さて、静かな時間が進んだのは、翌日の朝までだ。どうやら嵐の前の静けさって奴だったらしい。
日が昇るぐらいの時刻、前線基地の北1キロの辺りを警戒中だった小隊が数十両に上る車両に乗った敵が
南下してきていたのを発見したのだ。ハルヒと一緒にいた俺は小隊を引き連れて迎撃に向かったのだが……
「おいドク――じゃなくて衛生兵! 負傷者だ来てくれ!」
 俺は道の真ん中で鼻血を垂らしている生徒を抱えて叫ぶ。
だが、民家の路地で敵と撃ち合っていた彼には声は届かない。幸い、近くにいた別の生徒が俺の呼びかけに気がつき、
衛生兵の生徒をこっちによこさせる。
 どこを撃たれたんだ!と叫ぶ彼に、俺は、
「足だ! それでもつれた拍子に頭から転んだ! 意識もなさそうだ!」
 彼はわかったと言い、処置を始めようとするが、なにぶん道のど真ん中だ。そんなことを敵が許してくれるわけがない。
近くの民家の二階からシェルエット野郎がひょっこり姿を現すと、俺たちめがけて乱射を始める。
足下のアスファルトに数発が命中して道路の破片が飛び散り、俺の身体に振りかかった。
「邪魔すんな!」
 俺はそいつめがけて撃ち返すと、あっさりと民家の中に引っ込んでしまう。
北山公園じゃ乱射して絶対に隠れたりしなかったくせに、ここに来てチョコマカと動くんじゃねえよ。
 何はともあれ今の内に俺たちは負傷者を抱えて道路脇まで運ぶ。しかし、ここでも悠長に治療なんてやっていたら、
そこら中から銃撃を加えられるだろう。何せ、俺たちの周りに立ち並ぶ民家のどこに敵が潜んでいるのかわからないのだ。
とにかく、学校に負傷した生徒を戻すしかない。
 俺は無線を持った生徒を呼びつけ、
「おいハルヒ! 負傷者だ! 数人つけてそっちに送り返すから、学校へ運んでくれ!」
『わかった! でも、さっき負傷者を満載したトラックを学校に返したばかりだから、ちょっと時間がかかるわよ!』

 身近にいた二人の生徒に負傷者を担ぐように指示し、ハルヒのいる前線基地へ走らせた。
仕方がない。それでもこんなところにおいておく訳にはいかないんだからな。
 負傷者を送り出した後、今度は2軒先の民家の塀の上から銃撃を受けるが、国木田が見事な腕前でそいつに弾丸を命中させる。
今じゃ、俺の小隊じゃこいつが最強の位置にいるからな。頼りにしているぞ。
 と、国木田が俺の方に振り返り、
「キョン。3人減ったから結構パワーが落ちるよ。どうする?」
 ここは前線基地から数百メートル北に位置する、住宅の密集地帯だ。ここを通り抜けられるともう前線基地の目の前に出る。
敵の侵攻を事前に察知した俺たちは、この住宅地帯で防御線を築こうとしていたんだが、
敵の動きが昨日とはまるで違うために苦戦続きだ。突撃バカみたいだったのが嘘のようで、
あっちの路地陰から銃撃を受けたと思えば、民家の屋根から手榴弾を投げつけたりしやがる。
しかも、ちょっと攻撃したらとっとと民家の海の中に消えてしまうのだ。
浴びせられる銃弾の量は昨日よりも遙かに少ないが、これは精神的にかなりきつい。
おまけに民家から民家へ器用にすり抜けていっているらしく、ハルヒのいる前線基地へも攻撃が加えられている。
もはや俺の防御線の意味がなくなりつつあった。
 俺は国木田の指摘に、しばらく頭の脳細胞の血流を加速させて、
「どのみち、ここで防御していても犠牲が増えるばかりだな。大体ハルヒの方も攻撃を受けているんじゃ、
ここにいる意味が全くない。防御線を下げてハルヒたちの方に戻るぞ」
「賛成。その方が良いと思うよ」
 国木田もいつものマイペース口調で賛成する。

 俺の小隊はじりじりと南側――前線基地へ移動させ始めるが、
「敵車両だよ!」
 国木田の叫び声とともに、路地から一両の軽トラックが現れる。普段その辺りを走っているようなタイプだが、
後ろの荷台には12.7mm機関銃搭載という凶悪な代物だ。そこにシェルエット野郎が3人乗り、
一人が12.7mm機関銃の火を噴かせ、他の二人はそれを援護するようにAKを撃ちまくる。
「撃ち返せ!」
 俺たちは一斉に民家の塀の陰に飛び込み、車両めがけて一斉に射撃を始めた。
12.7mmの銃弾が塀に直撃するたびに、コンクリートの破片が飛び散る。
こいつが人間の肌に直撃したらどうなるのか。怪我なんて言うレベルじゃねえぞ。もはや人体破裂といった方が良い。
もう3度それを目撃する羽目になったが、絶対に慣れることはないと断言する。
 しばらく銃撃戦が続くが、一人の生徒が撃ちまくっていた5.56mm機関銃MINIMIが12,7mm機関銃を乱射していた
シェルエットマンに直撃。一番の脅威が消滅したと言うことで、俺たちは前に出て残り二人も射殺した。
だが、肝心の軽トラックはとっとと逃げ出した。あれだけ銃弾を撃ち込んでぼろぼろだってのにまだ動けるとは。
さすがは日本製とでも言っておこう。
 敵が去ったのを確認すると、俺たちはまた前線基地へ向けて移動を開始した。

 
◇◇◇◇
 

「キョン! こっちよこっち!」
 前線基地前にたどり着くと、ハルヒが手を振っているのが目に入る。しかし、隣接している住宅地帯には
すでに敵が潜んでいるらしく、うかつに飛び出せば狙い撃ちされかねない状態だ。
案の定、俺たちの真上に位置する民家の窓から敵が飛び出してきて――
「やばい!」
 てっきりいつものようにAKで銃撃してくるかと思いきや、シェルエット野郎の手にはRPG7が握られていた。
真上からあれを撃ち込まれれば、ひとたまりもない!
 俺は無我夢中でM16を撃ちまくる。放った銃弾がどこかに当たったのか、発射寸前に手元が狂い
俺たちとはあさっての方向の民家の壁に直撃した。だが、やはりぶっ放した野郎はとっとと民家の中に引っ込んでしまう。
「キョン! 後ろから敵車両2! 近づいてくるよ!」
 国木田の声で振り返ると、また武装軽トラックが背後から接近中だ。もちろん、12.7mm機関銃の銃口が向けられている。
ここからじゃ、狙い撃ちにされる!
 ――その瞬間、バタバタという轟音とともに、俺たちの頭上に一機のヘリコプターが出現した。
「ようやく来たか!」
 俺の歓喜の声と同時に、UH-1からミニガンの攻撃が始まる。まず、俺たちに接近中だった車両2つが吹き飛び、
今度は住宅地帯の屋根に向かって撃ちまくった。俺たちの頭上を飛ぶたびに、ミニガンの薬莢が雨あられと降りかかり、
指先に当たったときは思わず「アチイ!」と叫んでしまう。
 しばらく掃射が続いたが、やがてそれも収まり前線基地の上空あたりでホバリングを始める。
 と、無線機を持った生徒から無線を渡された。古泉からの連絡らしい。
『やあ、どうも。敵は大体つぶしましたから、今の内に移動してください』
「恩に着るぜ。助かった」

 古泉は今小隊の指揮官からはずれて、UH-1のパイロットなんてやっていたりする。何でも本人曰く、
(何の訓練も免許もなくヘリの操縦ができるんですよ? せっかくだから操縦してみたいと思いませんか?)
 と、いつものさわやか顔でUH-1に乗り込んだ。とはいっても、学校の校庭に置かれていたものは輸送用らしく、
武装が一切ついていなかったので、学校のどこからか持ってきたミニガンを両脇キャビンに装着してあり、
それをヘリに乗った生徒が撃ちまくっている。なんだかんだで器用な野郎だ。
まあ、今の状況を仕組んだ奴から頭の中にねじ込まれた知識だろうが。
しかし、あの学校は4次元ポケットか何かか? 昨日はカレーと米が出てきて長門カレーができたが、今度はミニガンかよ。
「よし、敵の攻撃が収まっている内に戻るぞ」
 俺たちは一気に前線基地の建物内までに戻る。そこにハルヒが駆け寄ってきて、
「キョン、向こうの様子はどうだった?」
「ああ、すっかり民家に敵が入りこんじまっているな。あっちこっちで敵が飛び出してくるんで
まるでモグラ叩きだ。キリがねぇ」
「こっちもさっきから同じ状態よ。正面の民家から敵が出ては引っ込んでの繰り返し。むっかつくわ!
もっと潔く突撃してきなさいよ!」
「俺に言われても困る」
 そんなやりとりをしている間に、またガガガガとAKの銃声音が鳴り響き始めた、
だが、てっきり前線基地に向けた銃撃と思いきや、こっちには一発も飛んできていない。
代わりに前線基地上空を旋回していたUH-1があわてたように高度を上げ始める。
どうやら、ヘリが攻撃を受けているようだ。
 ハルヒは無線機を通信兵から受け取ると、
「古泉くん! 大丈夫!?」
『ええなんとか。あまり高度は下げない方が良いですね。ちょっと驚きました』
「無理しないで。有希の砲撃が使えない以上、古泉くんのヘリが頼みなんだから」
『わかりました』

 言い忘れていたが、現在長門の砲撃は自粛中だ。敵車両部隊の南下を確認した時点で、
それを阻止すべくありったけの砲弾を南下ルートの道路に撃ち込んだんだが、
調子に乗ってやりすぎたため、砲弾の残りが見えつつあるようになってしまったからだ。
こいつに関してはハルヒの指示とはいえ、俺も砲弾が無限にあると勘違いしていたことを反省すべきだろう。
しかし、ミニガンとカレーが出てくるなら、砲弾も一時間ごとに2倍に分裂するとかサービスしてくれりゃいいのに。
 と、古泉との通信を終えたハルヒが俺のヘルメットをぽかぽか叩きつつ、
「なにぼさっとしているのよ、キョン! 敵がどっかに隠れているんだから、怪しいものに向かってとにかく撃ちまくるのよ!」
「それをやったから砲弾が尽きかけているんだろうが!」
 そんなことをしている間に、前線基地正面の民家の窓からまた影野郎が出現だ。
しかも、狭い窓から3人が身を乗り出し、全員RPG7を構えて一斉発射だ。
「RPG! 隠れて!」
 ハルヒの声が飛ぶと同時に、俺たちは物陰に隠れる、一発は前線基地前の道路に、2発はそれぞれ建物の壁に直撃する。
「みんな無事!? 怪我はない!?」
 ハルヒの確認の声に、建物内の生徒たちが一斉に返事をする。どうやら、けが人はいないようだ。
俺がほっと無でをなで下ろしていると、またもやハルヒからの鉄拳パンチがヘルメットを揺るがし、
「だーかーらー! ぼさっとしていないでさっき出てきた奴に反撃しなさいよ!」
「さっきの仲間にかける優しさの1割で良いから、俺にもかけてくれよ」
 ひどい扱いだぞ、まったく。
 とはいっても腐っている場合ではない。第2射を撃とうと、同じ窓から出てきた敵めがけて撃ちまくる。
何とか、一発ぐらい当たったらしくいつものように敵がはじけ飛んで消滅した。主を失ったRPG7は、
そのまま窓から地面に落ちる。
「よくやったわキョン! ナイスショット! 学校に帰ったらみくるちゃんを――違う違う! ビールをおごってあげるわ!」
「未成年者に酒を勧めるなよ!」
 こんなやりとりをしていると、つい俺の頬がゆるんでしまうのがわかる。
なんだかんだでハルヒの威勢の良い声が今はとても気持ちよく感じているからだ。

「また来た!」
 今度は路地から2人の敵がそこら中に向けてAKを乱射し始める。それに対して、ハルヒは持っていたM14を構え、
2発発射。当然のようにシェルエット野郎2人に命中して飛散させる。大した奴だ。
「このくらいできないと指揮官は務まらないわ! 当然よ当然!」
 得意げに笑うハルヒ。昨日ほど落ち込んではいないようだな。
 ちなみに、ハルヒが持っているのは他の生徒が持っているM16A2ではなく、
どこからか引っ張り出してきたM14――しかも狙撃用にカスタマイズされたものだとか。
昨日北山公園に行ったときはM16A2だったが、途中でMINIMIに持ち替えて乱射していたらしい。
ところがこれがさっぱり敵に命中しないものだから、今では一発一発確実に命中させる方に転向している。
「下手な鉄砲も数撃ては当たる!なんて言うけどさ、あれって絶対に嘘よね。
昨日、あれだけ撃ちまくっても全然命中しなかったし。きっと弾を売っている商人が流したデマよ。
そういう連中にとってはいっぱい撃ってくれた方がどんどん売れて大もうけって寸法よ、きっと!」
 根本的にお前の使い方が間違っているんだよ。とまあ指摘してやりたかったが、胸の内にしまう。
何でかというと、今度は前線基地前の民家の屋根上に10人くらいの敵が出現して、
こっちに銃撃を始めやがったからだ。
 こっちも負けずに一斉射撃で反撃を開始するが、上からと下からでは差があるのは当然だ。
敵を一人やるまでにこっちは二人は負傷するという不利な状態だ。
「だったら、さらに上から撃てばいいのよ! 古泉くん! やっちゃってちょうだい!」
『了解しました』
 ハルヒ指令の指示通り、古泉ヘリのミニガン掃射が始まる。もう敵どころか民家の屋根ごと吹き飛ばしている威力を見ると、
頼もしいような恐ろしいような。

「敵車両がまた来たよ、キョン! 三両も!」
「しつけぇな!」
 東側を見ていた国木田から声の声に、俺は思わず出る愚痴を吐き捨てながら敵の迎撃に向かう。
先頭に一両で背後に2両が併走していた。当然どれも12.7mm機関銃付きだ。
とにかく、先頭の車両の連中をつぶそうと銃を構えるが、突然、背後の車両に乗っていた数人が
RPG7を手に立ち上がった。前の車両はおとりかよ! やられた!
 だが、向こうが発射する前に敵の先頭車両が吹っ飛ぶ。さらに、後続の一両も同じように爆発で破壊され、
残った一両だけはRPG7を発射することなく、路地に逃げ込んでいった。
「へへん、やったわ! 作戦通りね!」
 ハルヒは笑顔を浮かべながら、周りの生徒たちに向けて親指を立てる。
どうやらこっちも迎撃のために携行型のロケット弾あたりをあらかじめ用意していたらしい。
放たれたのは俺たちの隣の建物らしいので、具体的はわからないが。
 やがて、さっき逃げ出した最後の一両も古泉ヘリがとどめを刺す。この時点で敵からの攻撃は完全に収まっていた。
「……収まったのか?」
「さあ、どうかな……?」
 さっきから出ては引っ込んでの繰り返しだからな、俺とハルヒもすっかり疑心暗鬼になっちまっている。
 そのまま、1時間が過ぎたが結局なにも起きず。その間、神経張りつめっぱなしで銃を構えていたもんだから、
いい加減疲れたのかハルヒが座り込んで、
「ちょっと一休みするわ。あ、キョンはそのまま見張ってなさい」
 鬼軍曹かお前は。そのうち、後ろから撃たれるぞ。

「あとで交代してあげるから。もうちょっとがんばりなさい。SOS団の一員でしょ」
「……SOS団であるかどうかは全く関係ないんだが」
 結局、しぶしぶと俺は前方の民家に向けて警戒を続ける。しかし、敵は何でいきなり攻撃をやめたんだ?
このまま、延々と攻撃を続ければ俺たちもどんどん消耗していくだけなんだが。
「バッカバカバカね。こんなのゲリラ戦の基本じゃん。いつ攻撃を受けるかわからないあたしたちは
こうやってぴりぴりしていなきゃならないけど、向こうは数人こっちを見張っているだけで、
他はのんびり休息中ってわけよ。きっとホーチミンもそう教えていたに違いないわ」
 わかるようなわからんような……そもそも常識はずれな連中だから、休息も必要ないだろうしな。
『涼宮さん、僕の方はどうしましょうか?』
 無線で語りかけてきたのは古泉だ。そういや、さっきから延々と前線基地上空を飛んだままだったな。
ハルヒはしばらく考えてから、
「とりあえず、学校に戻って。ただし、すぐに飛べるようにしておいてね」
『了解しました』
 そう言ってUH-1が学校に帰還する。一瞬、帰ったとたんに攻撃されるんじゃないかと緊張が走ったが、
敵は動こうとはしなかった。

 
◇◇◇◇
 

 それから数時間状況は動かず、俺たちは神経を張りつめながらひたすら警戒するだけの時間が続いた。
もう正午をすぎようとしている。そういや、このあり得ない世界に放り込まれてからようやく1日半か。
一年ぐらいいるようなくらいの疲労感だが。
 この一応平穏な時間の間に、前線基地の南側に北高からトラック輸送部隊が来て弾薬やら食料を置いていった。
死者や負傷者と入れ替える予備兵も到着する。
 ハルヒはせっせと指示を出していたが、戦死した生徒や重傷者を乗せて帰って行くトラックを見送ると、
おもむろにメモを取り出してなにやら書き込み始めた。
「……なにやってんだ?」
「…………」
 俺の問いかけにも反応せずハルヒは一目散にボールペンを走らせ続ける。それも普段にないような真剣な目つきでだ。
ちらっとのぞいた限りでは名前が延々と列挙されていた。これってまさか……
「……ふう」
 ハルヒは全部書き終えたのか、パタムとメモ帳を閉じた。
そこでようやくハルヒをのぞき込むように見ていた俺に気がついたのか、
「なっなによ! なんか用!?」
 あからさまにびびったような声で抗議する。気がついたら俺とハルヒの顔の距離が30センチ未満だった。
俺もあわてて、ハルヒとの距離を取ると、
「いや……なにやってんだと聞いていたんだが」
 さっきと同じことを聞く。するとハルヒはメモ帳をぴらぴらさせながら、
「死亡した生徒と負傷した生徒の名前を書いていたのよ。指揮官たるものそう言うのは逐一把握しておくもんでしょ?
って、なによその意外そうな目つきは!」
「何にも言ってねえだろうが」
 変な疑いをかけるなよ。俺はただ単にハルヒがしっかりしているんだなと感心しただけであってだな――

 と、ハルヒは俺の抗議を無視して目をそらすと、
「でも、そんな精神論だけの話じゃないわ。昨日と併せて、死者はすでに70人を越えているし、
負傷者も50人に達したのよ。しかも、ほとんど戦えるような状態じゃない生徒ばかり。
やっと1日半だけど、すでに生徒の半数近くが戦闘不能になっているじゃ、この先どうすればいいのか……」
 そうあからさまに不安げな表情を浮かべた。ハルヒの言うとおり、確かに人員不足は否めない。
前線基地には常に50~80人は詰めているので、相対的に北高の守備隊や長門の砲撃隊、
さらに朝比奈さんの輸送や医療のチームがどんどん削減されている状態だ。
後方支援を削って前線を守っているんだからほとんど共食いに等しい。
大体、敵とこっちじゃ条件があまりにも偏りすぎているってんだ。相手は戦車や爆撃機を使ってこないとはいえ、
シェルエット野郎は無限に出現してくるし、武装トラックもどこからともなく現れやがる。
あまりにフェアじゃねえ。一方的すぎる。もてあそばれている気分だ。
 だがハルヒは首を振りながら、
「敵があたしたちの要望なんて聞いてくれる訳がないじゃない。あたしがうまくやっていないだけの話よ。
もっときちんとみんなを守っていれば……」
 そう肩を落とすハルヒ。俺は何とか励ます言葉を考えるが、どうしてもいい励ましが思いつかない。
こんな俺に果てしなく憂鬱だ。
「あーやめやめ! お腹がすいているからこんな暗いことばっかり考えるんだわ。ご飯食べてくる!」
 ハルヒは2・3回頭を振ってから、先ほど届いたばかりの缶詰の山をあさりだした。
まあ、確かに腹が減ってはなんとやらだしな。俺も食うか。
 と、このタイミングで古泉からの連絡だ。
「何の用だ?」
『やあどうも。そちらはどうですか?』
「今飯を食おうとして、寸止めを食らったせいで大変不機嫌な気分だ」

 古泉は無線機越しに苦笑しながら、
『それは失礼しました。なら後にしましょうか?』
 俺はちらりと缶詰にがっつくハルヒを確認してから、
「いや、せっかくだから今の内に話せることは話しておこうか。またいつ敵が襲ってくるかわからんしな」
 俺は飯を食うのはあきらめてハルヒの見えない位置に移動する。
「とりあえず、散々お前の援護には助けられたからな、礼を言っておくぞ」
『これはどうも。あなたから感謝の言葉をいただけるとは光栄ですね。今までの奉仕が実ったというものです』
 気色悪い表現を使うな。
『しかし、ミニガンの威力はすごいですね。辺り一面を吹き飛ばす威力にはやっているこっちがぞっとしますよ。
しかし、実際に撃っている人は気分爽快らしく、フゥハハハーハァーとか笑いながらやっていますが』
「……その勢いで俺たちまで撃たないように注意しておいてくれ」
 そんな笑い方をされると動くものすべてに撃ちまくるようになっちまいそうだ。
 古泉は俺の言葉をジョークと受け取ったのか、苦笑しながら、
『それはさておき、そちらの状況はどうですか?』
「めっきり敵の攻撃が収まっているな。ただ大方その辺りの民家には敵が潜んでいそうだ。
こっちから仕掛けたりしたら返り討ちに遭うだろうよ。癪だが、今はここで粘るしかない」
『賢明な判断だと思います。今は現状維持に努めた方が良いでしょう。何せ敵はこっちが消耗するのを狙っているようですから』
 ――ハルヒが缶詰を生徒たちに配っているのが目に入る――
「学校の方はどうなんだ? いつ攻撃を仕掛けられてもおかしくない状況だが」
『北高への攻撃はまだないと思いますよ。少なくともあなたたち――涼宮さんが学校への籠城を指示するまではですが』
「そうか? 俺たちの消耗を狙うなら、学校を攻撃して武器弾薬を使えなくした方が効果があると思うんだが」
『お忘れですか? これを仕組んだ者は涼宮さんにできるだけの苦痛を与えることです。
通常の軍事作戦なら当然学校制圧を目指すでしょう。しかし、今学校を制圧されれば僕たちは降伏する以外の道はありません。
それでは意味がないんです。涼宮さんをほどほどに絶望させつつも、世界を改変するまでには絶望させない。
じりじりと追いつめていっているんです』

「……俺たちをこんなところに放り込んだ奴は相当陰険な野郎って事だな」
 俺はいらつくながら頭をかく。
『全く同感です。しかし、学校制圧は当然この後のイベントとして考えているでしょうね。
ただ、今は前線基地で涼宮さんの精神の消耗に務めるはずです』
「イベントなんて言葉使うなよ。まるでこの戦争がただの催しみたいに聞こえるじゃねえか」
『戦争? あなたはこれが戦争だと思っているんですか?』
 俺は珍しく語気を詰め読める古泉に少し驚いた。そのまま続ける。
『これは戦争なんて言える代物ではありません。戦争にはそれなりの理由があります。
民族とか資源とか国益とか、ある時は意地やプライドなどもあります。
しかし、それを実行するには大変な労力が必要な上、多くの人々の支持が必要です。
でも、今我々がいる世界はどれも当てはまりません。戦う理由もないというのに、
無理矢理知識とやる気を頭の中にねじ込まれ戦わされている。さらにその目的が一人の少女に精神的苦痛を与えるためだけ。
こんなものは戦争なんて呼べません。頭のおかしい者が仕組んだゲームにすぎないと思っています。
だからこそ、僕は腹立たしい。こんなばかげたゲームのためにこれだけ多くの人命を費やしているんですから。
成り行きで転校してきたとはいえ、9組にはそれなりに親しい人もいました。
ですが、その大半がすでに戦死しているんです。堪えるなんて言うものではありません』
 口調だけ聞いても古泉のテンションがあがっていることがはっきりとわかった。あの全く表情を変えない古泉が。
一体、無線の向こう側ではどんな顔をしているんだろう。ふと、そんな考えが頭を過ぎる。

 しばらく、古泉は黙りこくってしまうが、やがて大きくため息をつき、
『……すみません。こんな事を言うつもりではありませんでした。僕自身も相当追いつめられているようですね。
それが敵の狙いだというのに』
「構わねえよ。むしろ本音が聞けてほっとしているくらいだ。言葉は違ったが俺もお前と同じ考えさ」
 古泉がこれだけ感情をあらわにするなんてことは今までに一度もなかった。
古泉の言うとおり、敵の狙いはそこにあるのだろう。だからこそ、たまにはガス抜きも必要だ。
 俺は話題を変えて、
「で、長門からは何か進展があったとかいう話はないのか?」
『長門さんは喜緑さんとずっと学校の教室でこもりっきりです。僕らには想像を絶するような作業を行っているのかと』
 そうか。長門はまだ突破口を見つけられていない。ならしばらくはこれが続くと見て良いだろう。
「そろそろ戻るぞ。あまり長話をしているとハルヒにどやされるからな」
『わかりました。では涼宮さんをよろしくお願いします。彼女も相当堪えているはずですから』
 そう言い残して無線を閉じた。

 
◇◇◇◇
 

「何やってたのよ。せっかくのご飯がなくなっちゃうわよ」
 まだがつがつ缶詰の肉を食いあさっているハルヒ。なんつー食欲だ。どんな胃袋しているんだ?
「食べられるときに食べておかないとね。ほらキョンも食べなさい。食欲がないなんて許さないわよ。
無理にでもカロリーを蓄えておかないと後が厳しくなるんだからね」
 ハルヒから放り投げられた缶詰を受け取ると、俺もそれを食い始めた。
冷たくて大した味もしないのにやたらと旨く感じる。
 ハルヒは細目で俺の方をにらみつけ、
「で、誰と連絡していたのよ。有希? みくるちゃん?」
「古泉だよ。というか何であいつを選択肢からはずすんだ」
「へー古泉くんとね……へーえー」
 なんだその疑惑の目つきは。言っておくが俺から連絡した訳じゃない。それに俺はれっきとしたノーマルだぞ。
朝比奈さんを見てほんわか気分になれるほどにな。
「はいはい、わかったわよ。早く食べちゃいなさい」
 しかめっ面なハルヒだが、そんな事で言われるとお袋を思い出すからやめてくれ。
 で、そのまましばらくむしゃむしゃと食べていた俺たちだが、ふとハルヒが手を止める。
「ん……どうした?」
 俺の問いかけにも答えずにハルヒはじっと怖い目つきで――
 次の瞬間、横に置いてあったM14をつかむと、前線基地前方の民家に向かって構える。
俺もあわててそれに続いてM16を取ったときにはすでにハルヒは発砲していた。
ようやく銃を構え終えたときには、シェルエット野郎がはじけ、手にしていたRPG7が地面に落ちる光景だった。
何で気がついたんだ?
「野生のカンってヤツよ! でも違うわ! あれじゃない! あと、古泉くんにヘリで援護してもらうように言って!」
 訳のわからんことをわめくハルヒ。だが、同時に前方の民家の窓という窓から敵が飛び出して、
AKの乱射をはじめた。戦闘再開だ! まったく!

 俺はひたすら窓めがけて撃ちまくったが、ハルヒはじっと構えたまま発砲しない。一体何を待っているんだ?
 と思ったら、民家の木製の壁を突き破って一台の武装トラックが出現した。さらにハルヒが待ってましたと
M14で狙撃するが……
「ミスっちゃった!」
 素っ頓狂な声を上げる。ハルヒの放った銃弾は、フロントガラスをぶち破り武装トラックに乗っていた運転手と
荷台に載っていたAKをもったシェルエット野郎一人をつぶしたが、肝心の12.7mm機関銃の射手は撃ち漏らしたからだ。
 壁からド派手に登場したトラックは今までとちょっと違った。器用にトラックの荷台の両脇に
鉄板のようなものが張り巡らせサイドからの銃撃を受けないようにされていた。
前後から攻撃するしかないが、後ろは論外、なら前面ならってそりゃ12,7mmの銃口を向けられているって事だろうが!
ハルヒのミスったっていうのは、12.7mm射手を一番最初に仕留められなかったことを言っているのだろう。
ものすごい勢いで乱射され、こっちは建物の陰に隠れて身動きすらとれねえ。
こんなんじゃ、そのうち誰かに当たるぞ……と思った瞬間、移動しようとしていた生徒の脇腹を直撃――いや貫通した。
肉がさけるいやな音とともに、生徒の背後に血しぶきがぶちまけられる。くそ、この調子じゃ古泉が来る前に死者多数だ。
 ハルヒは必死に地面にはいつくばりながら、撃たれた生徒に近づき、
「暴れないで! 傷口が広がるからじっとしてなさい! 衛生兵! 早く来て!」
 何が起きたのかわからない状態になっている負傷した生徒を必死になだめる。
ちくしょう、このままじゃただ的にされるだけじゃねえか!
 ハルヒはやっていた衛生兵に負傷者を任せると俺の元に戻ってきて、
「このままじゃらちがあかないわ! とにかく、向こうの弾に当たらないように、牽制するの!
あの車両のヤツの弾切れが狙い時だわ! あたしがきっちりと仕留めるから援護して!」
「わかった! てか、さっき使ったロケット弾みたいな奴はないのかよ! あれで吹っ飛ばした方が早いだろ!
ないのか!?」
「さっきので打ち止めよ! みくるちゃんたちに探させているけどまだ見つからないって!」
「肝心なときに役にたたねえ4次元ポケット学校だな。わかった援護する!」

 俺はハルヒとの意識あわせを終えると、近くにいた国木田を呼びつけ、
「あの野郎が弾切れを起こさせるように、牽制するぞ! 援護してくれ!」
「了解! 任せて!」
 俺と国木田は交互に物陰から出ては、武装トラックに向けて発砲した。最初は狙い撃ってやろうかと思ったが、
目があったとたんに射殺されるシーンが脳裏に過ぎったので、とにかく何でも良いから乱射しまくった。
 数分間この撃ち合いが続いたが、ようやく向こうが弾切れだ。給弾をはじめようとしたタイミングで、
ハルヒが身を乗り出して狙撃しようとしたが――
「うへっ!?」
 ハルヒの素っ頓狂な声が上がる。俺もあげた。当然だ。突然あり得ない動きで荷台左側の鉄板がぐるっと回って、
12.7mmの射手を覆い隠したからだ。おいレフリー! 今のはどう見ても反則だろ!
「あたしが出て仕留める!」
 俺が考えるよりも早くハルヒがM14を片手に飛び出した。おいバカやめろハルヒ!と口に出す暇もない。
 ハルヒは鉄板がなくなった左側から回り込み、数発発射して12.7mmの射手を仕留めた。
早く戻ってこい――げ!
「ハルヒ! 東側からRPGだ! 伏せろ!」
 いつのまにやら発射されていたRPGがハルヒめがけて飛んできた。ハルヒは飛び込むように地面に伏せる。
その瞬間、ハルヒのすぐ手前の地面にRPGが直撃。衝撃でハルヒの身体が俺たちの方に転がってきた。
俺は全身から血の気が引く音をはっきりと聞いてしまう。
「ハルヒっ!」
 もう頭よりも身体が先に動いた、銃弾が飛び交っているのにも構わず、俺は路上に飛び出して
倒れて動かないハルヒを物陰に引きずり込もうとする。だが、敵もそれを阻止すべく、路地の陰、民家の屋根や窓から
俺たちに向け銃撃を開始する。しかし、ようやく到着した古泉のUH-1がミニガンの掃射を開始し、
何とか被弾せずにハルヒを物陰に引きずり込んだ。

「おおい! ハルヒ! しっかりしろよ! 目を開けろ!」
 俺は自分でもわかるほどに泣き出しそうな声でハルヒに呼びかける。すると、ハルヒは突然ぱっちりと目を開けて、
「あーびっくりした!」
 驚きの声を上げた。俺は安堵のあまり全身の力が抜け、
「よかった……無事なんだな。心配させやがって!」
「なに!? さっきから頭の中で除夜の鐘がぐわんぐわん鳴り響いて全然聞こえないんだけど!
もっとはっきり大声で言いなさいよ! 聞こえないじゃない!」
 至近距離で爆音を浴びたせいだろうか、どうやら耳がおかしくなっているらしい。
 俺はまた銃を握ると、
「そんだけ元気があれば十分だって言ったんだよ!」
「やっと聞こえてきた――ってあったりまえでしょ!」
 怒鳴り返すハルヒを見る限り、全然無事だなこりゃ。
 俺たちは国木田のいた位置まで戻り、また敵に向けて応戦を再開した。しかし、俺たちのちまちました援護なんかより、
古泉のミニガンの方が手っ取り早い。あっという間に民家を破壊しつくして敵を黙らせる。
「よっし、何とか押さえられそうね! 古泉くん様々だわ! これが終わったらSOS団団長代理にまで昇格させようっと」
 こんな時までSOS団のことを考えてられるとは大した精神力だ。いや、ひょっとしたら今のハルヒにとって
この非常識世界で唯一現実とつなぎあわせを求めているのがSOS団なのかもしれないが。
 だが、そんな俺たちの安心感も、前線基地とされるサンハイツの最西端の建物が吹っ飛ばされたと同時に消滅する。
かつてない大爆発で、大地震が起こったんじゃないかと思うほどに地面と建物を揺るがした。

「な、なによなになに!?」
 驚きのあまり路上に飛び出しそうになるハルヒを俺が止める。しかし、何だってんだ今の爆発は!
今までの比じゃねえぞ!
 古泉のUH-1が状況を確認しに西側に移動する。しばらくして無線連絡が入り、
『まずいですね。原因はわかりませんが西側が木っ端みじんです。かなりの負傷者も出ています。早く救出を』
 手短に古泉からの報告を終える。俺はハルヒの元に駆け寄り、
「ハルヒ。とりあえず、俺が西側に行って防御に入る。何人か借りていくぞ、いいな?」
「…………」
 ハルヒはしばらく口をへの字にしたまま黙って俺をにらみつけていたが、やがてそっぽを向いて、
「……わ、わかったわよ。でも無理はしないでよ! いいわね!」
 ハルヒの許可が下りたので、周辺にいた生徒9名+国木田を集める。
「よし、今から西側に移動するぞ。前線基地の裏側を通ってな」
「了解」
 国木田と他生徒の同意の下、俺たちは西側へ移動を開始した。

 
◇◇◇◇
 

『気をつけてください。北側に広がる空き地には敵が多数潜んでいるようです』
「よし、すまんが空き地の敵を掃討してくれ。それが終わり次第、負傷者の救出に入る」
『わかりました。任せてください』
 俺たちは今前線基地の西側にいる。ただし、正面――北側には敵方数潜んでいるので、
前線基地の裏である南側で待機中だ。
 最西端の建物は木っ端みじんといっても良いほどに崩れていた。辺りにはここを守っていた生徒の破片――そうだ、
人間の破片ががれきに混じって散らばっている。あまりの凄惨さに吐き気を催しそうになった。
 ドルルルルルと耳につく発射音なのか回転音なのかわからない騒音が辺りに響きはじめる。
古泉のミニガンが炸裂をはじめたようだ。
「よし、俺たちも表側に出るぞ」
 俺の合図とともに、粉砕されたがれきを乗り越えつつ建物の残骸に身を潜める。
 ハルヒのいた前線基地の中間付近とは違い、西側の正面には民家はなく空き地が広がっている。
起伏がそこそこあるために、その陰に敵が潜んでいるようだが、現在古泉がそれを掃討中だ。
起伏に隠れても真上からではいくら隠れても無駄だからな。
 俺が残骸の陰から外をのぞこうとしたとき――目に入ったのは、空き地と民家の壁にぴたりと隠れるようにいた
武装トラックだ! しかも、こっちが来るのを待ちかまえていたように12.7mm機関銃を向けていやがる!
 とっさに頭を引いたとたん、ドドドと12.7mmの乱射が始まった。民家の残骸をさらに細かく粉砕していく。
さらに間髪入れずにRPG7が発射され、残っていた壁の一部が吹っ飛ばされた。
幸いそこには味方の生徒はいなかったが。
「手榴弾だ! 国木田頼む!」
「任せて!」
 国木田が思いっきり腕を振って武装トラックに手榴弾を投げつけ、俺もそれに合わせる。
距離が遠いため武装トラックまでは届かなかったが、近距離での爆発にとまどったのか、
一瞬12.7mmの銃口があさっての方に向いた。

「撃て撃て!」
 俺の指示で、一斉射撃による反撃開始だ。M16やら5.56mm機関銃MINIMIが一斉に火を噴き、
武装トラックを穴だらけにする。しかし、肝心の12.7mmの射手には当たらずまた銃口がこっちに向けられようとした瞬間、
トラックごと粉砕された。古泉ヘリのミニガンが炸裂したのだ。
『すみません。死角になっていたので気がつきませんでした』
「頼むぜ。お前だけが頼りなんだからな」
 古泉に無線で釘を刺すと、俺たちはそこら中に転がっている負傷者の救助を始めた。
しかし、あれだけミニガンで掃射したってのに、まだ空き地からちょろちょろと銃撃してくる奴がいやがるおかげで、
容易には行かない。
「国木田! あとそこの4人! 物陰に隠れながら、俺たちを援護しろ! 敵が見えたら遠慮なく撃ち返せ!
他は負傷者を救助するんだ!」
 俺たち救助チームは路上にかけだして、負傷者の回収を開始する。しかし、人間としての原型をとどめている方が
少ない状態だ。しかし、それでも虫の息ながらまだ生存している生徒も何人かいた。
俺はそいつらを担ぎ上げて、民家の残骸の陰に引き込む。
 そんな調子で息のある生徒を5人ほど救出できた――いや、まだ戦場のど真ん中だから救出という表現はおかしいか。
 古泉ヘリがまたミニガンで掃射を開始した。見ると、空き地の向こう側から数十人の敵が接近しつつある。
それを迎え撃っているようだが……
「キョンあれ見て!」
 国木田が俺の肩を叩き、近くの民家の屋根の上を指さす。そこには3人のシェルエット野郎が
UH-1に向けてRPGを構えるとしていた。あれでヘリを攻撃する気か!?
しかも古泉のヘリはそいつらにちょうど背を向けるような状態になっていて気がついてねえ!
 俺は奴らに向けて銃撃を加えるように指示する一方、古泉に無線をつなぐ。
「おい古泉! 東側の民家の上でお前を狙っている奴がいるぞ!」
『む。それはまずいですね……』

 こっちから必死に撃ちまくって阻止しようとするものの、距離が遠いために当たりそうにもない。
もう弾頭を空に向けて今にも発射しそうだ。どうする? 古泉に逃げろと言うか? いや、もう間に合わない……
「古泉! そこから90度左に旋回してミニガンで吹っ飛ばせ!」
『……そうしましょうか!』
 古泉はくるっと機体を90度旋回させる。ちょうどミニガンの目の前に敵があわれる形になり、
一気に掃射を開始する。即座にシェルエット野郎3人を吹っ飛ばしたが、時すでに遅し。
三発のRPGが古泉ヘリに向かって発射された――が、奇跡的にといっても良いだろう。
かろうじて機体を外れてどこかに飛んでいった。
「ぎりぎりかよ……あれを連発されるとまずいんじゃないか?」
『ええ、これでは掃射を行うにも高度をあげる必要がありますね。当然、命中率も下がるので、
無駄弾が増えそうですよ』
 古泉はそう言い終えると、UH-1の高度をぐっと上げていった。それで勢いづいたのか、
敵がまた空き地にどんどん入り込んで来やがった。
 しばらく、空き地側の敵と俺たちで銃撃戦が続いたが、突然背後でまた大爆発の轟音が鳴り響く。
って、何で背後から聞こえてるんだ!? まさか、また北高へのロケット弾とかでの直接攻撃か!?
 俺は無線で学校に連絡を取ろうとするが、向こうはパニックに出もなっているのか、誰も応答しようとしない。
迫る敵に反撃しつつ必死に呼びかけを続けたが、やがて無線機から聞き覚えのある声が流れてきた。
『聞こえる?』
「長門か!? 何かあったのか!?」
『……学校と前線基地をつないでいた橋が爆破された。現在、そっちとは断絶状態』
 俺は長門からの報告に絶句する。北高と前線基地の間には一本の小さな川が流れている。
歩いてわたるにはどうって事ないものだが、荷物を持って移動するには一苦労するだろうし、
溝のような構造になっているため、トラックでわたるのは不可能だ。それを唯一つないでいた橋が爆破された。つまり――
『こちらから物資などの補給を送るのはほぼ無理になった。このままではそちらの弾薬が尽きるのを待つだけ』

「…………」
 途方に暮れてしまう。他にルートはないのか? 光陽園学院前に川を渡る橋はあるが、
敵もわざわざ橋を爆破したぐらいだ。そっちからも通れないように何らかの手を打っているだろう。
どうすりゃいい? どうすりゃ――
『何とかしたい』
 そう言い放ったのは長門だ。いつもなら、頼もしい言葉に聞こえるが今の状況じゃ……
『何とかする。約束する』
 長門はそれだけ言い残すと無線を終了させた。ちっ、何だかわからんが、今は長門に期待するしかないのか!?
 また空き地側からの銃撃が活発になる。俺も反撃に加わって近づく敵を片っ端から銃撃した。
だが、無駄弾は撃てない。何しろ今手持ちの弾がなくなれば、もう何もできなくなってしまうからだ。
 敵が増えてきたタイミングで、古泉ヘリからの掃射が始まる。空から学校に戻れるUH-1ならいくら撃っても
補給に戻れるからな。ガンガン撃ち込んでくれ!
 古泉ヘリの掃射の間、俺は周りの生徒に発砲を控えるように指示する。とにかく節約だ。
さっきまで遠慮なく撃ちまくっていたのが懐かしいぜ。
 この間に国木田が近づいてきて、
「キョン。このままだといずれはやられるのが保証済みだよ」
「わかっているが……だからとって負傷者を見捨てるわけにもいかねえだろ」
 俺はちらりと振り返ると、あの大爆発で虫の息にされた生徒たちの方を見る。
呼吸を続けているところを見るとまだまだ生きながらえるはずだ。何としても助けてやりたい。
 だがどうする? どうすればいい?
「とにかく徹底抗戦。後は何かが起きるのを待つ。それで良いんじゃない?」
 いつものマイペース口調で国木田が言う。全くのんきな奴だ。だが、それしかないか。

 
◇◇◇◇
 

 最西端の防御に入ってから1時間。俺たちはえんえんと北側の空き地から接近してくる敵を撃ち続けた。
その間、何も起きていない。長門からの連絡もない。たまに古泉ヘリが掃射で支援してくれるだけだ。
この間に生徒二人が射殺されていた。残りは9人。だんだん厳しくなりつつある。
「くそ、いつまでこれを続けてりゃいいだよ……」
「指揮官が弱音を吐くと周りに伝染するよ」
 国木田はこんな状況でも自分のペースを崩さずに敵めがけて撃ち続けている。
だが、時間が過ぎたことによって一つの問題も発生していた。
『ちょっと悪い知らせです』
 古泉から深刻な報告が来やがった。大体想像はつくが。
『ミニガンの残弾が10%を切りました。もう少ししたら学校に補給に戻らなければなりません』
 今の状態では古泉の支援がなくなると言うことは、しゃれにならん。
俺は周りの生徒たちに残弾の報告をさせると、マガジン一つ分だけとか、今装填している分だけなんて返ってきているほどだ。
ヘリが去ったとたんに敵は一斉攻撃を仕掛けてくるだろうし、俺たちにそれを迎撃するだけの弾もない。
しかし、このまま上空を飛ばしているだけでは全く意味がないのだ。
『選択肢は二つあります。このまま支援を続けて、なくなり次第学校に補給に戻る。
これはタイミング次第では最悪な展開になるかもしれません。
逆に今の内に敵を徹底的にたたいてから補給に行き、すぐにこっちに戻るという方法もありますが……』
「補給に戻ったとして、何分で俺たちの支援に復帰できる?」
 俺の問いかけに、古泉はしばし思案して、
『20分……いや、15分で戻ってみせます』
 15分か。なら耐えられるかもしれないな。その後は、またそのときに考えればいい。
「よし、古泉。今あるだけの弾を敵にぶち込んでくれ。終わり次第、即刻補給して戻ってこい。
その間は何とか耐えてみせるさ」
『わかりました。健闘を祈ります』

 古泉のUH-1が高度をやや下げ一気にミニガン掃射を開始する。俺たちは近づいてくる敵以外には
発砲を控え終わるのをじっと待った。
 やがてミニガンを撃ち尽くした古泉ヘリは、学校側へ方向転換し、
『終わりです。すぐ戻りますので、その間はお願いします』
 そう言い残して学校に戻った。俺は生徒全員を見回し、
「よし、古泉が戻るまで何としてでもここを守りきるぞ! 残弾には気をつけろよ!」
 檄を飛ばしてまた――その瞬間、俺の右手にいた二人の生徒が崩れ落ちる。射殺されたのだ。
ヘリがいなくなったとたんに二人!? しかも、衛生兵と通信兵だ。よりによって……!
 同時にこちら側に浴びせられる銃弾の量が突然増大した。民家の残骸の陰から空き地の様子をうかがうと、
まるでさっきのヘリからの掃射がなかったかのようにシェルエット野郎がこちらに向けて移動してきていた。
一番近い敵はすでに前線基地建物前の路上のすぐそばまで来ている。もうここから10メートルもない距離だ。
いつの間にここまで来やがったんだ!?
 俺は必死に敵を追い払おうと撃ちまくったが、すぐに弾切れを起こしてしまう。
あわてて懐から新しいマガジンを取り出し銃に装填する――これが俺の最後の命綱だ。
 かなり至近距離での撃ち合いになったおかげで、こっちは物陰から敵の様子をうかがうことすら
難しくなってきた。
 ふっと、俺の目線に中を浮く黒い物体が目に入る。柄のついたそれは、俺から少し離れた残骸の陰で
敵と撃ち合っていた4人の生徒たちの足下に落ちた――手榴弾だ!
 バァンと破裂音が響き、彼らが吹っ飛ぶ。ぼろぞうきんのようにされた彼らは力なくよろけ、地面に倒れ込んだ。
 俺は唖然として腕時計で時刻を確認する。まだ古泉が補給に戻ってきてから1分半しか立っていない。
そのわずかな時間で6人がやられた。残りは俺と国木田と後一人――残りの生徒も今銃弾が頭に命中してやられちまった。
ついに俺と国木田の二人だけだ。
 国木田はすぐに手榴弾で倒れた生徒たちを救助しようと――と思ったら、息も絶え絶えの彼らを放って、
マガジンやら銃を回収し始めた。俺は反発心と納得が両方とも頭に埋まり、複雑な気分になる。

「ひどいことをしているように見えるかもしれないけど、今は生き残る方が重要だよ。
そのためには使えるものは徹底的に使わないとね」
 いつもより少し真剣なまなざしを向ける国木田。そうだな、今俺たちが死んだら、負傷者生徒たちも死ぬことになるんだ。
善意だとか道徳心だとかは乗り切った後で考えればいい。
 俺は国木田からマガジンを受け取り銃撃戦を続行する。国木田の的確な射撃のおかげか、
敵が路上を越えることだけは阻止続けた。
 ふと、もう1時間は過ぎたんじゃないかと腕時計で時刻を確認すると、まだ古泉が戻ってから8分しか経っていない。
こんな時ばっかり時間が遅くなりやがって!
 国木田がマガジンを交換しつつ叫ぶ。
「キョン! これで最後だよ!」
 これが国木田の最期の言葉だった。ガガガガとAKが炸裂する音が響いたとたん国木田の身体が崩れ落ちる。
弾丸が顔面に命中したのだ。
「国木田っ!くそっ!」
 俺は声をかけるものの、額を撃ち抜かれた国木田はぴくりとも動かない。完全に即死状態だった。
路上を越えようとしていたシェルエット野郎2人を撃ち殺し、すでに息絶えている通信兵から無線を取り出す。
「……ハルヒ聞こえるか?」
『どうしたの!? 何かあった!?』
 ――また接近してきた敵を撃ち殺し――
「国木田がやられた。もう残っているのは俺一人だ」
『……うそ』
 唖然とした声を上げるハルヒ。
「何とかできるところまでは粘るつもりだ。もうすぐ古泉が戻ってくるだろうしな。それまではなんとか――」
『キョン!』

 せっぱ詰まった声を上げるハルヒ。
『いい!? これは絶対命令よ。拒否なんて許さない。今すぐに川を渡って学校に戻りなさい。
そこをこれ以上守る必要なんてないわ。あの川なら徒歩でも何とか越えられる! だから戻りなさい!
そこで出た犠牲の責任は全部あたしが背負うから! だから逃げて! お願い!』
「できるわけねえだろうが、そんなことっ!」
 思わず怒鳴りつけてしまう。俺は額を抑えて――また敵がやってきたので撃ち返して追い払う――
「ここには俺が行くって言ったんだ。それで仲間がついてきてくれた。なのに、その仲間がみんな死んでいるってのに、
俺だけおめおめと逃げ出すなんて絶対に拒否するぞ! 絶対にここから動かないからな!」
『キョン……キョン……!』
 ハルヒは悲痛な声で俺のあだ名を呼び続けるだけ。見れば、数十人にふくれあがったシェルエット野郎が次々に
こちらに突撃を始めていた。
「ハルヒ。俺からの頼みだ、聞いてくれ」
 俺は息を吸い込んでありったけの思いを込めて言う。
「死ぬな。絶対にだ!」
 そして、ハルヒからの返答も聞かずに俺は無線機を投げ捨て、路上を越えて突撃してきたシェルエット野郎数人に向けて
乱射する。不意を食らったのか、あっさりと命中していつものようにはじけ飛んだ。だが、続々と後続が接近してくる。
 俺はとにかく無我夢中に撃ち続けた。弾が尽きればマガジンを交換し、それもなくなれば別の生徒が持っていた
M16に持ち代える。路上を越えてくる敵は、昨日の北山公園の時と同じく突撃バカみたいにつっこんでくるだけだった。
残骸の破片が銃弾を受けて飛び散り、俺の頬を傷つけたがもはや痛みすら感じている暇もなかった。
 乱戦の中、自分自身をほめてやりたくなるぐらいに粘っているが、弾は減る一方だ。
ついに今握っているM16が最後となる。これを撃ち尽くせば、俺も終わりだ。手を挙げて降伏しても、
助けてくれそうな敵でもないしな。

 また一発また一発と撃ち、敵を打ち倒す。それがついに最後の一発となった瞬間――
「うっ!?」
 最後の一発は発射されなかった。数え間違えていたらしい。敵を真正面にしながら残弾ゼロ。
もう敵はAKをこちらに向けて構えている……
 ……終わりか。また学校の部室でハルヒやSOS団の連中と会えれば良いんだが……
 呆然と放心状態に陥りかけていた俺を現実に引き戻したのは、突然目の前に現れたトラックだ。
北高と前線基地に物資を輸送していた大型のトラック。だが――橋が爆破されたって言うのに、
どうしてここにいる?
 荷台には武装した生徒たちが乗り込み、空き地から突撃してきていたシェルエット野郎に向けて一斉射撃を始めていた。
同時に上空に古泉ヘリが舞い戻りミニガンの掃射を開始する。
「……助かった……のか?」
「ええもちろん」
 呆然とつぶやく俺に言葉を返したのは、トラックの運転席に座っていた喜緑さんだった。昨日見たときとは違い、
セーラー服ではなく、迷彩服に身を包んでいる。
「遅れてすみません。なかなか手こずりました」
「えと……あの、どうやってここに?」
 死んだと思ったが、突然現世に復帰したもんだからどうも違和感が抜けない俺。言葉遣いもたどたどしくなっているのが、
自分でもよくわかった。

 喜緑さんはいつものにこやかな笑顔を浮かべつつ、
「橋は修復しました。長門さんの努力のたまものです」
「長門が……ってまさか情報ナントカができるようになったのか!?」
 俺は歓喜の声を上げそうになるが、残念ながら喜緑さんは否定するように首を振り、
「それはまだです。3つほどの突破口を見つけましたが、そのうち一つを犠牲にして、
橋の修復を行いました。貴重な手段なので、安易に使うのはどうかと思いましたけど、
長門さんにとってあなたを救出できるようにすることが最優先だったようですね」
 そうにこやかに喜緑さん。長門……本当に何とかしちまいやがった。すごすぎるよ。
「さて、ここは学校からの予備人員で守ります。今の内に遺体と負傷者をトラックに乗せてください。
それとあなたも。総指揮官からの絶対命令のようですので」
 さっきからトラック据え付けの無線機からキーキー聞こえてくるのはハルヒの声か。
どうやら俺に学校に帰れ!と叫んでいるらしい。
 ふと、トラックの荷台に載っていた生徒たちの射撃が収まる。空き地方面を見てみると、
敵が後退していくのが見えた。なんだ? どうしてこのタイミングで逃げ出す?
「おそらく予期せぬ情報改変に敵が混乱しているのでしょう」
 にこやかに喜緑さんが解説してくれる。何はともあれ、今がチャンスだろう。とっとと負傷者を回収しなけりゃな。

 
◇◇◇◇
 

「本当に戻るんですか? 命令違反ですが」
 負傷者と遺体を載せたトラックが北高へ向けて戻っていく。喜緑さんは最後にそう言っていたが、
俺はハルヒの方に戻ると言って、学校への帰還を拒否した。なあに、命令違反なら今までも散々やっているいまさらだ。
大体、ハルヒも長門も古泉もたぶん朝比奈さんもみんな必死なのに、俺だけ学校に引っ込んでいられるわけもない。
 で、ハルヒのところまで戻ると予想通りの反応を見せてくれた。
「あーんーたーはー! 一体どれだけ命令違反を犯せば気が済むわけ!? 逃げろって言っているのに拒否するわ、
学校の守備に行けって言ったらこっちに戻ってくるし! 総大将の命令をなんだと思っているのよ!」
 とまあものすごい剣幕で胸ぐらをつかみあげられた。一体どんな腕力をしているんだこいつは。
 俺はあたふたと説明しようとするが、胸ぐらをつかみあげられてまともに口がきけるわけもなく、
ただ口をぱくぱくされるぐらいしかできない。ハルヒはひたすらガミガミ怒鳴っていたが、
やがて言いたいことも尽きたのか、俺から手を離し、
「……とにかく! 今後はあたしの命令に従うこと良いわね! 仕方ないから、ここにいてもいいけどさ。
これからはあたしのサポートをしてもらうわよ。どんなときでもあたしのそばにいなさい! 絶対絶対命令だからね!」
 そう言ってぷんぷんしながら去っていった――ってどこに行くんだあいつは。
 しかし、よくもまあ乗り切ったものだと自分で自分に感心する。普段の俺なら絶対に精神的におかしくなっていただろうが、
これも仕組んだ奴が頭をいじくったせいということにしておこう。だが。
 俺はふとハルヒの背中を見る。長門と古泉の予測ではハルヒは何の人格調整も受けていないと言っていた。
なら、あいつは普段の精神状態のままこの地獄のような世界で指揮官なんて言う役割を演じている。
その両肩にかかっている重圧や責任感はどれだけのものなのだろうか。
 そして、ハルヒは一体どんな思いでそれを背負っているのだろう。俺はハルヒの背中を見ながらそんなことを思った。

 

 

 

 ~~その6へ~~


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