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高校生活も早いものでもうすぐ2年が経とうとしていた。
ハルヒの無限地獄に付き合わされながらも悪くないと思うようになり、
いろんな活動をしている内に12月に入ってしまっていた。
なんでも今年は学校側の都合で休みが早まるそうだ。どうせ終わるのも早くなるのだし、
休みになったからと言ってハルヒが活動を休止するはずもないだろう。
その話をしたら冬でも元気いっぱいの団長様は案の定こう言いやがった。
「休みの間もSOS団の活動はもちろん継続よ!絶対不思議を見つけるんだから!」
そう言うならハルヒ、土曜の不思議探索だけすればいいじゃないか。
「何言ってるの!団員皆の団結は普段の活動無くしては得られないわ!」
はぁ…普段の活動にそんな効力があるとは知らなかったな…
「いいから!明日も朝10時に部室集合よ!」
へいへい…
ささやかな日常と言える会話だった。
しかし、この「ささやかの日常」の脆さを、この一週間で知る事になる。


「A Jewel Snow」


この日も何事も無く帰宅し、もうすぐ寝るかと言う時間までゆっくりと過ごしていた。
明日も早く起きなきゃならんだろうなぁ…。ハルヒの事だ。
遅刻したらそれだけで「死刑!」とか言い出しそうな気がする。
まぁ、でも朝比奈さんのお茶が頂けるのはありがたい事だからな。
…しかし翌日に俺が学校に行く事はできなかった。
何故なら深夜になって親に起こされたのだ。
「恭二さんが…叔父さんが…亡くなったわ」

恭二さん…確かまだ30の後半に入ったばかりのはずだ。
「肝臓癌らしいわ…」そう母親が説明している。
肝臓癌だって?それにしたって急すぎるじゃないか。
前々から悪くなったとかそう言う話は聞いていないぞ。
「今まで様子がおかしいことはあったんだけど本人は無理して隠してたみたい」
「それで…近々葬式をするから…とりあえず行かなきゃならないけど大丈夫?」
あぁ、親戚の一大事だ。直ぐにでも出るんだろ?
そうして俺は深夜だと言うのに服を着替え、ろくに準備もしないまま車に乗った。
なんでも母方の親戚も向かってくる途中で一度我が家に立ち寄る用があるらしく、
母とまだ起こしてない妹はその車であとから来ることになった。
その為、先に行くことになった俺は今父の運転する車に乗っている。
SOS団の活動には参加できそうにないが、仕方ないだろう。
しかもこの時間だ。連絡をするわけにもいかない。
明日の朝にでもハルヒに事情を話すとしよう。
いくらハルヒだって親戚の不幸より活動を優先しろなんて言わないだろう。
思えば俺がSOS団から解放される数少ない機会だ。
大して長い期間では無いだろうし、丁度良い休息だ。
本来なら親戚が亡くなった事に喜んじゃいけないんだがな。
そんな事を考えながら流れる景色を見ていた。暗い闇の中に点のような灯りが見える。
その時俺は思ってもいなかった。俺が軽く考えていたこの数日が、
ハルヒと俺のとっての大きな変化を生み出す重要な日々だと言う事を。

早朝5時頃になって恭二さんの家に着いた。
これまで車の中でほぼ徹夜をしていた俺はさすがに眠気の限界だった。
叔母、つまり恭二さんの奥さんが俺の眠気を察知したのかこう言ってくれた。
「葬式は明日だし、疲れてるでしょう?お母さんが着くまで布団で寝てたら?」
ありがとうございます。そうさせてもらいます。
そう言って俺は布団に入ると数分もしない内に意識が遠退いていった。

…ん?随分眩しいな…。
目を開けると見慣れた建物が並んでいる。
ここは、学校の中庭か。折角の休みだと言うのに何が悲しくて
こんな所に呼ばれなきゃならんのだ。
辺りを見回すと生徒がいない。…まさか閉鎖空間じゃないだろうな。
しかし空はあの何もかもを押しつぶしそうな灰色では無かった。晴れている。
と、なるとこれは夢か。何故夢だと理解できるかはわからんが、
とにかくこれは夢だ。放っておけば覚めるだろう。
とは言うものの何もせずにここにいるのも退屈だ。部室にでも行くか。
こうして俺は今部室の前にいる。とりあえずノックをしたが返事は無い。
誰も無いのだろうか…そう思ったときに急にめまいがした。
数秒目を閉じて再び開いた時、俺は部室の中に居た。
ドアを開けてないのに何故…?夢だからか。そういう事にしよう。
部室の中にはハルヒ、古泉、長門、朝比奈さんら全員が揃っていた。
なんだよ、居たなら返事くらいしてくれてもいいじゃないか。

…返事なし。やれやれ、夢の中で罰ゲームでも受けているのか?俺は。
全員から総無視を食らっている理由を考えていたらハルヒが口を開いた。
「…まったく、キョンはまだ来ないの!?」
おいおい、俺なら今ここに居るんだが。新手のいじめかなんかか?
「おかしいですね。寝坊の多い彼もこの時間まで寝ていると言う事はないでしょう」
古泉がそう言う。だから俺は居るって。殴るぞお前。
「まぁまぁ涼宮さん、たまにはそんな日もありますよ」
あぁ、朝比奈さんは何時だって天使の様なお方だ。俺はここに居ますけど。
しかし、朝比奈さんまでこう言っているのは少しおかしい。
お世辞にも演技が上手いとは言えないこの人が俺が居るのをわかってて
居ないかの様な台詞を平然と言うのは難しいだろう。
つまり…俺が居ることを認識してないのか?
試しに朝比奈さんの肩に触れようとする。言っておくが一番近くにいただけだ。
確かに朝比奈さんの肩に手を触れた。しかし朝比奈さんは何の反応もしない。
どうやら俺が幽霊か何かになっているらしいな。
まぁどうせ夢での出来事だ。俺が居ないSOS団を見てみるのもいいかもしれない。
理論的な事を言うならば夢は本人の記憶や想像で生み出すものなので、
ここに居る皆は俺の夢の登場人物として俺に作られた事になるのだが。
夢に求めるものなんてありはしない。ただ起きるまでの暇つぶしが欲しいだけさ。

しばらくして目が覚めた。視界には天井からぶら下がる電気がある。
…やっぱり夢だったか。
しかし、俺の居ないSOS団も随分静かなものなんだな。
今度長門あたりに聞いてみようか、俺がいない時はどんな感じなのか。
それより…そろそろハルヒに連絡した方がいいだろう。
今の時間を確認しようと思った。確か携帯は鞄の中に…無い。
ポケットだったか?と思ってポケットを探ったがやはり無い。
まさか・・・家に忘れてきたのか?
慌てて起きてリビングに向かう。俺が寝ていた部屋には時計が無かったのだ。
リビングには恭二さんの奥さん、それに母方の親戚一同、祖父母。
それに…母親と妹もいた。時計の針は2時半を指している。
これが部活なら完全に遅刻ものだな…。ってそんなことどうでもいい。
なぁ母さん…俺の携帯知らないか?
「いえ、見てないわよ。あんた持ってこなかったの?」
あぁ…どうも部屋のどっかに忘れたらしい。
「どうして早く言わなかったの。言えば探したのに」
それが無い事に気付いたのが今なんだ
しかしまずいことになった。ハルヒに連絡が出来ない。
このまま何日も無断欠席の罪を課せられる事になるらしい。

なぁ…葬式って何日くらいかかるんだ?
「お葬式の準備とか後始末したら一週間くらいかしらねぇ」
そんなにかかるのか?
「それはそうよ。結構大変なのよ?」
そうか…仕方ないな…。
「あなた部活動に行けないこと連絡して無いんでしょ?」
あぁ、携帯のメモリに入れてたから番号も思い出せん…。
「しょうがないから行った時に事情話したら?」
ああ、そうするよ。
もしかしてさっきの夢は本当に俺が居ない日常を垣間見たのかもしれない。
予知夢なんて普通じゃ信じないが、俺を取り巻く超常現象の数々に比べたら
カメラで撮影したかのように俺のいない部室を見ることくらいあるだろう。
それこそ長門あたりが映像として送信とかしてそうだ。
大したことじゃないさ。少し長いサボりだ。俺はそう思うことにした。
実際そう思い込まないとやってられん。

葬式の準備は着々と進んだ。本当に一週間もかかるのか?
親戚が集まってくる数少ない機会でもあるので俺は方々に挨拶し、
その日の行動を終えた。またSOS団の夢でも見そうな感じだ。
それならそれでいいさ。と俺は目を閉じた。
直ぐに意識が遠くなる。意識が沈んでいくと同時に暗闇が頭の中を覆った。

目を開けると見慣れた中庭に居た。
やれやれ…本当に休みだという感じがしない。
とりあえず部室に行こうかと思い、移動する。
…気が付いたら部室の中に居た。
まるでビデオの早回しだな。しかし今日はハルヒがいなかった。
よう、ハルヒは着てないのか。とりあえず挨拶をする。
「涼宮さん抜きでお話がしたかったので」
…ん?お前俺の声が聞こえるのか?
「何を仰っているんです?当然でしょう」
おいおい、昨日の夢とは随分違うな。
「そんな事よりお話したいことがありまして」
なんだよ、聞こうじゃないか。
「あなたは携帯を忘れたまま遠出しましたね?」
!!これは…夢じゃないようだな。
「夢の中と言うのが一番だと思いますよ。
ただ長門さんのお力で少し我々が干渉しています」
人の夢に入ってくるなんて良い趣味とは言えないな。
「申し訳ありません。ただ、これから話す事が重要なことなので」
さっきから言ってるな、一体どんな話だ?
「涼宮ハルヒはあなたの叔父、恭二の名を勘違いし、あなたの名だと思った」
…なんだって?いや、それ以前になんで恭二さんの事を知っているんだよ。

「機関を通してあなたの動向は監視させてもらっています」
良い気分じゃないな。で、ハルヒは何で恭二さんの事を聞くことになったんだ?
「涼宮ハルヒはあなたが部室に来なかった事に不安を覚え、あなたの家に向かった」
「そこで車に乗ろうとしたあなたの母親と妹の姿を発見し、会話を聞いていた」
「その際にあなたの伯父から発せたれた名前を勘違いして聞き取り」
「あなた達のいう「葬儀」の為の服装をしていた事からあなたが死んだ可能性を考えた」
おいおい、随分な勘違いをしてくれるじゃないか?
だが、8日後には俺は帰るんだし、問題ないだろう?
「そうも行かないようです。涼宮さんはあなたを失ったと思った事で思い詰めています」
「今日はまだ大きく変化していませんが、1週間の内にかなり重症になるかと」
つまりまた世界を改変するなり崩壊するなりって事になるのか?
「その可能性は大きいでしょう。実は今日からその片鱗が出ています」
それがわかっているならお前らから説明すればいいじゃないか。
「それは出来ない。涼宮ハルヒは私達に自身が聞いたことを伝えていない」
何でだよ?勝手に勘違いして勝手に塞ぎこんでるってのか?
「そう。彼女はあなたが死んだと認めたくないという心から外部にその情報を話していない」
認めたくないも何も、俺は死んじゃいないんだがな。
「しかし涼宮さんがそう思ってるんだから仕方ありません」
で、俺にどうしろって言うんだ?

「今涼宮さんはあなたを失ったと思っていることで世界を否定し始めています。
しかしその半面であなたが生きていると信じています。」
「相反する感情がぶつかって新しい世界を断片ながら構築したようです。
我々も侵入を試みたのですが…不可能でした」
それだけ危険なことになっているなら、適当に理由をつけて
俺が無事だって言えばいいじゃないか。わざわざ隠す理由は何だ?
「…正直に申しますと可能性なんです」
可能性?
「恐らく涼宮さんが今の状態である限りは、新世界は拡大を続けて
そう遠くないうちに入れ替わってしまうでしょう」
それが何の可能性になるって言うんだ?ろくな事では無さそうだが
「…確かにこのままでは世界が改変される可能性がある。
しかし、この危機を乗り越えた場合、新たな情報の観測に成功する可能性がある」
…どういう事だ?
「涼宮ハルヒの状態はこれまでと比べてかなり不安定、
それ故に今までに無い形で新しい世界を構築しようとしている。
だがそれが未遂に終わった場合、その世界は直ちに砕け、この世界に情報の断片が現れる」
…それってまずいんじゃないのか?
「いえ、超常現象にならない形で現れるようです」
…一体何が起こるって言うんだよ…。

「つまり、今回のあなたの行動が、長門さん達にとっては重要みたいです」
…また俺がどうにかしなきゃならんのか。
と、言うか古泉や朝比奈さんの組織はそれだとまずいんじゃないのか?
「いえ、わたしも上からは…今回は見守るようにと」
「僕もです。迂闊に手を出したりするとかえって悪化しかねない。
だから帰還も今回はあえて傍観するのだと思います」
世界が崩壊するかも知れないっていうのに随分呑気だな
「信頼しているんですよ。あなたを」
…俺を?
「ええ、あなたなら必ずや涼宮さんの不安を解き放つことができる。
そしてそれこそが世界が安定する方向に向かう手段なんです。
少々危険な賭けですが、僕はあなたを信じますよ」
「わたしも…キョン君を信じています」
「あなたなら涼宮ハルヒを正しい方向に導ける」
それで?具体的にはどうすればいいんだ?
「それは…あの、言えないんです」
…どうしてですか?また禁則事項ですか?
「あなた自身で考えなくては意味が無いんですよ」
「我々が与えた知識で解決してもそれは正しいものではない。
…あなたが考えて行動することが一番重要」
「よく考えれば気付くはずですよ。あなた自身の考えに」
俺が何を考えてるって言うんだよ…。

…そこで目が覚めた
夢だったようだ、おそらく長門が干渉したって辺りは本当だろう。
それによると世界がまたも一人の身勝手によって危機になっていて、
どうやらその原因が俺にあるって事だ。
…俺が何をしたって言うんだよまったく。

葬儀は滞ることなく終わった。後片付けも順調に進み、大体予定通りの日、
つまりサボって8日目で帰れる事になったらしい。
だが、ひとつ気になる事があった。古泉の言っていた。
「一週間の内に重症になっているでしょう」という意味の発言。
神は世界を七日で創造したとかそんな話は聞いたことあるが、
七日で崩壊させることはないじゃないか。だが、それは防がないとな。
ハルヒがそれだけ思い詰めている。胸が苦しくなった。
俺のためにそこまで…ハルヒ、お前はバカだよ。
本当なら俺がそう思うべきなのに…。
なぁ…親父…少し早く帰りたいんだが…できないかな?
「そういうわけにはいかないだろう。親戚の法事だ」
わかってるよ。だけど、俺は帰りたいんだ。
「…たしかに葬式は退屈かも知れん。だが大切な行事でだな…」
わかってる!だけど俺は会いたいやつがいるんだ!
「そんなに大事なことなのか?」
あぁ俺にとってはとても大切な事なんだよ!
「・・・わかった。そう頼んでみる」
ありがとう、親父。待ってろよ、ハルヒ…


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