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 一体、何がどうなっているのか。
 この状況下を理解できている奴がいるならとっとと俺の前に来てくれ。すぐには殴らないから安心しろ。
洗いざらい聞き出してからやるけどな。理解できるのは首謀者以外ありえないからな。
『一度しか言わないので、聞き逃さないようにしてください』
 そう体育館内に聞き覚えのない声が響き渡る。
 まず、状況を説明しよう。俺たちは今体育館にいる。外は薄暗く、窓から注がれる月明かりしか体育館内を照らすものがないが、
それで体育館内の壁に立て掛けられている時計の時間がかろうじて確認できた。1時だそうだ。午後ではなく午前の。
 体育館内には北高生徒が多数いた。皆不安そうな表情を見せつつも、パニックを起こすまでには至っていない。
何でそうなる可能性を指摘しているのかと言えば、俺たちがどうしてこんな夜中に体育館にいるのかがさっぱりわからないからだ。
俺は確かベッドに潜り込んで寝たはずだ。次の瞬間、気が付いたら体育館の中と来ている。
夢遊病でも制服まで着込んでこんな遠くまでくるなんてありえないし、大体これだけの大人数が突然夢遊病に
かかって同じ場所に集結するなんて絶対にあり得ないと断言できる。ならば、これは何者かがしくんだ陰謀と見るべきだろうな。
それも、普通の人間の仕業ではなく、いつぞやの雪山で起きた建物に俺たちを閉じこめてレベルの連中が仕掛けたのだろう。
俺もここまで冷静な思考ができるようになっていたとはうれしいよ。
『ルールは簡単です。今から3日間、あなた達が生き残れば何もかも元通りになります。しかし、全員死んでしまった場合、
この状況が現実になってしまいます。ようは一人でも生き残れば、例えその他の人が死んでもそれはなかったことになり、
一人も残れなかった場合は全員死んだままになると言うことです。あと助けを求めようとしても無駄です。
現在、この空間にはこの施設内以外には人間は一人も存在していません。電話も通じません』
 一方的すぎる上に訳がわからん。どうしてこんなことになってしまったのか。前日を思い出してみるか。
 
◇◇◇◇
 
 季節は春。3学期も半ばにさしかかり、残すイベントは球技大会ぐらいになっていた。
 俺たちはいつも通りにSOS団が占領下においている部室に集まって何気ない日常を送っていた。
放課後になって、朝比奈さんのお茶をすすりつつ、古泉とボードゲームに興じる。
ワンパターンと言ってしまえばそれまでだが、平穏であることを否定する必要もない。
「おい、ハルヒ」
 相変わらず激弱な古泉をオセロで一蹴したタイミングで、俺はあることを思い出してハルヒを呼んだ。
退屈そうにネットをカチカチやっていたハルヒは、
「なーに?」
「今度、球技大会があるだろ? おまえも参加しろよな」
「いやよ、めんどくさい」
 とまあつれない返事を返されてしまった。ちなみにこうやって参加を促しているのは、
別にスーパーユーティリティプレイヤー・ハルヒを参加させてクラスに貢献!なんて考えているわけではなく、
クラスメイトの阪中からハルヒを誘ってほしいと言われたからである。
最初は戦力としてほしいから言っているんだろうと思ったが、もじもじしている阪中を見ていると
どうも別の理由があるらしい。ま、いちいち他人のことに口を出してもしょうがないし、
阪中自身が言いづらいから俺のところに頼みに来ているのだろうから、快く引き受けておいたがね。
「おまえな……たまにはクラス行事に参加しろよ。いつまでも腫れ物扱い状態で良いのか?」
「べっつに構わないわよ。気にしないし。大体、球技大会ってバレーボールじゃない。そんなありきたりのものに
参加したっておもしろくもないじゃん。南アルプスでビッグフット狩り競争!ってのなら、喜んで参加するわよ」
「そんな行事に参加するのはお前くらいだ。おまけに球技大会ですらねえよ」
 俺のツッコミも無視して、良いこと思いついたという感じにあごをなでるハルヒ。
このままだと春休みにはアルプスに連れて行かれかねないな。
「あー、でも一般客も見に来たりするんだっけ? それなら、クラスじゃなくてSOS団としてなら参加して良いわよ。
いいアピールにもなるしね。ユニフォームのデザインはまっかせなさい!」
「勝手に変な方向に話を進めるな!」
 俺の脳裏に、開会式にSOS団が殴り込みを掛ける映像が再生される。それも全員がハルヒサナダムシ風ユニフォームを着込んで
いや、朝比奈さんだけは別か。何を着せられるのやら。ハルヒなら本気でやりかねないから冗談にもならん。
「やれやれ……」
 難しいとは思っていたが、こうも脈がないとハルヒ参加は無理みたいだな。阪中には明日謝っておこう。
 で、その後は古泉とのボードゲームを再開。夕方になって全員で帰宅モードへ移行。何気ないいつもの一日だった。
 ただ、少し気になったのは部室内にいる間、少し様子のおかしかった長門だ。何かを問いかけられた訳でもないのに
どうも数センチだけ頭を傾ける仕草を頻発していたのが少し気になっていたので、
「……長門。どうかしたのか?」
 帰り道でハルヒに気づかれないように聞いてみる。長門はしばらく黙っていたが、
「情報統合思念体とのアクセスが不安定になっている。原因不明。私自身のエラーなのか、外部からの妨害なのかも不明」
「また、やっかいごとか?」
「回答できない。情報があまりに不足している。帰宅次第、調査を続行する」
「そうか」
 俺は嫌な予感を覚えていた。特に長門自身のエラーということについて、つい敏感に反応してしまう。
あの別世界構築騒動の再来になりかねないからだ。
 と、長門が俺に視線を向け続けていることに気が付く。そして、俺の不安を察知したのか、
「大丈夫。前回と同じ事にはならない。私がさせない」
 きっぱりと言い切った言葉に俺はそれ以上不安を覚えることはなかった。
 で、その後は夕飯を食って、部屋で適当にごろごろして、ベッドに潜り込んだ……
 
◇◇◇◇
 
『校舎と校庭の方にはたくさんの武器が置いてあります。自由に使って構いません。あと、本日午前6時までは何も起こりません。
では、がんばってください』
 そこまで言うと、声が止まった。生徒達のひそひそ声がかすかに聞こえるようになる。
 昨日のことを思い出してみたが、おかしかったのは長門の様子ぐらいだ。確かに、雪山でも長門の異常とともに、
あの洋館に押し込められたっけか。今回も同じと言うことなのか?
「やあ、あなたも来ていましたか」
 考え事をしていたため、目の前のスマイル野郎の急速接近に気が付かなかったことが悔やまれる。
古泉の鼻息が頬にあたっちまったぜ、気色悪い。
 俺は微妙な距離を取りつつ、
「ああ、本意どころか、夜中の学校に迷い込んだ憶えもないがな。お前も同じか?」
「ええ、気が付いたらここにいたという状態です。してやられましたね。油断していたわけではありませんが」
 そう肩をすくめる古泉だ。ニヤケスマイルはいつも通りだが。
「キョン!」
「キョンくん~!」
「やっほー!」
 と、今度は背後から聞いたことのある声が3連発だ。最初のがハルヒで次に朝比奈さん、最後は鶴屋さんだな。
振り返らなくてもわかるね。で、その中には長門もいると。
「全くなんなのよ、これ! 誰かのいたずらにしては大げさすぎない? 人がせっかく暖かい布団でぬくぬくしていたのにさ!」
 そうまくし立て始めるハルヒ。こいつにとっては燃えるシチュエーションのはずだが、
寝ていたところをたたき起こされた気分のようで、すこぶる荒れているみたいだな。
「こ、これなんなんですかぁ~。どうしてあたし、学校の体育館にいるんですかぁ?」
 涙目でおろおろするばかりの朝比奈さん。これはこれで……ってそんなことを考えている場合じゃない。
 俺は即座にこの状況を唯一理解できそうな長門の元へ行く。
相変わらずの無表情状態だったが、少し曇った印象を受けるのは闇夜の所為ではないだろう。
「おい、長門。これは昨日言っていた異常の続きって奴か?」
「…………」
 俺の問いかけに長門は答えなかった。もう一度同じ事を聞こうとして、彼女の肩をつかむと、
「情報統合思念体にアクセスができない」
 長門はぽつりと言った。あの親玉にアクセスができない? となると、ますます雪山と同じ状況じゃないか。
「ちょっとちょっとキョン! 何こそこそやっているのよ! まさか有希をいじめているんじゃないでしょうね!」
 人聞きの悪いことを言いながら俺に詰め寄るハルヒ。こんな状況でいじめる余裕がある奴がいるなら会ってみたいけどな。
 そこに、古泉が割って入り、
「まあまあ。けんかをしている場合ではないでしょう。それにこれ以上、体育館にいても仕方ありません。
とりあえず、外に出てみませんか? どうやら、これをしくんだ者からのプレゼントもあるようですし」
「そうね」
 ハルヒは素直に古泉の提案を受け入れ、体育館の出入り口に向かう。
「ひょっとしたら、辺り一面砂漠になっていたりして! なんだかワクワクしてきたわ!」
 もうハルヒはこの状況を受け入れつつあるらしい。らしいといえばらしいが。
 ふと気がつくと、今までひそひそ話をする程度だった他の生徒たちも俺たちについてくるように、
体育館の出入り口に向かって歩き始めていた。一様に不安そうな表情を浮かべているものの、
特に錯乱するような奴はいない。なんだ? おかしくないか? どうして誰も泣いたりわめいたりしない?
「気づいたようですね」
 またニヤケ男が急接近だ。しかも、耳元に。吐息が当たって気色悪いんだよ!
「何がだ」
「他の生徒の様子ですよ。まるで落ち着いている。ちょっと動揺しているように見えますが、
表面上だけです。訓練された人間でもこうはいかないでしょう」
「そのようだな。でも、ひょっとしたらみんな肝が据わっているだけかもしれないぞ」
「それはありえません。あなたが初めて涼宮さんに絡んだことに出くわした時を思い出してみればわかるはずです。
しかも、ざっと見回す限り1学年のみの生徒がいるようですが、それでも数百名のうち一人も錯乱しないわけがありません」
「何が言いたい?」
「まだ結論を出すには早いですが、何らかの人格調整を受けたか、あるいは――」
 古泉は強調するようにワンテンポおいて、
「姿形だけ同じで、中身は全然別物かもしれませんね」
 そこまで言い終えた瞬間、俺たちは体育館から外に出た。
 
◇◇◇◇
 

「なに……これ」
 呆然とハルヒがつぶやく。俺も同じだ。驚きを通り越してあきれてくるぞ、これは。
 体育館から出てまず気がついたのは、武器の山だ。体育館の周りに所狭しと銃器が山積みになっていた。
 俺は思わずそれを一つとり、
「M16A2か。状態も良さそうだ」
 そう知りもしないはずなのにつぶやく。さらに安全装置などを調べている間に、俺ははっとして気がつく。
「なあ古泉。俺はいつからミリタリーマニアになったんだ?」
「さて、僕もあなたのそんな一面を今までみた覚えはありませんが」
 古泉も同じようにM16A2を手慣れた感じに、チェックしている。当然だ。俺は映画以外では鉄砲なんて
みたこともないし、ましてや撃ったこともない。さわったことすらない。しかし、なんだこの手慣れた感触は。
使い方、撃ち方、整備の仕方までどんどん頭の中に浮かんでくるぞ。どうなっているんだ一体!
「みてください。弾丸の詰まったマガジンも山積みです。どこかと戦争になっても一年は戦えそうですよ」
 しばらく古泉は表情も変えずに古泉は武器の山を眺め回していたが、やがてそばにいた長門となにやら話し始めた。
「キョンあれ見てアレ!」
 ハルヒが興奮気味に指したのは、校庭だ。そこには10門の火砲――120mm迫撃砲と、
一機のヘリコプター――UH-1が置かれている。って、やっぱりすらすら知りもしない知識が沸いて出てきやがる。
「なによこれ、いつから北高は軍事基地になったわけ?」
 なぜか不満そうなハルヒ。あまりこっちのほうは好みではないのか?
 そんな中、朝比奈さんは不思議そうに無造作に並べれられている迫撃砲の砲弾を突っついている。
「うわ~、何ですかこれ? 初めて見ましたぁ~」
「こらみくる、さわると危ないよっ! 爆発するかもしれないんだかさっ!」
「ば、バクハツですかぁ!?」
 びっくりして縮こまる朝比奈さんとおもしろそうにマガジンの山をつっついている鶴屋さん。まあ、鶴屋さんがいれば
大丈夫だろ。
「おい、これって俺たちに戦えってことじゃないのか?」
 突然、聞き覚えのない声が飛んできた。さらに、
「さっき、体育館で聞いたじゃない。3日間生き残ればいいって。きっと敵が襲ってくるのよ!」
「おいおい、俺は殺されたくねえぞ」
「そうよそうよ! 徹底抗戦あるのみだわ!」
 突然俺たち以外――SOS団に関わりのない生徒たちが盛り上がり始めた。そして、次々とM16A2を手に取り、
構えたり、チェックをはじめやがった。何なんだ、何だってんだ。どうして、誰も疑問に思ったり拒否反応を示したりしない?
おまけに俺と同じように知っているかのように扱っている。
 さらに、狂った状況が続く。
「でも、ばらばらに戦っていちゃだめだ! 指揮官がいるな!」
「そうね!」
「誰か適任はいないのか?」
「そうだ! 涼宮さんなら!」
 とんでもないことを言い出す奴がいたもんだ。よりによってハルヒだと?
 一体どんな奴がそんなばかげたことを言い出したんだと声の方に振り返ると、そこには文化祭でドラムをたたいていた
ENOZのメンバーの一人がいた。
 当のハルヒはきょとんとして、
「あ、あたし?」
 そう自分を指さす。さすがのハルヒでも状況が理解できていないらしい。
「そうだよ! 涼宮ならきっと俺たちを導いてくれる!」
「お願い涼宮さん! 指揮官になって!」
「俺も頼む! おまえになら命を預けられる!」
『ハルヒ! ハルヒ!』
「ちょ、ちょっと待っててば!」
 と、最初こそしどろもどろだったが、やがて始まったハルヒコールにだんだん気分がよくなってきたらしい。
だんだん得意げな顔つきになってきたぞ。
「ふ、ふふふふふふふふ」
 ついには自信に満ちあふれた笑い声まで発し始めやがった。
「わかったわ! そこまで頼られちゃ仕方がないわね! このSOS団団長涼宮ハルヒが指揮官としてあんたたち全員を
守ってあげるわ! このあたしが指揮する以上、どーんと命を預けてもらっていいわよ! アーハッハッハッハ!」
 そうやって生徒たちの中心で拳を振り上げるハルヒ。あまりの展開に頭痛がしてきたぞ。
 額を抑えていると、長門と密談を終えたらしい古泉がまた俺に急接近してきて、
「大丈夫ですか?」
「ああ、今ひどい茶番を見た」
 微妙な距離を保ちつつ答える。古泉はやや困ったように表情を変え、
「それには果てしなく同意しますね。しかし、この強引すぎる茶番劇でしくんだ者の大体目的が理解できました」
「頭痛が治まったら聞いてやる……ん?」
 ふと俺の目に二人の生徒がこの茶番劇な流れに逆行するようにこっそりと移動しているのが入ってきた。いや、正確に言うと、
一人が逃げるように移動し、もう一人がそれを追いかけているみたいだ。まあ、思いっきり見覚えのある奴なんだが。
「まずいよ、勝手に逃げ出しちゃ」
「馬鹿言え! こんなばかげた催しに参加してたまるか! おまけに総大将が涼宮だと? 冗談じゃねえよ!」
「でも、なんだかおもしろそうだよ? すごいものがいっぱいあるし」
 学校の塀を必死に上ろうとするが、どうしてもうまくいかない谷口。そして、それをやる気なく止めようとする国木田。
何というか、この意味不明空間に閉じこめられてから、初めて正常と思える人間にであったな。
「おい、何やってんだ谷口。それに国木田も」
 そんな二人に向かって声をかけると、谷口の野郎がまるで鬼でも見るような目で、
「く、くるなキョン! いや、別におまえに恨みはないが、セットで涼宮がついてくるかもしれないからな!
今は見逃してくれ! 頼む! 明日弁当をおごってやるから!」
 もう谷口は今にも泣き出しそうだ。まさに普通の反応。安心するどころか癒されるね。まさかアホの谷口に
癒しを求める日がこようとは。
「まあ、落ち着け。いや、落ち着かないほうがおかしいけどな」
「どっちだよ」
 すねた表情で谷口が抗議する。俺ははいはいと手を振りながら、
「とにかく、逃げだってどうにもならんだろ。ここがどこなのかもわからんしな。それにさっきの超不親切放送を信じるんなら、
3日間学校に閉じこもっていれば、何もかも元通りとのことだ。それなら学校のどっかに隠れていた方がマシだろ」
「僕もそう思うよ。別に殺されると決まった訳じゃないし」
 国木田がうなずいて俺に同意する。しかし、谷口は聞く耳も持たず、またロッククライミングを再開して、
「うるせえ! そんなの信用できるか! とにかく俺は逃げる! 誰も知らないところで隠れて3日間逃げ切ってやるからな!」
 わめきながら谷口はようやく塀を乗り越えようとした瞬間――
「うわわわわわっ!」
 情けない悲鳴を上げて、背中から落下する。
 咳き込む谷口の背中をさする国木田を背に、俺もとりあえず塀を上ってみる。一応何があるのか確認しておきたいからな。
「……なんてこった」
 塀を乗り越えた俺の目に広がったのは、絶望的に広がった暗闇だ。夜だからではない。学校の塀が断崖絶壁になり、
それよりも向こう側には何もなかった。崖のそこは暗く何も見えない。まさに底なしだ。落ちたらどうなるのか。
試してみたい気もするがやめておこう。
「畜生……なんてこんな目に……」
 すっかり逃げる気も失せた谷口は、肩を落として地面に座り込んでいた。一方の国木田はいつものまま。
マイペースな奴だ。
 俺はとりあえずハルヒの元に戻ることにした。谷口ももう逃げようとはしないだろうし、あとは国木田にでも任しておけばいい。
 しかし、体育館入り口に戻った俺はさらに驚愕する羽目になった。
「ほらほらー! 時間がないんだからちゃっちゃと運びなさぁい! そこ! それ落としたら爆発するかもしれないから、
慎重に扱ってね! さあビシバシ行くわよ!」
 校庭のど真ん中にたったハルヒが、メガホン片手に生徒たちを動かしていた。そこら中に散らばっている銃器や砲弾を
学校の校舎内や体育館に運び込ませさているらしい。実際、野ざらしだとどんなはずみで暴発するかわからんから、
ハルヒの判断は間違ってはいないが、すっかり指揮官なりきり状態にはいささか不安を覚える俺だった。
 
◇◇◇◇
 
「さて! じゃあ、SOS団ミーティングを始めるわよ!」
 ハルヒの威勢のいい声が部室内に広がる。最初のとまどいもどこにやら、完全にいつものペースに戻っているようだ。
おまけに総大将とかかれた腕章まで着けている。すっかりその気になっているみたいだな。
 全生徒総出での片づけがようやく終了して、現在午前4時の部室内にいるのは、
SOS団のメンバー+鶴屋さんの総勢6名である。
総大将ハルヒはどうやらSOS団関係者を中心としてこの事態を乗り切るつもりらしい。
「とにかく、このよくわかんない状況をとっとと終わらす必要があるわね! さっき体育館でなんて言っていたっけ? 古泉君」
「3日間一人でも生き残れば、その間にあったことすべてが無効となって、元の世界に戻ることができる。
しかし、全員死んでしまった場合はこの3日間の間に起こったことがすべて事実になる。ということのようでした。
あと、午前六時――あと一時間後までは何も起きないとも言っていましたね。それに我々以外の人間は存在せず、
助けを求めようとしても無駄だとも」
 さわやかに答える古泉。ハルヒは満足げにうなずき、
「そう! それよ! さすが古泉君ね!」
 なにが、さすが古泉なのかわからんが、そんなことはどうでもいい。
「おい、ハルヒ。ちゃんと状況を理解しているのか? 体育館で一方的に言われた内容だと、これから俺たちは
命をねらわれるということになるんだぞ。いつもの不思議探検ツアー気分でやっているんじゃないだろうな?」
「わかっているわよ、そんなこと」
 当然だとハルヒ。さらに続ける。
「まあ、いつもならこんな訳のわからない超常現象に遭遇してワクワクしているかもしれないけど、
はっきりいってシチュエーションが気にくわないわ。仕掛けてきたのが宇宙人なのか未来人なのか異世界人なのか
知らないけどこんな不愉快な接触をしてくるなんてナンセンスすぎ! 説教の一つでもしてやらないと!」
 これでハルヒが望んだからこんなけったいなことに巻き込まれたというのはなしだな。
ますます雪山の一件と同じになってきた。
 ハルヒは仕切り直しというようにわざとらしく咳き込んで、
「まず、これからどうするかよね。有希、何か良い意見ある?」
 何で真っ先に長門に聞くんだ。確かに一番適任かもしれないけどな。
 話を振られた長門は、数センチ頭を傾ける動作をしたまま無言だった。
ハルヒはそれをわからないというポーズと受け取ったようで
「そっか、有希に聞いても仕方ないわね。じゃあ、古泉君は?」
 今度は古泉に話を振るが、それに割り込むように鶴屋さんが大きく手を挙げ、
「はーい! やっぱさ、ここは偵察所を兼ねた前線基地を作ったほうがいいと思うねっ!
話を聞く限りだともうすぐこの学校は何かにおそわれるってことだけど、いきなり本拠地である学校への
襲撃を許したらまずいと思うんだっ! だから、少しでも敵を学校から引き離すためにさっ!」
「すばらしいわ、鶴屋さん! それ採用よ!」
 はい、あっさりと終了。何気に息がぴったりな二人だな。しかも、鶴屋さん。
そんなことをすぐに思いつけるなんて、いくら名家の人とはいえこういった戦闘的な経験はあったりしませんよね?
 話を振られようとしていた古泉も珍しく苦笑いを浮かべつつ、
「僕も賛成です。このままじっとしているだけでは、敵に叩かれるだけでしょうね」
 俺はちらっと長門の方を見るが、相変わらずの無表情だった。とりあえず、口を開かないと言うことは
同意しているととっておくことにしよう。
 俺も特に異論もないので、鶴屋さん案に同意する。
「なら決まりね! じゃあ、早速作戦を立てましょ」
 そう言ってハルヒが机に広げたのは学校周辺の地図である。ただし、北高のすぐ左側を縦に黒いライン、また同じように
北高の敷地の南側に沿うようにも同じようにラインが引かれている。さっき谷口が腰を抜かした断崖絶壁を
表しているラインであり、屋上から確認したところ、北高より西側と南側はまるで何かに切り取られたように
なくなっていた。よって、敵が襲ってくるなら北高よりも北西となる。
 さて、こんな地理関係でどこに前線基地をつくればいいのかと考えてみる。というよりも敵がどこから襲ってくるのか
予測しなければ、前線基地の意味もないのでそっちが先決だな。
「北高の北側は住宅街です。見通しがききづらいので、民家を陰に接近されやすいでしょう。東側は森がありますが
幸い校庭に面しているため、即刻学校にとりつかれることはありません。校庭に侵入を確認した時点で
迎撃することが可能かと」
「なら北側しかないわね。でも、どこにするのがいいのかしら」
 古泉の意見を取り入れつつ、ハルヒは北高の北側一帯を指でなぞる。そんな中、ちらちらとハルヒが目をやっているのは、
北山公園だ。そこそこ広範囲な森で隠れるならうってつけの場所だろう。
「そうなると、ここが最適じゃない?」
 ハルヒが赤いサインペンで丸をつけたのは、北側に東西に延びるようにたてられているサンハイツと呼ばれる建物だ。
良い感じに北高をカバーする防壁のように立ち並んでいる。
「問題ないと思うよっ! ここなら建物沿いに学校へ移動してきてもすぐに発見できるんじゃないかなっ。学校からも
すごく近いし、移動も簡単だと思うよっ!」
 鶴屋さんが賛同するんで、俺も適当に賛同しておく。こういった頭を使うものは俺なんかよりもハルヒたちに任せておけばいい。
「ちょっとキョン! さっきから他人の意見ばっかりにハイハイしたがってないで、自分の意見を言ったら!?」
 いつも人の意見を聞かないくせに、こんな時ばかり聞かないでくれ。どのみち、ハルヒや鶴屋さん以上の意見なんて
全く思いつかないんだからな。
「……まあ、いいわ。じゃあ、これで前線基地は決まりね! 次はお待ちかねのみんなの役割を発表するわよ!」
 何がお待ちかねだ。一番胃が痛くなるやつじゃねえか。こいつが決めた物は大抵ろくな配分になっていないからな。
とくに俺と朝比奈さんは。
 ハルヒは満面の笑みを浮かべて、懐から一枚のメモを取り出して机に広げた。
 
● 総指揮官 涼宮ハルヒ(もちろん、すべての作戦を統括する一番偉い人!)
● 副指揮官 長門有希 (戦況を判断して的確に指示を出すSOS団のブレーン)
● 小隊長  古泉君  (30名の部隊を引き連れて前線で戦う人)
● 小隊長  鶴屋さん (30名の部隊を引き連れて前線で戦う人)
● 小隊長  キョン  (30名の部隊を引き連れて前線で戦う人)
 
 以上、これがメモかかれていたことである。総指揮官、副指揮官ときて次に小隊長かよ。階級差が飛びすぎだろ。
それになんか俺が前線で戦う人にされているし。
 不満そうにしている俺に気がついたのか、ハルヒはしかめっ面で、
「何よ。 なんか不満でもあるわけ? いっとくけど、総指揮官であるあたしの命令は絶対よ! ハートマン軍曹より
厳しいからそのつもりで!」
 放送禁止用語を連発するハルヒを想像してしまって吹き出しそうになるが、あわてて飲み込む。
「完全に数えた訳じゃないけど、体育館にいたのは一学年全員ぐらいはいたわ。となるとざっと数えて270人がいるわけ。
幸いみんな協力的だから、戦力として数えられるわけよ。で、そのうち5割を戦闘員として、キョンたちが指揮して、
残りは補給とか片づけとかの役割に回すわ」
 続けるハルヒに少し安堵感を覚えた。さすがにSOS団VSコンピ研の対決の時のように突撃馬鹿になるつもりはないようだ。
 ところでだ、メモ最後にかかれているのはいったい何だ?
「あのぅ……わたしは一体何をするんでしょうかぁ? 癒し系担当とかかかれているんですけどぉ……」
 おそるおそる手を挙げて質問する朝比奈さん。メモには、
● 癒し系担当  みくるちゃん (みんなを癒す係)
 とだけかかれている。確かにこれだけでは一体何をするのかさっぱりわからないな。
「それにみなさんは戦闘服なのに、なんでなんでわたしだけはナース服なんですかぁ?」
 朝比奈さんの発言で思い出した。言い忘れていたが、今朝比奈さん以外の面々はみんなウッドスタイルな迷彩服を着込んでいる。
おまけに実弾入りの小銃のマガジンやら必要な物をすべて身につけ、肩には銃器を抱えていた。
これはとある教室に押し込まれていたものだったが、ハルヒ曰く、せっかくあるんだから使わないと損、と言って
男女問わず生徒たちに身につけるように指示を出した。むろん、俺たちSOS団+1も例外ではない。
おかげで全身が重くてたまらん。だが、それにすら慣れという感覚を感じてしまっている。
で、そんな中、朝比奈さんだけがナース服という状態だから、端から見るとコスプレ軍団が密談をしているようにしか見えんだろ。
「みくるちゃんは、その格好で歩いているだけでいいわ。それだけでみんな癒されるはずよ。
それに戦闘中に歩き回られても邪魔なだけだし」
 ハルヒ、それは違うぞ。朝比奈さんはそんなけったいな衣装を着込まなくても十分癒しを提供してくれるんだ。
見てくれを気にしすぎるおまえには一生わからんだろうがな。
「じゃ、これで役割分担は終わり。さっそく実行に移しましょう」
「おい! これだけで終わりかよ!」
 思わずハルヒに抗議の声を上げる。たとえばだ、俺が小隊長にされているが、分隊はどうするのかとか、
各装備はどうするのかとか――
「そんなことは分隊長であるあんたが決めなさいよ。古泉くんと鶴屋さんも。あ、学校内の態勢とかはあたしと有希で決めるわ」
 細かいところはやっぱり適当だな、おい。まあいいか、ハルヒにどうこういじられるよりかは、
俺が直接やった方が自由がききそうだ。やったこともない知識が頭の中にすり込まれているせいか、
どうすればいいかは大体わかるしな。
「さて……」
 ハルヒは忘れ物はないかとしばらく考えていたが、
「ちょっと顔を洗ってくる」
 そういって早足で部室から出て行った。いつもよりも落ち着きのない足取りからガラにもなく緊張しているのか?
 と、鶴屋さんと朝比奈さんもハルヒに続くように、
「あっ、あたしも行くよっ!」
「わたしも行きます~」
 そう言って部室から出て行った。ただし、鶴屋さんは俺にウインクをして。どうやら気を遣ってくれたらしい。
まあ、せっかくのご厚意だ。今のうちに聞いておけることは聞いておこうか。
「おい古泉。もう頭痛も治まったから、さっきの続きを言っても良いぞ。ただしハルヒたちが戻るまでだから手短に頼む」
 古泉は待ってましたといつもの解説口調で説明を始める。
「この閉鎖空間に近いような空間――わかりやすく疑似閉鎖空間と呼びましょう。これはあきらかに涼宮さんが作り出した物では
ありません。現に神人も現れず、また僕の能力も使えるようになっていない。となれば、別の何者かがこの空間を作り出し、
我々をそこに押し込んだと推測できます」
「それは俺でも予想ができたな。雪山の時と一緒だろ」
「ええ、その通りです。あと、疑似閉鎖空間を作った者の目的ですが、おそらく涼宮さんを追い込んだ状況に
陥らせて彼女の能力を使った何らかのアクションが起きることを期待しているのかと」
「何を期待しているんだ?」
 古泉は首を振りながら、
「残念ながらそこまでは推測できません。情報が不足しすぎていますしね。しかし、涼宮さんに強烈な負荷をかけて
彼女の精神状態を乱すことが目的なのか確実です」
「それにしては、状況が甘すぎるんじゃないか? 不親切とはいえ状況説明をしたあげく、わざわざ武器まで渡している。
おまけに学校の生徒をハルヒの言うことを聞くようにして、俺たちにも軍人並みの知識と経験もすり込んでいるしな。
いっそ、生徒全員、あるいはSOS団メンバーだけで殺し合いをするようにすれば、さすがのハルヒでも
おかしくなるだろうよ。そんなのはまっぴらごめんだがね」
「それでは、涼宮ハルヒがこの状況そのものを否定する可能性がある」
 そこで割り込むように口を開いたのは長門だった。そういや、体育館以来声を聞いていなかったな。
「長門さんの言うとおりです。それでは涼宮さんは疑似閉鎖空間そのものを破壊してしまうでしょうね。
彼女の能力を持ってすれば簡単な話です。それをさけるためには、一定レベルで涼宮さんがこの疑似閉鎖空間の状況、
つまりこの仕組まれた展開を受け入れなければなりません。先ほどの茶番劇も涼宮さんに対して、
今この学校内にいる全生徒が自分を信頼してくれているという暗示をかけたようなものでしょう。
涼宮さんの性格からあそこまで持ち上げられると乗ってくるでしょうし、何よりも不満があるとはいえ、
彼女にとっては今まで味わえなかった奇怪なシチュエーションです。今のところ、この状況そのものを
否定するような要素は存在しません。完全に仕組んだ者の思惑通りに進んでいると思います。今のところ、はですが」
 なるほどな。確かにあいつが興奮気味なのは見てりゃわかる。しかし、それが敵と言える奴らの思惑なら
腹立たしいことこの上ない。
 と、俺は学校から逃げだそうとしていた谷口――とおまけで国木田――を思い出し、
「だが、妙なこともあるぞ。確かにここにいる大半の生徒たちはハルヒに従うように人格を調整されているみたいだが、
俺たちSOS団のメンバーや鶴屋さんはどうなる? 確かに軍事知識と経験は頭の中にねじ込まれているみたいだが、
ハルヒに盲目に従うようにはなっていないぞ。谷口に至ってはハルヒが総大将になったとたん、
学校から逃走しようとしたぐらいだ」
「その通り。SOS団や涼宮さんに関わりの強い人間は、人格調整的なものまでは受けていないようですね。
しかし、これからもわかることがあります。涼宮さんに従うようにされている生徒たちは、はっきりと言ってしまえば、
捨て駒のようなものであり、使いたいときに使える道具とされている。あ、とはいっても本当にロボットのように
なっているかと言えばそうではありません。9組の何人かと話をしてみましたが、性格的なものは普段のままでした。
あくまでもベースは個人の人格を踏襲しつつ、涼宮さんと関わる際にその指示に必ず従うよう
何らかの暗示のようなものをかけているのかもしれません。
本題は涼宮さんに近い人間を通じて彼女に負荷をかけるということです。
しかし、僕たちがあまりにいつもと違う言動を行えばリアリティを損ない、
涼宮さんが姿形は同じな別人であると認識しかねません。それでは負荷も半減するというものです」
 つまり、普段のままの俺たちがどうこうなることで、ハルヒに衝撃を与えようとしているって訳か。
俺を殺してハルヒの反応を見るとかいっていた朝倉の仕業じゃないかと疑いたくなるぜ。
「ん? となるとハルヒ自身には何も操作が行われていないってことか? にしちゃ、武器の扱いも
手慣れているように見えたが」
「涼宮さんは文武両道、しかも何でもそつなくこなせる非常に優れた方です。そのくらいできても不思議ではありません。
あるいは、涼宮さん自身がそう望んだからかもしれませんが。どちらにしろ、今までの推測から涼宮さんの能力には
制限がかけられていないと考えられます。僕や長門さんとは違ってね」
 古泉は困りましたねと言わんばかりに肩をすくめる。そういや、長門は昨日から異常を察知していたようだが……
「古泉はともかく長門もそうなのか?」
「現在のところ、情報統合思念体にはまったくアクセスできない。また、わたしの情報操作能力も完全に封鎖され、
今ではあなたと大して変わらない」
 ここぞと言うときにはどうしても長門に頼ってしまうのが悪い癖だと思っているが、
今回は頼ることすらできないと言うことか。しかし、それでも普段と同じ無表情を貫いているのは、
ただ緊張や不安という感情を持ち合わせていないためか、それとも見せないようにしているか。
以前みたいに脱出のためのヒントも期待できないだろう。どうすりゃいいんだ。
「我々からこの状況を同行できる状態ではありません。今は仕組んだ者の思惑に乗るしかないでしょう。今はね」
 古泉の言うとおり、どうにかする手段どころか手がかりすらない。腹立たしいが、今はこのバカみたいな展開を
乗り切ることを考えるか。
 ふと、長門がじっと俺を見たまま動かないことに気がつく。表情もそぶりもいつものままだが、
俺は何かの感情を込めたオーラのようなものがこっちに向けられていることをひしひしと感じる。
「取り返しのつかない失態。すまないと思っている」
 長門は慣れない単語を口に出そうとしているためか、口調がぎこちなかった。だが、
「今のわたしにはあなたを守ることができない」
 彼女の意志だけはこれ以上ないと言うほどに伝わった。
 
◇◇◇◇
 
『あー。テストテスト』
 時刻は午前5時半。場所は校庭、俺たちは朝礼台の上でトランジスターメガホンのマイクテストを行う
総大将涼宮ハルヒに向かって、現在朝礼のように全生徒が整列して並んでいる。あと30分ほどで何かが始まるということだ。
 ちなみに、並び順はハルヒから向かって右側に戦闘部隊――つまり俺や古泉、鶴屋さんがいる。生徒たちはハルヒだけじゃなく、
どうやらSOS団に深い関わりを持つ人間の言うことには素直に従うように調整されているらしい。さくさくと
1-5組を中心に30人をかき集めて小隊の編成をくみ上げて、こうやって整列している。なんだかんだで谷口と国木田も
俺の小隊に入った。他の二人も同様に編成を終えている。細かい編成内容を説明するのは勘弁してくれ。
無理やり詰め込まれた知識を披露するようなもんで、大変腹立たしいからノーコメントとさせてもらうぞ。
 向かって左側にはそれ以外の生徒だ。長門はこっちのグループに入っている。で、なぜか朝比奈さんだけはハルヒのいる
朝礼台の上と来たもんだ。衆目の目前に景気づけにとんでもないことをやらされそうになったら一目散に飛び出すつもりである。
『えー、皆さん!』
 準備が整ったのか、ハルヒがトランジスターメガホン片手にしゃべり始めた。
『はっきり言ってなんかよくわかんない状況だけど、あたしについてくれば大丈夫! どっどーんとついてきなさぁい!』
 あまりの言いように俺は肩を落としてしまった。もう少し言うことがあるだろうに。誰も見捨てないとか、
みんなで乗り越えようとか。ハルヒらしいといえばそれまでなんだが。
『んで、とりあえず作戦なんだけど、北高の北側に前線基地を作ります。そこの担当は鶴屋さんね! よろしく!」
 突然の指名に一瞬きょとんとする鶴屋さんだったが、やがていつもの笑顔に戻り、
「へっ? あたし? りょーかいっ!」
 おい、そんなことは初めて聞かされたぞ。前もって言っておけよな。そして、鶴屋さん。それを少しも動じずに
受け入れられるあなたは大物すぎます。
『他の人たちは適当に学校周辺を見張って。特に校庭側に注意すること! 今のところは以上!』
 適当すぎる。今からでも遅くない。とっつかまえて再考させるべきではないだろうか。
「すがすがしいほどに簡潔でわかりやすいじゃないですか」
 相変わらずのイエスマンぶりを発揮する古泉。もはやつっこみも反論する気にもならん。
『じゃあ、最後に癒し担当のみくるちゃんに、激励の言葉をお願いするわ!』
 そう言ってトランジスターメガホンを手渡された朝比奈さんはただおろおろするばかり。
しばらく、ハルヒと言葉を交わしていたが、結局いつものように観念したのか、朝礼台の前に立った。
『ええーと、あのーですね……』
「みくるちゃん! そんな覇気のない声じゃ激励になんないでしょ!」
 メガホンなしでもハルヒの声が聞こえてきた。朝比奈さんが不憫すぎる。今すぐにでも助けに行くべきか?
 しかし、俺が考えている間に朝比奈さんは決意したようで、
『みっみなさーん! がんばってくださーい! 一緒にかえりまひょー!』
 その声に全生徒が一斉に腕を上げておー!と答える。ちなみに、男子生徒はやたらと張り切って手を挙げているのに対して、
女子生徒はいまいちやる気なく手を挙げているのは俺の偏見にすぎないのだろうか?
 ハルヒはとっとと役割を終えた朝比奈さんからトランジスターメガホンを奪い取り、
『よーし! じゃあ、張り切って作戦開始!』
 黄色い叫び声が飛んだと当時に、並んでいた生徒たちの整列が解け、それぞれの持ち場に移動を開始した。
やれやれ、これからが本当の地獄だろうな。
 と、俺の小隊の連中がぞろぞろと周囲に集まり始めていた。どうやら、俺の指示を待っているらしい。
 そんなとき、学校から出て行こうとする鶴屋さんの姿が目に入る。俺は彼女の元に駆け寄り、
「すいません鶴屋さん、ハルヒの奴が勝手なことばかり言って。本来なら俺か古泉が行くべきなんでしょうけど」
「んー? いいよっ、別にさっ! 言い出しっぺはあたしだからちょうどいいよっ!」
 変わらずハイテンションだな。ハルヒといい勝負かもしれん。
「じゃっ、あたしは行くよっ! みくるによろしくって言っておいてっ! じゃあ、またねーっ!」
 まくし立てるように言ってから鶴屋さんは学校から小隊を引き連れて出て行った。無事を祈ります、鶴屋さん。
「キョンくーん!」
 続いて一歩遅れて俺の元にやって来たのは朝比奈さんだ。ああ、そんな息を切らせて走ってこなくても。
呼んでくだされば、たとえ地球の裏からでも馳せ参じますから。
 朝比奈さんは呼吸を整えるようにいったんふーっと息を吐き出すと、
「つ、鶴屋さんはもう言っちゃいましたか?」
「ええ、たった今。朝比奈さんによろしくって言っていましたよ」
 何か伝えたいことでもあったのだろうか。残念そうな表情を見せる朝比奈さんだった。
「しかし、すごい人ですね。こんな状況だってのに全くいつものペースを乱していないんですから。
俺もあの度胸を少しだけ譲ってほしいかも」
「そんなことないです!」
 俺の言葉を即刻否定されてしまった。見れば、普段とは違ったまじめな顔をした朝比奈さんがいる。
「そんなことはありません。鶴屋さんはこの事態を深刻に受け止めているんです。だって……」
 朝比奈さんは強調するようにワンテンポをいてから、
「だって、鶴屋さん、ここに来てから一度も笑っていないんです。いつもは少しでも楽しいことがあればすぐに……」
 言われてからはっと気がついたね。確かに口調とハイテンションぶりは変わっていなかったが、
一度も笑っていない。いつもあんなに心底楽しそうに笑う人なのに。
「すみません。俺がうかつでした。そうですよね、あの人なりにやっぱり考えることも当然あるでしょうし」
「いいいいえ、別にキョンくんを責めた訳じゃないんですよっ。ただ、鶴屋さんも真剣になっていると
わかってほしかっただけなんです」
「それはもう、心の底から理解していますよ」
 とまあ、なんだかんだで良い感じになっていた俺たちな訳だが、それをぶちこわす奴が登場だ。
「あ、朝比奈さん! どうも! 谷口でっす!」
 おーおー、鼻の下をのばしきった下心丸出しのアホが登場だ。せっかく良い感じだったってのに。
「谷口さんですね。覚えています。映画撮影と文化祭の時はどうも」
 丁寧にお辞儀をする朝比奈さんだが、そんな奴にかしこまる必要はありませんよ。顔にスケベと書かれているし。
 そこで谷口は突然襟を正し始め、少し不安げな表情になる。そして、ねらい澄ましたような口調で、
「朝比奈さん。実は俺、怖くてたまらないんです。こんな世界に押し込まれてこの先どうなるかもわからない。
だから、せめてあなたの胸で抱擁させていただければ、この不安も少しは解消されて――ぶっ!」
「小隊長命令だ。とっとと朝比奈さんから離れろ」
 堂々とセクハラしますよ宣言をしやがった谷口の襟をつかんで、俺のエンジェルから引きはがす。
一瞬息が詰まったのか、谷口は咳き込みながら、
「キョン! なにしやがる!?」
「うるせえ。小隊長命令が聞けないなら、キルゴア中佐命令まで格上げしてサーフィンさせるぞ。当然銃弾が飛び交う中でだ」
「職権乱用だ! 大体、サーフィンってどこでやるんだよ!」
 なんてしつこく抗議の声を上げているが完全無視だ。幸い国木田が仲裁に入って、アホをなだめているので、
「ささ、朝比奈さん、ここには野獣がいますから戻った方が良いです」
「あ、はい……」
 そう言って彼女は内股走りで去っていった。やれやれ、下劣な侵略を阻止したってことで俺の任務は終了にしてくれんかね。
 谷口はまだ何か言って見るみたいだが、完全に無視。で、次にやることはっと……
「……何をすれば良いんだ?」
 俺はハルヒが引っ張り回している120mm迫撃砲を見ながら考え込んでしまった。
 
◇◇◇◇
 
 とりあえず、俺は東側からの襲撃に備えて校庭を警備していた。むろん、自分の小隊を引き連れて。
 現在午前7時半――日数の期限があるからこういった方が良いか。1日目午前7時半である。
今のところ、全く異常はない。無事にサンハイツに陣を張った鶴屋さんの方にもそれらしいものはないらしい。
 と、通信機を持たせているクラスメイトの阪中が、
「涼宮さんから連絡なのね」
 そう言って無線機を差し出してきた。すぐ近くにいるのに、わざわざ無線で連絡しなくても。
 俺はそれを受け取って――とハルヒと話すのは一時停止だ。
「阪中、すまないがこないだの球技大会の話なんだが……」
「……球技大会?」
 何のことかわからないと首をかしげる阪中。覚えていないのか。いや、それともこの阪中は
そんな記憶すら存在していないのか。ま、どっちでもいいか。
「いや、何でもない」
 そう言って無線機を取る。
『あーあーあー、キョン聞こえる?』
「なんだハルヒ。こっちは特に異常はないぞ」
『オーケーオーケー。平穏無事が一番だわ。前線基地構築に敵もびびったのかしらね!
このまま、何もしてこなければ良いんだけど』
 相変わらずのポジティブ思考だ。そうなってくれることに越したことはないが。
 だが、これを仕掛けた奴もそんなに甘くはない。突然、どこからともなくパーンパーンと
乾いた発砲音が耳に飛び込んできた。やがて、すさまじい連続発射音が鳴り響き始める。
「おい、キョン! なんだなんだ!」
 至極冷静な小隊の中で、さっそくあわて始めたのは谷口だ。これが普通の反応なんだろうけどな。
「ハルヒ! 何が起こっている!?」
『鶴屋さんの方に攻撃があったのよ! 今わかっているのはそれだけ! 詳しくわかったらまた連絡するから、
そっちも警戒を怠らないで! オーバー!』
 そこで無線終了。ちっ、早速戦闘かよ。鶴屋さんは無事なんだろうか?
 俺は校庭の東側に対して警戒を強めるように支持をする。ほとんどの生徒は素直に従うが、
谷口だけはびびっておろおろするばかり。M60なんてデカ物を構えているのは、恐怖心の裏返しなのかもな。
 激しい銃声音が響いたのは5分程度だろうか。やがて、それも収まり、辺り一帯に静寂が訪れる。
結局、学校東側からの攻撃もなかったな。
 また、阪中が俺に無線機を差し出してきた。ハルヒからの連絡らしい。
『鶴屋さんの方は終わったみたいよ。けが人もなくあっさり撃退したんだって! さっすが、鶴屋さんよね。
SOS団名誉顧問なだけあるわ!』
 SOS団は関係ないだろうが、あの人ならこのくらいは平然とやってのけそうだ。
『で、そのまま北山公園の方に逃げていったんだってさ。大体、20人ぐらいが襲ってきたらしいけど』
「20人? なら攻撃してきたのは人間なのか?」
『うーん、それがいまいちはっきりしないのよね。鶴屋さん曰く、人の形を何かが銃やらロケット砲やら抱えてきて
襲ってきたんだってさ。形は人間らしいけど、全身真っ黒でまるでシェルエットみたいな連中らしいわよ。
何人か倒したらしいけど、銃弾が命中すると昔のゲームみたいに飛び散ってなくなっちゃんだって』
 なるほどね。ゲームだと思っていたが、本当にゲームの敵みたいな奴が襲ってくるのか。
じゃあ、俺が撃たれても大して痛くないのかもしれないな。それは助かる。
「これからどうするんだ?」
『ん、とりあえず、現状維持で。このまま、3日間学校を守りきるわよ!』
 そこで通信終了。すぐさま、阪中に鶴屋さんに連絡を取るように指示する。
『やっほーっ! キョンくん、なんか用かいっ?』
 いつもと同じ調子なお陰でほっとするよ。
「鶴屋さん、なんか大変だったみたいだけど大丈夫ですか?」
『へーきへーき! もうみんなそろってぴんぴんしているよっ!』
「そうですか……それはよかった――」
 と、そこで鶴屋さんの声のトーンが少し変わるのに気がついた。いや、しゃべってはいないんだが、
息づかいというかなんというか……
『んーと、おろろっ? なんだあれ――』
 いやな予感が走る。なんだ……
『――伏せてっ!』
 無線機から飛び出したのは、今まで聞いたことのないような鶴屋さんの声だった。
恐ろしく緊迫し、驚いているのが表情を見なくても簡単にわかる。
 次の瞬間、北高校舎の西側3階で大爆発が起こった。衝撃と音で全身がふるえ、鼓膜が破れるぐらいに
圧迫される。
「みんな伏せろ! とっとと伏せるんだ!」
 俺は小隊の仲間をすべて地面に伏せさせた。とはいっても、見通しがよく物陰のない校庭では
どのくらい効果があるのかわからないが、呆然と立っているよりも安全なはずだ。
 そんな中、阪中は愚直に俺のそばにつき、無線で連絡が取れるような状態にしていた。
本来の彼女ではないのだろうが、こう忠実なのは今ではかえってありがたい。
「鶴屋さん! 何が起きているんですか!?』
『北高に向けて何かが飛んでいっているっさ! まだまだそっちに行くよ! ハルにゃんと連絡を取りたいから、
いったん通信終了っ!』
 無線が終了して、阪中に無線機を返す。冗談じゃねえ、敵はミサイルかロケット弾か何かを
北高に向けて撃ってきているってのか!? 反則だろ! 反撃のしようがねえじゃねえか!
 さらに続けざまに2発が校舎側に直撃し、さらに一発が俺たちの目前に広がる校庭の東側に落ちた。
轟音で地面全体が振動している。
 そんな中、器用に匍匐前進で谷口が近づいてきて、
「おいキョン! このまま、ここにいたらやべえぞ!」
「言われんでもわかっているさ!」
 やばいのは重々承知だ。しかし、校舎側にも激しい攻撃――また3発が校舎に直撃した――が加えられている。
あっちに逃げても状況が変わらない上、人口密度が増えてかえって危険だ。なら、いっそのこと、
北高敷地外に出るか? いや、あわてふためいて逃げ出したところを敵に襲撃されたらひとたまりもない。
案外、学校周辺に敵が潜んでいて、俺たちが北高から飛び出すのを待っているかもな。校庭に塹壕でも
掘っておくんだったぜ。
 どうするべきかつらつら考えていていたが、ふと気がつく。さっきの校舎に直撃した3発以降、
北高に何も攻撃が加えられていない。収まったのか?
 俺は全員に伏せるように指示し――ついでに東側から敵が襲ってきたら遠慮なく撃てとも――
俺自身は校舎に小走りに向かった。
 
◇◇◇◇
 
 学校は凄惨な状況だった。学校の外壁には穴が開き、衝撃で校舎の窓ガラスがかなり割れてしまっている。
負傷者も出たようで、担がれて運ばれていく生徒もちらほらと見かけた。
 と、状況確認のためか走り回っていたハルヒが俺に気がつき、
「キョン! よかった無事だったんだ!」
「ああ、おかげさまでな。俺の部隊も全員無事だ。負傷者もない。しかし、こっちは手ひどくやられたな」
「うん……。幸い、重傷者はでていないけど、窓ガラスの破片で数人が怪我をしたわ。今、みくるちゃんが手当してる」
 朝比奈さんが看病? 当然膝枕の上だろうな? なんだか無性に負傷してきたくなったぞ。
「なに鼻の下のばしているのよ、このスケベ」
 じと目で下心を見破るハルヒ。こういうことだけはほんとに鋭い奴だ。
「で、これからどうするんだ? このままだと、またさっきの奴が飛んでくるぞ」
「わかっているわよそんなこと」
 ハルヒはあごの手を当て考え始めた。と、すぐそばを負傷した生徒が抱えられていった。
顔面に傷を負ったのか、激しい出血が迷彩服に垂れかかり、別の色に染め上げつつあった。
「状況は一変したわ。作戦の練り直しが必要だと思う」
 ハルヒが取った行動は、SOS団メンバーを集めてミーティングを開くことだった。
さすがのこいつでも一人では決めかねるらしい。独断で何でも決められるのよりは何十倍もマシだが。
のんきに部室に戻るわけにも行かず、昇降口前での緊急会議だ。
ただし、鶴屋さんだけは前線基地から動けないので、無線越しである。
さらに朝比奈さんは負傷者の救護で手一杯らしく不参加。手当を求める『男子生徒』の長蛇の列を捌いているとのこと。
絶対に負傷していない奴も混じっているだろ、それは。
「最初に前線基地が攻撃されたかと思えば、今度は遠距離からの攻撃ですか。敵もいろいろと考えているようですね」
 感心するように古泉はうなずいているが、そんな場合じゃないだろ。
さっきは十発程度で終わってくれたが、次はこれ以上かもしれない。校舎の被害は大きいが、
本当に幸いだったのは、砲弾やらなんやらが置かれているところに直撃しなかったことだ。
万一、誘爆なんていう事態になれば、どれだけの犠牲者が出たかわからん。
 さすがのハルヒもまいってしまっているのか、いつものような覇気が50%カット状態だ。
真剣に考えてくれるのはありがたいけどな。
「このままじゃまずいわね。何とか反攻作戦を練らないとね。
有希、さっきのミサイルみたいな奴がどこから撃たれたか、わかった?」
「この建物の北東に位置している北山公園の南部。屋上で周辺を監視していた人間から確認した。
ただし、具体的な場所までは不明。範囲が広いため、砲撃による反撃を行っても効果は薄い。
かりに砲撃で向こうと撃ち合っても勝てる可能性はきわめて低い」
 的確な答えを出す長門だ。宇宙人パワーを失っても、長門本人の能力は失われていないらしい。頼りになるぜ。
「なるほどね。鶴屋さん、さっきそっちを襲った連中も北山公園に逃げ込んだのよね?」
『そうにょろよっ! でも、公園の北側に逃げていったように見えたっさ!』
 ん? 鶴屋さんの言うことが本当なら、前線基地を襲った連中が学校へロケット弾やらミサイルでの
攻撃をした訳じゃないってことか?
「でも、簡単よ! 敵は北山公園にあり! だったら、こっちから出向いて北山公園全部を制圧すればいいだけのことよ!
そうすれば、さっきの奴もなくなるしね!」
 ここに来て突撃バカぶりを発揮するハルヒと来たか。しかし、間違ってはいないな。
どのみち発射地点を制圧するなり、さっきの攻撃手段をつぶすなりしないかぎり、一方的に攻撃を受け続けるだけになる。
「罠の可能性もありますね」
 唐突にそう指摘したのは古泉だ。
「鶴屋さん部隊への攻撃は非常に小規模のものでした。そして、あっさりと撤退しています。
その次に北高へのロケット弾攻撃ですが、これも十発程度で終わっています。
本気で攻撃するのならば、もっと大量に撃ち込んでくるでしょう。あきらかに北山公園に我々を呼び込もうとしています」
「最初の襲撃に関してはそうかもしれないが、ロケット弾攻撃に関しては弾が尽きただけかもしれないぞ」
 俺がそう反論する。ハルヒもうーんと同意のそぶりを見せた。ただ、古泉は、
「確かにその可能性はゼロではありません。しかし、これだけ有効な攻撃手段であるものを
序盤で使い切ってしまうのは、明らかに不自然と言えます。切り札を使い切ってしまったのですから。
無論、あれ以上の効果的な攻撃手段を保有していて、今回のロケット弾攻撃は挨拶程度のものという可能性もありますが」
 どっちなんだ。はっきりと答えろよな。
「僕が言いたいのは、誘い込むための罠という可能性があるということです。北山公園に攻め込むことを決定する前に、
考慮していても損をすることはありません」
 確かに古泉の指摘する可能性は十分にある。しかし、ここにいてもどうにもならんのも確かだ。
そうなると、ハルヒが導き出す結論は一つしかない。
「確かに古泉くんのいうことには一理あるわ。でも、このままだと攻撃を受け続けるだけだし、
そんなのおもしろくないじゃない。相手がびびっているのか知らないけど、遠く離れたところからこそこそ攻撃してくるなら、
こっちからぶっつぶしに行くだけよ!」
 ほらな。ハルヒの性格を考えれば、じっとしているわけがない。古泉もひょうひょうといつものスマイルで、
「涼宮さんがそう決定なさるのなら、僕もそれに従いますよ。上官の命令は絶対ですから」
 そうイエスマンへと転じた。ただ、こいつの指摘も無駄ではなかったらしい。
「でも、少しでも罠っぽい状況だとわかったら、即座に撤退するわ。その後は別の方法を考えましょ」
 
◇◇◇◇
 
 次の議題は北山公園攻略作戦だ。この公園は南北に2キロ程度広がる森林のようなものになっていて、
南北の中間地点のやや南側には緑化植物園があり、公園入口っぽくなっている。
「やはり、突入ポイントはこの植物園でしょう。部隊の輸送には北高敷地内にあるトラックを使うことになるので、
車両で入れる場所が理想的です。当然、敵も同じことを考えているでしょうから、植物園奪取には激戦が予想されますね」
 淡々と古泉のプランを聞いているSOS団-朝比奈さん+鶴屋さん。わざわざ敵が陣取っているような場所に
正面からつっこむのか。ハルヒが好みそうな作戦だな。
「悪くないわね。植物園を取ってしまえばこっちのもんだわ! あとはロケット弾の発射拠点を制圧して完了ってわけね!
さっすが古泉くん! 副団長なだけあるわ!」
 ハルヒの賞賛を一心に浴びて、古泉は光栄ですと答える。やれやれ、本当に突撃になりそうだ。
「で、誰の小隊が北山公園での掃討作戦に従事するんだ?」
「あんたと鶴屋さんよ」
 とんでもないことをいけしゃあしゃあと言いやがる。古泉の野郎はどうするんだよ?
「古泉くんはいざって時のために前線基地で後方待機してもらうわ。あんたたちがやばくなったら、
すぐに駆けつけられるようにね。あと、伏兵とかが学校に奇襲を仕掛けてきた場合はすぐに戻ってもらうから」
 どうしてそうなったのか聞かせてもらおうか。
「わかんないの? まず、あんたには鶴屋さんたちを襲った連中を追撃するために北山公園北部に向かってもらうわよ。
初めて遭遇した鶴屋さんがあっさりと追い払ったんだから、あんたでも大丈夫でしょ。鶴屋さんは一度だけとはいえ、
敵と戦っているわ。敵について知っているのと知らないんじゃ大違いよ。だから、南部のロケット弾発射地点に
向かってもらうわ。おそらくそこの守りが一番堅いと思うし。学校からトラックで向かうから、
途中で古泉くんと入れ替わってもらうわね。いい、鶴屋さん?」
『りょーかいりょーかいっ! 任せちゃってほしいなっ!』
「古泉くんはあんたよりも運動神経も思考能力も遙かに上よ。状況に応じて臨機応変に対応する必要のある場所にいるのが
最適だわ。あと、有希は学校に残って砲撃での支援をお願い。こっちから指示した地点に遠慮なく撃ち込んで。
古泉くん、有希、いいわね?」
「もちろん異存はありません」
「問題ない」
 あっさりと同意する二人だが、ん、ちょっとまて。
「それなら植物園には誰が陣取るんだよ。まさか、空っぽにするつもりじゃないだろうな?」
「そこにはあたし自らが行くわ。あとで、適当な人員を集めるから」
 ハルヒ総大将自らがお出ましか。だが、指揮官がそんな銃弾が飛び交う場所にいて良いわけがない。
「あのなハルヒ。以前にも言ったが、総大将がずけずけと前線に出るモンじゃないぞ。
おまえがやられちまったら、生徒たちを誰が――」
「異論は許さないわよ」
 俺の声を遮ったハルヒの言葉は、今まで聞いたことのないような鋭さだった。ただ、怒りやいらだちからくるものではない。
強烈な決意がにじみ出るようなものだ。わかったよ。おまえがそういいなら好きにしろ。
しかし、俺の中にあるこのもやもや感は何だ?
 
◇◇◇◇
 
 さて、作戦も決まったことなのでいよいよ決行だ。ハルヒ小隊の編成が終わり次第、出撃と言うことになる。
俺たちは校門に並べられた輸送トラックの前でそれを待っている。
「正直に言ってしまえば、少々不安ですね」
 突然、こんなことを言い出したのは古泉だ。おいおい、出撃直前に不安になるようなことを言い出すなよ。
「涼宮さんがあなたが敵と確実に一戦交えるような場所に送り込むとは思っていませんでした。
てっきり学校に残して後方支援をさせたり、最悪でも僕のポジションが与えられるものだと。
涼宮さんと一緒に植物園にいるならまだ納得ができますが、あなた一人をそんな場所に行かせるとはね」
「はっきりと言え。時間もないことだしな」
「涼宮さんが現状をきちんと認識しているかどうか、ひょっとしたらあのコンピュータ研とのゲーム勝負程度として
考えているのではないか、そう思っているんですよ。あなたを危険な場所に向かうように指示したと言うことは、
あなたが死んでしまうかもしれないということを考えていない証拠です。信頼といってしまえば、それまででしょうけど、
今はそんな状況ではありません。鶴屋さんが敵を撃ったときに、まるでゲームキャラクターが消えるかのようになったと
言っていましたね。あれで僕たちもそうなのかもしれないと思いましたが、先ほどのロケット弾攻撃で
負傷した生徒を見るとどうも違うようです。確実に僕たちに『死』が訪れるかもしれません」
「確かにな。そんなに甘くないことは、俺も理解しているつもりだ」
 ハルヒが今の状況をどう考えているのか。それはハルヒ自身にしかわからないことだろう。
だが、一つだけ言えることはある。
「俺がいえるのは、どんな状況であろうともハルヒは、誰かが死ぬことなんて望んでいない。
SOS団のメンバーならなおさらさ。万一、誰かが傷けられたら、ハルヒはやった奴をたこ殴りにするだろうよ」
「それはわかります。しかし――」
 俺は古泉の反論を遮って、
「さっきのおまえの言い方だと、まるでハルヒは鶴屋さんならどうなっても良いってことになっちまう。
だが、断言できるがハルヒはそんなことなんて思ってもいないだろうよ。古泉も別にかばいたくて、
一歩下がった場所に配置したんじゃない。ただそれが適切だと考えたのさ」
 ――俺はいったん話を区切って、話すことを整理する――
「ハルヒはハルヒなりに考えたんだろ。どうすれば、このくそったれな状況を乗り切られるかを。
で、結論は戦い抜いて乗り切る。そのためには、一番信頼のできるSOS団の人間をフル活用する。
どうでもいいとか、たいしたことじゃないとなんて理由で俺たちを前線に持って行こうとしているんじゃない。
それが乗り切るためにはもっとも適切だと判断したんだろうな」
 ガラにもなく古泉調の演説をしちまったが、古泉は痛く感銘したのかぱちぱちと手を叩きながら、
「すばらしいです。そこまで涼宮さんの思考をトレースできるなんて。どうです? これからは
機関への報告書作成をしてみませんか? 僕よりも適切なものが書けると思いますよ」
「全身全霊を持って断る」
 そんな疲れるものなんてこっちから願い下げだ。
「おっまたせ~!」
 と、ここで30人ばかしを引き連れたハルヒ総大将が登場――と思ったら、いつもつけている腕章が『中佐』になっている。
いきなり降格かよ。
「バカね! 前線に出るんだからそれなりに適切な階級があるってモンでしょ。大将とかってなんだかデスクの上に
ふんぞり返って命令しているようなイメージがあるし。中佐なら、映画とかなんかでも前線でドンパチやっているじゃん」
 ……まあ、それは別にかまわんけどな。
 ハルヒが編成した連中はみんなクラスもバラバラ性別もバラバラだった。
大方、その辺りを歩いていた奴を捕まえてきたんだろう。にしては、結構時間を食っていたみたいだが。
「あー、ラジカセと音楽を探していたのよ。景気づけにワルキューレの騎行でも流しながらつっこめば、
敵も混乱するんじゃないかって。でも、ラジカセはあったんだけど、肝心の音楽の方がね」
 ヘリで突入する訳じゃないんだから、別に必要ないだろ。心理作戦が通じるような相手でもなさそうだし。
 ふと、気がつくと朝比奈さんと長門も校門前にやってきていた。おお、朝比奈さんに見送っていただけるとは光栄ですよ。
「古泉くん……どうか気をつけてね」
 朝比奈さんのありがたいお言葉に古泉はいつものスマイルだけ返していた。まったく価値のわからない奴である。
「キョンくんも気をつけてね。無事に帰ってきてくださいね」
「ええ、がんばってきます」
 と、そこに長門が割り込むように、俺をじっと見つめ始める。表情は相変わらずだったが、漂うオーラみたいなものは
はっきりと感じ取れた。
「心配すんな、長門。なるようになるさ。支援よろしくな」
 長門は俺の言葉にこくりとうなずく。やっぱり、親玉とのつながりをたたれて不安になっているのだろうか。
ややいつもと違う雰囲気を醸し出している。
「こらキョン!」
 せっかくこれから戦地に向かう兵士が見送りをさせられる気分を味わっていたのに、それをぶっ壊したのはハルヒだ。
「なにやってんのよ! まさか、有希やみくるちゃんに『帰ってきたら~』とか言ったんじゃないでしょうね!
それはばりばり死亡フラグなのよ! いい? あんたはあたしの下でビシバシ働いてもらうんだからね!
勝手に死んだりしたら絶対に許さないんだから!」
 言っていることがよくわからん。もっとわかりやすく説明してくれ。
「要約すると、とっととトラックに乗りなさい! 出撃するわよ!」
 やれやれ、なんてわがままな中佐殿だ。
 まあ、出征前モードはここで終了だ。俺は大型トラックに自分の小隊を乗せるように指示し、
俺もそれに飛び乗る。いよいよか。しかし、ちっとも緊張しない上に、慣れた感覚に頭が満たされるのは、
相当俺の頭の中をいじくられていることの証拠だろう。当然、戦地に向かうってのに、
まるで何も反応を示さない俺の小隊もだ。おびえた表情を浮かべる谷口をのぞいてだけどな。
「よーし、出撃! 一気に北山公園に突入するわよ!」
 ハルヒの威勢の良い声とともに、北山公園に向けトラックが発進した――
 
◇◇◇◇
 
 この時、俺はハルヒは状況を理解していて、これからどんなことが起きるのかもわかっていると思っていた。
だが、それは間違い――いや、正確にはハルヒは理解していたのかもしれない。間違っていたのは、
俺自身の認識だったんだ。ハルヒがどう思っているか勘ぐる資格なんてないほどにな。
 
~~その2へ~~

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