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涼宮ハルヒと出会ってからの一年間、様々なごたごたに巻き込まれつつも俺は無事に日々を過ごし、
辛うじて留年を免れた事で二年生となっている。
ハルヒの力が働いている限り俺が開放されるはずも無く、クラス編成を行ってもハルヒは俺と同じクラスに居たのだった。
ご丁寧に座席位置まで一年の時を再現している。やれやれ…当分俺の平和は訪れそうに無いな…
それからも事あるごとにハルヒの退屈しのぎに奔走し、疲労感と思い出を残して時間は過ぎていった。

そうして今年も忌々しいほどの暑さが襲う季節がやってきた。
地球温暖化は深刻な問題なのかも知れないと思いながらいつもの様に部室に向かい、
朝比奈さんのありがた~いお茶を頂きながら古泉とボードゲームをして過ごしていた。
ところが、そんなある日に事件は起きたのである。

「夏のある日の思い出」

この日、いつもの様に俺は暑い中の授業を受けた後、癒しを求めて部室に向かった。
部室には長門、古泉、朝比奈さんが揃っていた。ハルヒは掃除当番だし、もう少ししたら来るだろう。
よう、皆来てたのか。そう言うと長門は本から目をそらして俺を見、僅かに首を動かした。
古泉は「どうも」といつものスマイルで挨拶してきた。朝比奈さんも「こんにちわ~」と癒しボイスで挨拶してくれた。
今日もメイド服似合っていますよ。暑くないのかと気になりますけど。
「はい、どうぞ」お決まりの座席に座った俺に朝比奈さんが差し出してきたのは冷たい麦茶だった。
「最近は暑くなってきたので、冷たい飲み物も用意しろって涼宮さんに言われたんです」
なるほどね、たまにはハルヒもまともな意見を出すじゃないか。なんて思いながら麦茶を味わっていると、勢い良くドアが開く音がした。
「おっまたせー!みくるちゃん!麦茶頂戴ー!」
「は、はぁい」
夏の暑さを知らない団長様の一声に怯みながらも朝比奈さんが健気に返事をし、麦茶を準備し始めた。
特に意識もしないまま古泉とボードゲームを始めようとしたとき、事の始まりが起きた。

「あ…あれ?」その声は朝比奈さんのものだった。何か起きたのだろうか。
「涼宮さぁん、すいませぇん。水があまり残って無かったみたいで…」とコップに半分ほどの麦茶を差し出している。
「そう。まぁしょうがないわね」と意外にも怒ることなくハルヒはそれを受け取った。
「でも冷たい飲み物が無くなるのはこの暑い中では困るわね」と続ける。
嫌な予感がする。大体ハルヒがこんな切り出しを始める時は俺がおつかいに行かされるのがこれまでのパターンだ。
「キョン、ちょっと冷たい水準備して来なさいよ」
ほら来た。
こういうのは最後に頼んだ人間が行くものじゃないか?
「何言ってるの!私は団長よ!?ヒラの団員が休んでいる時に団長が働くなんてバカみたいでしょ!」
ゲームを開始しようとしている俺はハルヒの目には休んでいる様にしか見えないらしい。
そもそもこの団は何をしていれば働いていることになるのだ。
「いいから!さっさと行ってきてね!」
聞いちゃいない。いつもの事だが。古泉の方を見るといつものニヤケ顔だ。
あまり怒らせないうちに行った方がいいのでは?って顔してやがる。
仕方ない、それくらいなら大した労力でもないしな。
と、魔法瓶を持って部室を出たわけだ。部室棟には様々な部活があるわけであり、この季節に冷水を欲するところは珍しくない。
そこで部室棟の一角にウォータークーラーが設置されてるわけだ。
少し距離はあるがいつぞやかのストーブを取りにハイキングコースを往復したことに比べれば問題にならない。
目的の場所に着くとそこには何人もの運動部員がいた。この暑い中走り回って丁度休憩時間に入った様だ。ご苦労な事だねぇ。
我先にと水を争う列が出来ている中でこんなもの持って並んだら全員から睨まれる事だろう。大人しく列が退けるまで待つか…。
「あ、あの…」
突如その声はかかった。振り返ると女子がそこに立っていた。

あぁ、この人は覚えてる。確か映画研究部だかに属してる竹原恵という人だ。学年が同じだし、
部室棟で時々会うときに会話をする程度なのだが。
「キョン君も水飲みに来たんですか?」と聞いてきた。
ええ、そうですよ。厳密には汲みに来たって感じですけど。
「大変ですねぇ。涼宮さんの命令か何かですか?」
悲しくなってくる台詞だ。ハルヒが全校の常識と化していると共に俺はその配下として常識化している事実を再認識させられる。
ええ、大した用ではないので楽ですけど。
「あ、あの…良ければ…今時間取れませんか?列も結構長いようですし…」
はて、この人と時間を取るような話題を共有した覚えは無いが。まぁ聞くだけで問題になったりはしないだろう。
そうですね、何かお話しすることが?
「ええ、出来れば中庭でお話したいと思うんですけど…」
そうして竹原に連れられた場所は中庭でも最も人の居ない場所だ。SOS団の窓にも面していないのでハルヒの監視も届かない。
って何を俺は脅えているんだ。
「突然で申し訳ないと思うんですけど…」
何やら言葉に詰まるように話始める。気のせいか顔が赤くなっている。暑いからだと思うが。
「私…あなたの事が好きです!」

何だって?聞き間違いか?それともドッキリか?最悪のケースなら俺がおかしくなったか?
「い、いきなりこんなこと言われたら驚きますよね…。でも本当なんです」
どうやら聞き間違いでも勘違いでもないらしい。
思えばどうでもいい事を聞き返していた。い…いつから…?
「去年の10月終わり頃からだったと思います。偶然話したのがきっかけで…」
あぁ、確かに会話し始めたのはその時期くらいからだったなぁ…。
しかしどうしたものか。この竹原さん、結構かわいい顔立ちはしているし(谷口ランクではA-で長門と同じだ)
見たところ性格も良さそうなので端から見ればさぞかし夢のような光景だったろう。
しかし、これまで超常現象に幾多も遭遇していた俺はこの状況を素直に喜ぶことは出来なかった。
だってそうだろう?うっかりこの告白を信じて次の瞬間に刺されたって言うんじゃ洒落になってない。
「そんなに大した会話はしていなかったんですけど…私が研究部の機材運んでいた時に重いからと持ってくれたり…」
竹原の告白が続いている。確かにそんな事もあった。
「最初はやっぱり涼宮さんの近くに居る人だし、警戒心もありました」
どこまで行っても有名人だなハルヒ。そういえば映画撮るって言ったときも一部の機材借りにだかで訪れた気もする。
「でもキョン君は…なんて言うか思ってたより普通で…優しくて」
嗚呼…人から普通と言われるのはなんとありがたいことか…。とっくの昔に失われたと思った言葉だったがまだ生存しているらしい。
「私の中でキョン君の存在が大きくなっていくのはわかっていたんですが…なかなか言い出せなくて」
なるほど、絵に描いたような恋する乙女ってやつか。それにしても随分なタイミングで告白してきたものだ。
「今日もいきなりこんなこと言うつもりは無かったんですけど…、キョン君が一人でいたので…今しかないと思って」
「それと…無茶なお願いなのはわかっています…でも…」
「良ければ私のいる映画研究部に転部する事はできないでしょうか?」

…俺は正直そのお願いに驚愕していた。
話を聞いている限りでは宇宙のなんたらインターフェイズでも未来からの来訪者でも機関の一員でも無さそうだ。
まだ100%信頼できるわけでは無いが。しかしそれを抜きにしても物凄い発言だよな…。
「今キョン君が涼宮さんのいる団に所属しているのは知っています。でも…もっとキョン君とお話をする機会を作るには…」
なるほど。つまり俺といる時間を増やす最短の手段が部活動を同じにする事か。もっともな話ではある。
それはいくらなんでも話が飛びすぎなんじゃ?
「それは解っています… でも私は…キョン君と居たい…」
これが俺のように超常現象を経験しておらず、純粋な心で告白を受けた人物なら卒倒ものだろう。
なあ、竹原さん。話はわかるが「キョーン!どこ行ったのーーー!!」
突如大声が響く。誰が発したものか考えるまでも無い。ハルヒだ。そういえばまだ水汲んでなかったっけ。
「どこでサボってんのー!団長を待たせると死刑に――――あ!」
こちらの方に走ってきていたらしい。ハルヒが視界に入ってきた。
なんてこった。これは想定できる最悪の状況じゃないか?
「あんた何こんなところに女の子連れ込んでるのよ!バカ!」
ハルヒが怒りながらずんずんとこっちに歩いてくる。さらば俺の青春の時間…。申し訳ない…竹原・・・。
「あの…涼宮さんすみません 私が彼に時間を取ってもらったんです」
「え?そうなの?ごめんね でもこのバカに何の用?」
その言葉を受けて竹原は黙っていた。何を思っているのかはわからないがハルヒの勢いに押されて潰れたりしなければ良いが…。
「そんな言い方は無いと思います…」
ぼそっと竹原が口にした。質問の内容とはかけ離れているが。
「本人に話も聞かないでいきなりバカって…ひどい言い方じゃないですか!」
突如竹原がそんな怒りの言葉を口にした。声を僅かに荒げ、さっきまでの内気さが嘘のようだ。
「え…?キョンのこと…?あんたに何か関係あるわけ?」
予想外の反撃にハルヒも少し怯んだようだったが、強気に返す。おいおい、ここを戦場にするつもりか?勘弁してくれよ…。

「そうですね この際だからはっきりと涼宮さんにも申し上げます」
「私はキョン君のことが好きです」
まるで政治家の立候補宣言かの様に竹原がハルヒに向かって爆弾所持に匹敵する事を宣言する。
「な………!」
ハルヒはまたも言葉に詰まった。しかしその表情はどこか動揺しているにも見える。そんなに驚いたのか?
「私はキョン君と真剣にお付き合いしたいと考えています。その為に私のいる部に転部してもらえないかとお願いしたんです」
「ちょ、ちょっと!何それ!私のSOS団員を勧誘するつもり!?」
「はい、今のままではキョン君と居られる時間はほとんどありません。いささか過ぎた事だとはわかっています」
「でも…今の気持ちを叶える為になら私は無礼と知りつつもこうさせていただきます」
「ふざけないで!キョンのようなバカでもあたしのSOS団の一員なの!そんじょそこらの部活に取らせるもんですか!」
「重要なのは転部そのものではありません。彼と話すきっかけを増やすことが大切なんです!」
「それに涼宮さんはキョン君を団員の一人程度にしか見てない!私は違います!」
「何よ!私だって…私だってキョンが好きなのよ!他の部になんて渡さないわ!」
何だって?今ハルヒなんて言った?俺が好きだって?何かの間違いだろう?
しかしこの一言はさすがに竹原にとっても効いたようだ。上手く返す言葉が見つからないらしい。
「ねぇキョン!あんたはどうなの?もちろんSOS団に残るわよね!」
突如ハルヒが俺に話を振ってきた。俺は数秒前のハルヒの告白で低下気味だった思考力に止めをさされていたので、
一瞬何を言っているかわからなかった。待て…それ以前にお前今言ったこと本当なのか?
「何…?そ、そうよ…あんたが好きなの!悪いわけ!?」
ハルヒが顔を真っ赤にしながら答える。望んでもいないハーレムから戦場に早代わり。
…何の因果だこれは。

しかし、冷静に考えて(今の俺はとても冷静ではないが)これはかなりまずい状況じゃないか?
今俺は二人の女子の告白を受け、それぞれの所属する部のどっちかに身を置けと迫られている。いや、竹原の方は迫ってはいないか。
さっきのやり取りを見ても感情的なハルヒに対して竹原は比較的に冷静だ。ちょっと理屈的だが。
本当にドッキリなら良いのにと思うような状況に混乱していると竹原が再び口を開いた。
「そんなに迫った言い方をすることも無いでしょう。キョン君も困ってしまいます」
あぁ…なんて気遣いの出来る子なんだ。そんなに中の良い人ではなかったが実はかなり気配りができるようだ。
実際付き合うことになれば周囲が羨むことだろうなぁ…。
「随分ご熱心じゃない。あんたそんなにキョンと接点あったわけ?」
「いえ、ほとんど話す機会もありませんでした。でもキョン君を想うのに接点の多さは気にはなりません」
「じゃあ、あんたがキョンの何を知ってるって言うの?あんたの理想とコイツがどう合っているわけ?」
「ほとんど知っている事はありません ですから知りたいと思うんです」
「それに涼宮さんだって彼の全てを知っているわけではないでしょう?それなら差は無いと思いますけど」
「う……」
ハルヒが言葉に詰まる。そりゃそうだろうな。ハルヒが感情的にまくしたてるのに対し竹原は驚くほど冷静にそれを返す。
しかも長門の様に淡々と喋るのではなく語調には起伏があるのでより明確に伝わる。
論争したら絶対に勝てないタイプだなこの人…。
「それで、キョン君は今どうお考えですか?」
今度は竹原が突如話を振ってくる。今にも逃げ出したい気分だよ。
どうって言われても…正直言って混乱してます。

「そうですよね。いきなり二人から告白されれば混乱されると思います」
「何言ってるの!キョン!本当にあたしよりこの女の方が大事なの!?」
ハルヒ…お前に竹原の様な気配りは1ミクロンも無いのか…。実際どっちを選べば良いと言うのだ。
確かにハルヒと居た時間は竹原と話した時間よりも圧倒的に長い。でもこの気配りが出来てかわいい顔立ちをしていて、
かつハルヒを相手に引けを取らずに喋れる女の子の存在はハルヒを無条件に優先できるほど小さいものではない。
少し考えさせて欲しい…。
「…そうですね。わかりました。この場の勢いで発言されてもお互い気分は良くないですよね」
「それではまた明日に」
そういって微笑すると竹原は帰っていった。やれやれ、まさか俺が恋愛事でもめるとは…それもこんな大事に発展するなんて。
「それで…どうするのよキョン」
ハルヒが俺を上目遣いで睨む。しかしその顔にはさっきの怒りは無く、不安そうな表情が浮かんでいた。
「本当に…SOS団を辞めてあの子の所に行こうなんて考えるの?」
だから言ったろう…本当に今は決まっていないんだ。冷静に判断しないと竹原さんなりお前なりを傷つける事になるしな。
そう言うとハルヒは俺の腕にしがみついて来た。普段なら嬉しい行動なんだろうが、今の俺にとっては混乱を促進するだけだ。
「嫌よ…キョンがいなくなるなんて…」
ハルヒの声がどんどん小さくなっていく。さっき言い争っていた時は無理してたのか?まさかな。
金輪際合わなくなるってわけじゃないだろう。クラスだって同じだし座席だって…
「違うの!そんなの授業が終わったら意味無いじゃない!あたしは…もっとあんたと居たいの!」
ここに来て驚きの連続だ。ハルヒが俺を好きだった?いつから?いやそもそもそんな事が有り得るのか?
恋人は宇宙人かそれに順ずる何かでなくては駄目だといったのはこいつだぞ?
俺は超常現象に巻き込まれてこそいるが宇宙人ではないし未来人でもないし超能力者でもない。
そんな俺を好きになる理由がハルヒのどこにあるって言うんだ?

「さっきは勢いで言っちゃったから改めて言うけど…」
「あたしは…キョンのこと好き…。だから私と居てほしいの!」
そう言ったハルヒは顔を赤くしながら今にも泣きそうな顔をしていた。
どうやら俺が竹原の元に行くのを本気で心配しているらしい。
客観的に見れば可愛い限りの仕草だが、これ以上俺を混乱させないでくれ…頼むから…。
「あの子も言ってたけど…いきなり二人からこんな事言われたら混乱するわよね…」
「だから…ゆっくり考えて…あたしはキョンを信じてるから…」
ハルヒまでこんなしおらしい事を言い出すとは。明日当たり雨が降るかも知れない。
様々な考えが俺の中で走り回っていた。その状況の整頓も追いつかないままに選択まで迫られている。
「とりあえず…部室に戻ろう?」
と言ってハルヒが歩き出した。確かにここで考えても仕方ない事か…。すこし冷静さを取り戻したが
同時に暑さも再び感じ始めた。早いところ水汲んで朝比奈さんに麦茶を淹れてもらうとするか…。

部室に戻ったは良いがさすがにいつもの様に古泉とのゲームに興じる余裕は無かった。
「おや?随分かかって戻って来たかと思えば…どうしたんですか?」
いつものニヤケ顔のまま聞いてくる。こいつは経緯を知ってるんじゃないかと疑いたくなるくらいだ。
ちょっと考え事があってな…。
「それはそれは…僕でよろしければ相談に乗りますが」
いや、遠慮しておく。後々聞きたいことはあるけどな。

長門の本を閉じる音を合図としてその日の活動は終わった。
結局俺はそれまでの間に二人から言われた事を整頓するので精一杯だった。
恋愛経験がそんなに多いほうではない俺が突如二人から同じタイミングで告白を受けるなんてハードな状況に投げ込まれたのだ。
混乱しないやつは相当慣れているか、長門の様なやつかどっちかだろう。
帰り道ではいつもよりハルヒが俺に近寄っていた。下手すれば腕を組み出しかねないような距離だ。
こんなハルヒはこの機会を過ぎたら一生拝めないかも知れないな等と考えつつ皆と別れ、俺は帰路についた。
去り際のハルヒが俺に何か言おうとしていた様だが、結局何も言わずに帰っていった。
その時の表情は説明できないほど複雑で、今までに無い顔だった。
いろいろ考えすぎるあまりに晩飯に何を食ったかも覚えていない。そんな夕食後に風呂に入り、ベッドで二人への返答を考えていた。
ハルヒが傍に居ないのは確かに落ち着かない。だが、それは改変世界で味わうような本当に近くに居ない。
という意味合いであって竹原恵の告白を受けて彼女のいる部に移ったとてハルヒと居る時間がまるで無くなるわけではない。
SOS団を辞める事になる以上、朝比奈さんのお茶を味わえなくなるのは残念だが…ってそんな事考えている場合ではないな。
竹原恵は…帰宅後に長門・古泉・朝比奈さんにそれぞれ電話で確認し、宇宙人・未来人・機関の関係者でも無いことがわかっていた。
どうやら本当に一生徒として俺への気持ちを持っていたらしい。素直に信じられなかった自分が恨めしい。
これまで話してきた感じだと丁寧な物腰で喋りはするものの、今日ハルヒと見事な言い争いをやってのけた辺り
芯は強いらしい。あそこまで理屈に凝った言い方を普段からしているのであれば彼女も若干変わり者と見られていることだろう。
…正直好みで言えば俺の好みに該当するタイプである。
谷口も言っていたっけな…「あいつはA-くらいに可愛いんだがちょっと変な所もあるしなぁ」と。
あいつの無駄話がこんなところで活きるとは。世も末だな。
当然三人は竹原恵が自分の組織と関連が無いと伝えると共に「涼宮ハルヒを選ぶべき」という忠告も添えてきた。
そりゃぁそうだろう。ただの告白の板ばさみじゃない。ハルヒの場合は世界の危機が付いてまわってるわけだからな。
うっかり竹原恵を選ぶことになればまた世界を改変しかねない。その時にはさすがに俺も呼ばれないだろう。
今回一番の問題はそこにある。世界の危機という要素が入る以上対等な立場で選べないのだ。

俺はどうすれば良いのだろうか…そんな事を考えていたらもう11時になろうとしている。
その時に携帯が鳴った。たぶんハルヒだろう。と思ってディスプレイを見たら竹原恵だった。
何時番号交換等したのだろうか。覚えていないがきっと些細な事だったので印象に残らなかったのだろう。
交換したは良いが一度も使うことは無かったので今まで忘れていたのだ。
「もしもし…キョン君?」
はい、どうしたんですか。
「こんな夜分にすみません。でも、どうしても言いたい事がありまして」
いえ、気にしないで下さい。それより言いたい事って?
「私と涼宮さんの事ですけど…」
やっぱりそうか。そうだろうな。しかしわざわざ電話してくると言う事は何か言い忘れたことでもあったのだろうか?
きっちりしている彼女らしくはないが…
「私の気持ちに偽りはありません。でも涼宮さんも同じ気持ちだったのは少し意外でした」
「ですから…キョン君にこんな複雑な選択をさせる事になってしまって」
いいですよ。あなたのせいじゃありません。
「ありがとう…。あの…複雑に考えないで、キョン君のありのままの答えを出してください。」
「それが言いたかったんです。では…また明日学校で」
ええ、おやすみなさい。
そういって電話を切った。なるほどね…そう言ってくれるのは嬉しいんだが…
彼女は自分と対立した女が世界をどうこうできるなんて知らないだろうからなぁ。相手が悪すぎる。
そう思っていると再び電話が鳴った。今度こそハルヒだった。

「キョン…起きてた?」
あぁ、起きてたよ。どうしたんだ?
「今日のこと…あんたの事好きって思ってる人があたし以外にいたのは驚いたけど…」
そりゃ俺がモテるなんて誰も想像してなかっただろうな。仮にモテたとしていきなり二人に告白されるなんて思いもすまい。
そうだな。俺が一番驚いてるよ。
「それでね…あたし…さっきはあんな勝手な事言ったけど、キョンには嘘ついてほしくない」
「だから…キョンが一番だと思うほうを選んで?今までの事とか考えないで、本当にキョンが好きな方を…」
ハルヒらしくもない言葉だ。いつもなら「相手が誰でも関係ない!あたしに付いてきなさい!」とか言いそうなものだ。
それだけ今回のことを重く感じてるって事か。ハルヒにこんな女の子らしい一面があったとはなぁ。
わかった。今夜しっかり考える。明日には答えが出せると思うから。
「うん、わかった…おやすみ、キョン」
あぁ、おやすみ。
電話を切ったら再び静寂が戻ってきた。
俺のありのままの答え…か。
不思議と竹原恵との会話が多くないことは気にならない。俺自身彼女に対する好感はあったのだろう。
そういえば話していると結構趣味や考えが近かったりしている部分もあった。
仮に竹原恵一人から告白を受けていたら俺は快くOKしていた事だろう。
そんな考えに浸っていたらまたも電話がかかってきた。随分今日は電話がかかってくる日だ。

翌日の朝、いつもより早く目覚めてしまった俺はそのまま寝る気分にもならなかったので珍しく早めの時間に登校していた。
登校途中で「キョン君!」と後ろから声をかけられる。竹原恵だった。
「おはようございます。あれ?昨日より爽やかな顔してますね」
どうやら俺はそう取れる表情をしていたらしい。確かに寝不足のはずなのに不思議と意識がはっきりしている。
「…と、言う事は決まったんですね」
彼女の言葉に俺は黙って頷いた。
「では、何時聞かせもらえますか?」
え?と思わず聞き返した。てっきりこの場で言う事になるかと思ったのだが。
「ここで聞いてしまったら涼宮さんに申し訳ありません。彼女さえ良ければ私は3人が同席できる時に聞きたいと思っています」
なるほど…この人は結構対等さを重んじる部分もあるんだな…。
クラスが違う竹原恵と別れ、自分の教室に着くと驚いた事にハルヒがもう来ていた。
「さっき下であの子と話してたわね。何はなしてたの?」
俺の姿を確認するなりハルヒがずいずいと言い寄ってくる。
彼女はお前もいる所で返事を聞きたいそうだ。
「って事はあんたどっちにするか決めたの?」
そうだ。と俺は答えた。自分の中では明白な答えがもう出ている。
「そうね…じゃあ放課後になってからでいいんじゃない?フラれた後に授業なんて受けなくないでしょ」
それはどっちがフラれる事を想定して言ったのかはわからない。が、いつものハルヒなら勝った気分でいるはずだし、
竹原恵を思いやっての発言のつもりなのだろうか。
二人も落ち着いて授業を受けれる心境だったのかは分からないが、少なくとも俺は授業に身は入らなかった。
そんな授業も終わり、いよいよ選択の時は迫っていた。

自分の中で決定的になった要素はなんだろうか。たぶん昨日の最後にかかってきた電話だ。
出ると長門だった。「涼宮ハルヒ、及び竹原恵の意志がこちらでも確認できた」
確認できたって…ハッキングか盗聴でもしてるんじゃないだろうか。
「今の涼宮ハルヒにはあなたに対して告白した結果が受けられないかも知れないという覚悟を持ち始めている」
「おそらく涼宮ハルヒ自身の中にあなたを強制する事をとがめる心があったからだと思われる」
「つまりあなたが今考えているような世界の改変や崩壊を懸念要素として入れる必要は無い」
「あなたの…望むとおりに行動するのが一番」
なるほどね。やっと対等な立場で選ぶ事が許されるのか…。
そうか、教えてくれてありがとな。長門。
「いい…でも少し残念」
なんだって?
「なんでもない」
ああ、そうか。おやすみ、長門。
「それは日本人が就寝の際に言う挨拶…具体的に効力が発生したりするわけでは…」
いいんだ、習慣みたいなもんだから。
「…そう」
「…おやすみ」
そういって長門は電話を切った。
俺は再び訪れた静寂の中で自分の気持ちを精一杯確かめようとした。
―――俺はあいつの傍にいてやりたい。

放課後俺とハルヒは教室を出、竹原恵のいる3組に向かった。
竹原恵みも教室を出るところだったので合流は難なく済み、彼女の提案で最初に告白を受けた中庭の一角に行くことにした。
「…それで、キョンはどっちを選んだの?」
「あまり彼を急かさなくても良いんじゃないですか?」
さすがにこの二人が直に対峙している時は何かオーラのような物を感じる。立場的にはライバルって事になるしなぁ。
そんなに呑気にもしていられない。俺は並んでいる二人の一人の方に向き直って一歩前に出た。
すまない―――

―――彼女はその言葉を受け取ると感慨深そうな表情をした。
沈黙が3人の間を支配する。申し訳ない気持ちは確かにある。だが、これが俺の選択なんだ。
「わかりました。残念ですけど、それがキョン君の気持ちなら私に異論はありません」
涙をこらえいるらしい。言葉こそ冷静だが、僅かに震えているのが見て取れた。
「…それでは私はこれ以上居てもお邪魔でしょうし…これで」
待ってくれよ、そんないきなり冷たくならなくても…
「いえ、私だって涙を見られたくはありませんしね。それに…」昨日の帰り際と同じような微笑を浮かべて竹原恵は言った。
「キョン君の事を想っていた日々が楽しかったのは事実ですもの」
涙は見せたくない、と言いながらも笑っていた竹原恵の目には涙が浮かんでいた。
「涼宮さん…彼とお幸せに」
その言葉を最後にして彼女は校舎に戻っていった。
その姿が見えなくなるまで見送った後、俺はハルヒに向き直った。
ハルヒが俺を見ながら聞いてくる「本当に…いいの?」
ああ、俺の頭で必死に考えて出した答えだ。
「…ありがとう、キョン…」ハルヒもまた僅かに震えていた。
「あたしを…選んでくれて…」そう言うとハルヒは俺の背中に両手を回してきた。
俺もハルヒを抱きしめた。これが俺の選んだ答えだった。

ああ、そうだ。俺のほうはまだ言ってなかったな。
「え?」ハルヒが顔を上げて俺の顔を見る。今更だが改めてみるとすごく可愛い。
俺も…ハルヒが好きだ。これからもずっと一緒にいてほしいって思ってる。
「うん…当たり前じゃない…」ハルヒの目が輝いている様に見えた。
ハルヒが好きだと改めて思って見るとそれは別人のような輝きを放っている。
正直、可愛さのあまりにせっかく取り戻した冷静さがまたどっかに行きそうだ。
「ねぇ、キョン」
ん?どうした?
「あたしの事好きだって言う…証を見せて…?」
そういって上目遣いのまま顔を近づけてくる。なんだって?まさかここであの時のような事をしろって?
いくらなんでもそれは話が早いんじゃないのか?
しかし俺の目の前にいる美少女がこれまでにない表情で俺を見てるという事実の前に戸惑いは消えていた。
俺はゆっくりと目を閉じて―――ハルヒと唇を重ねた。
どのくらいの時間そうしていたのかはわからない。長いのか短いのかも感覚が無くなっている感じだ。
ハルヒは唇を離すといつもの笑顔に戻っていた。
「それじゃあキョン!部室に行きましょ!」
そういって強引に俺の手を引っ張る。いつもの元気いっぱいなハルヒだ。さっきまでの可愛らしさはどこにいったのやら。
しかし元気なハルヒが一番ハルヒらしいのは事実だよな。俺はそのハルヒが好きでハルヒを選んだんだ。
「あたしを退屈させたら……………」
「死刑だから!」
そういったハルヒの笑顔は今までのどんな表情よりも輝いていた。

今なら思う。ハルヒが神だという古泉の説も間違いではないのかも知れないと。
あの時のハルヒの笑顔が放っていた輝きは、宇宙の誕生の瞬間をイメージできるほどに強いものだと思えたからだ。
あの笑顔なら本当に世界を創れるかもな。そんな事を思いながら今日もまた学校に向かう。
ハルヒと手を繋ぎながら―――

FIN...
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