赤色エピローグ
プロローグ
前の席にあるはずの大きな背中を見なくなってから数日。
担任の教師が入って来てもその空間は机と椅子だけで満たされていた。まあ何も満ちてなどいないのだが。
少し長引いたHRの終わりと共に鳴った始業のチャイムを合図に、突いていた頬杖を頭部の重さから解放する。
幻影さえも浮かばないその空間に溜息を送り出し、仕方なく数学の教科書とノートを取り出したあたしだったが、またすぐに体を机に突っ伏す事となる。やる気など出るものか。
「(……バカ)」
自分に言ったのか前の席の主に言ったのかは自分でも分からない。だが、誰にも聞こえないはずのボリュームで呟いたこの声に反応する背中が無いことに変わりは無いのだ。空はこんなに青いのに。
「涼宮さん」
そう呼ばれた声に反応する。だがいかんせん日光で温もりきった身体は上手く反応しない。
いつもなら「うるさい!」の一言で追い払うかだんまりを決め込むのだが、聞き覚えのある声だったのでゆっくりと体を起こす。
「睡眠中申し訳ありません」
いいのよ、と顔を合わせないまま答え、前の席に目をやる。まあやはり空席のままなのだが、それでも確認せずにはいられない。溜息を吐こうとしたが、隣に立っている副団長に心配されそうなので止めた。
「古泉君……」
はい、と言いながら目線を前の席からあたしの顔に移す副団長に話し掛ける。だがなかなか二言目が出てこない。
「まだ……寝ています……」
私の様子を察したのか、副団長の方から先に報告の言葉が飛んできた。相変わらず頼りになるというか鋭いというか……いい副団長だ。
「……そう」
どこかで聞いたことのあるような返事をする。力無く、と付け加えてもいいかもしれない。
「何か罰を考えなきゃね。キョンは高級中華料理奢りで、みくるちゃんは首輪をつけて町中引き回し、有希は一週間読書禁止よ。どう?」「そうですね……」
重みの無い返事だ。相変わらず顔は見ていないが、恐らく沈痛な面持ちであろう。そう考えた時、鳴って欲しくない始業の鐘が鳴った。
「僕はこれで。……また放課後に」
そう告げて去ろうとする背中に「うん」と小さく呟やき、重い体をもう一度机に投げ出した。
気付いた時、何かが……何かがおかしくなってしまっていた……。赤色エピローグ 1章
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