俺は思わず声を出していた。
まだハルヒの髪が長かった頃、谷口が言った言葉。
『告られて断るってことをしないんだよあいつは』
謎解けたぜ。
その言葉を思い出してモヤモヤはすっかり消え失せたが、フィルターがなくなった分胸の重石は存在感を増しやがった。
つまりだ。
俺はハルヒがこの前例によって断らないんじゃないかと不安に思っているのだ。
まあ中学生時は遅かれ早かれ全員振ったそうだから、今回もその可能性が高い。
だが、一時期でもハルヒが他の男とオツキアイするのかと想像しただけで軽い絶望を感じた。ハルヒに『YES』と答えてほしくない。
あのじゃじゃ馬の手綱を引いていってくれることを誰が望んでた?俺だろ?ならこの状況を潔く受け止めろよ俺。
しかし理屈でわかっていても心の片隅で、今にもハルヒに『断れ』と電話をしたくて仕方ない俺がいる。
現に携帯を持つ手が今にもハルヒの番号を引き出しそうだ。
俺はハルヒが誰かのものになるのは嫌なのだ。これはもう認めざるを得ない。
俺は自分に問う。
『ハルヒが好きか?』
YESだ。それは断言しよう。ただし「友人として」という名目がつくがな。
じゃあ恋愛対象としてハルヒをどう思っているかと言われても、答えを出すための確信めいたものが今ここにはない。
なんとも中途半端だな、おい。古泉の言っていた『一定の範囲内』とはこのことか。
そのくせハルヒには是非とも断ってほしいと願っている。子供の駄々じゃあるまいし。
しかし俺自身が『自分で考えろ』と言った手前、それを進言するのは憚られた。
と言うより俺にできることはほとんど制限されてしまっていた。もうハルヒの出した結論にすべてを委ねるしかない。
俺にとってハルヒの答えイコール判決なのだ。今の俺は差し詰め判決が下るのを待つ被告人だな。
ああ、鈍いとこういうしっぺ返しがついてまわるのか。今更気付いても遅いんだが。
――続く