『貰って……くださ……い』
【貰って……くださ……い】
【ふふっ、勝負!! そう、勝負ね!? 後編】の続きです。
あたしは深い眠りからゆっくりと目覚めた。お酒を飲んだせいか、ベッドに入った瞬間に即落ちしたわ。色々あったせいで悶々としちゃうかと思ったけど……結構あたしもいい加減なのね。
シャワーで気分を変えようっと……。冷たい水と熱めお湯を交互に2回づつ浴びて気分一新。
その最中、アイツとは今日で最後なのよね……って、ちょっと感慨めいたものを感じたのは一瞬。もう少し一緒に居たかったなって考えたのも一瞬。
浴室から出て、バスタオルを裸身に巻きつけ、鏡の前でスクワランついでに頬をパンパンと強めに叩き気合を入れた。
「よしっ!! 昨日は昨日、今日は今日。綺麗さっぱり忘れて……さぁって頑張るわよっ!!」
着替えをしようと自室まで移動。着替えのため、バスタオルに手を掛けた時、机の上の物に目が留まった。昨日帰宅してから放置しっ放しの有り触れた封筒。別れ際に優男から「覚悟して開けてね」と渡された1通の封筒。この中に最新の、そして最後の“勝負内容”が書いてあるから、その指示に従ってねって言われたわ。朝になってから開ける様にとも。
あの優男の自信満々な笑顔があたしの闘争心に火を付けていた。このあたしが簡単に負けを認めるとでも思ってるのかしら?
「ふふん、押し倒せば直ぐに泣き付いてくるとか考えてたんでしょうけど。
御生憎様、あたしは明日香ちゃんのためなら、何だってするわ。今日で最後。どんな事でもしてあげるわよ!!」
あたしはこの場にいない優男に向かってそう宣言していた。絶対にギブアップなんかしてやるもんかっ!!
あたしは勢いよく封筒を開け中から1枚の便箋を取り出す。思いの外達筆な字で“勝負内容”が書かれていた。
「今日1日、靴下を除く全てのインナーを付けずに過ごす事(つまりはノーパンノーブラって事)
その期間は本日5月6日木曜日、朝、自宅の玄
関を出てから、夕方俺の部屋でその確認を受けるまで。
学校を休む事は認めない。キチンと学生らしく授業は受けるように。
勿論、言うまでも無い事だが、イヤなら止めても一向に構わないよ。
もし、やるなら気が付かれない様頑張って隠し通してね。
もし家に来なかったら、勝手に明日香ちゃんに会わせて貰うからね」
あたしは、何度も便箋に書かれている字を追った。目から入ってくる情報が脳で旨く変換できない……。暫くして内容が頭の中で意味のある文章となってからあたしは叫んだ。
「なっ!? 何よこれ……!? あいつ!! バッカじゃないのっ!?」
あたしは目の前にいない優男に対し思いつく限りの罵詈雑言を浴びせる。誰かに聞かれたらあたしのイメージが急降下しちゃいそうな位物凄いやつ。
5分位経ったのかしら、いい加減ボキャブラリーが尽きかけたあたしは大きく深呼吸して自分を落ち着かせた。
「な、なによっ!! 布切れの1枚や2枚身に付け無い位で、このあたしが参るとでも思ってるのかしら!?
いいわ、この挑戦受けて立ってやるわよ!!」
あたしは憤然とクローゼットの中から制服を引っ張り出し、バスタオルを脱ぎ捨てる。そして剥れたまま身に纏った。しかし、イザ身につけてみると……。
やっぱり下半身がスースーして涼しいわ。それに、胸も何時も以上に揺れてる気が……。あと、肩が凝るわね確実に……。
「北高のスカートって……こんなに短かったかしら? 直ぐに見えちゃいそうじゃない」
あたしは姿見で自分の姿を満遍なく観察した。ちょっとしゃがんだだけで股間が見えちゃいそうだし、胸も上から丸見えっぽい……。
「こ、こんな……。これで1日学校で過ごせって……無理……よ」
その手の事を気にすると、挙動不審になるのは確実。って言うか今のあたしがそうだもん。スカートの裾を下に引っ張りながらあたしは考え込んだ。
……あぁ!! ど、どうしよう? できませんでしたじゃあ、明日香ちゃんが……。でも、こんな恥ずかしい事……あんっ!! あの男!!
最後の勝負だよって言い切った優男を思い出す。キリキリと奥歯が鳴った。悔しくて涙が出ちゃいそう……。あたしは頭を強く振り弱気を振り払い、意地になって登校の準備を進めた。どんな挑戦でも受けて立つ!!って豪語したのは確かにあたしだし……。
でも、アイツってば、何でこんなハレンチな勝負を言い出したのかしら? 何だかアイツのイメージに合わないのよね……。
何時もより丁寧にナチュラルメイクをしてカチューシャを付ける。うん、準備完了。完了なんだけど……。仕方無しにあたしは鞄を片手に階段を下りて玄関に向かった。
「やんっ!!」
階段を下りる最中にスカートがフワリと巻き上がった様に感じ、慌てて手でそれを押し留める。股間がスゥスゥするの……。
……これだけの事で、浮いちゃうの? 今まで気にしなかったけど……結構、見られてるのかな?
あ、後……これ、乳首が擦れちゃう……。何かいい方法考えないと。こんな敏感なとこ、擦り傷なんて想像もしたくないわね。
涼しい股間を気にしながら、ローファを履き玄関を開け放つ。良い天気だわ。心地良い微風と日差し。しかし、あたしは脚が固まった様に先に進めなかった。時間は刻一刻と過ぎていく。
ど、どうしよう? 行かなきゃ行けないのに……行きたくない。でも行かなきゃ……。
あたしの思考はグルグルと出口の無い迷路を彷徨った。どこをどう辿ってもそれが見付からないの。
汗が首筋を伝い、ブラをつけていない胸の谷間に消えていく。身体がふら付き視線が辺りを彷徨う。
「あ……」
その彷徨った視線が明日香ちゃんと出会った公園を捉えた。瞬間、頭の中に閃きが1つ。
「確か……アイツのマンションの傍の公園、トイレがあったわよね」
思いついた事。やろうとしている事。何時ものあたしなら決して選択しない敗北に等しい行動。でも今のあたしには途轍もない名案に思えた。暫し逡巡した後、あたしは1歩を踏み出した。自宅の中へ自室へと。
優男はあたしのしてる事、知ったらどういう反応するかしら? 何げに優しいから、苦笑しながら許してくれるかな……。
そうよ、こんな酷い事言い出した優男が悪いんだからね!!
時間が余り無い。洋服ダンスを開け、出来るだけ髪の毛が乱れない様に制服を脱いで目に留まった適当な下着を上下共に身につけ、再度制服を身に纏う。
……こんな小さい布を付けただけで、こんなに安心できるのね。
あたしはホッとしながら、玄関を飛び出し学校へと向かう。
悪い事を卑怯な事をしてるって自覚はあるの。正々堂々がポリシーのあたしがこんな小手先の誤魔化しをしてる。そんな自分に強い自己嫌悪を感じながらも、明日香ちゃんのためだからと更に自分を慰める。それで自己嫌悪が消えないと自覚しつつ。
学校に着いた。何時も以上に上り坂がきつく感じたわ。多分、精神的な問題よね……。
教室に入り自分の席に付く。前の席は何時もの通り空席。ホッと一安心。まぁ、キョンがこんな時間に来るわけも無いけど……。あたしはそのまま顔を伏せ、軽く目を閉じた。教室の喧騒がイヤに響く。
……こんなにキョンに会いたくて、そして会いたくないのも初めて。どんな顔して会おう。旨く笑顔で挨拶できるかな?
そんな事を悶々と考えていたら、予鈴の鐘と共に岡部が教室に入って来る。それと同時にキョンも駆け込んできた。
なによ、キョンってば、今日はホントにギリギリじゃない!!
興味が無い振りしながら、横目でキョンを見つめる。キョンはクラスメートの男子に軽く挨拶しながら窓際の席へと足早に向かってくる。
「ん……?」
なんだろう、キョンの様子が何時もと違う。何処がと聞かれても明確に答えられないけど……でも違うの。
疲れ切った様子で席に着こうとするキョン。
「おはよう。……何、休みボケかしら? どうせ、寝坊でもしたんでしょ?」
キョンはあたしをチラリと視線を投げ掛けて、
「ん、おはようさん。寝坊……まぁ、そんなところだ」
と呟き、乱暴に腰掛けた。
「…………」
やっぱり変。視線に力が無いって言うか、心ここにあらずって言うか……ううん、違うわね。何か焦っている。うん、そんな感じ。
あたしは自分の事は忘れて、キョンの背中をシャーペンで突付いた。岡部が何か喋ってるけど気にならないわ。
「ねぇ、キョン、何かあったの? あんた、ちょっと変よ?」
ビクリと小さく身体を震わせ、そして後ろを振り返るキョン。苦笑いを浮かべ、
「何だ、変ってのは? あー、久しぶりの学校で調子が出ないだけだ。
そういうお前は今日も元気だな、羨ましいぜ」
そんな失礼な事を言い捨て、キョンは再び前を向く。あたしは納得できずにキョンに声を掛けようとして……開きかけた口を閉ざす。その背中が放っておいてくれって言ってる気がしたから。
……まぁいいわ。あたしも実は楽しく会話する気分じゃないし。
キョンの事が心配だったけど、冷静に考えるとあたしは人の心配が出来る立場に無かった。“勝負”をすっぽかし、それを誤魔化そうとしてるんだもん。あ……だめ、また落ち込んできちゃった。
あたしは慌てて窓の外に視線を向けた。様々な形の雲がゆったりと流れていく。あたしはそれをぼうっと眺めていた。
一限目が終わり、休み時間になった。谷口達とも会話せずにキョンは珍しく足早に教室から出て行った。
「ねぇ、涼宮さん、キョン君どうしたの? なんかあったの?」
と坂中さんが心配げに話しかけてくる。
「うーん、やっぱり変よね? でも何でもないって本人が……」
「でも……」
と言いかけて、坂中さんはあたしの顔に視線を固定させた。ほんの僅か小首を傾げてる気がするわ。
「……えっとね、余計なお世話かもしれないのね。……す、涼宮さんも何かあった?」
ギクリとしながら、坂中さんの顔を凝視する。
「あ、うん。何となくそう思っただけなのね。気にしないで欲しいのね」
「うん……」
あたしの返事を合図に坂中さんは別のグループに呼ばれてその輪に入っていった。チラリと心配げな視線を投げ掛けつつ……。
……うーん、落ち込んでるの顔に出ちゃってるのかな。かなり自己嫌悪嵌てるしなぁ。それにも増して、連休中の事バレたら不味いわね。それだけで勝敗付いちゃうもん。何のために押し倒されたんだか判らなくなっちゃう。うーん、SOS団メンバーって意外に鋭いから気をつけようっと。
……学校ではアイツ関係の事は考えない!! うん、そうすれば大丈夫よ、きっと!!
結局、キョンは2時限開始ギリギリになって帰ってきた。不機嫌そうな表情もそのままに。
その後もキョンとは何故かあまり会話しないままに放課後を迎えた。
キョンの連休体験談を楽しみにしていたあたし。でも、逆にお前は何をしていたんだと聞かれたら答えられない。答えようが無い。
「連休中、あんたの知らない男と遊んで、そのままホテルに連れ込まれて……」
……そんな事を言える訳が無い。だから、あたしはキョンに語り掛けられなかったの。
でも、そんなあたしの態度をキョンは何処となく有難がってる気がしたわ。休み時間毎にそそくさと谷口達の所へ駄弁りに行くし。まるであたしを避けてるみたい……。
そんな微妙な雰囲気の中、放課後を迎えた。あたしは掃除当番だったりするの。
「キョン、あたし掃除当番だから先に部室行ってて。疲れてるからってサボっちゃダメなんだからねっ!!」
「へいへい……先に行ってるぞ」
と何故かホッとしながら教室を出るキョン。
……なによ、あたしと一緒にいるのがイヤなのかしら?
あたしは少しムッとしながらも、掃除の準備に掛かろうとしたその時、坂中さんが声を掛けてきた。
「あのね、涼宮さん。ちょっとお願いがあるのね」
「うん、なにかしら? 坂中さん」
「来週の月曜日と今日の掃除当番代わって欲しいのね」
「あら、そんな事ならお安い御用よ」
あたしが気軽に答えると、笑顔を浮かべて坂中さんが説明をしてくれた。何でもその日JJを定期健診に連れて行かなきゃならないんだって。
もう、JJのためなら問題ないって。そんな済まなそうな顔をしないで。
一頻り坂中さんのルソーラブな話を聞いてからあたしは足早に部室へと向かった。アノ部屋に行かなきゃ行けない時間が近づいてきている事を極力考えないようにしながら……。
久しぶりの部室棟、そして久しぶりのSOS団の部室。確か、最後に鍵を掛けた時、連休中に不思議な事に出会いたいなって願いながら部室を出たっけ……。ははっ、不思議な事……ね。確かに連休中は楽しかったわ。色々体験できたし。
あたしは暗くなりがちな顔に殊更笑顔を浮かべて、部室の扉を元気よく開けようとして……固まった。中から会話が漏れ聞こえてきた。
「だから、何時……ルヒ……気づかれ……対処」
「……涼宮さん……閉鎖空間が……」
「だめっ、鈴……ルヒ……外に……」
「!!」
部室内が静かになった。奇妙な位の静けさ。あたしは何も気が付かなかったフリをしながら、扉を何時もの如く勢いよく開け放つ。
「ごっめーん!! ちょっと遅れちゃったわね」
部室内にはあたし以外のメンバーが揃っていた。全員があたしの顔を食い入るように見つめている。
あたしはさも今来ましたって感じでメイド姿のみくるちゃんに声を掛けた。
「走って来たから喉渇いちゃった。みくるちゃん、お茶頂戴!! 熱々のヤツね!!」
「ふぇ、あ、ひゃい!! す、直ぐに入れますねぇ」
みくるちゃんは可哀想になる位動揺しながら、お茶の準備に取り掛かっている。
……あれで熱湯扱って大丈夫なのかしら?
そんな心配をしながら、鼻歌交じりに団長席に腰掛けた。キョンが周囲を見渡し、溜息を1つついてからあたしに話しかける。こういう時のお決まりのパターン。
「なんだ、ハルヒ……。掃除キチンとしてきたのか? その、ヤケに早いじゃないか」
「あぁ、掃除ね……坂中さんから代わってくれって頼まれちゃって。JJの定期健診と被るらしいわ」
あたしは殊更軽い話題ですって雰囲気を作ってキョンに答え、そして、序に団員の様子を観察。
有希が読書もせずにじっとあたしを見ている。
古泉君もボードゲームを準備しながらあたしの様子を伺ってる。気のせいじゃなくその笑顔は硬い。
みくるちゃんはあたしを横目でチラチラと見ながら、懸命にお茶を入れているわ。
キョンは「……JJじゃなくルソーだろ」と呟いたっきり口を噤んだ。そのタイミングであたしは努めて明るく思いついた案を披露する。
「あっ、そうだ!! 今度みんなでJJに会いに行きましょう!! きっとJJも会いたいと思ってるわ。どう、古泉君っ!?」
「さ、流石は涼宮さん。大変よい考えかと」
と古泉君は幾分柔らかい笑みを取り戻しながら、何時もの様に相槌を打つ。
「でしょう!! じゃあ今度坂中さんに都合聞いておくわね。有希も会いたいでしょ?」
と有希にも話を振ると、あたしを凝視していた有希がコクリと可愛く頷いて、ゆっくりと膝の本に視線を落とした。
「ん!! みくるちゃんは? 受験勉強の暇な時がいいわよね」
「あ、はい!! 私もルソーさんに会いたいですぅ。可愛いですもんねぇ、ルソーさん……」
とお茶を入れる手を止めてポワワーンとしているみくるちゃん。
部室の雰囲気がホワンとした暖かいものに取って代わる。
よかった……。何とか誤魔化せたみたいね。実は去年も何回かこんな事があった。みんなが協力してあたしに何か隠し事をしてるの。多分、みんなあたしが気が付いてるとは思ってないんでしょうけど。聞いちゃいけない気がするから知らないフリをしてるんだけどね。
JJの話題を切っ掛けに何時もの団活になった。あの雰囲気は好きじゃないから大歓迎。大歓迎なんだけど……今日に限っては微妙。だって落ち着いたら再びアイツの事を思い出しちゃったから。
周囲が落ち着きを取り戻すにつれて、あたしは落ち込んでいった。嘘をつかなければならない。誤魔化さなければならない。そう考えると自分がイヤになっていく。
ゆっくりとパソコンの電源を入れたあたしに、みくるちゃんがお茶を手渡してくれた。
「はいどうぞ、涼宮さん。熱々のお茶です」
「あ、ありがとう、みくるちゃん……」
「…………。あれ? 涼宮さん? 何だか……」
「うん? どうしたの、みくるちゃん?」
「あ、いや、その……何だか雰囲気が変わったかなぁって。あ、うん、えっと、私の気のせいですよね、きっと……」
「……雰囲気が?」
「わ、私の、気のせい、ですよ、きっと」
あたしはみくるちゃんを見つめた。身に覚えのあるあたしはきっとキツイ視線をしてたんだと思う。みくるちゃんはワタワタオロオロしながら半泣き状態。
「ハルヒ、なんて顔で睨み付けてるんだ。朝比奈さん怯えてるじゃないか」
とキョンの台詞が飛んで来た。
「えっ、そ、そんなに凄い顔してた? ……みくるちゃん?」
「御免なさい……こ、怖かったですぅ」
「あ、御免。考え事してたから。……うん、別に連休中、何も面白い事はなかったわ。反対にそれが残念で」
あたしはみくるちゃんを落ち着かせるために適当に話を合わせる。みくるちゃんはあからさまにホッとしながら有希にお茶を渡すために窓際へ。坂中さんといい、みくるちゃんといい勘の鋭い事……。
連休中の不思議体験発表会は開催されなかった。勿論、あたしが言い出さなかったから。珍しくキョンからの突っ込みもなく、その後は、特に問題も無く団活は終了。
うん、やっぱり平和が一番。その後も、他愛も無い話題で盛り上がって長い坂を下りた。心の片隅でもう1人のあたしが渋い顔をしていたけど。そう、皆と別れると問題の場所へ行かなければならないの。
坂の途中、1回だけみくるちゃんが小声で語りかけてきたわ。
「涼宮さん、やっぱり、何か心配事でも?」
「ん、ありがと、みくるちゃん。……連休が、あっさりと終わっちゃったんで、その埋め合わせを不思議探索でって考えてたの」
「あぁ、そうなんですかぁ。うん、何かあるといいですねぇ」
とニッコリ笑顔で答えてくれたみくるちゃん。その邪気の無い笑顔が、またあたしを苦しめる。
ごめんね、みくるちゃん。決して騙してる訳じゃないから……。
何時ものように有希のマンションの前で別れるSOS団。
キョンの様子が変なんだけど、あたしもそれに気に掛ける余裕がなかった。朝に感じた「放っておいてくれ」って無言のアピールが今も続いているし。
あたしは重い足取りで、アイツのマンションへと向かった。3駅先の駅で降り、モヤモヤとした感情のまま歩を進める。気が付けば、アイツのマンション前の緩い上り坂に差し掛かっていた。途中の公園のトイレに入らなきゃ。
辺りを伺い市営公園に入る。人っ子一人いない公園は静まりかえっていて何だか怖い。簡易式のトイレに入り鍵を閉めた。思ったほど中は汚れていなかった。あまり使われていないのかも……。
溜息を付きながらローファを脱ぎ、スカートの中に手を入れ純白ハイレグタイプのショーツを脱ぐ。フロントのピンクのリボンが可愛いの。次にセーラーを脱いで股に挟んだ。
こんな場所で裸になるのにはちょっと抵抗があるけど……仕方がないもん。さっさと終わらせちゃおうっと。
これまた純白のハーフカットブラを手早く外し、再びセーラーを着込む。脱いだ下着は無造作に鞄へと仕舞った。スカートやセーラーの裾を引っ張り乱れを直してトイレから出る。
うわぁ……やっぱり股間が涼しいわ。風の流れ、感じちゃうわね……。ふぅ、気が進まないけど、後はずっとこの格好だったって言い張らないとね。そんな考えが頭を過ぎり、益々落ち込むあたし。
あたしは頭を大きく数回振ってから、トイレの扉を閉めアイツの部屋目指して歩き出した。
この時、あたしは気が付かなかった。優男が洗濯物を取り込むためにベランダに出ていた事を。そして、あたしの行動の一部始終を見ていた事を……。
エレベーターを降りて、例の部屋の前まで。スカートの裾を引っ張り形を整え、呼び鈴を押す。
暫くして優男が顔を出した。白いコットンシャツと薄手の蒼いスラックス。如何にもオフですよと言わんばかりのラフな格好ね。あたしは何か喋ろうと口を開きかけ……直ぐに閉じた。優男ってば、すっごく厳しい表情なんだもん。昨日のナンパ事件を思い出す……。
優男はあたしの顔を見ると、無言で中に入るよう促した。
「な、何よ……キチンと約束どおり来たのに、感じ悪いわね」
あたしは酷く緊張しながら優男の部屋に脚を踏み入れた。優男は無言で、扉を開けリビングへと入っていく。あたしはその態度に戸惑いながらも後に続いた。
……な、何よ。昨日までと雰囲気が全く違うじゃない……べ、別に怖いって訳じゃないんだからね!!
優男はリビング奥のソファに大きな音を立てて座った。思わず身体がビクリと震えちゃう位無表情かつ冷たい視線。
「な、何よ……」
と問いかけるあたしの声は微かに震えていた。
「見せてみろ……」
優男は聞いた事が無い位、低い声であたしにそう告げた。
「えっ? 見せる? 何を……」
と言いかけ、あたしは気が付く。そうよね、あんな勝負を持ち掛けておいて「見せろ」って事は……。ここで誤魔化しきらないと!! そうあたしは覚悟を決めた。
「ホントに恥ずかしかったんだから!! こんな格好、もうこりごり」
そんな事を早口で捲くし立て、「ここでスカートでも捲ればいいのかしら?」とヤケ気味に確認をする。当然“了”の返事が返ってくるものと身構えていると、
「いや、違う。そんなものはどうでもいい」
「なっ!? ど、どうでもいいって、それ、どういう事よっ!?」
「鞄を寄越せ。中身を確認する」
優男は右手をあたしのほうへ差し出しながら、視線は未だ肩に下げっぱなしの鞄に向けられていた。文字通り音を立てて顔から血の気が引く。中にはさっき脱いだばかりの下着が……。
「な、ど、どうして……か、鞄なんか調べるの? あたしがスカート捲れば……その、下着穿いてないって直ぐ分かるのに。必要ないじゃない!!」
あたしは鞄を握り締め、必死に訴えた。訴えつつ誤魔化す方法を考え出そうとした。
「あ、ね、ねぇ……ど、どうして?」
そんな台詞を途中で遮り、優男はあたしに問いかけた。
「朝、手紙は読んだんだよな? なら、勝負内容は判ってるはず」
そして優男は、一字一句違えずに勝負内容を暗誦して見せた。
「つまり……家を出た後に、1度でも下着を身につけたなら、それだけで勝敗は決まるって訳だ」
優男が声を出す度に、あたしの身体は小さく痙攣した。勿論、恐怖のためだ。喉が渇く。それなのに全身を冷たい嫌な汗が流れていた。脚に力が入らず今にも崩れ落ちそう。
「あ、ちょっ……」
優男がゆらりと立ち上がり、面白くなさそうにあたしの鞄に手を掛ける。あたしはそれを振り払おうとするが、持ち主の意に反して身体に全く力が入らない。2人の間で取り合いになった鞄はあっさりと男の手に渡った。あたしは鞄を取られたショックで床にへたり込む。剥き出しのお尻にフローリングの床は冷たかった。
男の手が鞄のチャックに掛かった。
「ま、待って……お願い、開けないで!!」
あたしは恥も外聞も無く男に懇願。涙が溢れそうになった。そんなあたしを優男はつまらなそうに見つめる。
「さっき、俺は洗濯物を取り込んでいたんだ。すると、見慣れた女の子が近場の公園に入って行った。何をするかと思えばそこのトイレに入っていく訳だ。で、その前後で女子高生の行動に変化が見られた。そこから推論できる事といえば……言わなくても判るだろ?」
あたしはガタガタと身体を震わせ、優男を見上げる。口を開いても言葉を発する事が出来ない。
「その様子じゃ……中に下着、入ってるんだな?」
すごく寂しげに優男は呟いた。そして、鞄を床に置きゆっくりとファスナーを開け、中に手を入れた。あたしは身動ぎもせずそれを凝視する。教科書やノート、ポーチバックが床に並べられ……遂にショーツがその手で外に引っ張り出された。続いてブラも。さっきまで身につけていた下着を男性が手にしている光景は、あたしに強い羞恥心を感じさせた。
「あ……やだ……」
「まだ、温かいな。十分に体温が残ってる……」
とブラとショーツを握り締め優男は立ち上がった。「何時から穿いていた?」とあたしを見ずに問い掛ける口調は寂しげ。
あたしは何も言えず俯いた。嘘を突き通す自信は全くなくなっていた。再び同じ口調で優男に問い掛けられ、あたしの口は勝手に答えを吐き出していた。
「が、学校に、行く時……から……」
「それで、さもずっと穿いていない様な振りをしたのか……最低だな」
「あ……その……」
「予想外の形ではあるけど、これで勝負ありだね。まさかこんな卑怯な事してくるとは思わなかったけど……。
お嬢ちゃんを信じた俺が馬鹿だったって事か」
そんな言葉を呟き、手にした下着を鞄に叩き付ける。そして、腰のホルダーから黒いシンプルな携帯を取り出し、何処かに電話を掛け出した。
嫌な予感を感じたあたしは、震えながら優男に声を掛ける。
「ど、何処に……何処に電話してるの?」
「勿論、仲介屋さ。明日香ちゃん見つかりましたって連絡しないと達成した事にならないだろ」
優男は携帯を耳に当てながら、淡々と解説。言葉の端々に苛立ちが篭っている。
「あっ、だめっ、ま、待って!!」
あたしはその解説の途中で、優男の脚に縋りついた。必死な思いで男を見上げて懇願する。
「だ、だめっ!! 電話、しないでっ!! お願い、もうこんな事はしない……謝るから!!」
優男はあたしの懇願も意に介さず、携帯を耳に当て続けた。あたしはその手に縋りついてでも、会話を邪魔しようと決心。イザ、決行しようとしたその瞬間、優男は「話中か……」と呟いて携帯をしまった。
その呟きを耳にしたあたしは、安堵の余りヘナヘナと床に崩れ落ちた。それでも両手は男のスラックスは握り締めたまま。これを離しちゃうと全てが終わっちゃう気がするの。
「離してくれないか? もう、勝負は付いたんだし……もうお前さんも俺には用は無いだろ? 早く家へ帰れよ」
思いの外淡々と優男はそんな台詞を投げ掛けて、脚を掴んでいるあたしの手を解こうとした。
「ま、待ってっ!! お、お願い。卑怯な事をしたのは謝るからっ、心入れ替えるからっ、もう1度だけチャンスを頂戴!!」
「ははっ、謝ってすむと思ってるの? お前さんの何を信用しろと? 自己保身のために嘘をついた人間は、また保身のために嘘をつくんだよ、間違いなくな。
少なくとも俺は負けたら、違約金を払ってこの件から身を引く覚悟もしてたんだ。そこまで思いつめてた俺が馬鹿みたいだよ。
お前さんにしても、負けるなら諦めが付く様、敢て酷い勝負にしたつもりなんだけど」
淡々と言葉を紡ぐ優男。その一言一言が今のあたしには痛烈すぎた。心を抉られる。切り刻まれる。すっごく痛いの。思わず涙が溢れ頬を濡らしていく。あたしは弱々しく首を振り、男を見上げるしかなかった。これなら怒鳴りつけられた方がどれだけマシだったか……。
……あたしはどうなってもいいの。だけど、明日香ちゃんだけはっ!! あの子との約束だけは!!
「お、お願い……明日香ちゃんだけは見逃してあげて」
「無理だな。それが俺の受けた仕事だし。約束どおり依頼は果たさせて貰う」
「じゃ、じゃあっ……あんたの言う事どんな事でも聞くから、だから、お願い……」
「ふふっ、どんな事でもね……。
で、そう言いながらあれはできない、これもイヤだって色々難癖つけるんだろ?」
「ち、違うわ……そんな事……。ど、どうすれば信じてもらえるの?」
「信じるね……一旦失った信用を取り戻すのって並大抵の事じゃ無理なんだよね。それはどの業界でも同じ。学生のお前さんには理解できないかもしれないけど」
「あ、あたしは本気。明日香ちゃんを見逃して貰えるなら、あたしどうなっても構わないわ!!」
あたしは本当に自分を犠牲にして明日香ちゃんを守ろうと決心した。どんな理不尽な事言われてもそれを守ろうと決心したの。その決意を込め優男を見つめる。
暫しぶつかる2人の視線。優男が視線を外さずゆっくりと立ち上がった。
お願い、1度だけあたしを許して。あたしの言う事を聞いて。誰でもいい、神様でも悪魔でもいいからあたしの願いを聞いてっ!!
優男は大きく溜息を付いて、渋々といった風に呟いた。
「……もう1度、仲介屋に電話を掛ける。もし、まだ話中ならお前さんの提案を考慮してあげなくも無い」
「えっ……ホ、ホントに?」
あたしはソッポを向いて早口に捲くし立てる優男を呆然と見詰めていた。願いが通じたの?
「あぁ、但し、話中の場合だけ。相手が出たら諦めろ。これが俺にできる最大限の譲歩だ……だから、涙を拭いてくれ。女の子の涙は苦手だ」
優男はあたしから離れ窓際に歩いていく。携帯を取り出し再度耳に当てた。
あたしはそれを眺め、両手を組み合わせた。目を瞑り再び祈る。力一杯気持ちを込めて……。
お願い、誰でもいいから、あたしの願いを聞いて。通じないで!! 反省したから!! どんな事でもするから!! どんな罰も受けるから!! どんな事も我慢するからっ!!
無限とも思える時間が過ぎ、全くの無音の中で優男は携帯を閉じた。
「おめでとう、話中だったよ。約束どおりお前さんの提案、呑んであげてもいい……」
「ホ、ホン……」
「……但しっ!! 但し、その前にお前さんの覚悟を見せて貰おう」
優男は強い口調であたしの歓喜の声を遮った。
「か、覚悟?」
「そう、覚悟だ。俺はお前さんを全然信用できなくなった。今回もその場凌ぎで適当な事を言ってないとも限らんし……」
「ち、違うっ!! あたし……本気で」
「だから、勝負は一旦お預け。で、3ヵ月……いや長すぎるか? 1ヵ月間位その覚悟を試させて貰おう。試用期間ってやつだ。それに耐えれたら改めて勝負してあげる。どう?」
「覚悟を試すって? ど、どんな事するの?」
「何でもするって言ったよね。だから、1ヵ月の間、俺の命令を全て聞き届けて貰おう。拒否した瞬間に……ジエンド」
「い、1ヵ月間言う事聞けば……いいのね?」
あたしの弱々しい問いに男は鷹揚に頷いた。
「わ、分かったわ。言う事を聞いてあげるわ……」
「まずは、その言葉遣いから変えてもらおうか。少なくとも丁寧語……いや、違うな。先ずはお前さんの立場を理解させないと」
「た、立場って?」
あたしは腕組みをして呟く優男を不安に押し包まれながら見上げる。優男が窓際からゆっくりと近づいて来た。あたしは顔を強張らせ、思わず後ずさる。そんな態度を意に介さず目の前で優男はしゃがんだ。視線が同じ高さになり、互いに相手の瞳を覗き込む2人。暫しの沈黙の後、徐に優男が口を開いた。
「お前さんの立場だが、先ずは昨日までの対等の状態は忘れてもらう。そうだな、分かりやすく例えると……」
「た、例えると……何?」
「……ペットと飼い主か……奴隷と貴族だな。どっちも上下関係がはっきりしてるだろ? 勿論、お前さんが下だってのは判るよね?」
あたしの耳に男の淡々とした男の台詞が流れ込んでくる。あたしは耳を疑い、そして、咄嗟に声を荒げていた。
「ペット? 奴隷? なによそれっ!! 冗談じゃないわ!!」
あたしの叫び声が部屋中に反響し、その後訪れた静寂の中、優男は嫌な形に口の端を引き攣らせ立ち上がった。侮蔑の表情を浮かべ呟く。
「くくっ、ほら思ったとおりだ。何でも言う事を聞くって豪語しながら、その様だ。それで何を信用しろって言うのやら……」
「あ……ち、違うの!! い、いきなりだったから、その、ビックリしちゃっただけ!! ホ、ホントに何でも言う事を聞くから!!」
あたしは優男の脚に縋りつき、必死に言葉を紡いだ。
「あの……ど、奴隷でもペットでもいいから」
「今一信用できないな。断わっておくけど、俺は早く依頼を済ましたいんだ。それをお前さんが邪魔してるんだぜ」
「わ、判ってるわ……」
あたしは蚊の鳴く様な声で呟く。優男が再びしゃがんだ。あたしの頬に軽く触れ、あたしを覗き込む。
「ホントに判ってるの? 今一言葉に真実味が無いって言うか……信用出来ないって言うか。電話1本掛けた方が手っ取り早いんだがなぁ」
「ど、どうすれば……信じて貰えるの?」
「くくっ、お前さんはどうすればいいと思う?」
反対に問い掛けられ、あたしは考え込んだ。頭の中を幾多の単語が舞い、イメージが浮かんでは消える。無限とも思える時が流れて行く中、あたしの中で1つのイメージがはっきりと形を整えつつあった。あたしは覚悟を決め、そして、それを口にする。震える声で……。
「あ、あたしの……は、初めて……を、しょ、処女を……あげます」
「ん? 何? 聞こえないよ」
「あたしの、処女を……あげるから……」
「ふふっ、それは凄い覚悟をしたね。でも、気のせいか、その言い方、“イヤイヤあげる”って聞こえるんだけど?」
「あ、ち、違うわ……。そ、そうじゃなくて……あの……その……イ、イヤイヤじゃないの……」
「イヤじゃない? ふーん、貰って欲しいの? 処女を? 俺に?」
「は……い。貰って……くださ……い」
優男はあたしの頬を撫でながら問い続け、あたしはその問いに力無く答え続けた。
「……確か、さっき、“奴隷でもペットにでもなります”って言ったよね。
処女を貰って欲しいって事は、奴隷になる証としてって事でいいの? つまりは、奴隷になりたいって事?」
「なりたいわけ無いじゃない!!」と声高に喚けたらどれだけすっきりするだろう。しかし、あたしは力無く頷く。屈辱と諦観。涙が溢れてきた。そんなあたしの耳元で優男の囁き声。
「きちんと言葉にして御覧……」
「は、はい。……ど、奴隷になりたい……です」
「奴隷の様に、じゃなくて、奴隷そのものになりたいんだ?」
あたしは、その問いに再び力無く頷いた。悔しくて情けなくて声を出せない。涙が頬を伝う。人前で涙を流すのなんて久しぶり。あたしは慌てて右手で口元を押さえ更に俯く。左手はスカートの裾を握り締めたままだ。そのまま歯を食いしばり身体から溢れてくる悲憤を耐え忍ぶ。無心で耐えているあたしに、優男が冷徹な声で語りかけてきた。
「嫌ならそれで構わないよ、俺は。さっさと、依頼済ますだけだし」
「ま、待って!! ……あたしをあなたの奴隷にして下さい。……お願いします」
「ふーん。念のために言っておくけど、お前さんが奴隷になったら昨日みたいなエッチな事一杯一杯しちゃうけど、それでもいいの?」
「はい……か、構いません」
「くくっ、その様子だと本気で覚悟決めたみたいだね。それじゃ、約束通り連絡しないであげる。
勿論、イヤなら反抗すればいい。誰かに相談するのも有りだ。その時点でお嬢ちゃんは晴れて自由の身になれるからね。俺は止めないよ。
そうなれば、俺も遠慮せずに連絡が取れるしさ」
男の言葉にあたしは小さく首を振る。あたしが自由になるって事は、その引き換えに明日香ちゃんが……。
指切り拳万と明日香ちゃんの笑顔が脳裏を去来する。あたしに全幅の信頼を置く素敵な笑顔。ダメ、その笑顔をあたしは裏切れない。
「じゃあ、もう1度お願いして御覧。心を込めてさ」
幾度も躊躇いながら、幾度も訂正されながら、あたしは頭を下げ屈辱的な言葉を口にした。
「あ、あたし……涼宮ハルヒを……どうか……ど、奴隷として……お傍に、置いて下さい。お願いします……。ど、どんな事でもしますから。
その……証、として……あたしの、しょ、処女……を、どうか、も、貰って……下さい」
あたしは唇を噛み締め、湧き上がる屈辱感・恥辱感に身を振るわせた。目の前が真っ赤になり身体がふら付く。
優男に顎を掴まれ瞳を覗き込まれた。恥ずかしい。耳まで真っ赤になるあたし。何か喋ろうとするが、全く言葉が出てこない。
「奴隷になりたいってお嬢ちゃんのお願い、聞いてあげる。だから、俺の事は“御主人様”って呼んで御覧」
気が付けば、昨日までの穏やかでノンビリ屋の優男に戻っている。あたしは知らず知らずのうちに安心し、要求された単語を口にしようとして口篭る。誰かが「それを口にしたら後戻りできない」と訴えているのが、何故だか理解できたから。その内なる声に耳を傾けようとした矢先、優男の「お嬢ちゃんの覚悟を見せて欲しいな」って呟きを耳にしてあたしはオズオズと小さな声で、
「ご……御主……御主人……さ……ま」
って呼びかけたわ。その瞬間、あたしの中でゾワリと湧き上がる得体の知れない感情。ゾクゾクと背筋を昇る何か……。それは決して不快なモノじゃないの……。な、何? この感覚……? それの正体について深く考える前に、優男の声が耳に届いた。
「もう1度呼んでみて」
「あ、はい……あの……御主人様」
「いい子だ。お嬢ちゃん……いや、ハルヒ」
唐突に名前を呼ばれた。思わず睨み付け様として思い留まり、目を閉じ大きく深呼吸する。あたしを名前で呼ぶ男の子の顔が目の前で浮かんで、そして消えた。
落ち着けあたし。卑怯な事したからこんな事に……それに明日香ちゃんのため、コイツの機嫌を損なう訳にはいかないわ。1ヵ月我慢すればいいの……。たったそれだけなんだから。 優男……いえ、御主人様の機嫌を損ねる事だけは避けないと。
そう、この人はあたしの御主人様。御主人様なんだから。1ヵ月だけとはいえ御主人様。
あたしは心の中で呪文の様にその単語を繰り返す。自分に言い聞かせるために。覚悟を固めるために。
「ホントにいいの? そんなに自分よりも明日香ちゃんの方が大切なの?」
あたしはそんな囁きに対し、コクリと頷く。
「か、覚悟を決めたわ……いえ、決めました。奴隷でもペットでも何にでもなります。だから、もう聞かないで……」
優男……いえ、御主人様、うん、これから1ヵ月はそう呼ぶ事にするわ。御主人様はあたしを優しく抱き締めて立たせた。耳元で囁かれる。
「じゃあ、今から1ヵ月の間、ハルヒは俺の奴隷。おれは持ち主としてハルヒを支配する。支配してあげる。いいね?」
支配……。その単語が耳から入った瞬間、先程の言い知れぬ何かがザワザワと心の中で蠢くのを感じた。あたしはゴクリと喉を鳴らし、男の胸に顔を埋め小さく頷いたの。
「それじゃ、早速、昨日の続きをしようか?」
「は、はい……え? 続き?」
「そう、続き。だって、処女貰って欲しいんでしょ? 勿論、嫌ならいいんだけど?」
「い、いえ……嫌じゃないです」
あたしは蚊の鳴く様な声で受け答えをする。そんなあたしの背中をトントンと叩きつつ、御主人様は問いかけた。
「……ホントに本気なんだ。そこまで自己を犠牲できるんだ……凄いね、ハルヒは。
じゃあ寝室に行こうか? それともシャワー浴びる?」
「ひぐっ、やぁ……あっあっあ!!」
あたしはベッドの上で仰け反った。昨日と同じ様に男の唇や舌、指先に掌が肌の上を満遍なく触れ摩り愛撫する。既に行為が始まってから30分以上が経過していた。
即座に無理やり処女を奪われる事を覚悟していたあたしは、ちょっと拍子抜けしたの。これってば、まるで恋人に対する愛撫そのものなんだもん。そのせいか、それとも2度めだからか、昨日ほど緊張もせず自然と身体を預けているあたし。そして、昨日以上に脳天を直撃する桃色の刺激。
「辛かったら言いな。ペース落とすからさ」
「んっ!! ……だ、大丈……夫……あぁ!!」
「そっか。無理はしないようにね。……此処までは昨日と同じ。此処からが未知の体験って事になるのかな?」
時々、指を唾液で湿らせながらあたしの秘所をそっと指先で愛撫していた御主人様は、あたしの股間に顔を埋めた。
ピチャ……。その舌があたしの秘所を舐め上げた。腰が思いっきり跳ね上がる。
「あん!! あっ……そ、そこ、汚い……」
舌と指で弄り回されるあたしの秘所。湿った水音が次第に大きくなる。それに比例し、あたしの身体の畝りも大きくなっていく。恥ずかしくて気持ちよくて、もう訳が判らない……。
「ふふっ、気持ち良さそうだね、ハルヒ……。もっと舐めてあげる、この綺麗なピンク色のオマン●を……ほら」
「あぁ!! 恥ずっ……あぐっ、んんっ!!」
御主人様が指先で秘所を優しく撫でながら、クリトリスに口付けを1つ。思わず声が漏れる。痛い位の刺激。上半身が捩れ、両手がシーツをきつく握り締める。指先が白くなるまで。
「ハルヒ、さっきも言ったでしょ? 気持ちがいい場所教えてって……ここはどうかな?」
「あぁ!! そこっ、き、気持ちいい……んっ、……です。あう!! 御……御主人様!! あ、ダ、ダメッ!!」
頭を激しく振って、感想を口にするあたし。強制されてるのか、それとも本心なのか、もうあたしにも判らない。
そして、それとは別に、あたしはずっと心の中で呟き続けていた。
「あたしは奴隷……御主人様の奴隷……この人はあたしの御主人様……」
そうでもしないと、自分を誤魔化せないから。
そんなあたしの秘所を、指で舌で唇で愛撫する御主人様。時折思い出した様に太腿や胸、腰も摩られ、その度にあたしを包み込む甘い波動。
「ひっ……あっあっあ!!」
頭が弾けそうな感覚があたしを飲み込もうとしていた。不定期にあたしを襲っているそれの極大バージョン。
来る来ると本能が叫び声を上げ、そして、思いっきりクリトリスを吸われた瞬間!! 目の前で眩しい光が爆発し記憶が跳んだ。
「んっっ!!」
全身がこれ以上無い位突っ張り、背骨が仰け反る。呼吸が出来ない。苦しい……。
「かはっ……」
筋肉が弛緩し、クタリと脱力。酸素を求めて肺が空気を大量に吸い込む。
未知なる体験。意識が霞となって漂い、身体のあちこちでジンジンと痺れる微かな電流が奔る。まるで心と身体が手綱を離れて自由気ままに動き回るかのよう。
あたしの口から切なげな吐息が漏れ、御主人様があたしの表情を伺い尋ねる。
「大丈夫? ハルヒ? きつかった?」
「大……丈夫。初めて……だから……戸惑ってるだけ……です」
「ホント、きつかったら言いなよ。それで負けって事にはしないから……」
あたしは気だるげな表情で頷く。そんなあたしに御主人様の顔が近づいてきた。キスされる……瞬間的にそう悟ったあたしは、しかし身体を硬くしたまま身動ぎ1つしなかった。徐々に唇は近づき、あたしのそれに触れる瀬戸際で方向変換、頬へ。御主人様が気まずそうな表情で呟く。
「御免御免。確か、願掛けしてるんだったよね。忘れてたよ……」
「あ……覚えて……」
あたしは身体を駆け巡る快楽の波を一瞬忘れて、御主人様見つめた。嬉しい……。何でだろ、ホントに嬉しいの。
「そりゃあ、女の子の願掛けって重大な事だからね……。で、どうする? 身体もちそう?」
「大丈夫……です。……続けて」
御主人様は頷き、あたしの股間へ顔を移し再び埋めた。股間に舌が触れる感触。ゆっくりと上下に摩り徐々に内側へと沈んで行く。ピチャピチャと舌が奏でる卑猥な音があたしを興奮させた。
「あ……あぁ、んっ……」
再びあたしの口から甘い吐息が漏れる。優しく舐め、突付き、刺激を加えられるあたしの秘所。ゾクゾクッと背筋を電流が昇っていく。
「あっ!!」
腰が自然と畝り太腿が突っ張る。激しい呼吸音。ホントに気持ちがいい……。
股間から御主人様が顔を上げ「ハルヒ?」と呼び掛けてきた。あたしは視線を下げその顔を視界に捉える。指は上下にゆっくりと動いたままだ。
「ああっ、は、はい……あん!!」
「中に指入れるよ?」
御主人様の問い掛けるその意味を悟り、あたしは一瞬躊躇した。でも、それもホントに一瞬だけの事。桃色一色に染まった本能に支配されたあたしは躊躇う事無く頷いていた。
「あ、でも……い、痛くしないで……」
「勿論だよ、そのためにあちこち愛撫してるんだから。でも念のために……」
何時の間にか、御主人様があたしの太腿に挟まれた位置に正座で座っていた。その手には黒いチューブが握られ、それから捻り出された透明なジェルを右手の人差し指に塗りつけていた。
「……ん? あぁ、これ? ローションだよ。滑りを良くするためのね」
あたしの視線に気が付いた御主人様が解説してくれる。
「ローション?」
「そ、ローション。まだ、ハルヒの蜜の粘度じゃきついと思うんだよね。
あ、心配しないで、変な成分は入ってないからさ。ホントに純粋な意味での潤滑油だから」
殆ど意味が判らないけど、あたしは頷いた。酷い事をされる訳じゃなさそうだし……。
指に塗り終わった御主人様は、再び股間へと顔を近づけて行き、「リラックスしてて」「痛かったらきちんと言うんだよ?」って囁き声が聞こえた。
秘所を指がゆっくりと弄っている。それが何かを探るようにそこを掻き回し、そして、ゆっくりと恐る恐る……。体内に異物が侵入してくる感覚。初めての感覚。一瞬軽い違和感が股間を奔った。例えるなら……喉に魚の骨が刺さったみたいな異物感かしら。
「ん……あ……」
「あっ!! 痛かった? 御免、もう少し我慢して……」
「だ……大丈夫。ほんの少し違和感が……」
「そうか……、緊張しないでって言っても無理だよね。じゃあ、此処、刺激してあげるからね」
その台詞とお豆への刺激が同時だった。口に含まれ転がされるあたしの敏感な突起。
「あっあっあぁ!! んん……ぐっ!!」
その強烈な刺激に翻弄され、違和感を忘れたあたしに御主人様の「指、全部入ったよ」って呟きが届いた。言われてみると、其処には異物感があった。それが中で動いている不思議な感覚。
その感覚に戸惑っていると、御主人様がゆっくりと移動しあたしの上半身を抱えあげた。お姫様抱っこの変形。至近距離から顔を覗かれた。恥ずかしい……。あたしは顔を両手で隠しつつ、反対方向へ顔を背けたの。
「ゆっくりと動かすよ、痛かったら言ってね」
その言葉通りゆっくりと出し入れされる人差し指。違和感は思ったほどではない。凄く痛いってイメージがあったあたしはちょっと一安心。
その指の動きに合わせて、御主人様の唇や舌があたしの耳や首筋と言った上半身に降り注ぐ。あたしは切なげな吐息を漏らし、身体を痙攣させた。そして、時間が経過するにつれ、秘所からジンワリと甘い波動が感じられる様になっていた。それは体内を流れ、指先がピクピクと痙攣する。
「あ……あぁ……い、や……何……これ……」
太腿同士がにじり寄り恥ずかしげに畝り、その直後、御主人様が指をあたしの中から引き抜いた。それに纏わり付いているヌラヌラと光る透明な粘液。イヤらしく滑りを帯びた光。何とも言えない感慨が心の奥から湧き上がる。
そんなあたしを御主人様は再びベッドへと横たえ、頭を1回撫でてから、徐にバスローブを脱ぎだした。いきなり、あたしの視界に飛び込む男性の裸体。キョンや古泉君の水着姿しかまともに見た事が無かったあたしは激しく動揺。
「えっ、あっ、やだ、いきなり……そんな……」
咄嗟に顔を両手で覆った。心臓が思いっきり跳ね回り、大量の血液を頭へと送り届ける。顔が火照る。顔を覆っているはずの指の隙間からその裸体が垣間見えた。幅広の肩幅や割れた腹筋が男性のイメージそのもの。でも、あたしの視線は1点に注がれていた。股間から起立、臍まで反り返り、ビクビクと脈動する棒状のモノ。茸の様でもあり、亀の頭の様でもある形容しがたい形をしたソレ。初めて目の当たりにする男のシンボル。
それが女性の中に入るための存在である事は、幾らあたしでも知っている。でも、実物はあたしの貧弱な想像力を遥かに超えていた。
ちょ、ちょっと……あ、あんなに大きいの!? あんなのが入ってきたら、壊れちゃう!!って言うか入るわけ無いわ!!
混乱するあたしを置き去りに、御主人様はサイドテーブルから薄っぺらいパックを取り寄せる。毒々しいまでの蛍光ピンク。それは、話には聞いた事がある避妊用のゴム製品。
「ハルヒ、ゴム付けるまでちょっと待っててね」
と耳元で囁き、パックから輪っか状のものを取り出し、自らのシンボルに被せて行く。これまた、生まれて初めて見るコンドームの装着現場。
ソレに避妊用ゴムを付けると言う事は、あたし……されちゃうんだ。でも、付けてくれるなら妊娠する心配はないのね。ちょっと一安心。
その行為を食い入るように見つめ、頭の片隅で人事の様に考えるあたし。
蛍光ピンクのゴムがソレを全て覆い尽くす。依然ビクビクと痙攣しているソレ。その様子はあたしを酷く緊張させた。ちょっと怖い……。
「あ……あの……あたし……こ、怖い……。そんな大きいの……無理、です……」
あたしは顔を覆ったままの状態で、御主人様にそう告げていた。
御主人様が無言で覆い被さってくる。思わず身体を緊張させ縮こまるあたしを、抱きしめて抱え上げる御主人様。そのまま髪の毛を優しく梳き、頬を撫でる。
「うん、怖いってのは判るよ、初めてだからね。出来るだけ痛くしないから、任せて欲しいな」
「ホ、ホントに……痛くしない?」
髪の毛を梳かれる感触に安心感を覚えながら、震える声で質問。この時のあたしからはその行為を拒絶するって思考は全く生まれなかった。
「うん。念のため、さっきのローションもたっぷり使うね」
御主人様はその発言通り、再びあたしを横たえて指を挿入。あたしの中を壊れ物を扱う様に優しく掻き回しながら、ローションを塗っていく。指が出入りする度に、あたしは小さく呻いた。既に違和感の代わりに微かながら心地良さを感じるようになったあたしの秘所。御主人様から指摘されるまでも無く、あたし自身の体液も相当量溢れていたの。体液とローションを指が掻き回し、チュプチュプと淫靡な水音が聞こえてくる。身体の芯が疼き熱い波動が身体の隅々に広がっていく。
「あっあっ……ん、あ、き、気持ちが……いい」
「そうか、よかった……ハルヒ、そのまま何も考えずに頭を空にして、素直に気持ちよくなって」
「うん、あ……ん、くっ……はぁぁ……あっ」
気が付けば、指は出入りだけじゃなくて、円を描くような動きを加えていた。微かな痛みと、それを超える快感。御主人様は中を掻き回しながら、親指でお豆を軽く押す。
「あんっ!!」
あたしは御主人様の突然の責めに身体を大きく痙攣させた。
だめっ、そこは、だめ……ホントにおかしくなっちゃうの!!
目の前で火花が散り、思考が四散する。そして、「これなら大丈夫かな」と呟いて、御主人様が指を引き抜き、無言でローションをゴムつきのソレに大量に塗して行く。
あたしは裸体を隠す事もせず四肢を投げ出したまま、その行為をボンヤリと見守ったの。そして、御主人様の準備が整い、大きく脚を開いてって懇願された。その方が痛みが少ないからとも。
あたしは躊躇いつつも、素直にその言葉に従った。M字に開脚した自分の膝裏を両手で固定し、秘所を晒すあられもない体勢。ホントにすっごく恥ずかしい……。
御主人様があたしの股間ににじり寄る。手には避妊具を被りローション塗れのソレ。秘所にあてがわれた。身体がビクンと震える。
「あぁ……や、やっぱり……怖い」
「ハルヒ、深呼吸……そうそう、いい子だ。身体を弛緩させて……。ゆっくりと息を吸って」
あたしは言われたとおり、ゆっくり息を吸った。その瞬間、御主人様の身体が少しずつ前進し、膣穴が広げられ肉を掻き分け体内に何かが押し入ってくる感触があたしを襲う。全てが体内に巻き込まれていく幻想が浮かんだ。一瞬、鋭い痛みが奔り息が詰まる。その痛みは直ぐにジンジンとした鈍痛に取って代わられた。ただ、想像していたより、痛みは軽く、これ位なら我慢できそうだと頭の片隅で冷静に判断するあたし。
そして、その痛みとは別に、ゆっくりとあたしの中に他者が沈んで行く奇妙な感覚。今までの自分と決別したかのような達観とも諦観とも異なる不思議な感情が心で渦巻く。
内側がソレに擦られ、痛みとも快感とも取れる熱い微かな波動が膣から発生し、自然と畝るあたしの身体。
「んっ……あぁ、擦れ……あん!!」
そして、とうとう御主人様の前進が止まった。上半身を倒しあたしの耳元で囁き声。
「ん、もう、手を離していいよ。……どう? 痛みは感じる?」
「ちょ……ちょっとだけ。あ、でも……大丈夫」
あたしは握り締めていた太腿を手放し、その代わりにシーツを握った。口では大丈夫とは言ったけど、今だ鈍痛は継続中。我慢できないほどではないけど……。
あたしの中でビクンビクンと痙攣する御主人様の分身。お腹が張ってる様な競り上がってくる様な不思議な感じ。それよりも……あんな大きいモノが無事に入っている方が不思議かも。
「ん、無理はしないで欲しいな。初めてで痛くないわけ無いんだから」
「あ……でも、ホント、大丈夫……」
か細い声でそう告げると、御主人様はニッコリと微笑み、「いい子だ」と頬に口付けをしてくれたの。
初めての時に動くと傷を抉るのと同じで凄く痛いんだって。だから入れるだけに留めたって言うのは、後から聞かされた話。
御主人様は挿入後、ゆっくりと慎重に体位を変えていった。あたしもその指示に素直に従ったわ。
気が付くと、あたしは挿入されたまま、お姫様抱っこされる不思議な体勢になっていた。御主人様曰く「虹の架け橋」って体位らしい。あたしは不安定なその体位になった瞬間から、御主人様に縋りつきっぱなしなの。
御主人様がシーツの1点を見るよう促した。言われた箇所に視線を止める。
ごく僅か、小指の先ほどの範囲ながら、血痕が付いていた。あたしの破瓜の証。
想像してたよりも少ないかも……。もっとドバッと出るんじゃないかと思ってたから、これまた拍子抜けした位。
その後、御主人様は殆ど出し入れをしなかった。動くには不向きな体位って理由もあるみたいだけど、まるで挿入した事を忘れてるかの様に、舌や唇、指に掌を駆使してあたしのあちらこちらを愛撫。それから生まれ出た快感は全身を駆け巡り、あたしを翻弄した。
それらに呼応したのか、御主人様の分身が沈んでいる膣も熱を帯び、その侵入者と共にビクビクと痙攣。言い知れぬ刺激と疼き。我慢できない……。
その快感にあたしは幾度も意識が跳んだわ。頭が真っ白に染まる病み付きになりそうな快楽。
最後はお豆を重点的に責められ、御主人様にしがみ付き、はしたなく喘ぎながら大きく痙攣して果てたの。御主人様の背中に深い爪痕が残る位強く抱きついたわ。それが初めて天国へと連れて行かれたのを自覚した瞬間だった。
【さよなら】
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