涼宮ハルヒの恋愛
今日は暖かい空気に包まれた2年生になってはじめての5月。
別に変わらないと思うかも知れんが、俺にとってはとてもいいことなのだ。
なんといっても、ハルヒが大人しく、何も暴走しないにもかかわらず、ご機嫌なのだ。
俺の顔を見るなり「おはよっ!今日から5月ね。気合入れていくわよ!!」というものの、何も起きない。
しかし、この後、俺が想像もしなかった事態になっていたことを知らされることとなった。
部室に行くと、そこには長門は居なく、別の奴がいた。
古泉一樹。自称、超能力者。
コイツだけとは珍しい。なにか企んでいるかのような笑みを浮かべている。
「お待ちしておりましたよ」
「何の用だ?また、ハルヒ絡みか。手短に頼むぞ」
「幸いです。僕も手短に済ませて置きたいことなので」
なんだ。もったいぶらずに言え。
「これは失礼。あなたにとってこれがいいことかは分かりませんが」
だからなんだ。気になるから焦らすな。
「実はですね。僕たちの力が少しずつ、使えなくなっているんです」
どういう意味だ?
「僕たち『機関』の方々の数名が閉鎖空間に入れなかったり、また入れたはいいものの、力が使えない、と言う人が続出してるんです。どういう意味か分かりますか?」
正直に言う。さっぱり分からん。力が使えなくなっただ?ハルヒが超能力者がいないものと本当に信じてしまったのでもいうのか?
「理解できてるじゃありませんか。その通り。彼女はもう信じていない。または、半分以上信用していない、ということです。使えないのは超能力者だけではありません。多分、長門さんや朝比奈さんもそうです」
「ちょっと待て。それは矛盾してないか?朝比奈さんがタイムスリップできなくなったら、未来の朝比奈さんは実在しないぞ。つまりだ、この場所で会った大人の朝比奈さんは居なくなるのか」
「いえ、その心配はありません。朝比奈さんの使っているタイムスリップシステムタイム・プレーン・デストロイド・デバイス、略してTPDDは未来に涼宮さんではない方が造られているので、TPDDの使用許可さえすれば、使わせてもらえるはずです。出来なくなるのはおそらく未来との連絡。つまり、連絡できる間に朝比奈さんは未来に帰らなくてはならないということです」
つまり、朝比奈さんが元居た時間対に俺たちからすると未来に帰るのも遠くない、ということか。
「そういうことです」
じゃあ、長門は?
「長門さんは統合思念体との伝達が出来なくなる恐れがあります。それか…」
「それか、なんだよ」
俺がそういったとき、調度いいタイミングで長門が入ってきた。
聞くに聞けない状況だ。
朝比奈さんが未来に帰り、長門がどうなるんだ?
そういえば、大人バージョンの朝比奈さんと初めて会ったとき、久しぶりといっていてな。それはひょっとしたらこれが原因で帰らなければ為らなくなったんじゃなんだろうか…
その後、ハルヒが掃除当番で遅れながら来た。
「あれ?みくるちゃんは?」
知らん。俺が来たときも居なかった。
「先程いらして今日は用事があって来れないと言っておくように言われました」
「そうなの。ま、いいわ。お茶は私が酌むわ!」
大丈夫なのか、という心配を抱きながら俺はまたさっきのことを考えていた。
そのとき、俺の携帯が鈍く唸った。思わず叫びそうになった。
メールが届いただけだが、そのメールを見てどれだけ驚いたか。
「すまない。俺はもう帰る」
「なんで?」
「おふくろからだ。直ぐ変えるようにと書いてある」
「ホントに?ま、いいわ。直ぐ帰りなさいよ」
俺は部室を後にした。
実はおふくろからというのは噓だ。
メールの送り主は光陽園駅前公園で待っていた。
「いきなりどうしたんですか?朝比奈さん」
そう、呼び出されたのは朝比奈さんになのだ。
「あの、話したいことがあるんです…えっと、禁則事項とかあるからあんまり分かりにくいと思うけど…」
「大丈夫です。それは理解の上です」
「良かった。で、本題なんですけど…私、未来に帰らなくてはならなくなってしまいました」
恐れていた事実に俺はただ愕然とすることしか出来なかった。
「上司からの命令なの…えっと、涼宮さんがなんていうか未来人を信じなくなって、いままでできた禁則事項の交換?見たいなのが出来なくなってしまうそうなんです。でね、禁則事項が普通に言えるようになってしまうんです。それだとこちら側からすれば歴史を変えることに繋がってしまうの。だから、後もう少しの間で電波が持つか持たないかって感じで、だから禁則事項が禁則事項なんです。ごめんね、わからないよね。でも、ここに居られるのもあと少しみたいなの…」
悲しそうに言う朝比奈さんを見て、ハルヒは何を考えてやがると思った。
「それだけです。ホントにいきなりでごめんね。じゃあまた明日部室で」
俺はくたくたになりながら家に帰った。
まさかこんなことになるとは思わなかったしな。
二人が言ったことがほとんど一致してしまう。恐怖とも言える。つまり、あと一人からもこんな話が…
そう思いながら鞄を開けると何か紙切れのようなものが落ちたのを感じた。
見るとそれは栞だった。そこには手で書いたとはとても思えない字で『今日 午後7時 私の家に』と。
普通に考えれば誰かなんてわかんないだろが、俺にはわかる。
午後7時。俺は見慣れたマンションの見慣れた部屋に居た。
「………」
「で、何の用だ?」
もう分かってるさ。もう3回目だぜ?これでわかんないのは谷口ぐらいだ。
「上手く言語化できない。情報の伝達に齟齬が発生するかも知れない。でも、聞いて」
その前ぶりを聞いたのは1年前ぐらいか。もう1年経ったのか。俺もアレから少しは変わったな。もちろん、こいつも。
「私は、今、ここにいる。でも、もうそれも長くない。涼宮ハルヒが宇宙人の存在を信じなくなったから。私の使命は涼宮ハルヒを観察し、入手した情報を統合思念体に報告することだった。でも、伝達するのも今は限界が来ている。惑星表面にあった情報フレアも観測できなくなった。ここに不思議なことが起こることはもうないと思われる。あなたとの会話も統合思念体からの命令でしているが、それすらも出来なくなっている。地球上にいる有機生命体は100人以上がその犠牲となっている。そして統合思念体が出した結論。有機生命体の回収。私たちを回収し、涼宮ハルヒの観察を終わりにする。私はもちろん、喜緑江美里も回収される。朝倉良子のとき同様、我々は光となり、この世から身を引く。私たちの存在を知っている人には統合思念体が情報操作を行い、転校したことになる可能性もあるが、比較的高度な確率で私たちが地球人類にナノマシンを注入し、記憶を綺麗に忘れさせる方法の2種類ある。どちらにせよ、私たちはこの世から消え去る」
随分でたらめな話だ。なんだよ、それ。結局俺はかやの外か。
「ちがう。あなたは涼宮ハルヒにとっての鍵。それだけは変わらない。この突然改変もあなたが原因となり出来た」
俺が犯人なのか?俺は普通の人間だぞ?変わったことは何もしていない。
「私もそれは分かっている。ただ、問題なのは涼宮ハルヒ。彼女はあなたという存在に好意を示している。
「はあ?あいつが、俺に?馬鹿をいえ。あいつは恋愛感情なんて精神病の一種だと思ってる奴だぞ?それを今更。しかも何で俺」
「彼女はちょっとしたことでも感じてしまうほどデリケート。だからちょっとしたあなたの優しさでも恋愛と感じとってしまうほど」
俺があいつに優しく?冗談はよせ。
「冗談ではない。あなたは彼女のご機嫌を損ねてはならない。特大な閉鎖空間が発生し、そこに閉じ込められる恐れがある」
そういえば、前にもそんなことがあったな。
「私も出来る限りの全力を出して手助けする。あなたの望みなら私はそれに従う。それが私の最後の使命」
そうか…なんでもいいのか?
「いい」
「じゃあ。明日、ポニーテールで登校してきてくれないか?」
「私の髪型ではポニーテールは困難」
「なんでもするんじゃなかったのか?」
「…分かった。実行してみる」
俺のわがままを聞いてくれてありがとよ、長門。
「別に構わない。コレが最後の望みにならないように」
そういって俺は長門の部屋をあとにした。
次の日の放課後。俺は真っ先に部室に向かった。
ドアをノックしても応答がない。
部屋に入ると長門がいつもの場所で読書していた。髪型は昨日の俺がリクエストしたポニーテールで。
「長門、良く似合ってるぞ」
長門は何も答えなかったが、嬉しそうな雰囲気だった。
「あら、キョン。もう来てたの。今日はやけに早いわね。あら?有希。今日はポニーテールなんだ。そうだ!」
そういうと俺を廊下に追っ払い「いいって言うまで入ってきちゃ駄目よ」と言い残して部室に入った。
すると、朝比奈さんと古泉が並んでやってきた。なんでそんな組み合わせなんだ?
「そこでばったりあったんですよ。昨日あなたにいった情報を交換したかったですしね」
そうか。
「キョンくんはなにしてるの?涼宮さんがお着替え中?」
「さあ。俺もさっぱりで」
すると、部室から「もういいわよ」という声が聞こえた。
ドアを開けて驚いた。
着替えていたのはハルヒではなかった。
いつも朝比奈さんが着てるメイド服をポニーテールの長門が着ていたのだ。
すると、取り繕った笑みを浮かべて古泉が
「わあ。長門さん凄くお似合いですよ」
「でしょ?可愛いでしょ?たまにはこういうのもいいわよね。みくるちゃんは今日は着替えなくてもいいわよ」
機嫌よくいうハルヒに朝比奈さんは嬉しそうにしていた。
「有希って背小さいし、顔整ってるしで萌え的にはいい素材なのよね。それに今日はポニーテールだし完璧だわ!」
と、いうなり長門にお茶を運ばせるように命令した。
順番にお茶を配っている長門をみると、表情が変わらなくても、内心では緊張していたのかもしれないと思う。
「お茶…どうぞ」
俺にそういってお茶を渡すと元の場所に戻ってまた本を読み始めた。
なんか変な感じだな。無表情兼無口の長門と癒しキャラである偽メイド朝比奈さんが入っているので長門兼朝比奈さんになっている。そこに黄色いカチューシャを着けて団長と書いてある腕章をつけたら長門兼朝比奈さん兼ハルヒになってこれまた厄介なことになりそうだな。
その帰り、ふと古泉に尋ねた。
「なあ、古泉」
「なんでしょう」
「ハルヒがこの状況を作りあげたのなら元に戻る方法もあるんじゃないのか?」
「あるにはあります。でも、とても困難です」
「どうやるんだ?」
「そうですね…涼宮さんはあなたを好いていらっしゃる。ならば閉鎖空間であなたが本当に好きな人を告白してみればいいのですが、いまの涼宮さんが閉鎖空間を生み出すのは困難に近いんです」
まてよ…昨日、長門は機嫌を損ねると閉鎖空間が出来るといっていた。そして閉じ込められると。それと今の話。
「なんとかなるかも知れないぞ。明日、早速実行だ」
「あら?有希だけ?」
ゆっくり頷く長門。俺は今掃除用具入れの中に隠れている。ちなみに古泉は窓の外の足の踏み場が少ししかない場所。
朝比奈さんはホワイトボードの後ろに椅子を置きその上。ハンガーラックで調度いい具合に見えない。
「有希、今日はポニーテールじゃないんだ」
反応しない長門。
「ん。何?私を虐めてるの?有希」
すると、長門は本を閉じ、新しい本を出した。
「もう。私、帰る」
そういうと怒ったようにドアを閉めた。
「長門。ホントにコレでいいのか?」
「いい。これで今夜閉鎖空間が現れる」
夜俺が眼を覚ましたのは部室だった。
「キョン、やっと起きたの…またここよ。もう、この時期は変な夢を見るのよね」
そうかい。俺は夢じゃないのくらいわかる。
「キョン?どうしたのよ。変よ」
ま、きにするな。
「気になるわよ!…ま、いいわ。夢のあんたも変わり者ね」
「お前にだけは言われたくないね」
「そう。ね、ねえキョン。ちょっと外に出ない?」
そろそろくるか、古泉の言っていたことが。
「あ、あのね。夢のあんたにいうのもその、なんなんだけど…私、言える自身がないから、あんたにいうわ」
なんだ、このハルヒは。本当にハルヒか?不気味だ。
「あ、あ、のね。私、ね。アンタのことが」
そういうハルヒは俺の肩に手を置いていた。そんな俺はその手を掴んで、言い返した。
「ハルヒ、俺も言いたいことがあるんだ」
「え…?」
「あのな、俺実は…」
夢から覚めた俺は気分がすっきりしていた。
俺は迷惑だと思ったが、長門に電話した。
「…」
「長門か?あのさ、世界変わったか?」
「変わった。必要以上に・・・」
そうか。しかし何が必要以上に変わったんだ?
「・・・秘密。あえて言うならアナル。」
「なあ。ひとつ頼みがあるだが…」
次の日。
俺はまた忍足で部室へ向かった。
「ん?あら、キョン。遅かったじゃない。今日は古泉君がコスプレしてるんだからね」
古泉はいつもの場所で微笑んでいた。今日は映画で使った超ミニスカのウェイトレスの服だった。さらにツインテールだった。
「ねぇキョン」
「なんだ?」
「キョン、実際問題誰が好きなの?」
んなもんいない。強いて言うなら朝比奈さんだな。あのお方こそ目に入れても痛くないというものだ。
「ばかじゃないの」
馬鹿で結構。今は何言われても頷ける。
すると長門と朝比奈さんが入ってきた。またこのコンビか…朝比奈さんは少し涙目になっていた。
「みくるちゃん?泣いてるの?」
「い、いえ。違います。欠伸しただけです」
「そう。それよりキョン。あんた昨日なんで来なかったの?」
「行かなかったのは俺だけじゃないだろ?」
「責任者はあんたよ!!」
「何でだよ」
「何でもよ!!」
俺たちが言い合いをしてるときだった。
「ふふ」
微かだが笑い声が聞こえた。
その声の持ち主はハルヒでも朝比奈さんでも長門でももちろん俺でもない。
古泉が控えめに俺のアナルを見つめてた
「古泉?」
そういったかと思うといきなり満面の笑みを浮かべて
「古泉君がキョンを襲ってるわ!!」
そうだな、俺はそういって襲ってくる古泉から逃げていた。
昨日コイツに言ったのは間違えだったか?
でも、朝比奈さんだといっても間違いじゃないんだしな。これでよかったんだ。
昨日俺が放った言葉。
俺は―――古泉以外のSOS団全員が好きだ。
♪お・わ・り♪
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