「なんなのよあれはっ!!」
「……」

さて、誰が怒ってるか、なんて今更説明するまでもないだろうな。
ついに怒りをおさえきれなくなったハルヒが、喫茶店への移動中にそう叫んだ。

「仕方ないだろ。大きく宣伝して回ってる映画でも、
つまらないものは世の中いっぱいあるんだ。今回はハズレだっただけだろ?」

そう、俺達は今日映画を見にきていた。
けっこう有名で奇抜な作品だということで、団長様の目に止まったのだ。
実際に見ての感想は見てのとおりだが。

「そうですかぁ?わたしはけっこう、おもしろかったですけど」

我等がSOS団のエンジェル、朝比奈さんがそう言った。
しかしハルヒは聞く耳もたず、一気にまくしたてる。

「おまけに女のほうは21歳でラストシーンのアレが初キス? ありえないでしょ?」

映画の監督さんも、お前にだけは常識について語られたくないと思うぞ。
──そう言ったら2発殴られた。

「何が今年最高の映画よ! なんの感動も覚えなかったわっ!
あたしの貴重な人生の中の3時間を、だらだらと奪われた気分よっ!」

ハルヒの怒りは収まらない。むしろ収まる方法があるんなら
今すぐ俺に電話をくれ。そしてそれを教えろ。
まぁさっき、俺が火に油を注いでしまったわけだが。

「そうですかぁ」
怒りの度合を素早く察知し、自分に八つ当たりがこないようにと、朝比奈さんは返事のベクトルを変えた。

「有希はどうだった?」
「ユニーク」
お前そればっかだな。
古泉はどうせ、確かにイマイチでしたねー、とかなんとか言うんだろう。

「できれば、僕のセリフを先に取らないでいただきたいのですが」
……いや、そんな本気で困ったような顔をされても困るのだが。

「しかし僕も、ラストシーンだけは、少し感動しましたよ」
「そうですよね~、ファーストキスはあんなのがいいなぁ」

朝比奈さんがぼぉっと空を見上げながら相打ちを打つ。
あなたが望むなら、俺がいつでもその相手になってあげますよ。
いや、むしろなりたいです。

「ファーストキスねぇ……」
ハルヒが腕を組んで考えはじめる。
「みなさんファーストキスは、どんな雰囲気の中でしたいですかぁ?」
「……」

全員が沈黙した。えっと……
──最初に口を開いたのはコイツだった。

「そうおっしゃる朝比奈さん自身から、ぜひ聞いてみたいものですね」
「ええっ!? わたしですかぁ?」

全員が朝比奈さんの方を向く。
あの長門ですら興味があるのか、歩きながら本を読むのをやめ、無表情顔で朝比奈さんを見ている。
みんな視線が恥ずかしいのか、当の本人は下を向いて

「……そうですねぇ、好きな人とならどこででもいいですけどぉ~」
言葉が途切れる。俺達は黙ったまま、続きを促した。
「──やっぱりそれなりの雰囲気は、欲しいかなぁって思います」

その朝比奈さんが描く、雰囲気とやらについて、詳しく教えてほしいもんだね。

「そういう古泉君は?」
自分の話題から逸らそうと、朝比奈さんは話を振った。

「僕ですか?そうですねぇ……」
お前はファーストキスなんて、もう終わってるんじゃないのか?
「おやおやどの口がそんn──

言いかけて古泉は口をつぐんだ。
「僕は2人きりの時間を自分の家で過ごしたあと、帰り際に、とかですかね?」
それはノンフィクションの話じゃないのか?非常に怪しい。

「長門さんは、どうですかぁ~?」
「……」
長門は、少し考えるそぶりを見せて
「人のいない所」

ほう、マトモな意見だな。
「そう」
俺の事をちらっと見て、黙り込んだ。

「キョン君は、どうですかぁ?」

次は俺かよ……普通俺は最後だろ?
「そうだなぁ……」

──思い浮かべる。何をって?いや、そりゃまぁ……
どうですかぁって、俺はもうハルヒと……
「言えないんですか?」
朝比奈さんが少し怒った風な顔をする。
「い、いやまぁ……」

全員の注目を浴びる。時間をかければかけるほどこれは諸刃の剣だな。
かといってなにも考えてなんてない。
ホントはもう終わってますなんて、言えないしな。 

「そうですねぇ、暗い場所で2人きりならいいかなぁと……」

言いかけてしまったと思った。
俺の今の発言、ちょっと変態っぽくないか?

──案の定、朝比奈さんからは冷たい視線が投げかけられた。
古泉はいつものニヤニヤ顔を30%増量したような顔。
長門だけは無表情だった。

「そ、そう?キョンはやっぱり変わってるわね~」
俺の言葉に否定も肯定もしないハルヒ。
……お前顔真っ赤だよ……。

考えてみたら、そのシチュエーションって……
──ああやばい、俺まで恥ずかしくなってきた

「涼宮さんはどうですかぁ??」
「さ、さぁ? 考えたこともないわね?」
「ズルいですよ~、教えてくださいよ~」
「うるさいわねっ!秘密よ秘密っ!」

そう言うとハルヒは目の前まで見えてきた喫茶店まで走って行った。
やれやれ、この話はもう議題に出したくないな。

そう思ったある休み日の団活でしたとさ。


                ──おしまい。

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