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雨は嫌いだ。
理由はわからん。ただ、どうしても気分が沈んでしまう。
そんな俺だからこそ、6月は輪をかけて嫌いだ。
やむことの少ない雨の月。どこが水無月だ、忌々しい。
今日も朝から雨が降り続いている。
俺はいつもより早い時間に家を出て、傘を回しながら学校に向かった。……ねみぃ。
この北高への上り坂と、雨の2トップはさらに気分を鬱へと向かわせる。
最近の中でも最も激しい雨のせいか、今日は坂を登る人間も少ない。サボっているのだろうな。
「おい、キョン!朝から浮かない顔してんな!」
お前が異常にテンションが高いだけだ、タコ野郎。
「うっ……毒舌っぷりも増してやがるな」
そもそもだ、何故お前はそんなにテンションが高いんだ。周りを見てもテンションが高いのはお前だけだぞ。
「ふふふ……それはだな、キョン。濡れている女はそれだけで色気が……」
歩く速度を早めた。これ以上は聞かなくてもわかるさ。所詮、谷口の考えることだしな。
後ろからやんやと騒ぐ谷口を無視して、俺は足早に学校へと登った。
教室に着くと、埋まっている席は少なかった。

驚いたことにハルヒまでも来ていなかった。いつもなら俺の後ろの席でボーッとどこかを眺めているのに。
早く後ろに座って、満面の笑みを見せて俺の気分を晴らしてくれよ。……って何言ってんだ、俺は。
教室の半分と少しが埋まった頃にチャイムが鳴った。
おかしい、ハルヒがまだ来ていない。
一限が始まっても、ハルヒは来ることがなかった。他の誰がいなくても気にしないが、俺の後ろの席が開いてるのは……な。
「あ~もうっ!雨でびしょ濡れじゃない!最悪っ!」
大声で教室に入ってきやがった。今は授業中だぞ……ほら、先生泣きそうだ。
「ハルヒ。愚痴は俺が聞いてやるから落ち着いて席につけ」
ハルヒを宥め、席に座らせて授業を再開してもらった。
「キョン、タオル貸しなさい」
……やれやれ。ほらよ。
「ありがと。あ、キョンの匂いがする……」
お前は匂いフェチか?気色悪いことを言うな。
「ふん、何よそれ。ちょっと上脱ぐから向こう向いてなさい」
「おいおい、授業中……「あっち向け」
まったく……しょうがない奴だよ、本当に。
後ろから衣服を脱ぐ音が聞こえる。周りの奴等も黒板を注視しているようだ。……そりゃ気になるよな、向けないが。
背中に突き刺さるペンの感触。俺は振り返った。
あのなぁ、時と場所を考えろよ。
「いいじゃない。濡れて寒かったんだから。それとも、あたしに風邪ひけって言うの?」
そう言われたら何も言えねぇよ……。
前を向こうと思い、やめた。突然聞きたいことが出来たからだ。
「ハルヒ。お前さ……雨とか、6月って好きか?」
何でこんなことを聞くかわからない。特に意味もない。ただ、どうしても知りたかった。
「な、何よ、いきなり。真面目な顔しちゃってさ……。雨は嫌いよ。あたしの体を濡らして……あたしを一人のような気分にさせるの」

ただ黙って頷いた。
「あたしだって一人は嫌いなの。今日だって遅刻してくる時は一人で歩いてて……なんだか落ちつかなった」
なんだ……この感情は。
今のハルヒの表情はとても悲しげというか、救いを求めているというか……。
そんな顔を見て、俺の心臓がドクンと大きな音を立てた。何故だ?いや、そろそろ素直になってもいいんじゃないか?
俺は、ハルヒのそんな顔を見て、守りたくなったんだろう?
授業終了のチャイムが鳴る。俺は後ろのタオルで顔を拭いている女を引きつれ、部室に向かった。
「ちょ……ちょっと、キョン!どこ行くのよ!?」
「……部室。サボるぞ」
ギャーギャーとわめくハルヒを引っ張り、俺はそのまま部室へと歩を進めた。


「部室なんかに連れてきて……何するつもり?」
ハルヒ、服脱げ。
「え、えぇっ!だ、ダメよ!そんな……な、何する気なのよ、あんた!」
……素晴らしい勘違いだな。俺が襲うとでも思ってるのか。
「バカ。ストーブで服乾かすぞ。俺の服着てていいからな」
自分の服を脱ぎ、ハルヒに手渡す。そして背中を向けた。……見られたくないだろうからな。

まだ6月序盤だ。夏が来るまで時間があるし、朝濡れたから少し寒いな。
「ねぇ……何で今日はそんなに優しいの?」
さぁ、何でかな。俺にもよくわからん。雨で気分がおかしいからじゃないか?
「何それ、バカみたい。雨……かぁ。キョンは好き?」
俺は……嫌いだな。
「何で?」
一つ深呼吸をする。この言葉を発することにためらいは無い。
「お前の笑顔が見れなくなるだろ?」
ハルヒは顔を真っ赤にした。俺は覚悟して言ったから恥ずかしくもなんともないが。
「あんた……バカよね」
あぁ、バカだよ。
俺の背中に当たる衣服の感触。そして、背中の重さ。
「背中合わせでも、何もしないよか暖かいでしょ?」
優しいな、お前も。
「……あんたに合わせてあげてんのよ。お互い優しけりゃ二人とも気分よくなるわ」
沈黙が続く。……だけど、問題は無い。
何故なら、背中越しにお互いの気持ちが伝わっているから。
ハルヒの優しさと、俺の優しさがぶつかって、背中が暖まる。今、俺達はわかりあっているはず。
だけどな、一つ問題があるんだよな。
「ハルヒ、この状態じゃダメだな」
「なんでよ。あたしは……うれしいわよ」

「いや、ほら……お前の笑顔が見えねぇ」
「ふぅ……バカね」
背中を支える物が消えて、俺は床に仰向けになった。
そして、上から覆い被さられるようにキスをされた。
……まったくハルヒらしいやり方だ。
「んっ……おいしい」
そう言って、上から降ってきたのは、俺の大好きな笑顔だった。


おわり
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