疲れた…とにかく疲れた。もうそれしか言いたくないってくらいに。

古泉と話を終える頃には、まもなく午後の部も終わろうとしていた。
長門を探し出し集合場所に戻ると、団長様はすぐに本日解散を言い渡し
さっさと帰ってしまった。

あれからハルヒとは、一言もしゃべっていない……。

それにしても、今日は考える事が多すぎた、なんだか頭が痛い。
知恵熱だろうか?顔もなんだか熱い。

俺は、まっすぐ家に帰って寝ることにした。──気分が、重い。

次の日。昨日とかわらず、いやむしろひどくなっちまってるか、頭が痛い。
「キョンく~~んっ!! あっさだよっ!」 
俺を起こしに来た妹の声が、いつにも増してでかく聞こえやがる。
そのまま身体にボディプレスをかけてきた妹に

「ええい、あっちにいけ。身体がだるいんだ」
「そうなの? 大丈夫?」

俺は、親に体温計を持ってきてもらうようにと、妹にことづけた。
トントンと階段から親があがってくる音がする。この音ですら今はイラっときてしまう。
熱を測ってみた。39.3分……マジかよ。

「あんた、今日は学校休みなさい」
わかった、そうさせてもらう。
「薬飲んで寝てなさいね」
「キョンくんいつ元気になるの??」

妹が心配そうに聞いてきた。
そうだな、すぐよくなるさ。だから俺の部屋に入ってくるんじゃないぞ?
風邪がうつるからな。
「うん…」
少し寂しそうな顔をしながら、妹は部屋を出て行った。しょうがないだろ?

親が持ってきたりんごをひと切れ、口に入れてみた。──全然味しねぇな。
薬を飲んでさっさと寝ることにした。

もし今学校にいたら、ちょうど1限が終わった頃だろうか?
けたたましい音が俺の部屋中に鳴り響いた。

くそ、携帯電話め、相変わらず俺の都合と関係なく鳴り続けやがって。
マナーモードにしておけばよかった、ってもう遅いが。
相手が誰か画面を見るのも面倒なので、直接電話を取る。

「なにやってんのよ、バカ」
ハルヒか……ああ、すまん、風邪ひいちまった。今日は休む。
「すごい声ねぇ、けっこうひどいの?」
朝、体温は39.3分だった。薬飲んだから今はどうなのかわからんが。
「わかった」
そう言うとさっさと電話を切ってしまった。

やれやれ、お大事にの一言くらいあってもいいんじゃないかね?
身体の調子は相変わらず悪い。俺はまた寝ることにした。


今日はいったい何時間寝たのだろうか?目覚めるともう、外は夕方だった。
人の気配がする。誰だ?母親か?

身体を反転して、部屋の中を見る。
「どう? 気分は?」
そいつの正体は、俺の予想した相手ではなかったっ!

「ハルヒ? なにやってんだお前!?」
「様子を見にきてあげたんじゃない」

一瞬だけハルヒから目を外し、俺は周りを見渡した。他には誰もいない。
「なんでお前だけなんだよ、他のヤツらは?」
「……」
ハルヒは無言で、少し考える顔をしたが、すぐに、はっと閃いたような顔になり

「病人の家に、毎日大勢で押しかけるもんじゃないだろう?」
──なるほど俺の真似か、言っておくが全然似てないからな。

俺が何も言わなくなったのを承諾と取ったのか、
ハルヒはタオルと俺の着替えを俺に差し出し、ちょっと待て、着替えだと?

「あんた汗だくじゃない。そんなんじゃ風邪なんて治らないわよ。
さっさと身体拭いて着替えなさいよ」

今何かハルヒが言ったようだが、悪いが何も聞こえていなかった。
なぜかって?
当たり前だが着替えってのは俺のタンスから出さなきゃいけないわけで。
そこには俺の大事な……その……わかるだろ?男の部屋にはどこにでもあるだろ?

誰が出したんだ?ハルヒか?

「なにやってんのよ、早く受け取りなさいよっ!」

──この態度をみていると、どうやらハルヒではないらしい、しかし、ということは
  親に見られたことになるのか……。普通に会話、できるだろうか?

「ああ、わかった」
考えていても仕方がないので、言うとおりにすることにした。身体を拭こうと服を脱ぎ始めると
「ちょっ!! ちょっと!!」

ハルヒは慌ててドアのほうに走って行き、外に出てドアを閉めた。

「脱ぐなら脱ぐって言いなさいよっ! エロキョン!」

そういえばそうだった。俺の気配りが足りなかったな、すまん。

「それから」
ん?なんだ?
「タンスの中のアレは全部捨てるからね」

終わった……さよなら、さよなら。俺のコレクション達よ……
せっかくだからもう1度言っておこう、さよなら。

「ホントどうしようもないわね、このエロキョンは」

着替え終わり、部屋に入ってきたハルヒは、そう言って俺をジト目で睨んできた。

「風邪ひいて弱ってるんだぞ、もう勘弁してくれ」
と言う俺の言葉になんのリアクションもしないまま、軽蔑の眼差しを向け続けてくる。

こういうときは話題を替えるしかない。

そういえば、俺の親と妹はどこだ?
俺がいるし、ハルヒもいるってのに、何一つリアクションもないのも少し寂しい気がする。

「お昼頃に、お隣さんの家の人の誰かにご不幸があったみたいよ。
今手伝いで、そっちに行っちゃってるわ。妹ちゃんも一緒にね。
で、たまたま来たあたしにあんたのことを頼んで行ったってわけ」

なにがたまたまだ。とは心の中でしか言わないのはお約束だ。

「明日はお葬式だってさ、手伝わなきゃいけないからあんたの世話もあんまりできないって」
「そうか、まいったな……今日中に治ればいいんだが」

「いいわよ、明日も学校終わったら来てあげるわ。もう頼まれちゃってるし」
……マジか
「ええ、別に気にしないでいいわ。
団員の健康管理も団長の仕事なんだからね?わかったら熱測りなさい」

体温計を口元に突き出され、あわてて咥える。やれやれ、もっと優しく扱ってほしいもんだ。


──体温計がピピピとなる。……38.8分だった。
「全然だめじゃない」
そんな事は風邪のウィルスに言ってくれ。
「しょうがないわね……なにか食べたいものは?」
ない、なにもない。
「ちょっとは考えなさいよっ! そんなんじゃだめでしょうが!
──ちょっと待ってなさい」

そういうとハルヒは部屋を出て下に降りて行った。

15分後、部屋に再度入って来たハルヒの手には、小さなお椀とスプーンがあった。
「ほら、少しでも食べなさい」
そのセリフ、そのお椀の中のお粥をスプーンにのせて、俺の口元に持って行きながら言ってくれ。
「バカな事言ってないで、さっさと食べなさい」

しぶしぶ手にする俺。なんだかんだでハルヒはいつもより少し優しいな。
……なんかモヤモヤする。前回よりそれが大きくなっている気がする。

「なにじっとあたしの顔見てるのよ」
「──ありがとな、ハルヒ」
「ふっ、ふんっ!この分はきっちり恩返ししてもらうからねっ!」


「なぁ、ハルヒ」
「なによ」
「ついでに1つ頼んでいいか?」
「まだ何かあるの??」
「来週、俺のジャケット買うの、一緒に行ってくれないか?」
「なっ!……またいきなり、ね」
「だめか?」

「……いいわよ、そのかわり、遅刻するんじゃないわよ」

言いにくかったが、なんとか言えた。
ハルヒ特製のお粥を全部食べ(当然、強制だったが)、薬を飲む。
「それじゃ薬も飲んだことだし、もう寝なさい」
なんか既視感。
そうだ、それはこの間、俺が長門に言ったセリフか。

「わかった」
「それじゃ、また明日。お大事にね、キョン」
「ああ」

そう告げると、部屋から出て行った。



風邪をひいているというのに、俺の心は、
ハルヒと来週約束ができたという事に、とても、満足感を感じていた。



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