お茶を飲み終わると、さっそく昼飯とパフェを食べに、家の近くにあるレストランに行く事になった。
外に出るとまだまだ冷たい風が吹いている。
1時間だけでいいから、今この瞬間からいきなり夏にならんかね?
夏になったら逆の事を考えてしまうわけだが。

妹は家からずっとハルヒと手を繋いで俺の前を2人で歩いている。
ハルヒは妹のマシンガントークを一身に受けていた。
お互い笑顔で会話している様子は、仲の良い姉妹に見えなくもない。

「おとといねー、クラスの男の子から、好きだって言われちゃったー」
「へーそうなの?カッコイイ子?」

ちょっと待てお二人さん、今ものすごい会話をしてないか?
妹よ、そんなこと、兄の俺には一言も言わなかったじゃないか!!ちくしょう。
もしかしたらもう付き合ってるとか?いかんいかん!!そんなことは兄として断じて認めんぞ!!
それにしても最近の小学生はマセていやがる!!

「うーん、たぶんかっこいいんじゃないかなぁ?」
「それで?どうしたの??」

興味津々ですなぁハルヒさん。ちょっと目が輝いてますよ。
恋なんて精神病とか言っておきながら。

「え~と、あたしそういうのよくわかんないって答えちゃった」

よくやった我が妹よ!今日はジャンボパフェでも文句言わないでおいてやるぞ。

「そっかぁ、そうよねー」
「それにね?あたしはその男の子よりも、キョン君やハルにゃんのほうが好きだもん」

なんとまぁ子供らしい結論だね。

「だからね?これからもいっぱい遊んでね?これからもずっと、一緒にいてね?ハルにゃん?」

───要するに、今度もどっか行く時は仲間はずれにしないで自分も連れて行けってことか。
対してハルヒは目を丸くしながら

「そ、そうね、また今度も、遊びましょうねっ」

そう言って俺のほうをちらりと見てすぐにまた逸らした。
俺は何も聞いていなかったようなフリをした、特に意味はない。

レストランに着くと、ハルヒはお冷を持ってきたウェイトレスさんに
そのまま昼飯3人前、ドリンク3人前、パフェ2人前を注文した。
ちなみに席は、ハルヒと妹が隣同士に座り、俺は2人の正面だ。

それにしても、こんなくそ寒い時期に平気な顔してパフェ頼んでる人は
世の中探してもなかなかいないと思うね。
昼飯を食った後、運ばれてきたパフェを見る他の客達の目線が痛い。
言うまでもないかもしれないが、そう感じているのは俺だけだがな…。


「お昼からね、ミヨちゃんと遊ぶ約束してるの」
大きく口を空けてアイスクリームの部分を食べながら、妹はそう言った。

「だから、これ食べ終わったら、そのままミヨちゃんの家に行くねー」
「あちらさんの親に迷惑かけるんじゃないぞ」
「うん、わかった」

俺達の会話を黙って聞いていたハルヒは、はっと何か気づくような顔をした。
さっきのチラ見といい、今日のハルヒは少しおかしい。
どうした?何か用事でも思い出したか?

「ううん、な、なんでもないわよ」

ひょっとしてなにか企んででもいるのか?
よくわからん。

「それじゃあ妹ちゃん、またね」
レストランの入口で妹を見送った後、ハルヒは不敵な笑みを俺に向け
「さぁ、行くわよ」
そう言って歩きだしたハルヒはもう、いつもの調子に戻っていた。


やれやれ、買い物ってのがこんなに疲れるものだとは思わなかったね。
服を買うのに店を5件も回ったのは初めてだ。

あれから終始ご機嫌だったハルヒが結局俺用にと選んだのは、黒に襟元だけ灰色の入ったVネック長袖Tシャツ、
白のコットンニット、紺色のデニムの3アイテムだった。

「ジャケットは高いからね、また今度にしましょう」
ハルヒよ、そんな事言われる前に、すでに俺の財布には夏目さんすらほとんど残ってないんだが。
何も言わないのを、肯定と受け取ったのか

「まぁ、それならあんたの冴えない外見を、ちょっとは引き立ててくれるわよ」

くそっ、確かに感謝はしているが、一言余計だな。

その後もひたすら街を歩いた。
本屋で怪奇現象や幽霊なんかが載ってる雑誌を嬉しそうに俺に見せてきたり、
ゲーセンで自分の気に入った人形を、取れるまでチャレンジさせたり。

荷物だらけになった俺達…と言っても全部俺が持ってるんだが、
晩飯を食べて一旦俺の家に帰ることにした。


どこで食べようかハルヒと話しながら街を歩いていると、ふと、見覚えのある後ろ姿を捕らえた。
小柄で髪の毛が灰色のショートカット。ここまで言えばおわかりだろう?


「よぉ、長門」
「有希、こんな所でなにしてんの?」
後ろから声をかけた。振り向いた長門は驚く様子もなく
「…図書館」
「の割には、今日は私服なんだな」

そうなのだ。長門は今、いつものセーラー服ではない。
オレンジ色のタートルネックに水色のジャケット、下は白いスカートを履いている。
俺の受けた印象としては、魅せ過ぎず、地味過ぎずって感じだな。

「…………」

沈黙の中に沈んだ長門は、無表情のまま俺の目をずっと見ていた。
無言のプレッシャーを感じる。…な、なんか俺怒らせるような事言ったか?
こういう時は話を逸らして様子を見よう。

「俺達これから晩飯を食いに行くんだが、よかったら一緒にどうだ?」

長門がコクンと頷いた途端、感じていたプレッシャーがなくなったような気がした。


結局晩飯は、ハルヒが食べたいと言い出したパスタとなり、
俺は2人の大食い選手権を見ながら、母親への小遣い前借りの言い訳をひたすら考えていた。

店を去り際、ハルヒがお手洗いに行き、待ち時間に長門と何を話そうか迷っていると、不意に

「今日は、不思議探索の日ではなかった」
「ああ、そうだが」
「でも、あなたは今日涼宮ハルヒと一緒にいた」
ん?どうした長門?

「何故?」

何故ってお前………。
コイツが俺に質問なんぞしてくるなんて珍しい事もあるもんだ。

「ウチの親とハルヒの親が仲良くなっちまってな、俺達は俺の家で留守番してたんだが
暇だから外に出て遊んでたってわけだ」

「そう」

会話が途切れる。そうだ、ちょっと聞いてみたいことがあった。
今週三者面談だったが、どうやって乗り切ったんだ?

目だけをこっちに向けて

「情報操作」
まぁだいたいわかってはいたけどな。
「問題ない」

そういうと目線を逸らした。
…なんかそっけない感じがするのは気のせいか?

「ごめーん、おっまたせー」

ハルヒが戻って来たので会話は終了。
その後の帰り道、あくまで無表情だが、ずっとなにか考えこんでいるような、
俺でもよくわからない顔をした長門をマンションまで送り、やっとのことで家に着く。外はすっかり暗くなっている。

「ハルにゃんおかえりー!」
妹は、まぁ当たり前ではあるが、もう帰ってきていた。言うやいなやハルヒの足にからみつく。
なぁ、俺にはおかえりがないってのはなぜなんだ?
「ハルにゃんのお母さん、もう帰っちゃったよ?」
「え?そうなの?」
「うん。ウチで待ってたんだけどね、暗くなる前に帰っちゃった」

今の時代、携帯電話って便利な物があるんだがな。
電話のひとつもしないってのは、ハルヒママはああ見えて放任主義なのか?

「そう、じゃああたしも帰るわね」
「ああ、すっかり遅くなっちまったが、気をつけてな」

「何言ってんのあんた。もう外は真っ暗だし、家まで送ってってあげなさい」

妹の後ろからエプロン姿で現れた俺の母親がそう言った。
まぁ当然か。
そういうわけでお供しますよ?団長様?

「あっそ、好きにしたら?」
ジト目で俺をにらみつつ、玄関を出た。


やれやれ、それでは参るとしましょうか。



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