橘京子の――(後編)
なお、橘の記憶についてだが、なんのかんのあって元の記憶を取り戻すことができた。 といっても、彼女自身が全てを思い出したわけじゃない。それどころか彼女自身どうしてよいか分からない状態だった。もちろん俺の力ではどうする事も出来ず、お手上げ。 こうなっては誰かの手を借りて修復するしかない。誰の手を借りるかといえば――お分かりの通り、超絶万能スキル文芸部長、長門有希の力によるものである。 しかし、その長門も当初「許可が下りない」との理由で橘の脳内情報操作を施すことが出来なかった。曰く『涼宮ハルヒに関わる全ての人間に対しては原則観察のみ行う。それ以上の行動は禁止されている』とのことである。 だが、何とかして情報を蘇らせたかった俺は長門に懇願し、三秒ほど俺の顔を眺めつづけた結果、首を縦に振ってくれたのだ。 とは言え、ヒトの記憶を操作することが出来ない以上、別の方法で記憶を蘇らせるしかないのだが……何とかなるのだろうか。「なる」 彼女が出した解決策は、意外な……ある意外なモノを利用することだった。 ……… …… …「ピンポーン」 あの後。 どうしてよいか分からず、途方にくれた俺と橘を待っていたのは、シンプルに響く我が家のチャイム音だった。 ドア越しからも分かる三点リーダを肌身で感じつつ、ドアを開けると予想通りのセーラー服姿。「よう」「…………」 家の中に入るよう促し、再びパタンと玄関のドアが閉まった。「あ、お客さんですか? こんにちは」 と、問題のツインテール。記憶を無くした割には失望感ゼロの能天気さがまざまざと伝わってくる。 長門もその辺何かを感じ取ったのか、一瞥するだけで関わる気は全くない。 彼女にとって、橘以上に気になる存在がいた。「ねこ、どこ?」「もうそろそろ帰ってくるだろう」
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