない時間だったので、自然と俺の口調も営業モードから通常モードに切り替わる。古泉相手に営業用スマイルを浮かべてやる必要なんぞ無い。
「ケーキを買いに来たんですよ。おかしいですか?」
「やっほー、キョンくんっ、お仕事疲れさんっ」
 古泉が笑顔でさらりと言うのに少し遅れて、入り口からまた知り合いがやってきた。
 そしてそのお知り合いは、当然のように俺の目の前で古泉にぴったりと抱きついていらっしゃる。俺に話し掛けるか恋人にくっつくのかどっちかにして欲しいと言いたいところだが、まあ、この人にそんなことを言っても仕方が無いだろう。
 ああ、それにしても、真冬なのにお熱い事だな。
「こんにちは、鶴屋さん」
「クリスマスなのにバイトなんて偉いねー、ハルにゃんが寂しがってそうだけどさっ」
 はい、全くもってその通りです。
 しかしまあ、ハルヒも一応納得はしてくれて……、るんだよなあ。
 ちょっと口喧嘩になりかけてそのままって状態だからな、あとで埋め合わせできれば良いんだが。
「で、どれを買うんだ?」
 放っておくと何時までもどこまでも喋っていそうな組み合わせだったので、俺はとりあえずこの二人には早々にお帰りいただくため、さっさと選んでもらうことにした。
 あんまり話していると営業に差し障りそうだからな。
「そうですねえ……」
「んー、どれも美味しそうだなあ」
 俺の見ている前でイチャイチャモード全開でああでもないこうでもないと話し始めるお二人さん。
 いっそ悩むくらいなら全部買っていってくれと言いたいね。古泉はともかく鶴屋さんの胃袋ならそのくらい楽勝だろうし、何よりお店としてもその方がありがたい。
「何時まで悩んでいるんだよ……」
 他の客が途切れている時間だからいいものの、ものには限度が、

「ちょっとキョン、お客さん相手にその態度は問題ありよ!」

 なんて思っていたら、後ろの方から聞きなれた声が聞こえた。
 反射的に振り返ったら、そこには、ミニスカサンタ姿のハルヒが立っていた。
 おいおい、何でお前がここに居るんだよ!
「ハルヒ……」
「ああ、涼宮さん、良く似合っていますね」
「ハルにゃんかっわいい~」
 驚くやら呆れるやらという状態の俺を他所に、古泉も鶴屋さんもまるでそれが当たり前の事であるかのような感じだった。
 二人とも、分かっていたんだろうか……、いや、分かっていなくてもこの反応だろうって気もするが、きっと分かっていたんだろうな。
「で、どれにするの? どれもお勧めだけど、迷うなら一番オーソドックスなやつか、それか、クリスマスにしか並ばない物が良いと思うわよ」
 ハルヒは口調こそ何時も通りだったが、喋っている内容はちゃんと営業用のものだった。
 それにしても、ミニスカサンタ姿がやけに似合っているな……。いや、見惚れている場合じゃないんだが。
「ああ、そうだねえ、普通のケーキは何時でも食べられるもんね。じゃ、このブッシュ・ド・ノエルが良いかな。一樹くんもそれで良いよね?」
「ええ、かまいませんよ」
 というわけで、古泉&鶴屋さんという熱々カップルは、ブッシュ・ド・ノエルを買って去っていった。
 幸せそうだよなあ。……ここで俺の隣にハルヒがいなかったら恨み言の一つでも言ってやりたい所だな。ハルヒが居るから言わないけどさ。
「なあ、ハルヒ、お前、」
「無駄話は後、ほらほら、次のお客さんよ」
 どうしてお前が、という当たり前の質問を口にしかけた俺をハルヒが制した。
 ちょうど、次の客が店に入って来る所だったからな。

 それから俺達二人は、二人でケーキを売り続けた。
 のんびりしていたのは古泉と鶴屋さんが来ていたあの時間帯くらいだったし休憩は交代だったので、俺達が個人的な話をするような時間なんて全然無かった。
 そんな俺とハルヒがようやく解放されたのは、午後も10時を過ぎた頃だった。
「はい、お疲れさん」
 去り際に店長が売れ残ったケーキを持たせてくれた。
 二人で食べるには結構でかいケーキだが、ハルヒが居ればあっという間に食べ終わることだろう。

「なあ、ハルヒ、お前なんで、」
「一緒に居たかったの」
「……」
「クリスマスだから、一緒に居たかったのよ……。でも、キョンはバイトだって言うじゃない。ケーキ屋さんだもの、この時期忙しいのは仕方ないし……、だからね、あたしも臨時で雇ってもらえるように店長さんに頼んだの。幸い住所と電話番号は知っていたしね」
「……そっか」
 何せ人手不足だったからな、店長も二つ返事でOKしたことだろう。
 けどさ、それなら何で俺に知らせてくれなかったんだよ。
「驚かせたかったのよ。……悪い?」
 ハルヒが、途端に悪戯っぽい表情になった。
 こういうところは高校時代とあんまり変わってないよなあ。
「いや、こういうサプライズなら大歓迎さ」
 ミニスカサンタ姿のハルヒは可愛かったし、バイトとはいえ、24日をハルヒと一緒に過ごせたんだからな。
「それなら良かったわ。……じゃ、これから二人でクリスマスパーティね! プレゼント、忘れてないでしょうね?」
「……ちゃんと用意してあるって」
「んじゃ、働いた分だけ楽しみましょう!」
 ハルヒはそう言って、大きく手を振り上げた。
 この元気な笑顔があれば、さっきまでの疲れも、冬の寒さも、なんでもないことのような気がしてくるから不思議だよな。
 こういうクリスマスも、結構良いもんだな。


 終わり

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