赤色エピローグ 6章
「ハルにゃ~ん!」陽の差し込む病室に聞き覚えのある幼い声が響いた。その未来の美少女の後を追って入ってくる二つの優しい顔に向け、頭を下げる。「またあなたにお世話になっちゃったわね」ごめんなさいね、と続く言葉に軽く首を振り、あたしは病室を出た。今日はもうこれでお暇させて頂こう。「お疲れ様です」この病院の理事長の知り合いを叔父に持つ我が団の副団長と、スポーツカーがよく似合う美女がそこには立っていた。両方とも私服なのを見ると、どうやら本日副団長が学校に行く予定はなさそうだ。「彼は……」至極当然な質問が飛んでくる。昨夜から今日の今まで一緒に居たのは私だけなのだから、それは当然なのだろうが。「今日は……起きそうにないわね」そうですか、と返してくる副団長。「お疲れでしょう。送りますね」と、森さん。
「鶴屋さんは?」歩き出した森さんに続きながら副団長に尋ねる。これも至極当然な質問だろう。「静養中です。寝たり起きたりを繰り返していますが、やはり朝比奈さんが心配なようで……」そう言う所を聞くとずっと付きっきりだったのだろう。昨日あたしを送ってくれている森さんの車の中で延々と「鶴屋さんの家にお願いします……」とうわ言のように繰り返していただけのことはある。「そう……」またどこかで聞いた様な返事だ。力無い、と付け加えられてしまうかもしれない。
「そうですか……」とは副団長の弁。車の中で。「長門さんから言われてしまったのならどうしようもありませんね。あの方は嘘を言いませんから」「じゃあ……」「ええ、お察しの通り。僕は超能力者です」もう、元ですがね……と続く。「長くなりますし、詳しい事は割愛させて頂きます。宇宙人と未来人の事を僕以上によく知っている方が居た方が話しやすいので」いつものようにまたキョン待ちの様だ。今回キョンを待つのは……普段より二名程少ないが。「分かってたんでしょ?」無言でこちらを見る副団長。「みくるちゃんが居なくなった理由……」あたしが混乱しつつも必死に整理と考察を重ね、たった一晩で出せた理由だ。事情を知っていた、それでなくてもあたしより倍以上は回るであろうハイスペック脳を持つ副団長が気付いていないはずがない。「分かってたなら何で一晩中……」副団長は普段の笑顔を浮かべない。普通の人間ならばこれが普通なのだが、この副団長ならばただひたすらに普通では無かった。「………涼宮さんなら……どうです?」……?「仮に僕が朝比奈さんの様に居なくなって、彼が鶴屋さんのようにそれを取り乱す程心配してくれて……それを横で見ていたとしたら……」………。「『そんなの決まっている』……でしょう?」つまりはそういうことです。と、副団長。「それに……」と、続く「僕だって……信じたくありませんでした。朝比奈さんがこの時代……いえ、あの部室から居なくなるなんて……耐え難い苦痛でしたから」全くもってその通りだ。それは決を採るまでも無く全会一致、この場にキョンと読書少女が居ればスタンディングオベーションすら起こせそうな程完璧な回答だった。「それに、鶴屋さんについて行ったのが仮に僕で無くとも、間違いなく一晩中走り回るでしょうね」
それがSOS団のメンバーならば、誰でも。
そう答えた副団長の顔には大きな大きな粒が伝っていた。ここ一週間、身近な人の涙をよく目にした気がする。対有機……何だったけ? ……まあいい。宇宙人だって本当なら一度くらいは流してみたかったのではないだろうか。方法さえ知っていればだが……と考えた時、大きな大きな屋敷の入り口に車が止まった。 厳かな書体で書かれてあるその表札の文字が滲んでいたのは、もはや言うまでも無い。赤色エピローグ epilogue
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