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「キョン君おかえり~~!」

玄関を開けると、台所から妹が出迎えてくれた。
いい匂いがする。今日の晩飯は寄せ鍋か?

「そうだよ~、だからキョン君を待ってたの」
やれやれ、それは悪かったな、妹よ。
「ねぇねぇ、どこに行ってたの~?」

俺からの返事が楽しみでしょうがない、と言った表情で尋ねてきた。
ちょっとみんなと遊んでただけだ。
「ホントにぃ~?」
ちょっとスネた顔になった。安心しろ、どっか行く時はお前に言うから。
「やったーー!約束ねっ!」

そう言うと、俺との会話に満足したのか、再び台所に消えた。
明日も早いので、飯を食って風呂入ってさっさと寝ることにする。
まるで疲れたサラリーマンの如く、メシ、フロ、ネルを実行した。

───静かな俺の部屋に、けたたましい音が鳴り響く。慌てて飛び起きて音の原因を探す。
犯人は携帯電話。誰か知らんが何考えてるんだ?もう夜の11時だぞ?
誰からだ?涼宮ハルヒ…。なんというか、ある意味予想通りだが。

なんだ?どうした?
「明日はあたし、用事あるから」

相変わらずあいさつもなく、用件からか。
なんで俺にそれをいきなり報告するんだ?
「はぁ?今度ジャケット買いに行くってあんたが言ったんでしょうが!!」

言葉の頭にお金が足りないから、ってのが抜けてるな。ハルヒ。
それに今度にしましょうって言ったのはお前だった気がする。
言うと面倒だから口には出さんがな。

先週3つも買ったばかりだぞ?明日なんて行けるわけないだろ。

「まったくしょうがないわねぇ。お小遣いはもっと節約しなさいよ」

…俺の小遣いがすぐなくなる原因についてなら、今すぐ小一時間は語れそうな気がする。

「来月、お小遣いもらったらすぐにあたしに言うこと。いいわね?」
もうこの時点で、来月の使い道が決定されてしまったわけだが。続けて
「言わないと、死刑」
へいへい…わかりましたよ。


「それじゃ、明後日遅刻するんじゃないわよ」
「わかったよ、それじゃまたな」
なんだか説教をうけているような気分になったので
そう言ってさっさと電話を切り、俺はそのまま瞼を閉じた。


次の日の朝。長門の家に行こうと玄関を出ると、俺の自転車がない。
親が乗ってどこかへ出かけてしまったようだ、くそ、使うなら一言くらいあってもいいだろう。

というわけで、徒歩で向かった。
ああ、もちろん家を出る前に電話したってのを付け加えておく。

インターホンを鳴らすと、ファー付きのオレンジ色ジャケット、紺のデニムスカートに
身を包んだ長門が出てきた。

───病人だと言うのに、そんなオシャレしなくてもいいんじゃないかね?
まぁそのへんは男の俺にはよくわからんし、いちいち突っ込んだりはしないが。

顔色は…やはりというか、良くはなかった。

「よぉ、具合はどうだ?」
「…大丈夫」
「そうか。それじゃあ熱は…」長門の額を触る。相変わらず熱い。
「あんまり昨日と変わってないな、それじゃあ行くぞ。ちゃんと歩けるか?」
「わからない。やってみる」

エレベーターに先に乗り、1のボタンを押す。
なんともなしに
「その服、似合ってるな。制服姿より、そっちのほうがいいと思うぞ」
「そう」
とだけ言うと長門は下を向いてしまった。風邪ひいて辛い時に言う事でもなかったか。


横並びで歩く。病院までは10分程度の距離といったところだ。
最初はフラフラと頑張っていたようだが、やはり体力を使うらしく、
歩くスピードがどんどん落ちていった。

「ほら、つかまれ」
手を出すと、長門は両手でつかんできた。
下を向いているので、その表情はわからない。

ハタから見ると、少しヘンテコな2人に見えるかもしれないが、1人は病人なのだ、仕方がない。
…唇がなにやら動いているように見えたが、独り言か?

「無理はするなよ?辛かったら言えよ?」
コクンとだけ頷くと、俺の手を持ったまま、ゆっくりと歩き出した。

長門の名前が看護婦さん(今は看護士さんと言うんだったか?)に呼ばれて20分程経っただろうか。
俺は待合室で、置いてあった雑誌を読んでいた。
ガラガラガラ、という音とともに、診察室から灰色ショートカットが出てきたのに気づく。
本人曰く、検査をして、点滴を打ってもらったそうだ。

「長門さーん、長門有希さーん」

受付のお姉さんが早速呼んでいる。薬の説明を一通り話した後、お姉さんは俺に笑顔を向けこう言った。

「彼氏さんですか?彼女、朝から何も食べてないようだから、一口でも何か食べさせてあげてね。
あとは薬を飲んで安静にしてれば大丈夫だから」

いえあの…彼氏とかそういうのではn

「それじゃあお大事にね」
俺の話を聞こうともせず、受付お姉さんは変わらぬ営業スマイルでそう言うと、次の人の名前を呼んだ。
うーむ、そう見えてしまうのかねぇ?
長門はただ、何も言わず、また下を向いていた。


病院を出る。点滴を打ってもらったとはいえ、
今日は安静にしていた方がいいだろう。それじゃ帰るか。

「帰りに、食料を買う」
「そうだな。イチゴとか、リンゴなんてのは食べやすいかもな。あとポカリは必需品だ。」
「わかった」

そう言うと、病院まで来た時と同じように、俺の手をつかむ。

今度は片手で。


───あれ?これって、あの…

ま、まぁいいか?

正直少し恥ずかしかったが、こんな事で病人を突き放すほど俺の心は荒んでいない。
嬉しいくせにって?

いや、そういうのは、なんだ。わからん。わからんし、こういうときは違うだろ?

というわけで、そのまま俺達は歩き出した。
ゆっくり歩く、長門の歩調に合わせて。

長門の家に着いたのは、時計の長針短針が共に「1」を指している頃だった。

どちらからともなく手を離す。いや、買い物中もさすがに繋いでなかったが。
長門は終始無表情だった…と思う、帰り道、俺はあまりコイツの顔を見ていなかったらしい。

「早速お前、何か食っとけ。んで薬飲んで寝たほうがいいぞ?」
「そう」
「イチゴでいいか?軽く洗ってきてやるから待ってろ」
「…ありがとう」

台所にあった皿を勝手に出し、ある程度の量を盛って居間に戻る。
皿の上のひとつを手に取り、ヘタをきれいに取ってやってから、

「ほらよ」

とテーブルの前でちょこんと座っていた長門に、イチゴを渡そうとする。
差し出した俺の手をしばし見つめていたようだが、手に取り、ゆっくり食べ始めた。

…結局長門は3つしか食べなかった!
やれやれ。いつもの食欲も、天下の万病の元様には勝なかったようで。

すぐに薬を飲ませ、部屋着姿になった長門を布団に寝かせた。
───断っておくが、着替えてる間、俺は外に出ていたからな。

さて、長門はこれから寝る事だし、俺はそろそろ帰るとするか。
顔色も、点滴と薬の効果なのか、朝に比べてだいぶよくなっているように見える。

もちろん、その薬が切れればまた苦しくなるのは言うまでもないが。

「それじゃお前が寝たら、おr」
「帰る?」
…宇宙人ってのは俺の思考も読めるのか?

「ああ。年頃の男が夜遅くまで、若い女と1つ屋根の下で一緒にいるってのも
問題があるからな」

2mmほど、よくわからないといった表情をする。俺は続けて
「それにしても、長門でも風邪をひくことがあるんだな。意外だったよ」
「…」

5秒ほど俺の目を見続け、何も言わず寝返りをし、俺に背中を向けた。
ん?なんかマズい事言ったか?俺?

そのまま15分程経っただろうか、長門は静かに寝息を立て始めた。
俺は買ってきた食料を冷蔵庫に入れ、できるだけ音を立てないようにして
長門の家を後にした。

長門の寝顔は、ほんの少しだけ、寂しそうな、申し訳なさそうな、そんな顔だった。


まだ、太陽が西に傾きかけているくらいの時刻だったが、
俺はまっすぐ家に帰った。
たまには家でごろごろしながら読書ってのも悪くはないだろう?
まったりとした時間をすごしながら、俺は床についた。

日曜日の朝。
今日は不思議探索の日である。

───駅前の集合場所に着いてから、俺は驚いた。
集合に一番遅かったのが俺であったのはいつもの事なのだが、
なんと長門が来ていたのだ。
昨日の風邪など最初からひいていなかったかのように、平然とした顔で本を読んでいる。

「お前、大丈夫なのか?」
「問題ない」

風邪ってこんなに急に治るもんだったか?俺が思考していると

「遅いわよ」
朝からハルヒはなぜか不機嫌だった。やれやれ、いきなりわからない事だらけだな。

いつもの喫茶店で、楊枝を引く。午前の部は、俺とハルヒの2人となった。
組み合わせが決まると、伝票を俺に渡し、さっさと外に出てしまった。

支払いを終え、俺達は3人と別の方向に歩き出した。

ハルヒは俺の前をすたすたと歩く。
喫茶店にいた時からそうだったが、ずっと何かを考えているかのようだった。
いつもと比べて口数も少ない。

おいおいどこに行くんだ?まぁ行き先を言わないのはいつもの事だが。
ハルヒは、前を向いたまま歩を進めつつ、

「あんたさぁ」

俺の問いには答えず、間をおいてこう言った。

「───昨日、有希となにしてたの??」


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