続く空
夜空にパァッと大きな花が開く・・・それは、とても綺麗だったけどあたしの心はそれを綺麗だと思わない・・・1年前はあんなに綺麗に見えていたのに・・・ぽっかりと穴が開いてしまった様な虚無感・・・それは、きっといつも隣に居たキョンが居ないから・・・「続く空」それは1年前・・・高校最後の夏休みの事だった。「さぁ、キョン!今夜、花火を見に行くわよ!!」「おいおい、相変わらずいきなりだな。俺の予定はお構いなしか?」「あったりまえでしょ!ほら、他の団員は了承済みなんだからあんたも文句言わずに来る!!」「やれやれ、分かったよ」これで準備は全部整った。後は古泉君達が上手くやってくれるでしょ。あたしは今までの人生の中で一番緊張してるのが分かる。だって、あたしは今夜キョンに告白するんだから!!キョンが告白してくれるのをずっと待っていたけれど、もうこれ以上は待てない!今の関係が嫌いってワケじゃないけど、それ以上の関係になりたい。一度、そう思ってしまうとその思いはどんどん膨らんでいった。「今日はこれで一旦解散ね!夕方6時に駅前集合よ!!1秒でも遅刻したら尺玉と一緒に打ち上げるから!!じゃあね!!」あたしはそう言い残して喫茶店を飛び出した。家に帰るとあたしは夕方まで待ちきれずにもう浴衣に着替えていた。お気に入りのリボンと同じ色の色で向日葵の絵があしらわれた浴衣。あいつ、笑わないよね?似合うって褒めてくれたら嬉しいな・・・なんて妄想にふけっていたらあっという間に家を出る時間を過ぎていた。「やばっ!いってきまーす!!」あたしは、これからの事に胸を躍らせながら家を出た。待ち合わせ場所に着くと、キョンが既に待っていた。まさか、キョンに先を越させるなんて!!これは屈辱だわ!!「やっほー!あんたにしちゃ早いじゃない!」「そりゃ、あんな事言われたら嫌でも早く来るさ」ん?あたしなんか言ったっけ?「何だ?その「あたしなんか言ったっけ?」って顔・・・・は・・・・」「ははは、良く分かってんじゃない!!で、あたしはなんて言ったの?」あれ、なんでだろ?キョンがさっきからあたしから目を逸らす。ひょっとして、この浴衣似合わなかったのかな・・・・だからあたしを見てくれないのかも・・・・「ち、遅刻したら尺玉と一緒に打ち上げって言っただろ?」あ、そういえばそんな事言ったかも。そんな事より、キョンがおかしい。さっきからあたしを見てくれないし、語尾のアクセントも変。明らかに動揺している。あたしの格好が変だから、一緒に居るのが恥ずかしいとか・・・いつになくマイナス思考が働いてしまう。「ね、ねぇ、この浴衣そんなに変?あたしには似合わない?」あたしは聞いてみた。「い、いや、その、なんだ。似合い過ぎてて目のやり場に困ってるんだ」あ、そうなんだ。キョンはただ照れてただけなんだ。ホント良かったぁ。「そ、そうなら早く言ってよ!!似合ってないのかなって不安になったじゃない!!」「あぁ、済まなかったな」まったく反省の色が見えない。これはおしおきが必要ね!!「あたしを不安にした罰よ!!もう一回ちゃんと似合ってるって言いなさい!!」「なんだそりゃ?」「早くしなさい!!じゃなきゃ尺玉よ!!」「はぁ、分かったよ。ハルヒ、その浴衣なすっげー似合ってるぜ」キョンはそこまで言うと顔を真っ赤にして地面を転がり出した。「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!」周りの注目が一気に集まる。この時は本気で恥ずかしかった!!「何やってるのよ!!恥ずかしいじゃない!!さっさと起き上がりなさいよ!!」「はぁはぁ・・・あ、あぁ、取り乱してすまん」あたしの言葉を聞いたキョンがやっと起き上がりながら言った。「それより、有希達遅いわね。もう集合時間過ぎてるのに」「お前を待ってる間に連絡があった。3人とも急用で来れなくなったそうだ」「そう。じゃあ、ここに居ても仕方ないしそろそろ行きましょ!!」ここまでは、古泉君の計画通りね。「あぁ、そうだな」そうして、あたし達は会場に向かった。ホントは手を繋いで行きたかったな・・・到着した会場は人がバカみたいに溢れていた。まったく、もっと他の場所に行きなさいよね!!とか考えてたらキョンがいきなりあたしの手を握ってきた。「ちょ、ちょっと!!いきなりどうしたのよ?」いきなりの事にあたしはパニック寸前だった。「いや、はぐれたら困ると思ってな。嫌だったら離すが?」キョンの顔が赤くなっているような気がした。でも、あたしはそれ以上に赤くなっているだろう。キョンの手は何度も握った。その時はまだキョンを「男」としか思っていなかったから何の気無しに出来た。けど、今は違う。あたしは完全にキョンを「好きな人」として認識してしまっている。そう認識してからはキョンの手を握る事が出来なかった。でも、今キョンと手を繋いでいる。しかも、キョンから握ってきてくれた。その事がなにより嬉しかった。「そ、そうね。はぐれたら困るもんね!!仕方ないから繋いでてあげるわよ!!」「そうかい、ありがとよ」あたしってホントに素直じゃない。こんなんでホントに告白なんて出来るのかな?「さぁ、行くわよ!!いいポジションを確保しなきゃ意味無いんだからね!!」「へいへい」歩き回る事20分!あたし達はようやくいい場所を無事に見つけ、そこに腰を下ろした。「あー、疲れた。やっと座れるわ!!浴衣って着慣れないからホントに疲れるのよね!!ってか、人多過ぎよ!!」「あぁ、まったくだ。さて、落ち着いた所で食料調達に行ってくるぞ。何が食いたい?」「あ!あたしも行くわ!!」「いいよ、疲れてんだろ?買ってきてやるから食いたいもん言え」「そう、じゃあ焼きそばとたこ焼きとお好み焼きとジュース!!」「分かった。じゃあ行ってくるな」「うん、よろしくね!」キョンが買出しに行った後、あたしはキョンに何て言って告白しようかそればかりを考えていた。幾つも候補はあったけど、それでキョンがOKしてくれる自信が無かった。それどころか、今のままだったら告白する事さえ出来ないかもしれない・・・ホントにいざってなるとダメだな・・・はぁ、どうすればいいんだろ?キョンに思いを伝えたいと思う。でも、拒絶されたらって思うと恐い・・・その時、首筋に何か冷たい物が当たった。「ひゃっ!?な、何!?」「よう、どうした?暗い顔して」振り返ると、そこには買出しから帰って来たキョンが立っていた。「キョン!?い、いきなり何すんのよ!!びっくりするじゃない!!」「あぁ、悪い悪い。で、どうした?」「別に・・・・なんでもないわよ」あたしのこんな部分は見られたくないな。「そうか、ならいいんだけどな。お、そろそろ始まるみたいだぞ」「・・・うん・・・」「はぁ・・・ったく、世話が焼けるな。おい、お前が食わないなら俺が全部食っちまうからな!!」そう言ってキョンが焼きそばを食べ始める。香ばしいソースの匂いがあたしに空腹中枢を刺激した。「えっ?ちょ、ちょっと、あたしの分は?」「知らん。全部俺が食うんだからな。指でも咥えて見てろ」くぅ、旨そうに食べてくれんじゃない!!「キョン、それあたしによこしなさいよ!!」あたしは強引にキョンの焼きそばを強奪した。「やっぱりお前はそうしてるのが一番だよ」「ふんっ、何言ってんのよ!!あんたこそ指でも咥えてなさい!!」もう、なんだかんだ悩んでた事がバカらしくなる。そもそも、そういうのはあたしのキャラじゃない!!あたしはただあたしらしくすればいいだけなんだ。その時、空に大きな花が開いた。様々な色の花が夜空を彩る。今まで何回も見てきたけど、今日の花火はそのどれよりも綺麗に見えた。それはきっと「好きな人」と一緒に見たからなんだろう。あたしはマヌケ面で空を見上げてるキョンを見ながらそう思った・・・花火大会の帰り、人影がまばらになった道をキョンと二人歩いていた。その途中ではっとなる。花火に夢中になって、キョンに告白するの忘れた・・・・もう!!あたしってホントにバカね!!こうなったら、公園にでも連れてって告白しようかしら!と思っていたら「なぁ、ハルヒ少し公園に寄って行かないか?」ってキョンが突然言い出した。ラッキー!!こんなに早くチャンスがくるなんて思いもしなかったわ!!「いいわよ!!行きましょ」幸い、すぐ近くに公園があって、今はベンチに座っている。うー、やっぱりいざとなると気まずい・・・・さっきの勢いはどこにいったのよ?ふと、空を見上げるとそこには満天の星空が広がっていた。「ねぇ、キョン!あの星座ってなんだっけ?」「ん?あー、見た事あるけど名前が出てこないな」「もぅ、あんたってホントにダメね!」「おいおい、そりゃお互い様だろ?」「まぁ、そうね!!来年までに勉強しとくわ!!それまであの星座の名前はキョン座よ!!」「いや、流石にそれはないだろう。はぁ、まぁいいか。でな、お前にどうしても話しておきたい事があるんだが聞いてくれるか?」え?キョンが2人きりであたしにどうしても話って・・・もしかして告白!?ど、どうしよう?この事態は想定してなかったわ!!あぁ、何も考えられないよぉ!!「おい、顔が真っ赤だが大丈夫か?」「え、あ、だ、だだ、大丈夫よ!!で、で、話って何?」「あぁ、あのな俺」キョンから言ってくれるなんて・・・あぁ、もう死んでもいいわ!!「高校を卒業したら海外に留学しようと思うんだ」正直・・・期待はずれだった。じゃなくて、キョンは今なんて言ったの?海外?留学?誰が?何がなんだか分からない。脳が理解しようとするのを頑なに拒む。「キョン、何言ってるのか分からなかったからもう一回言ってくれない?」「ん?あぁ、分かった。俺、海外に留学しようと思うと言ったんだ」キョンが留学!?何言ってんの?もうワケ分かんない!!「な、いきなりそんな事言われても困るわ!!大体、それを何で今あたしに言うのよ!?」あたしはまだ期待していた。お前は特別なんだって言ってほしかった。「いきなりで悪かったな。だが団長に一時離脱を認めてもらわなきゃならないし、それに「もういい!!」あたしはキョンの言葉を遮った。つまり何?キョンはあたしが団長だからこの話をしたっての?そう、キョンはあたしをその程度にしか思てなかったって事なのね・・・あははっ、あぁバカらしい!はなっから勝ち目の無い勝負だったのね・・・あれだけ悩んだ自分が今は滑稽だわ!!もう・・・どうでもいいや・・・「おい、ハルヒ・・・」「何よ?海外でもどこでも行けばいいじゃない!!話は済んだんなら帰るわね、バイバイ!!」「おい、待てよ!!」キョンがあたしの腕を掴んでくる。「離しなさいよ!!バカ!!」これ以上ここに居たくない・・・「いいから最後まで聞けよ!!」「もう嫌なの!!何も聞きたくない!!お願いだから離してよ!!」あたしはキョンの手を払い除けてそのまま走り出した。もう何も考えたくない!!何も聞きたくない!!頭の中をとにかく真っ白にしたくて夜の街をただ走った・・・やっと落ち着いた頃、あたしは自分の部屋のベッドの上に居た。どうやって帰ってきたのかなんて分からない。もう・・・寝よ。あたしはベッドに身体を投げ出し目を閉じた・・・・その後、あたしはずっと家に篭って残りの夏休みを消化した。そして、とうとう2学期の初日がやってきた。あたしは重い足取りで学校に行った。あの日以来、キョンとは会っていない。会ってどんな顔をすればいいか分からない。どうやって話し掛ければいいか分からない。教室のドアが重く感じる。ドアを開けたその先にキョンの姿は無かった。担任の話によるとキョンは夏風邪で欠席らしい。それを聞いて少し安心している自分が居る。あたしってつくづく最低ね・・・・放課後、いつものように部室に向かった。せめて協力してくれた3人には謝ろうと思うから・・・・部室のドアを開けると既に3人が待っていた。「こんにちわ涼宮さん。どうでした?告白は上手くいきましたか?」「ううん、ダメだった。折角協力してくれたのにごめんなさい」「ほう、だめ・・でしたか。それはまた何でですか?」「え?何でって?」「一応聞きますが、それはちゃんと告白して断られたって事ですよね?」「・・・・・ううん、出来なかった」「・・・そうですか。で、涼宮さんはこのままでいいんですか?後悔しないんですか?」そんなの嫌だけど・・・・もうどうしようもないじゃない!!「今だから言います。実は我々、彼にもあなたと同じ相談をされていたんですよ」「それ、本当なの?」それってキョンがあたしの事好きって事?でも、そんなの信じられない。だって、キョンはあたしをただの団長としか思ってなかったんだから・・・「はい。ですからよっぽどの事が無い限りは成功するハズなんですけどね」「でも、キョンは告白なんてしなかったわよ!!」「そうですか。まぁ、彼の性格なら一番肝心な所を後回しにしますからね。その間に何か誤解が生じたのでは?」そこであたしは思い出した。キョンが何か言おうとしたのを遮ってしまったのを。それでも伝えてくれようとしたのを拒んだ事を。「あたし、あたし、キョンにひどい事をしちゃった」あたしは勝手に誤解してなんて事をしてしまったんだろう・・・もう、きっと許してもらえない・・・あたしの世界が足元から真っ暗になる・・・「大丈夫ですよ。まだ間に合いますから」みくるちゃんがそう言いながらあたしを優しく抱きしめてくれた。「でも・・・・でも!!」「キョン君、あの日からずっと落ち込んでましたよ。涼宮さんを傷つけたって言ってました。今日も涼宮さんと会っても傷つけるだけだからって学校サボってます。聞こえはいいですけどそれはとっても格好悪いと思います」「それはあたしも同じ!!あたしだってキョンを傷つけた!!」そう、これはキョン1人に背負わせていい事じゃない。「そうですね。そうやってお互いをこんなにも思いあえる涼宮さんとキョン君ですからまだ間に合います。絶対に大丈夫確信が持てます。ね、長門さんに古泉君」みくるちゃんがいつもより大きく見えた。それは、あたしなんかじゃとても敵わない位に大きく。「・・・まだ逆転可能・・・」「そうです。ゲームセットにはまだ早過ぎますよ」みくるちゃんだけじゃない。有希も古泉君もいつもよりずっと大きく見える。そうだ、まだ諦めるのは早い。まだ、終了のゴングもホイッスルも鳴っていない。なにより、こんな最大級のエールを貰って立ち止まってるなんて格好悪過ぎる!!1度は真っ暗になってしまった心にまた光が灯り出すのが分かる。「みんな!!あたし、行ってくるわ!!キョンの所へ!!」もう迷わない!!何か言っても無理やり頷かせてやればいい!!それが・・・あたしなんだから!!「はい、いってらっしゃい。頑張って下さいね!」「御武運を。朗報を期待してますよ」「成功率120%。頑張って」あたしは1人じゃない!!いつだって傍にみんなが居てくれる!!だから、それをキョンにも伝えに行こう。キョンも1人じゃないんだって伝えに行こう。そしてなによりあたしのこの思いの全てを伝えに行こう。もう格好なんか気にしない!不恰好でも無様でも構わない。ありのままの気持ちを全力でぶつけよう。「ありがとっ!!じゃあ、行ってくるわ!!」あたしはみんなにお礼を言って部室を勢い良く飛び出した!!あたしはキョンの家を目指してひたすら走った。ごめんね、キョン。辛いのはあたしだけじゃなかったんだね。あたし、今行くから!!もう絶対に逃げたりしない!!今度はちゃんとキョンに「大好き!!」って伝えてみせるから!!だから・・・・待っててね!!息を切らせながらもあたしはなんとかキョンの家に辿り着いた。呼鈴を鳴らそうとしたその時、キョンが玄関から出てきた。「はぁ・・はぁ・・・。キョン!!」「ハ・・ルヒ」「あんた、学校サボっておいてどこ行くのよ?」「別に。お前には関係ないだろ」キョンの反応が冷たい。でも、こんな事位で挫けてられない。これがあたしの罪なんだから。「話があるの。付き合って」「生憎、俺は話すことなんて何もない。じゃあな」「いいから聞いてよ!!」「うるさいな!!もう俺に構わないでくれよ!!」心が痛い・・・これはあたしがキョンに与えてしまった痛み。だからあたしはこの痛みを逃げずに受け止めなければならない。そっか、キョンはこんなに痛かったんだ。あたしよりずっとずっと痛かったんだね。「ごめん・・・なさい」これが今のあたしに出来る精一杯の謝罪だった。「何がだよ?」「あたし、キョンの話を最後まで聞いてあげられなかった!勝手に誤解して逃げて・・・キョンをいっぱい・・・いっぱい傷つけた!!だから・・・ホントにごめんなさい!!」 こんな事でキョンの傷は癒えない。あたしはそれだけの事をしてしまった。キョンにどんな汚い言葉を掛けられても耐えなくちゃならない。それが、せめてもの罪滅ぼしだと思うから。「・・・・・・」キョンは何も言わない。呆れて何も言えないのかもしれない。それでもあたしはここで諦めるワケにはいかない。「こんな事で許してもらえるなんて思ってない。でも・・・・それでもあたしの話を聞いて欲しい!!」聞いてくれるか分からない。聞いてもらえないかもしれない。もし、聞いてもらえなくても、何度でも聞いてもらえるように頑張るしかない。「・・・聞きたくないって言ったらどうするんだ?」「聞いてくれるまで何度でも頑張るわ!!」それを聞いたキョンはふっと笑った様な気がした。「分かったよ。お前は一度言い出したら聞かないからな。話は聞くからとりあえず家に上がれ」目の前に居るのはいつものキョンだった。「うん。ありがとう」あたしはそのままキョンの部屋に通された。「で、話って何だよ?」「うん。ねぇキョン、あたし達が出会ってもう2年以上になるんだね。あたしって何をやっても空回りばっかりで、いっつも周りに迷惑掛けてばっかりのどうしようもない奴だったよね。 だけど、キョンはいつもそんなあたしのすぐ傍に居てくれた。文句を言っててもちゃんと傍であたしを見守っててくれた。あたしはそれが嬉しかった。ホントに・・・すごく嬉しかったんだよ」 キョンは真剣に聞いてくれている。そこに居るのはいつもの、あたしの大好きなキョンだ。そうだとしても、もしかしたらダメかもしれない・・・それでもこの思いの全てをキョンに伝えよう。そのために今ここにいるんだから。ありのままのあたしを見てもらおう。そのためにここまで来たのだから。最後まで希望を持ち続けよう。この希望はあたし1人のものじゃないのだから。「・・・ハルヒ・・・お前・・・」「それでね、あたしは気が付いたの。あたしはキョンの事が好きなんだって・・・」「・・・・・・」「あたしは・・・キョンが好き!世界で一番キョンの事が大好きです!!出来ればずっとキョンの傍に居たかった。でも、キョンはこんなあたしを許してはくれないよね。あたしは思いを全部伝えられただけで十分だよ。十分だから・・・」 そこまで言うとキョンがあたしを抱きしめた。「もういい・・・もう、お前の気持ちは全部伝わったからさ。だからもう我慢しなくていいんだ」「何・・・が?」キョンが何を言ってるのか分からない。「お前、何もかも1人で背負い込もうとしてるだろう。俺を一方的に傷付けたって思ってるんだろ?言っとくがそれは間違いだぞ。俺だってお前を傷付けたんだ。だからお前が俺を傷付けたって思うならそれはお互い様なんだよ!!だから、お前が背負い込んだものを半分俺によこせ!お前がどうしても自分を許せないってなら俺が一緒に背負ってやるよ!!」「だけど・・・あたし、あたし!!」「俺もちゃんと謝らなくちゃな。ハルヒ、あの時は一番大事な事を言ってやれなくてごめんな。お前の期待を裏切る様な事をして本当にすまなかった」「キョン、違うよ!!あたしが全部悪いんだよ。勝手に誤解して勝手に逃げ出したあたしが悪いんだよ!!」「なぁハルヒ、これ以上自分を責めないでくれよ。俺の大好きなハルヒはそんなんじゃないぜ?」「だけど!!」「もう何も言わなくていいからさ。そろそろ溜め込んでるもんを出しちまえよ?」キョンがそう言って抱きしめる力を強めてきた。なんだ・・・何も悩む事も恐がる事もなかったんじゃない。キョンはいつだって受け入れてくれたんだ。それなのにあたしは、誤解して逃げて勝手に思い込んで・・・・ホントにバカなぁ、あたし・・・安心して気が緩むと今まで押し込めていたものが一気に溢れ出した。「・・・っく・・・・ふ、ふえぇぇぇん!!キョン!!キョン!!」「よしよし、お前は今まで良く頑張ったよ。だから全部泣いちまえ。俺がずっと傍に居るから」「うん・・ひっく・・うん」「ハルヒ、ゴメンな。俺にちゃんと告白する勇気があればこんな事にならなかったんだよな。本当にゴメン。俺もハルヒが好きだ。世界中の誰よりもお前が大好きだ!!」 キョンに好きって言ってもらえて一層涙が溢れ出す。「キョン!!あたしも・・・ぐすっ・・・・あたしもキョンが大好きだよ!!」「あぁ。ハルヒ、こんな意気地が無い俺だけどよろしくな」「あたしこそ・・・っく・・・よろしくお願いします」あたしは泣いた・・・・零れる涙には、痛かったのと辛かったのと寂しかったのと情けなかったのと・・・そして嬉しかったのが混ざっている。でも、この涙を恥ずかしいとは思わない。だって、この涙はキョンを思って出るものだから・・・・あたしのキョンへの思いが溢れ出たものだから・・・・あたしは今この涙を流せた事を誇りに思う。キョンはあたしを受け入れてくれた。ワガママなあたしも意地っ張りなあたしも素直になれないあたしも弱いあたしも受け入れてくれる。あたしもキョンの全部を受け入れよう。一緒に笑って、一緒に怒って、一緒に泣いて、一緒に悩んでこれからを過ごしていこう。そう思える位の幸せ。この幸せを掴めって応援してくれた3人に心から感謝しよう。あの3人もいつか幸せを掴める様に心から応援しよう。いつまでも・・・キョンと一緒に・・・あたしが泣き止んだ頃には外はすっかり暗くなっていた。「キョン、そろそろ帰るわ」できれば一緒に居たいけど明日も学校あるしね。「そうか、じゃあ送っていくよ」「うん、よろしくね!!」二人で玄関に向かうとキョンのお母さんがリビングから出てきた。「あら、帰っちゃうの?外も暗いし今日は泊まっていったら?」「そうしたいですけど、ご迷惑ですから帰ります」「迷惑なんかじゃないわよ。それよりこのヘタレに送らせて何かあった方が困るから泊まっていきなさい!!」キョンは苦笑いしている。「お気持ちは嬉しいですけど、うちの親に聞いてみないと」そこでキョンのお母さんの目がキュピーンと光った。「じゃあ、すぐに聞いてみて」もう、なにを言っても無駄みたい・・・「分かりました。聞いてみます 。」あたしはカバンから携帯を取り出し家に電話を掛けた。トゥルルガチャッ!!母さん、出るの早っ!!『はいはーい、どうしたのハルヒ?」「あ、母さん?今、キョンの家に居るんだけど今日泊まっていっていい?」『そうなの?あちら様に迷惑じゃないの?』「キョンのお母さんが、外も暗いし泊まっていけばって言ってくれたの」『あ、それならオッケー!!』了承するの早っ!!親ってもうちょっと難色を示したりするもんじゃないの?「え?いいの?」『キョン君のお母さんがOKしてるんでしょ?だったらいいわよ!!ついでに既成事実の1つや2つ作っちゃえば?』いきなり何言い出すのよ!?この親は!!「ちょ、ちょっと何言ってんのよ!?そんな事まだしないわよ!!」あ、迂闊だった。『まだ・・・ねぇ。まぁ、いいわ。好きにしなさい』「う、わ、分かったわ。今晩はキョンの家にお世話になるわ」『じゃあ、キョン君のお母さんによろしく言っといてね!」「うん、分かった。じゃあ切るわね」『あ!あと一つだけいい?」「何よ?」『カバンの内側のポケットに下着の替え入れておいたからちゃんと替えなさいよ!じゃあねぇ』ブチッツー ツー ツーこの準備の良さはなんなの?母さん・・・侮れない人・・・携帯をしまって振り返るとキョンとキョンのお母さんがじーっとあたしを見ていた。「話はついた?って聞くまでもないわね」「はい、お世話になります」「そうよね!そうこなくっちゃ!!良かったわねぇ。あんた、ちゃんと避妊しなさいよー」あたしが許可を貰った事を聞くとキョンのお母さんがキョンに絡みだした。「お、おふくろ!?な、何言ってんだよ!!」「だって子供できたら大変でしょ?それとも何?もう孫の顔を見せてくれるの?」「そんな事しねーよ!!ハルヒ、行くぞ!!」キョンがあたしの手を握って歩き出す。「え、あ、うん」「あ、ハルヒちゃん!いざって時は、机の引き出しの裏側を見てね!!」
「え?あ、はい」どうにか、二人で部屋に辿り着くとキョンがでっかい溜息をついた。「はぁ。まったく、何を考えてるんだあの親は?」「まぁ、いいじゃない。朝までずっと一緒に居られるんだから」「あぁ、そうだな」「うん!!なんか、落ち着いたらお腹減っちゃったね」「だな、おふくろに何か作ってくれって頼んでくるわ」と言ってキョンが立ち上がった時、ドアがノックされた。「キョンくん、ハルにゃん、お母さんがご飯だから降りてきなさいってよー!」ノックの主は妹ちゃんだった。「分かった。すぐに行くよ。と言う事らしいから行くぞハルヒ」「うん!!」あたし達は部屋を出てリビングに向かった。夕食の席であたし達は散々なまでにキョンのお母さんにイジられた。あまりの恥ずかしさにご飯の味が良く分からなかった位に。ご飯の後、お風呂に入った。キョンのお母さんに「一緒に入ったら?」とか言われたけどそれはなんとか断った。べ、別にキョンと一緒に入るのが嫌ってわけじゃないんだからね!!ただ、その・・・恥ずかしかっただけなんだから!!お風呂からあがり、色んな意味でのぼせたあたしはキョンがお風呂に入っている間キョンのベッドの上でダラーっとしていた。あ、そういえばキョンのお母さんが机の引き出しの裏になんかあるって言ってたけど何なのかしら?あたしは好奇心の赴くまま机の引き出しの裏を覗いてみた。そこにあったセロテープでとめられた小さい袋を取り何か確認してみた。こ、これって、あれよね!?えーっと、そう!!近藤さん家の夢ちゃん!!それをまじまじと見ていたらキョンが戻ってきた。「ふぁー、さっぱりした。ん?何やってんだハルヒ?」「あ、キョン!これなんだけど」「ん?あぁ、夢ちゃんか。どうしたんだこれ?」「ここにあったの」「何!?さてはおふくろの仕込みだな。それ貸せ、叩き返してくる!」キョンがあたしの手から夢ちゃんを持っていこうとする。あたしは夢ちゃんを離さなかった。「おい、どうしたんだ?」「ねぇ、キョン。その・・・しよ?夢ちゃんのお世話になろ?」「お、おい!お前何言ってんのか分かってるか?」「分かってる。あたし、キョンの愛をもっと感じたいの!!だから・・・・愛してほしい」これはあたしの本当の気持ち。キョンの愛をもっともらいたい・・・その気持ちはもう止まらなかった。「分かった。そこまでハルヒに求められたら俺も限界だ」キョンがそっとあたしの背中に腕を回してくる。あたしもそれに応えるようにキョンの背中に腕を回した。キョンのぬくもりがとっても気持ちいい。キョンの顔がゆっくり近づいてくる。あたしも背伸びをしてゆっくり近づける。そして・・・あたし達は始めてのキスをした・・・キョン・・・大好き・・・翌朝、あたしはキョンより早く目が覚めた。そして、昨晩の事を思い出していた。夕べのキョン、優しかったなぁ。あたし、キョンと同じ布団で寝ちゃったんだぁ♪一度は諦めかけた事が現実になっている。これはその確かな証。やった!キョンの寝てる顔独占だぁ!!とりあえず写メ撮っておこう!あたしは無事に写メを撮りまくると制服に着替えた。さて、そろそろキョンを起こすとしますか。「キョン、もう朝だから起きて」「んー、むにゃむにゃ。ハルヒ、お前って結構積極的なのな・・・」これ、寝言!?確認してみたけどやっぱり寝てる・・・あー、もう!なんか腹立ってきた!!「さっさと起きなさい!!このエロキョン!!」「んー?あぁ、ハルヒかぁ。おはよう」「おーう」キョンがのそのそとベッドから出てくる。「もっとシャキッと出来ないの?夕べはシャキッとし過ぎてた位なのに!」「はぁ、やれやれ。すっかり元通りだなお前は」「何よ!何か文句があるわけ?」「いや、お前らしいと思ったんだよ」あ、朝っぱらから恥ずかしい事言ってんじゃないわよ!!ちょっと嬉しいけど・・・「ふ、ふん!!いいから早く支度しなさい!!」「はいはい、分かったよ」その後、キョンが支度してキョンのお母さんが作ってくれた朝御飯を食べて学校に向かった。家を出る際キョンのお母さんに「またいらっしゃい!新しい夢ちゃんと待ってるからね!!」って言われた。どうやら、全部筒抜けだったみたい・・・うぅ、恥ずかしいよぉ・・・「何、顔を赤くしてるんだ?」キョンがいきなりあたしの顔を覗き込んできた!!「べ、別になんでもないわよ!!あ、あんたこそ朝からキスしようとか考えてるんじゃないの!?」「そうだねぇ。したいって言ったらさせてくれるのか?」「そ、そうね!!どうしてもってんならさせてあげるわよ!!」って!何言ってんのあたし!?すっかり、キョンのペースに乗せられてる!?悔しい!すっごく悔しい!!あまりに悔しかったからあたしからキスしてやった。「お、お前!いきなり何を!?」「な、なんか文句があるわけ!?ほら、さっさと行くわよ!!」と言ってあたしは手を差し出した。「はいはい」キョンがそう言いながらあたしの手を握って歩き出す。しばらく歩いていた時、あたしはある事を思い出した。「ねぇ、そういえば、あんたどこに留学するの?」そう、それはキョンの留学についてだ。「あぁ、アメリカに親戚がいてな。1ヶ月くらい前に久々に日本に帰ってきて、俺の家に来たんだ。んでその時に、俺の書いた文章を呼んで、あっちで勉強すればなかなかいい物が書けるようになるって言われて俺の家族とあっちの夫婦で盛り上がっちまってな。それで高校を卒業したらこっちに留学してみたらどうだ?って言われたんだ」「そうなんだ。で、あんた自身はどうしたいの?」「何かを書くのは楽しいし、出来れば行きたいと思う。だけど・・・」「だけどなに?」「今は、お前と離れたくない」正直、キョンの気持ちは嬉しかった。でも・・・あたしのために夢を諦めるなんてそんなのは認めない!!「あんたバカじゃないの!!そんな事で夢を諦めちゃっていいの?」「そんな事って、お前なぁ」「何よ?」「じゃあ、逆に聞くがお前は俺と離れても平気なのかよ?」「平気なワケ・・・・ないじゃない!!」「ハルヒ・・・」「ホントはずっと傍に居てほしいに決まってるじゃない!!」行ってほしくなんかない。別れたくない。傍にいてほしい。そう言えばキョンはきっとそうするだろう。でも、そう分かってるからこそ「行かないで」って言っちゃいけない気がする。「だから俺は!!」「キョン、この話はまた放課後にしよ・・・このままじゃホントに遅刻しちゃうよ」「・・・あぁ、そうだな」あたし達は急ぎ足で学校に向かった・・・少しだけ間に距離を置いて・・・その日の授業はキョンの留学の事を考えていたらあっという間に終わった。あたしはキョンを引っ張って部室へと足を運んだ。「やっほー!!」部室には昨日と同じように3人が待っていた。「あ、涼宮さんにキョン君。こんにちわ。うまくいったみたいですね!良かったです」「これはこれは、なかなか見せつけてくれますね。羨ましい限りです」「・・・成功・・・」「3人とも、昨日はありがとね!!」「すまん、世話になったな」「いえいえ、それで今日の活動は何をするんですか?」「今日は会議よ!!内容はキョンの留学について!!」「おい、ハルヒ!それは!!」「ほう、留学ですか。詳しくそのお話をお聞かせ願えますか?」「えぇ、そのつもりよ」あたしは事の全てを3人に話した。「なるほど。つまり、彼は涼宮さんと離れたくないから留学をやめると言っているワケですね」「おい、古泉!」「言い方が悪かったなら謝ります。ですが、今のあなたは涼宮さんの心をほとんど理解出来ていませんよ」「ハルヒの・・・思い」「キョン君、私も涼宮さんの言う通り、行った方がいいと思いますよ」「朝比奈さん」「確かに離れ離れになるのは辛いと思います。でもね、自分のせいで夢を諦められたらもっと辛いんですよ?涼宮さんが本心からただ「行きなさい」って言ってるワケないでしょ? 涼宮さんだって本当は行ってほしくないはずです。それでも「行け」って言ってるんです。なんでだか分かりますか?」「それは・・・自分のせいで俺が夢を諦めるのが嫌だから・・・」パチーン!あのみくるちゃんがキョンを叩いた。いつものあたしだったらここでみくるちゃんに掴みかかっていたかもしれない。でも、今はそれをしない。だって、それはみくるちゃんがあたしとキョンの事を思ってしてくれた事だから。「まだそんな事言ってるんですか!?だとしたらキョン君はまだダメダメなままですよ!!涼宮さんはキョン君の事が好きだから!大好きな人を応援したいから!本当は離れたくないっていう自分の本心を無理やり押し込んで・・・無理して・・・それでも「行け」って言ってるんですよ!どうしてそれを分かってあげられないんですか!?」「俺・・・は・・・」「あなたは行くべき」「長門」「あなたが行かなかったら涼宮ハルヒは一生自分を責め続ける。彼女のそんな姿を見たくないなら行くべき。あなた達ならどんなに離れていてもきっと大丈夫。それに、私はあなたが書いた本を読んでみたい」3人ともこんなに真剣になってくれる。あたし1人じゃここまで説得するのは無理だった。ホントにこの3人にはいくら感謝しても足りない。そう思っていると3人の目があたしに向けられてきた。ホント、あんた達には一生勝てる気がしないわ。分かったわ、後は任せて!!「キョン」「ハルヒ・・・俺は・・・」「うん。あたしだって同じ気持ちだもん。あたしだってキョンとずっと一緒に居たいよ・・・でも、これはきっとキョンにしか出来ない事だと思うから。だから行ってきて!あたしはずっとここで、この町でキョンだけを待ってるから。晴れの日も雨の日も、暑い日も寒い日もキョンが帰ってくるのを待ってるから。だから・・・あたしが心の底から自慢出来るような男になって帰ってきなさい!!」「ハルヒ・・・俺行ってくるよ。ハルヒが自慢できるような立派な男になって帰ってくるって約束する」「うん。約束だからね!!約束破ったらあんたなんか捨てちゃうんだからね!!覚悟しておきなさい!!」「あぁ、肝に銘じておくよ」「よろしい。キョン、卒業までまだ半年あるんだからいっぱい思い出をつくろうね!!」「そうだな。沢山つくろうな!!」こうしてキョンはアメリカに留学する事に決まった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・時間って楽しければ楽しいほど過ぎるのが早い。あたし達は卒業するまでの間にいっぱい思い出をつくった。色んな場所に行った。色んな事をした。いっぱい笑った。いっぱい怒った。少しだけ泣いた。長かったようで短かった。頭をそっと撫でてくれた。ムカついたから蹴り飛ばした。いっぱいキスをした。いっぱい愛し合った。この思い出とキョンへの思いがあるからあたしは大丈夫!だから、笑って「いってらっしゃい」って言おう。そう思った・・・そして・・・キョンがアメリカに出発する日がやってきた。その日は雲1つ無い青空だった。あたしは・・・いえ、あたし達はその日、キョンを空港まで見送りに行った。今はロビーで搭乗時間になるのを待っている。みんなが簡単に挨拶を済ませフラッとどっかに行ってしまった。きっと気を利かせてくれたのだろう。「キョン、忘れ物は無い?ハンカチとティッシュ持った?」「おいおい、遠足に行くんじゃないんだぜ?」「ふふっ、それもそうね。じゃああたしの写真は持った?」「あぁ、100枚位持ったよ」「よろしい。いい?浮気したら許さないんだからね!!」「はいはい、分かってますよ」もっと言ってあげたい事がいっぱいあったハズなのに・・・結局、最後の最後まで素直になれなかったな・・・その時、空港内にアナウンスが掛かった。「じゃあ、そろそろ行くな」「あ、うん・・・」早く「いってらっしゃい」って言わなきゃ・・・もう!!あたしの意気地無し!!「ハルヒ、行く前に1つしておきたい事があるんだがいいか?」「な、何よ?ん」キョンはいきなりあたしを抱きしめてキスしてきた。いきなりの事に頭がパニックを起こす。え?え?何がどうなってるの?あたしが冷静さを取り戻す前にキョンは唇をゆっくり離した。「よう、元気でたか?」とキョンが爽やかスマイルで言ってきた。ちょっと、それは古泉君の専売特許よ!「あ、ああ、あんた!!な、何してんのよ!!このエロキョン!!」「元気無さそうだったから俺の元気を注入してやったんじゃないか」「だ、だからってこ、こんな大勢の見てる前でキスしなくてもいいでしょ!?」「別に今更気にならんだろ?」「な、なるに決まってんでしょ!!もう、さっさと行っちゃえ!!このバカキョン!!」「へいへい、じゃあそうしますかね。じゃあ、行ってくるな」あ、今なら言えそう!よりにもよって送る相手に気を使わせるなんて・・・・はぁ・・・「あ、キョン!!」「ん?何だ?」「いってらっしゃい!!」あたしは今の自分が出来る最高の笑顔でキョンにこの言葉を送った。「おう!いってきます!!」キョンも今までで最高の笑顔で応えてくれた。そして、キョンは笑顔のまま振り向き歩き出した・・・あたしはキョンが見えなくなるまで見送った。その後、空港の屋上でキョンの乗った飛行機が消えていった空をいつまでも見上げていた。あたし達を繋いでいるのは思いだけじゃない・・・この空もあたしとキョンを繋いでいてくれている。そんな気がした・・・その年の夏、あたしはSOS団の団員を集めて花火大会に行った。今は1年前のあの日と同じ様に駅前でみんなを待っている。もちろん、キョンは居ない。だからビリの罰ゲームはナシ!これ聞いたらあいつ怒るかもね。そうそう、留学して以来1ヶ月置きにキョンから手紙が届く。最初は日本語だったのに最近は調子に乗って英語で手紙を書いてくるんだけど加減スペルの間違いが多過ぎる。あいつらしいと言えばあいつらしいけど・・・なんかガッカリ・・・あ、みんなが来たみたいだからもう行くわ!この話はまた今度ね!!「さぁ、行くわよ!!今日はSOS団復活記念だからガンガン飛ばすわよ!!」去年と同じ道をみんなと歩いていると不意に何かがこみ上げてきた。あたしは大丈夫!!絶対に・・・大丈夫なんだから!!キョンが行ったあの日から何回そう言い聞かせただろう?去年と同じ道を歩けば歩くほど寂しさが募る。キョンが居なくても大丈夫・・・って思ってたんだけどなぁ・・・やっぱり無理みたい・・・会いたいよ・・・キョン・・・「涼宮さん、どうかしましたか?」みくるちゃんが心配そうに聞いてきた。どうやら顔に出てたみたい。「何でもないわ!どうも浴衣って着慣れなくて違和感があるのよ!それだけ!!」我ながら苦しい言い訳だと思う。「そうなんですか?実は私もなんですよぉ。浴衣っていいですけど胸の辺りとかきつくて疲れますよねぇ」みくるちゃんはきっと気付いているだろう。それでも気付かないフリをしてくれる。「あ、みくるちゃんも?ホントどうにかならないもんかしらね」ペチン!!あたしは頭を何かで叩かれた。「痛っ!ちょっと何すんのよ!!」振り返るとハリセンを持った有希がこっちを睨んでいた。「ゆ、有希!?」「それは贅沢な悩み。私に対する挑戦と認識した。覚悟して」有希がハリセンを振り上げる。なんかとてつもない迫力がある・・・「有希!!あたしよりみくるちゃんの方が大きいわよ!!」それを聞いた有希はあたしの胸とみくるちゃんの胸を見比べた。「朝比奈みくるを敵性と判断した。覚悟するといい」ぺチン!!ペチン!!ペチン!!有希がハリセンでみくるちゃんを叩く。「ふえーん、長門さん許してくださぁい」これが有希なりのボケ方なんだろう・・・多分・・・「有希、それ位で許してあげたら?それより、そのハリセンどうしたの?」「そこの数字合わせで当たった」数字合わせ?あの有希が数字合わせって・・・「っぷ、あははは!!そう、良かったわね有希!!」コクリ「じゃあ、急ぎましょう!!って、古泉君は?」「お呼びですか?」「あ、いたいた。どこ行ってたの?」「はい、食料調達をしてました」そう言ってビニール袋を目の前に差し出す。「あ、そうなんだ!流石は副団長ね、ご苦労様!さぁ、行くわよみんな!!」「「「おー」」」いつの間にか寂しかったのが消えている。ホントに世話になりっぱなしね。いつかまとめて返済するわ!!会場に着いたのは花火が始まるギリギリ前だった。手頃な場所を見つけてあたし達は腰を下ろした。「ふぅ、なんとか間に合いましたね」「ホント、ギリギリだったわね!」「想定の範囲内」「はぁ、疲れましたねぇ」その時、アナウンスが掛かりいよいよ花火大会が始まった。夜空にパァッと大きな花が開く・・・それは、とても綺麗だったけどあたしの心はそれを綺麗だと思わない・・・1年前はあんなに綺麗に見えていたのに・・・ぽっかりと穴が開いてしまった様な虚無感・・・それは、きっといつも隣に居たキョンが居ないから・・・下を向くと涙が出そうになるからあたしはずっと上を向いていた。キョンが帰ってくるまでは泣かないって決めたから。帰って来た時に目の前でたくさん泣いて困らせてやるんだから!!だからそれまでとっておこう・・・花火大会が終わった後、明日不思議探索する約束をみんなとしたあたしは1人であの公園に来ていた。ここに来るのもあの日以来ね。あたしはベンチに座って満天の星空を見上げた。「1年ぶりね。元気にしてた?」あたしは1年前に「キョン座」と名付けた星座に話し掛けた。もちろんそんな事をしても星座が話すわけなんてない。そういえば、あの星座のホントの名前はまだ知らない。知ったとしても変えるつもりはない。だって・・・キョン座はあたしだけの星座なんだから!!キョン座の光に話し掛けるとまるでキョンと話してるみたいだった・・・だからあたしはその星座にたくさんの事を話した。今日、みんなで花火大会に行ったの!あの有希が数字合わせをしてたのよ!!みくるちゃんが有希にハリセンで叩かれて大変だったんだから!!キョン、あんたは今何してるの?あたしが居なくてもちゃんと楽しくしてる?そうだと嬉しいんだけど・・・なんか寂しいね。ねぇ、キョン・・・やっぱり遠いね・・・思いがあれば近くに感じられると思ってたけど・・・やっぱり遠過ぎるよ・・・あたしね、今日少しだけ泣きたくなっちゃったのよ・・・でも、みんながあたしを支えてくれたからもう大丈夫!あたしはこれから先もずっとキョンの事を愛し続けるから・・・キョンが帰って来るのをずっと待ってるから・・・明日ね、みんなで久し振りに不思議探索するの!!だから・・・そろそろ帰らないと。あたしはゆっくり立ち上がりながらもう一度空を見上げた。すぐにまた会えるよねキョン!!FIN
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