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画板に絵の具やその他などのある文芸部室。
俺は部室でコンクールに出品するための作品を描くことにした。学校内で一番落ち着く場所、ここ以外で作業するのは何かと気が重いからな。
しかしながら何を描こうか。テーマは《光》だそうだ。
……なんだよ《光》って。何を描けってんだ。太陽か?それとも電球でも描くか?
などとおどけてみたが、描くものは決めていた。
俺にとっての《光》、ハルヒを描くと。窓際に座らせて陽光に照らされるハルヒというイメージができている。
そんなわけでいい感じに陽が降り注いでいるこの時間に終わらせることにした。
準備を終えた部室にハルヒが入ってくる。ちなみに今日は他の連中は気を使ってくれたのか、部室に来ないと言っていた。
「なんか……いつもの部室と違うわね」
いろんな物を移動させてるから当然だ。いつもと変わらないのは長門の定位置くらいか?
「まぁいいわ。あたしはどこに座ればいいの?」
その長門の定位置を示した。窓から差し込む陽で明るくなっているその場所を。
「ここあったかいわね……寝ててもいい?」
「好きにしていいぞ、座ってさえいれば問題ない」
冗談っぽく言ったハルヒに俺はそう答えて、下描きを始めた。
適当な雑誌に目を落としているハルヒを、陽の光の明るさをだしながら下描きを仕上げていく。
細部にまで目を通し、充分にハルヒらしさが出ていることを確認すると鉛筆を筆に持ち替えた。
今回は色をつけなければならないので、少し大きめのパレットに幾つかの色を落としていく。
「ちゃんと色は混ぜてから作った色を使うのよ!そっちの方が本物っぽく見えるからねっ!」

とか笑顔でアドバイスをくれるハルヒに笑顔で答えながら大まかな色塗りを進めていく。
……と、そこで問題発生。
制服の色の感じと、窓から差し込む光の色の感じがどうもイメージが湧かない。
青、緑、黄色、白……。様々な色を混ぜ合わせてもどうしても上手く合わない。
「あ~、くそっ!ハルヒ……悪い、休憩取ろうぜ」
やはり自分の本能には逆らえないもので、最初は適当でいいと思っていた提出作品もいつの間にか真面目に取り組んでいた自分がいた。
俺は筆だけを置き、パレットを左手につけたまま自分で淹れた茶を飲んだ。
ぬるい、不味い。こんなんじゃ色のイメージすらできやしねぇ。
その時、俺の背中に柔らかくあったかい物が当たった。そして左手にあるパレットに当たる手は、一つ増えていた。
背中側からハルヒに抱かれていた。パレットと、右手を支えられるような形で。
「ちょっ……おい!何してんだよ!」
「そんなにイライラしながら描くんならやめてもいいのよ?あたしもそんな顔で描かれても全然うれしくないし」
顔にも態度にも上手くいかないイライラが出ていたらしい。自分の顔に意識を集中させると……なるほど。言われた通り険しい表情になっていた。
「もし、あんたが元のイキイキとした顔で描くってんなら……ほら、こうやって手伝ってあげるから」
ハルヒが筆を取ってパレット上で色を混ぜると、俺のイメージぴったりの色が出来上がった。
俺は振り向いてハルヒを見上げると、『ね?』と言わんばかりの顔で俺に向かって笑顔を飛ばした。
……やれやれ、こいつにはかなわないな。
俺は気を取り直して再びハルヒを窓際に座らせて一人で作業を再開した。
中断する前のような感じはなく、楽しく作業をすることが出来て、イメージもどんどん湧いてきた。
久しぶりに描く面白さに浸ることができ、俺は自己満足のためだけに筆を走らせた。


「よしっ!終わりだ。ハルヒ、お疲れさん」
白い陽光が赤色に変わる頃に俺は描き上げた。
とりあえず教師に提出して、道具を片付けないといけないので、ハルヒに先に帰るように伝えた。

「あたしは美術室に大きい荷物を持ってってあげるから。あんたは提出した後は細かい道具片付けなさい」
ハルヒはそう言うと、まとめていろいろな物を持って部室を去った。
「勝手な奴だな……ありがとうな」
誰もいない部室に一人呟いてから美術教師の所へと作品を提出しに行った。
いろいろと話を聞かされるのもだるいから、俺は提出を済ますとすぐに職員室を去り、部室の小さい道具の片付けに取り掛かった。
水で筆を洗い、他の道具も洗って残るはパレットだけ。
……そのパレットを見て、俺は洗わずに保管しておくことを決めた。
ハルヒが俺のためだけに作ってくれた色が中心に残っていて、どうしても洗い流したくないという気持ちになっていた。
パレットをそのままに、洗った道具を持って部室に戻るとハルヒは座っていた。
「遅い。早くしないと罰金よ!」
不機嫌そうな顔をしながら、どこかうれしそうで、それでも俺を待っていてくれたハルヒを背中から抱き締めた。
「ちょっと……な、何してんのよ!?」
「今日は……ありがとな」
簡単に礼を言い、さらに続けて思いのたけをぶつけた。
「ハルヒ、やっぱ俺お前のこと好きだ。……付き合ってほしい」
返事を聞く前にこっちを座ったまま振り向いているハルヒにキスをした。
赤い、夕焼けのようなハルヒの唇はとても柔らかく、安心できるあたたかさだった。
「……バカ、まだ返事してないじゃない。それに……順序が逆よ」
アヒル口を作り俺を見上げてくる。俺は考えるよりも先に行動していたからしょうがない。
「……あたしも、好き。うん、付き合うわよ」
返事が返って来た後、俺はもう一度キスをした。
強く抱き締めて、今まで抑えていた気持ちを出し尽くすように何度も何度も口付けた。

「んもう……ほら、早く帰るわよっ!ちゃんと送ってよね?」
颯爽と部室を出ていくハルヒに追いつき、手を握った。
俺達は二人で手を強く繋ぎながらパレットの上では作れそうにない神秘的な夕焼けの中を帰って行った……。


その後のことを少し。
俺の描いた絵は特選にはならなかったものの、特別賞とやらに選ばれたらしい。
特に大騒ぎするような物でもなかったが、例によってハルヒ企画でのパーティーをすることになった。
みんなで飯を食って、ゲームをしたりするだけのパーティーだが、俺にはこんなのがとてもうれしかった。
それから、ハルヒとのデートでは絵を描くことが多かった。俺に絵を描いてもらうのはとても幸せを感じられるのだという……よくわからん。
ともかく、俺はいつもと変わらない日常に戻り、それに対応していた。
ただ一つ違うもの、ハルヒとの交際だけを俺は特別扱いして過ごそうと思う。
俺のパレットに未だに残り続けるあの色のような特別扱いにな。


おわり
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