第1章-1 unknown encounter
雀の鳴き声が聞こえる、さわやかな朝。今年は異常気象のせいか、さっさと梅雨が明け、本格的な夏が近づきつつあるようで、日中はとてつもなく暑くなっている。だが、さすがの太陽も朝は苦手のようで、空気がひんやりとしてなんとも気持ちがいい。ちょうどいい気温で、ベッドから起きるのがもったいないが、そうもいかないな。 さて、そろそろ起きるとするか。朝飯を食うため、リビングに向かった。朝飯にパンを焼いてジャムを塗り、何気なくテレビを付けてみる。すると、
「あれ?」
何だ?どこの地名かわからないような天気予報が流れていた。全国版か何かと思ってチャンネルを変えたのだが、どこのニュースも同じ地方の天気予報ばかり流している。どうやら、テレビが異常気象を引き起こしてしまったようだ。
窓越しに外を見ると、日差しが照っている。こりゃ、雨はないなと思い、当てにならない天気予報のチャンネルを変え、朝の情報発信番組を見ることにした。 北高の制服は、男はブレザーなのだが、女はセーラー服となっている。普通統一するのではないかと思うのだが、校長の好みの問題だろう。俺はどっちでもいい。 制服に着替え、家でだらだらとしていると、いつも通り「お待たせー、行くわよ」とナツキの声が響いた。さて、行く……
「……」 開いた口が塞がらないとは、この事だ。俺が家の外に出たところ、とんでもない光景が目に映った。説明したと思うが、俺は田舎町に住んでいて、1日に数本しかないバスに乗って学校に行っていた。しかし、家の外に出てみると、どでかいマンションや、豪華な家が建ち並んでいた。要するに、田舎から都会になっていたのだ。目をこすってみるが、目の前の風景は変わらない。「ナツキ、これはどういうドッキリだ?」「何が?」ナツキはきょとんとして聞いてくる。何でこんなに都会になってるんだ?あり得ないだろ?「馬鹿じゃない。そっか、寝ぼけてるのね」 ナツキはずかずかと俺に近づき、目を細めた後、
「いってえ!」
容赦のないデコピンを一発かました。とてつもなく、痛い……。一体どういうことだ?1日でこんなに都会になったっていうのか? 俺は、ナツキの顔を見てすぐにわかった。こいつは嘘を言っている様子はない。本気で街の様子が変わっていることに気づいていないようだ。それくらいのことは、長いつきあいでわかるんだ。……そうかこれは夢だな。
「ナツキ、俺はお前のデコピンのせいで軽度の記憶喪失になった。学校までの道のりを忘れちまったから、案内してくれ」「馬鹿」ナツキは、そのままそっぽを向いて歩き始めたので、ついて行くことにした。
昨日まではバスに乗って行けば勝手に高校に着いていたのに、この夢の世界はどうも複雑だ。満員という一生慣れそうにない電車に乗り、必死に耐えて到着したと思えば、最後の最後にとんでもない上り坂があった。 こんな高台に学校を作った奴を恨むぞ!俺は必死になって坂を登っているってのに、ナツキは平然とした顔で歩いている。まったく、夢なら疲れることなんてさせるなよ。登校するだけで、一日分の力を使い果たしてしまった。 そして、北高に到着したのだが、校舎の作りもまるっきり違っていた。クラスメートはどいつもこいつも初対面、唯一変わりないのは、俺とナツキのクラスが2年6組というだけだった。 クラスメート連中は俺のことを知っているらしく、挨拶をしてくるのだが、名前が分からん。どうせ夢だし、数分のつきあいだろうから覚えなくても大丈夫だろう。
ナツキに俺の席を教えてもらったところ、窓際の一番後ろだそうだ。夢が覚めるまで、夢の中で寝て夢を見るか。そんな馬鹿なこと考えながら、席に向かっていたところ、俺の前の席に座っていた、とある女の子が目に映った。 その子は、ショートカットの女の子で、身体が小さく、本を読んでいた。なんというか……、整った顔なのに、全くの無表情、それがこのなにげない教室の中で異質だった。例えるなら、江戸の城下町に車が走っているような違和感。なんでそう思うのかわからないんだけどな。
なんとなく、本を読むのを邪魔してはいけないような気がして、なるべく音がしないうように椅子を引いた。すると、その女の子は急に振り向き、顔を向けてきた。
改めてみると、うん、かわいいな。無表情と夢ってのが残念なくらいだ。話かけてくるかと思ったのだが、何も言ってこない。えーと、何この雰囲気?話かけてくるのかと思ったが、女の子は結局何も言わず、前を向いて再び本を読み始めた。 俺は席に座り、窓から見える都会の風景を眺めることにした。いつになったら、目が覚めるんだろう?そんなことをぼんやり考えていると、そのうちチャイムが鳴り、おそらく担任とおぼしき30代の女教師がやってきてHRを始めた。
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