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「おかえりなさいませ、ご主人様」
 夕焼けで学校が赤く染まる頃、学校にようやくたどり着いた俺を待っていたのは、変態野郎からの気色悪い発言だった。
あまりの不気味さに、俺はその言葉を発した古泉に銃を向けたぐらいだ。
 古泉は困った顔を浮かべて両手をあげて、
「失礼しました。いろいろつらい目にあったようですから、癒しを提供して差し上げようかと思っただけです」
「癒されるどころか、殺意が生まれたぞ」
 俺はあきれた口調で、銃をおろす。まあ、本気で撃つつもりもなかったけどな。どうせなら朝比奈さんを連れて……う。
 あの後、俺たちは北山公園を南下して無人の光陽園学院に入ったが、敵に動きが悟られないように、
そのまま数時間そこで待機していた。もちろんハルヒには連絡を入れておいたが。
 俺はしばらく学校内を見回していたが、古泉が勝手に解説を始める。
「北高の方はほとんど無傷ですね。敵歩兵の襲撃もありません。涼宮さんに作戦失敗を印象づけるには、
北山公園に僕らが入ったのと同時に学校を襲うのがもっとも効果的だと思いますが、
どうして敵はその手を使わなかったんでしょうか。僕が相手の立場なら必ずそのようにしますがね。
ま、大体察しはつきますが」
「しらねえし、今はそんなことを考える気分でもないな」
 古泉を無視しつつ、俺は学校内を歩き回る。どこにいるんだ?
 ふと、俺の目に学校の隅に並べられている黒い物体が目に入った。見るのもいやになるその形状は、
明らかに死体袋だった。あの中に谷口も入れられているのだろうか。
「死者52名、負傷者13名。これが北山公園攻略作戦で出て犠牲です。
死者よりも負傷者が少ないという事態が、今の我々の力のなさの現われかもしれません」
 やや声のトーンを起こした古泉が言う。俺の小隊も合計16人の命が失われた。
鶴屋さん小隊なんて生き残った方が少ないし、ハルヒや古泉の小隊の損害もかなりあるはずだ。

 と、そこでスマイル野郎が重苦しくなった空気を変えるようにわざとらしくぽんと手を叩き、
「ああ、なるほど。涼宮さんを探しているのですね。それなら、前線基地に詰めていますから、学校にはいませんよ」
「なんだと?」
 古泉に向けた俺の表情は、鏡がないんだから確認しようがないんだが、どうやら抗議めいたものだったらしい。
めずらしくあわてたように、
「いえいえ、僕はきちんと止めましたよ。いつもとは違い、かなり食い下がったつもりです。
涼宮さんと言い争い一歩手前までいくなんて初めてでしたからね。閉鎖空間が発生しないかヒヤヒヤものでした。
しかし、どうやってもあそこにいると言い張りまして。ああなったら、てこでも動かないことは
あなたもよくご存じでしょう?」
 しかし、何でまた前線基地にいるんだ? 敵の襲撃が予想されるのはわかるが、
総大将がいる必要もないだろうに。
「何となく予想がつきますけどね」
 古泉はくくと苦笑し、
「涼宮さんはあなたの帰還を学校でただ待っているなんてしたくなかったんですよ。
ぼーっとしているといろいろ悪いことを考えたりしますからね。何かして気を紛らわせたかったんでしょう。
あとは……」
 古泉がちらりと背後を見る。そこには朝比奈さんが相変わらずのナース姿でこちらに走ってきていた。
「鶴屋さんのことを直接言いたくなかったんではないでしょうか。これはあくまでも僕の推測ですけどね」
「キョンく~ん!」
 息を切らせて走ってくる朝比奈さんに、俺は激しく逃げ出したい衝動に駆られた。こんな気分は初めてだ。
「よかった……無事だったんですね……!」
 感激の涙を浮かべる朝比奈さんに、俺の心臓はきりきりと痛んでしまった。この後、確実に聞かれるんだ。
鶴屋さんのことについて。

「本当に心配したんですよぉ……。学校からはなにも見えなくて、どうなっているのか全然わかりませんでしたから」
「ええ、いろいろありましたが、無事に帰って来れてなによりです」
「あ、あと、鶴屋さんは?」
 この言葉とともに、俺は心臓がつかみ出されたのではないかと言うぐらいの痛みが全身に走った。
だが、次に朝比奈さんが言った言葉は予想外のものだった。
「古泉くんから聞いたんですけど、鶴屋さん、足を怪我してどこかの民家に隠れているんですよね?
あたしもう心配で心配で……」
 俺ははっと古泉の方を振り返ると、ウインクで返してきた。この野郎、しっかりと朝比奈さんに事前に告げておいたのか。
変なところで気が利きやがる。でも助かった。そして、つらいことをいわせちまってすまねえ。
「鶴屋さんは無事ですよ。いつものまま元気です。ただ、ちょっと動くには厳しそうなんで、
ばかげたドンパチが収まるまで隠れていた方が良いと思います。幸い、隠れ家には食料もあるらしく、
3日間隠れるには十分だそうですよ」
「無線とかではなせないんですか? あたし、鶴屋さんの声が聞きたくて」
 俺はぐっとうなりそうになったが、ぎりぎりで飲み込む。
「えーあー、無線ですか、あー無線なんですけど、なにぶん学校から離れたところにいる関係で、
あまり連絡できないんですよ。敵に――そう敵に傍受されて発信源を突き止められたらまずいですからね」
「そうなんですか……」
 がっくりと肩を落とす朝比奈さん。すみません、本当にすみません……!
 でも、朝比奈さんはそんな俺の大嘘を信じてくれたのか、
「仕方がないですね。みんな大変なんですから、あたしばっかりわがままは言えませんし」
「3日経てば、また会えますよ。それまでがんばりましょう」
 何とか乗り切れたか。こんな嘘は二度とつきたくねえ。
 と、朝比奈さんはいつものかわいい癒しの笑顔を浮かべて、
「あ、そういえば、皆さんご飯まだなんじゃないですか? 長門さんがカレーを作ってくれたんです。
ぜひ食べに来てください」
 神経が張りつめたままだったせいか気がつかなかった。学校中を覆うカレーのにおいに。

 
◇◇◇◇
 

「食べて」
 食糧配給所になっていた教室で待ちかまえていたのは、迷彩服の上に割烹着を着込んだ長門だった。
これだけ見ると、あの正確無比な砲撃の指揮官とは思えない。ちなみに朝比奈さんは作業があると言って、
またぱたぱたとどこかへ行ってしまった。
「すまん、もらうぞ」
「いただきましょう」
 俺は紙製の皿にのったカレーを受け取ると、がつがつとむさぼるように食いついた。
よくよく考えれば、15時間近くなにも食べていない。戦闘中は携帯していた水筒の水ぐらいしか口にできなかったからな。
「おいしいですよ、長門さん」
 こんな時まで格好つけたように、優雅にカレーを食する古泉。全くどこまで行っても余裕な奴だぜ。
しかし、長門は大丈夫なのか? 相当疲労もたまっているはずだろ。
「問題ない。身体・精神ともに異常は発生していない」
 そうか。それならいいんだが、あまり無理はするなよ。
「今のわたしにできるのはこのくらい。できることをやる。それだけ」
「でも、あきらめるのが少し早すぎるのではありませんか?」
 背後から聞こえた最後の台詞は俺でもないし、古泉でもない。どこかで聞き覚えがあるようなと思って振り返ると、
「なぜ、ここにいる」
 長門の声。トーンはいつもと変わらないが、内面からにじみ出ている感情は【驚】だとはっきりと見えた。
声の正体はあの喜緑さんだったからだ。生徒会の人間であり、また長門と同じく宇宙的超パワーによって作られた
対有機生命体インターフェース……で良かったんだよな? 北高のセーラー服を纏っているが、
やたらとそれが懐かしく見えるぜ。

「私の空間・存在把握能力で確認した限り、ここには存在していなかったはず」
「この固定空間での時間座標で10分ほど前にこちらに来ました」
 ひょうひょうと喜緑さん。ちょっと待て、最初はいなくてさっき来たと言うことは……
 長門はカレーをすくってお玉から手を離し、喜緑さんの元に駆け寄る。
「この空間に干渉する方法を有していると判断した。すぐに提供してほしい」
「残念ながら、それは無理です」
「なぜ」
「外側から必死にアクセスを試みて、本当にミクロなレベルのバグを発見することができました。
ここにはそれを利用して侵入しましたが、現在は改修されています。同じ手で、ここから出ることはできません。
思った以上にこの世界を構築した者は動きが速いです」
 喜緑さんの言葉に長門はがっくりと肩を落として――いや、実際には1ミリすら肩を動かしてもいないんだが、
俺にはそう感じた。
「不用意。打開のための機会を逃したのだから」
「すみません。外側から一体どんな世界になっていたのかわからなかったんです。
まさか、こんな得体の知れないものが構築されているとは思いもよりませんでした」
 めずらしく非難めいたことを言う長門を、あの生徒会室で見せていたにこにこ顔で受け流す。
「しかし、一つの問題からこの世界に介入することが可能だったのは紛れもない事実です。
なら、まだ別の方法が残されていると思いませんか?」
「…………」
 喜緑さんの反論じみた台詞に、長門はただ黙るだけだ。
 どのくらいたっただろうか。俺のカレー皿が空になったが、空腹感が埋まるにはほど遠くおかわりがほしいものの、
なんだか気まずい雰囲気の中でそれもできずにどうしたものかと思案し始めたくらいで、
「わかった」
 そう返事?を長門はした。さらに続ける。

「協力を要請する。この空間に関しての情報収集及び正常化を行いたいと考えている。
ただし、私一人では効率的とは言えない。状況は悪化の一途をたどっているため短時間で完了する必要がある」
「もちろんです。そのためにここに来たのですから。お互い、意志は別のところにありますが、
現在なすべき目的は一致しています。問題はありません」
 なにやら交渉がまとまったらしい。二人は食糧配給所の教室から出て行こうとする。
おいおい、こっちの仕事はどうするんだ?
「するべきことができた。そちらを優先する。現在の仕事は別の人間に変わってもらう。問題ない」
「砲撃の指揮はどうするんだ?」
「そちらは続行する。今持っている情報を精査した中では、私がもっとも的確にそれが行えると判断しているから」
 長門の言葉にほっと俺は胸をなで下ろす。あの正確無比な援護射撃がなくなったら、
正直この先やっていく自信もない。しかし、一方でこの非常識世界をぶっ壊してくれるならそうしてほしいとも思うが。
「どちらも行う。状況に応じて切り替えるつもり。その時に最も有効な手段をとる。どちらにしても」
 長門は俺の方に振り返り、
「私はあなたを守る」

 
◇◇◇◇
 

 さて、なにやら長門が頼もしい事を言ってくれたし、
少しながらこのばかげた戦争状態から脱出できる希望が見えてきたわけだが、
どのみちもうしばらくは俺自身もがんばらなければならないことは確実だ。
そのためにはいろいろとやるべきこともあるだろうが、
「台車でカレーを運搬するのを護衛するのは何か違うんじゃないか?」
「いいじゃないですか。腹が減っては戦はできぬというでしょう。これも生き延びるためです」
 俺の誰に言ったわけでもない愚痴を、古泉がいつものスマイル顔で勝手に返信してきた。
 今俺たちは、学校から前線基地へ移動中だ。別に散歩しているわけではなく、
2台の台車に乗せたカレー満載な鍋とご飯の詰まった箱を載せて、それを護衛している。
まあ、ストレートに言うとハルヒたちに夕飯を届けている最中というわけだ。
しかし、武装した10人で護衛して運搬するカレーとは一体どれだけの価値があるんだ。
「美味しかったじゃないですか、長門さんのカレー。犠牲までは必要ありませんが、厳重・確実に
涼宮さんたちに届ける価値は十分にあると思いますよ」
「それに関しては別に否定しねえよ」
 実際にうまかったしな。腹が減っているからという理由だけではないほどに美味だったぞ。
 護衛を担当しているのは、俺と古泉、他北高生徒10名だ。とは言っても、俺と古泉の小隊の生徒はいない。
さすがに疲労の色も濃かったので、今の内に休ませている。国木田もだ。今ここにいるのは、
その辺りをほっつき歩いていた生徒をかき集めて編成している。だんだん気がついてきたが、
生徒一人一人の戦闘における能力は全く同じだ。身体能力も銃の扱いも。そのため、生徒を入れ替えても
大した違和感を感じない。
 そんな中、俺と古泉はカレー護衛隊の一番後ろを務めていた。古泉がこの位置を勧めていたのだが、
どうせ何か話したいことがあるんだろ。

「せっかくですし、お話ししたいことがあるんですが」
「……俺にとって有益なら聞いてやる」
「有益ですよ。それも命に関わる話です。ただし、内容はいささか不愉快なものになるかもしれませんが」
 気分を害するような話は有益とは言えないんじゃないか? まあ、そんなことはどうでもいいが。
 古泉は俺が黙っているのを勝手にOKと解釈したのか、いつもの解説口調で語り始める。
「まず、率直にお伺いしますが、あなたが生き残って鶴屋さんが亡くなった。この違いはなぜ起こったと思いますか?」
「俺は腰を抜かしてとっとと逃げ帰った。鶴屋さんは勇敢に戦い続けた。それだけだろ」
「言葉としては同じですが、意味合いは違うと思いますね」
 どういう意味だ。もったいぶらないでくれ。
「敵は最初からあなたと鶴屋さんが植物園まで撤退することを阻止しようとしていなかったんですよ。
だから、あなたは犠牲者は多数でましたが、意外とあっさり戻れています。
これは、敵の目的は涼宮さんに自らの決定した作戦でぼろぼろに逃げ帰ってくる生徒たちの姿を
見せつけようとしていたのではないでしょうか」
「おい待て、それだと鶴屋さんもとっとと逃げれば死ななかったって言う気かよ?」
「率直に言ってしまえば、その通りです」
 なんだかむかっ腹が立ってきたぞ。おまえは鶴屋さんの命をかけてやったことを非難するつもりなのか?
 どうやら俺の内心ボイスが表情に浮かんできていたのか、古泉はあわてて、
「いえ、別に鶴屋さんの判断が間違いだったとは言っていません。逆に、敵から主導権を奪い去ったという点では、
これ以上ないほどの英断だったと思いますね。おかげで敵は一部の作戦を変更する必要までできた」
「公園南部を散らばった鶴屋さん小隊を追いかけ回す必要ができて、さらにロケット弾発射地点を守る必要ができた。
そのくらいなら俺にだってわかる」
「それだけではありません。敵は鶴屋さんを仕留める必要に迫られたんです。
必死にあなたたちを鶴屋さんと合流させなかったのはそれが理由だと考えていますね」
「何だと?」

「敵は涼宮さんに逆らう――そこまで行かなくても反抗する人物なんていないと踏んでいたのでしょう。
見たところ、ある程度は涼宮さんとその周辺の人物の下調べも行っているようですし。
ところが真っ先に鶴屋さんは涼宮さんの指示を拒否して、自らの意志で行動した。
これはこの状況を仕組んだ者にとって脅威であると映るはずです。明らかに予定外の人物ですからね。
だから、あの場で確実に抹殺する必要に迫られた。今後の予定に影響を及ぼさないためにも」
 古泉の野郎の言うとおりだ。なんだかだんだん不愉快になってきた。有益な情報はまだか?
「今、これを仕組んだ者はこう考えているでしょう。何とか鶴屋さんは抹殺できた。
ところがどっこい、今度は別の人間が涼宮さんに反抗――それどころかある程度コントロールした。
ならば、次の標的は当然あなたですよ」
 古泉の冷静な言葉に俺はぞっとする。突然、周辺の見る目が変わり、その辺りの物陰に敵が潜んでいて、
今にも俺を狙撃しようとしているんじゃないのかという不安が頭の中に埋まり始めた。
「ご安心ください。そんなにあっさりとあなたを仕留めるつもりはないと思いますよ。
なぜなら、あなたは涼宮さんにもっとも影響を与える人物です。敵も扱いは慎重になるでしょう。
下手に傷つけて一気に世界を再構築されたら、元も子もありませんからね」
 古泉は俺に向けてウインクしてきやがった。気色悪い。
 まあ、しかし、確かに有益な情報だったよ。敵が俺を第一目標としながら、早々に手を出せない状態らしいからな。
うまく利用できるかもしれん。珍しくグッドジョブだ古泉。
「僕はいつもそれなりに良い仕事をしているつもりですよ」
 古泉の抗議じみた声を聞いた辺りで、ようやく前線基地の到着した。

 
◇◇◇◇
 

 なにやら前線基地ではあわただしいことをやってきた。窓を取り外したり、どこからか持ってきた鉄板を廊下などに
貼り付けている。ハルヒはここを要塞にでもするつもりか?
 そんな中、ハルヒはトランジスターメガホン片手に指示をとばしまくっていたが、
「くぉらあ! キョン!」
 俺の姿を見たとたんに、飛び出してきた。やれやれ、どうしてこいつはこう元気なんだろうね。だが――
「あんたね! 帰ったなら帰ったと一番にあたしに報告しなさいよ! いい? あたしは総大将にして総指揮官なの!
常に部下の状況を把握しておく必要があるってわけ! 今度報告を怠ったら懲罰房行きだからね!」
 怒っているのに、顔は微妙に笑顔というハルヒらしさ満点だ、と普通の人なら思うだろ。
でもな、付き合いが長くなってくると微妙な違いに気づいちまったりするんだ、これが。
 ハルヒは運んできた台車上のカレー鍋をのぞきこみ、
「なになに? カレー? すっごいじゃん、誰が作ったの?」
「長門だそうだ」
「へー、有希が作ってくれたんだ。じゃあ、みんなで遠慮なく食べましょう」
 ハルヒは前線基地の建物に戻ると、
『はーい! よっく聞きなさい! 何とSOS団――じゃなくて、副指揮官である有希からカレーの差し入れよ!
いったん作業を止めて休憩にしなさい!』
 威勢の良い声が飛ぶと、腹を空かした生徒たちがぞろぞろとカレー鍋に集まり始めた。
ただ、その中にハルヒはいない。
「では、僕はいったん学校に戻りますね。あとはお願いします」
 そう古泉は何か言いたげな表情だけを俺に投げつけて戻っていった。言いたいことがあるならはっきりと言えよ。
 俺は前線基地とされている建物の中に入り、
「おいハルヒ。せっかくの差し入れなのに食わないのか?」
 そう玄関口に寝っ転がっているハルヒに声をかける。

「あたしは最後で良いわ。あんなにいっぱいあるんだし、残ったのを独り占めするから。
その方がたくさん食べられそうだしね」
「そうかい」
 俺はヘルメットを取り、ハルヒの横に座る。
 じりじりと日が傾き、もう薄暗くなり始めていた。がやがやとカレー鍋に集まる生徒たちの声が建物内に響いているのに、
「静かだな……」
「そうね……」
 俺とハルヒは共通の感想を持った。
「あんなにいた敵はどこに行っちゃったのかしら。てっきりすぐにまた攻撃して来ると思ったのにさ。
ちょっとひょうしぬけしちゃったわ」
「来ないに越したことはないだろ。まあ、そんなに甘くはないだろうけどな」
 ――またしばらく沈黙――
「大体、何で連絡くれなかったのよ。いろいろ考えちゃったじゃない」
「何だ、心配してくれたのか?」
「あったりまえでしょ! 部下の身を案じるのは上官なら当然よ、トーゼン!」

 ――ここでまた会話がとぎれる。そして、もう日がほとんど降りてお互いの表情も見えなくなった頃――
「ねえ……キョン……あ、あのさ……」
「なんだ?」
「その……」
「はっきり言えよ。どもるなんて珍しいな」
 ――それからまた数分の沈黙。俺はただハルヒが話を再開するのを待ち続け――
「その……鶴屋さんなんだけどさ。なんか……言ってなかった?」
「何かって何だよ?」
「……恨み言とか」
 俺はハルヒに気づかれないように、視線だけ向けてみる。しかし、もう辺りは薄暗く、その表情は読み取れなかった。
「そんなこと言ってねえよ。また学校で会おうだってさ。いつもと同じだった――最期まで」
「そう……」
 ハルヒが俺の言葉を信じたのか信じていないのかはわからなかった。ただ、明らかに落ち込んでいるのはわかった。
いつものダウナーな雰囲気どころではない。完膚無きまで叩きのめされているような感じだ。あのハルヒが。
 それを認識したとたん、激怒な感情がわき上がる。額に手を当てて必死に我慢しないと、すぐに爆発しそうなほどだ。
あのハルヒをこんなになるまでめちゃくちゃにしやがった。絶対に許さねえ……!

 

 

 

 ~~その5へ~~

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