涼宮ハルヒの出産
今にして思えば、ハルヒのあの一言がきっかけだったと言えよう。現在、俺は社会人二年目で、半年前からハルヒと同棲している。ハルヒの一言によって今の関係が終わるとはこの時の俺には知る由も無かったのだ。それはいつもの様に帰宅したある日の事だった。「ハルヒ、ただいま」
「お帰りなさい、キョン。お疲れ様」あぁ、ハルヒの笑顔があれば疲れなんて吹っ飛ぶね。そのままベッドインしたくなるがそれでは雰囲気が無いのでここは我慢するとしよう。俺は夕食の後、リビングでハルヒの淹れてくれたお茶を飲んでいた。「あ、あのね、キョン、ちょっと・・・話があるんだけどいい?」いつになく神妙な面持ちでハルヒが話しかけてきた。「あぁ、構わんぞ。んで話って何だ?」
「うん。えっと、その・・・」なんか、切り出しにくそうだな。ハルヒは黙って俯いてしまっっている。俺は頭の中で切り出しにくい話を検索していた。検索結果・・・・別れ話・・・・・なに!?別れ話だとぉ!!「何言ってんの?あたしキョンと別れる気無いわよ?もし今度、別れようなんて言い出したら即刻死刑よ!!分かった?」
「あ、あぁ、分かったよ」俺は心底ほっとした。思ったことをそのまま口に出してしまうこの癖はなんとかしよう。「でも・・・キョンがどうしても別れようって言うなら・・・あたしは・・・」あろう事かあのハルヒがしおらしくなっている・・・誤解されたままなのもあれなのでここはきちんとしておくとしよう。「安心しろ、ハルヒ。俺は何があってもずっとお前の傍にいるよ」
「うん、ありがと。あのね、あたし・・・その・・・出来たみたいなの」俺はハルヒが何を言ってるのか理解出来なかった。「何が出来たんだ?懸賞のクイズでも出来たのか?」
「違うわよっ!!子供が出来たみたいって言ってんのよっ!!」なるほどね、そうかそうか・・・って子供!?それ俺の子か?「当たり前じゃないっ!!あんた以外に誰が居るってのよ!バカキョン!!」また声に出ていて様だな・・・怒ったハルヒは俺の胸をポカポカ叩いている。俺はハルヒを力一杯抱きしめてやった。「ゴメンなハルヒ。俺、父親になれるんだな。ほんとに嬉しいよ」
「・・産んでいいの?・・・受け入れて・・・くれるの?」
「当たり前だろ」
「・・・だったんだから・・・」
「え?」
「ずっと不安だったんだから!!拒絶されたらどうしようってそればっかり頭にあって・・・キョンはそんな事絶対しないって分かってるのに・・・それでもやっぱり不安は・・・消えなくて・・・・・」 ハルヒの訴えに俺はハルヒを抱きしめる腕に更に力を込めた。「今まで気付いてやれなくてゴメンな。明日一緒に産婦人科に行こう。その後ハルヒの両親の所に挨拶しに行こうな」
「挨拶って何の?」
「もちろん、ハルヒと結婚させて下さいって挨拶さ」
「ふぇ?キョン、今なんて言ったの?」
「ん?あぁ、ちょっと待ってろな」俺はそう言って自分の部屋に向かった。俺はクローゼットを開け、中に隠してあったものを取り出し部屋を出た。リビングに戻った俺は未だにポカンとしているハルヒの前に正座した。「ハルヒ、今までずっと俺と一緒に居てくれてありがとうな。思えば色んなことがあったよな。沢山デートもしたし喧嘩もしたな」ハルヒはじっと俺の目を見て話を聞いている。「本当に楽しかった。出来ればいつまでもこの関係を続けたいと思ってた。でも・・・」俺は、ここで一息置いた。なんせここからが本番だからな。「でも?なに?」
「俺はこの関係を終わりにしなくちゃならないと今は思っている」
「!?」ハルヒが自分の耳を抑えようとする。俺はその手を握って続けた。「これからは俺の彼女じゃなくて、妻になって欲しい」
「キョン・・・それって・・・」
「ハルヒ、俺と結婚してくれ」
「キョン!!あたしでいいの?あんたの事信じたいのに信じきれなかったあたしなんかでほんとにいいの?」
「あぁ、お前以外なんて考えられない。それ位俺はお前にゾッコンだ。それで俺のプロポーズをOKしてくれるか?」
「うん、喜んで!がさつでワガママなあたしだけどこれからもよろしくお願いします」
「俺こそよろしくな。でだ、済まないんだが少し左手を貸してくれないか?」ハルヒはそれが何か分かったらしく、微笑みながら左手を差し出してきた。俺はさっき部屋から持ってきた小さい箱から銀色に光るリングを取り出しハルヒの左手の薬指にはめた。ハルヒはその指輪を見てニコニコしていたがそのままソファーで寝息を立てていた。俺はハルヒをベッドへ運び、そのまま一緒に寝る事にした。
翌日、俺とハルヒは産婦人科へ向かった。検査の結果は妊娠1ヶ月だった。いやはや、早く産まれてきてほしいものである。病院を後にした俺とハルヒは一度家に戻り正装に着替え結婚する事とハルヒが妊娠1ヶ月だった事を報告するため涼宮家に向かった。インターホンを鳴らしたら何故か俺の母親が出迎えたりしてのだがそれは些細な事であろう。そう思いたい・・・俺の母親のイジりもなんのそのでどうにか家に上がることが出来た。「あらあら、いらっしゃい」
「今日はお話があって来ました」
「お願い、聞いて!!とっても大事な話なの!!」
「ふむ、聞こうじゃないか」俺とハルヒは、ハルヒの両親に向かい合う様に座った。「で、話とはなんだい?」俺にはユーモアなんて無い。だから直球勝負あるのみだ!!「ハルヒを俺に下さいっ!!ハルヒとの結婚を許してくださいっ!!」
「これはまたストレートに来たな。また、どうしていきなりそんな事を言い出したんだい?何か理由があるのだろう?それを聞きたいね」
「実は、あたしキョンの子供を妊娠したの!!だからっ!!」
「ほう、つまり子供が出来たから結婚すると?そんな理由で結婚を許すと思ってるのかい?」
「お、お父さん!?」
「それは違いますっ!!確かにハルヒが妊娠した事で踏ん切りがついた事は認めます。でも、俺はハルヒが好きだから、ずっと一緒に居たいから結婚したいんですっ!!だからお願いしますっ!!ハルヒと結婚させて下さいっ!!」
「・・・キョン・・・・」ハルヒはまた俺の手を握ってくれた。
「・・・っく、くくくっ、はぁーはっはっは!!いやぁ、若いな!羨ましい限りだ。いいぞ、二人の結婚認めようじゃないか」俺とハルヒは呆気にとられていた。「・・・え?ホントですか?いいんですか?」
「あぁ、幾らでも持っていけ!!」
「結婚して・・・いいの親父?でもどうして?」
「あぁ、いいぞ。もう長い付き合いだからな。彼がどういう人間かはよく分かっているさ。さっきのはちょっと試しただけだ。悪かったな」
「ハルちゃん、キョン君、これでやっと言えるわね。おめでとう」
「ありがとうございます」
「母さんありがとっ!!」
「キョン、やったねっ!!」とハルヒが抱きついてくる。「あぁ、一時はどうなるかと思ったけどな」その後は、「キョン&ハルヒの結婚&妊娠祝い」と題された宴会に突入した。正直、誰が主役なのかさっぱり分からん位に滅茶苦茶だったとだけ伝えておこう。
無事、結婚式の日程も決まり俺とハルヒはせっせと招待状を書いていた。俺が仕事に行っている間に、ハルヒが俺の分の招待状も書いていてくれたので予想より早く終わった。ある夜、俺は書きあがった招待状をポストに投函しに行った。家を出る際ハルヒが「映画のDVDレンタルしてきて」と言っていたので、ハルヒに言われたDVDを無事に借り、帰宅している最中の事だった。いつもの道を歩いているとなんとひったくりの犯行現場に出くわしてしまったのである。ひったくりは女性からバッグをひったくると真っ直ぐこちらに走ってきたので俺はひったくりを捕まえようとしたのだが、走って勢いが付いていたひったくりのタックルを食らった俺はあえなく吹っ飛ばされてしまった。 あぁ、ダサいな俺・・・等と考えていて注意力が欠落していたのだろう。俺は頭を電柱に思いっきりぶつけた。衝撃と鈍い痛みが俺の頭の中を支配する。全く・・・これじゃあ・・・・マンガのギャグキャラ・・だよな・・・・・そんな事を思いながら俺の意識は薄れていった・・・・・・・・・・・・気が付くと俺は白い靄の掛かった所に寝っ転がっていた。どこだ?ここは・・・さっきまでの頭の痛みが全然無くなっている。俺はここがどこなのか確かめるために立ち上がったら突然、俺の足が勝手に何かを目指すように動き出した。な、なにがどうなってんだよ!?何の抵抗も出来ないまま暫く進んでいくとトンネルの様なものが見えてきた。コレイジョウイッテハイケナイ!!俺の脳が危険信号を出してくるが今の俺にはどうにも出来ない。トンネルに足を踏み入れそうになった時誰かが俺の腕を掴んだ。振り返るとそこには見知らぬ少女が立っていた。「こっち!!」そう言って少女は俺を引っ張ってトンネルと逆方向に歩き出した。「お、おい!?お前は誰だ?ここは一体何処なんだ?」「あたしは××!ここはあの世よ!!」少女の名前はノイズが混じったみたいに良く聞き取れなかった。それよりこいつは今何て言った?あの世?あの世って俗に言う死後の世界ってやつか?なんてこった・・・俺は死んじまったってのか?「まだ死んでないわ。あそこに足を入れたらアウトだったけどね」「そうなのか?仮にそうだとして、お前は俺を何処に連れて行こうとしてるんだ?」「もう着いた。さぁ、早く此処に飛び込んで!!」少女が指差した先には地面にポッカリと大きな穴が開いていた。「この穴は何なんだ?一体何処に繋がってるんだ?」
「そんなのいいからさっさと飛び込んで!!ホントに間に合わなくなる!!」
「な、何が間に合わなくなるんだ?ちゃんと説明してくれ!!」
「あぁ、じれったいなぁ!!さっさと行かないとホントに死んじゃうわよパパ!!」そこまで言い切ると少女は俺を穴の中へと蹴り飛ばしやがった!!「何すんだ!?こっちはまだ心の準備が出来てないんだぞ!!」と言いつつも何かが俺の中で引っ掛かっていた。「あはは、パパの意気地が無いのがいけないのよ!!」
「パパって・・・お前まさか!?」
「やっと気が付いたの?まぁ、いいわ。また会おうねパパ!ママが待ってるから早く行ってあげて!!」そう言って笑う少女の顔がハルヒと被った。俺はもっと何か言いたかったが穴の闇に飲まれそれは叶わなかった・・・・・・・・・・・・・「・・・・・キ・・・キョン・・・・早く・・・を開けな・・いよ」誰かに呼ばれた様な気がして目を開けるとそこにはハルヒの顔があった。「・・・よぉ、どうしたんだ?」
「アンタが寝ぼすけだから起きるのをずっと待ってたのよ!このバカキョン!!」
「そうか、俺はどれ位寝てたんだ?」
「丸1日ずっと寝てたわよ!!さぁ、この落とし前をどうやってつけてくれるのかしら?」
「そりゃ済まなかったな。ハルヒの好きな様にしてくれて構わないぞ」
「じゃあ、誓いなさい!!」また主語が抜けている・・・「何をだ?」
「それ位自分で考えなさいよ!もう絶対にあたしを辛い目にあわせないって、一人にしないってあたしに誓えって言ってんのよ!!」
「あぁ、分かったよ。絶対にハルヒを辛い目にも1人にもしないって約束する」
「破ったら酷いんだからね、覚えておきなさいよ!!」
「あぁ」その後の検査で異常は無かったのだが俺はもう一日様子見という事で病院で過ごす事になった。いきなり約束を破る訳にもいかないのでその晩はハルヒと一緒に泊まる事にした。その夜、俺はハルヒ曰く「寝てた」間の出来事をハルヒに話してやった。当然ハルヒには「夢見過ぎなんじゃないの?」とか冷めた目で言われたけどな・・・翌日、無事に退院した俺はハルヒに手を引かれ家を目指している。おっと、1つやり忘れていた事があったな。俺はハルヒのお腹に手をあて一言呟いた。「ありがとな」と。
そこから1ヵ月近く話が飛ぶ訳だがあまり気にしないでもらいたい。ここ1ヶ月は特に何も無い平凡かつ平和な毎日だった訳で、これと言って話す様な事も無いのだ。今日はいよいよ待ちに待った結婚式当日だ。ハルヒはというと昨日から実家に戻っている。花嫁は式の前日は実家に帰るものらしい・・・よく分からんがな。こうして俺は今、ハルヒの居ない孤独感を味わいながら親の迎えを待っている。あぁ、ハルヒに早く会いたい等と想いを馳せていると見覚えのある車が見えてきた。その車が俺の目の前で停まると中から賑やかな人たちが降りてきた。「やっほーっ!!キョン待ったーっ!?」
「おっはよーっ!!キョン君ーっ!!」ホントに朝から元気だね、あなた達は・・・「おはよう、朝から悪いな」
「そんなの気にしなーい!!さぁ、さっさと乗りなさい!!主役が遅れちゃ話になんないわよっ!!」
「そうだよー、遅刻したら罰金なんだよー」そう言って母さんと妹は俺を助手席に無理矢理押し込みやがった。その拍子に俺は、頭をクラクションに思いっきりぶつけた。ビビッーーーーーーーー!!朝からこれじゃ先が思いやられるな・・・「ちょっとキョン、朝から近所迷惑じゃないっ!!しっかりしなさい」
「そーだぞー、しっかりしろー」あなた達は一体誰のせいで俺が頭をぶつけたと考えていらっしゃるのかな?俺が文句の1つでも言おうとしていると親父が肩を叩いて制止してきた。「まぁ、言いたい事は分かるが、とりあえずシートベルトをして座れ。これじゃ発進出来ない」
「あ、あぁ、スマン親父」親父にそう言うと俺は座ってシートベルトをした。「それじゃあ、式場へ向けてレッツゴーーーーーっ!!!」
「ゴーーーーーっ!!!」俺を乗せた車が式場へ向けて走り出した。車内では俺の家族が新婚旅行について来るだの好き勝手言っていた。流石に今回ばかりは謹んでお断りしたがな・・・こんな事をしていたらいつの間にやら式場に到着していた。車に乗る度に俺が鬱に入るような気がするのは、気のせいだろうか?車を降りて入り口に向かうとそこに懐かしい顔が居た。「よう、古泉じゃないか。久し振りだな、よく来てくれた」そう、「機関」所属の超能力者、古泉一樹である。「あぁ、どうもご無沙汰してます。本日はお招きありがとうございます」
「そっちは・・・相変わらずみたいだな」
「えぇ、そりゃもう。涼宮さんの力が無くなったからといって、対抗する組織が無くなる訳ではないですからね。今も毎日忙しくしてますよ」
「それはご苦労さんだな。スマン、迷惑掛けるな」それを聞いた古泉は一瞬驚いた顔をしていたが、すぐにあのニヤケ顔に戻る。「いえいえ、確かに力を授かってからは苦労も多いですけど、結婚式に呼んでくれる友人が出来たという事は人生においてプラスになってると僕は考えています」
「あぁ、そうだな。今日は来てくれてありがとな、楽しんでいってくれ」
「はい、そうさせてもらいます。本日はおめでとうございます。ではまた後で会いましょう」
「あぁ」俺はそう言って古泉と別れ、控え室へと向かった。
控え室に着いた俺は、衣装さん数人に衣服を引ん剥かれ、純白のタキシードに衣装チェンジさせられた。その際、パンツを一緒に引っ張られマイサンを室内公開してしまったというアクシデントがあったがこれは心の内にしまっておくとしよう・・・そんな新たなトラウマと格闘していると誰かがドアをノックした。「はーい、どうぞー」ガチャ「やぁ、キョン。おめでとう」
「おう、国木田。よく来てくれたな」
「おい、キョン!俺はシカトか!?」
「あぁ、谷口もよく来たな」
「まったく、折角来てやったってのにそれかよ?へこむぞマジで」
「あぁ、冗談だ。悪かったな」本来ならここで終わるはずだったのだが、流石アホの谷口はこれで終わらなかったのである。「しっかし、よくあの涼宮と結婚する気になったな。正気の沙汰とは思えんぞ」国木田が制止しようとしたがどうやら間に合わなかったらしい。気にするな国木田、お前はこれっぽっちも悪くないぞ。「谷口、俺の聞き間違いだと悪いからな。もう一回言ってくれるか?」俺はいつもより30%声を低くして聞いた。これでいい加減気づけよ、谷口。これで気づかなかったら、お前はホントに無能だぞ。「ん?あぁ、あの涼宮と結婚するなんて正気じゃないと言ったんだぞ」あぁ、だめだ・・・「・・・谷口よ、お前は祝いに来たのか?それとも俺にケンカを売りにきたのか?さぁ、どっちだ?」
「お前、頭大丈夫か?祝いに来たに決まってるだろ?」
「ほぅ、これから結婚する相手をわざわざ侮辱しに来るのがおまえ流の祝うという事なんだな?」俺は、ゆっくり立ち上がり殺意を全て谷口に向けて放った。そこまでして、ようやく谷口は自分が何をしたのか悟ったようで土下座しながら謝りだしやがったっ!!地面に頭を擦り付けて謝っている奴をどうにかする程血に飢えている訳ではないので許す事にした。「もういい。頭上げろ」
「許してくれるのか?やっぱ、お前いい奴だなぁ」
「ははは、キョンも大変だねぇ」
コンコン
「はい、どうぞ」入ってきたのは式場の職員だった。「失礼します。そろそろお時間なので準備の方をお願いします。準備が整いましたら外で待っていますのでお声をお掛け下さい」
「はい、分かりました。ご苦労様です」
「じゃあ、僕達は先に行くよ」
「じゃあな、待ってるぜキョン」
「あぁ、そうしてくれ。また後でな」控え室への最後の来客が去りまた控え室に一人になった。俺は鏡を見て、最後のチェックを済ませた。よし、行くか!!俺は外で待っていた職員さんに話し掛け教会へと向かった。入り口で職員さんと別れ、入った教会の中は知った顔で満員御礼だった。俺は不覚にも感動して泣きそうになってしまったのだがハルヒもまだ来ていないので、そこはぐっと堪える事にした。深呼吸して自分を落ち着かせているとお約束のあの曲が流れ始めた。そして教会のドアが静かに開いた。そこには、おじさん・・・いや今日からはお義父さんだな。お義父さんとハルヒが立っていた。もう、さすがにクラッっときたね。だってそうだろ?もともと綺麗なハルヒが更に綺麗になってるんだ。もはや、これを形容する事は出来ないだろう・・・意識が遠退くのを必死に堪えているとお義父さんに先導されてハルヒが目の前まで来ていた。「キョン君、娘を頼んだよ。幸せにしてやってくれ」ここまできてもやっぱりその名で呼ぶんですね・・・お義父さんがそう言い終わるとハルヒがお義父さんの腕から俺の腕へと腕を絡めてくる。「はい、必ず幸せにしてみせます」そう言うと俺とハルヒは祭壇へ向けてバージンロードを一歩一歩を確実に踏みしめた。祭壇に着くまで俺の頭の中をハルヒとの思い出が走馬灯の様に駆け巡っていた。思えば、あの日あの公園でハルヒと会わなかったら俺はどうなっていただろう?もし、ハルヒに会っていなかったらこんなにも幸せな気持ちになれただろうか?いや、これだけは断言できるが、絶対にここまで幸せにはなれていないだろう。そして、俺とハルヒは遂に祭壇に辿りついた。「汝ら、今日此処に永遠の愛を誓う者の名は○○○○、涼宮ハルヒに相違ないか?」
「「はい」」
「よろしい。では○○○○よ、汝は新婦涼宮ハルヒを妻とし、健やかなる時も病める時も永遠に愛する事を神に誓うか?」
「はい、誓います」と答えたらハルヒに蹴りを入れられた。ハイヒールの踵は痛すぎる・・・なんで俺が蹴られにゃならんのだ?「よろしい。では涼宮ハルヒよ、汝は新郎○○○○を夫とし、健やかなる時も病める時も永遠に愛する事を神に誓うか?」
「誓わないわ!!」教会の中が一気にざわつく。「おい、此処まで来ていきなり何言ってんだよ?」俺の心は今最大級に冷や冷やしているのがお分かり頂けるだろうか?花嫁が永遠の愛を誓わないって言い出して焦らない花婿は居ない筈だ。「だって、居るかどうかも分からない神に誓ったって意味無いじゃないの!!」また無茶苦茶を言い出したよ、この人・・・「それはそうかもしれないが、様式美ってあるだろう?」
「そんなの下らないわよ!!あたしが永遠の愛を誓うのはキョンだけなのよ!!そうでしょキョン?」こんな恥ずかしいセリフを大勢の前で堂々と・・・・もう、こうなったらハルヒに便乗するしかなさそうだ。「あぁ、そうだな。俺も誓うならハルヒだけだな」
「って事だから、もう一回よろしくね!!」等と神父さんに友達に気軽に頼む様に言い放った。流石の神父さんも溜息をついている。ホント、迷惑掛けてすいません・・・「で、では、汝ら健やかなる時も病める時も永遠に愛する事を互いに誓いあうか?」
「「はい、誓います」」
「よろしい。では指輪の交換を」
「「はい」」俺は指輪を取り、ハルヒの左手の薬指に指輪をはめた。今度はハルヒが指輪を取り、俺の左手の薬指に指輪をはめた。「神よ!!今日此処に永遠の愛を誓いあった二人に祝福をっ!!願わくばこの者達の進む道が常に光に照らされてる事を願う」
「では誓いの口付けを」そう言われると俺はハルヒのヴェールをそっと上げた。ハルヒは涙ぐみながら微笑んでいた。いい顔だな、ほんと惚れ直すよ。俺はハルヒの肩にそっと手を置き静かにキスをした。今まで何回もキスをしてきたが、こんなに幸せなキスはきっとないだろうな・・・唇を離すと盛大な拍手と歓声が起こった。「今、此処にこの者達は永遠の愛によって結ばれた!皆様方、今一度盛大な拍手をっ!!」神父さんがそう言うとまた盛大な拍手が起こった。「では、皆様方。花嫁からブーケトスがありますので外の方へお願いします」みんなが外に出ると俺はハルヒに話し掛けた。「さっきのは流石にヒヤッとしたぞ?やるなら事前に言っておいてくれ」
「まぁ、そんな事どうでもいいじゃない!それより早く行きましょ!!」こっちは全然良くなんだがな・・・「はいはい、分かったよ花嫁様」外に出ると沢山の人たちが祝いの言葉を掛けてくれた。「では、ここで新郎新婦から挨拶を頂戴したいと思います」と言った神父さんからマイクを渡された。「えー、皆さん。今日は集まってくれて本当にありがとうございます。急なスケジュールであるにも関わらずこんなに多くの人に集まってもらったことに感謝します。実はもう一つ報告があります。今ハルヒは俺の子供を妊娠しています。これからは夫として父として頑張っていきたいと思いますのでこれからもよろしくお願いします」 また拍手が沸く。こんなに沢山の拍手が自分に向けられるのは初めてだな。俺は挨拶を済ませるとハルヒにマイクを渡した。「みんなー、今日は来てくれてホントありがとねーっ!!キョンも言ってたけど、今あたしのお腹の中にはキョンとあたしの子供がいます。これからはキョンの妻として、生まれてくる子の母親として精一杯頑張るから応援よろしくねっ!!以上!!」 俺の時と同じ様に拍手が沸く。「新郎新婦ありがとうございました。では花嫁、ブーケトスをお願い出来ますかな?」
「はい、分かりました。ねぇ、キョンお姫様抱っこして頂戴っ!!」そう言うとハルヒは俺に飛びついてきた。「あぁ、幾らでもしてやるぞっ!!」俺は言われるままハルヒをお姫様抱っこした。するとハルヒはブーケのリボンを解きだした。「ハルヒ何してるんだ?」
「あたし達の幸せを独り占めなんて許さないわ!こうすればみんなが幸せになれるでしょ?」俺はハルヒが何をしようとしているのかを悟った。なるほど、それならみんなに分けられるな。「あぁ、そうだな。よしやってやれっ!!」俺がそう言うとハルヒは解いたブーケを空高く放った。空で散らばったブーケはまるで季節外れの雪の様にみんなに降り注いだ。それは、幸せが空から舞い降りている様にも思えた。みんなは一瞬何が起こったのか分からないという表情をしていたが、散らばったブーケに手を伸ばしていた。その様子を見ていた俺とハルヒは声を合わせて言った。「「みんながずーっと幸せになりますようにっ!!」」ってな!!
さて、次に待っていたのは結婚披露宴である。この場では新郎新婦とはさっきまでとうって変わって絶好のイジられるターゲットとなるのだ。はぁ、なにやら先行きが不安なのは俺だけであろうか・・・?その不安は早くも的中したらしい。なんと今この場で古泉が仲人に抜擢されたのである。確かに付き合いも長いし、長門や朝比奈さんではどうにもならなそうなので無難といえば無難なのだが幾らなんでもいきなり過ぎるだろ・・・ほら、あの古泉が流石に戸惑ってるぞ・・・とか、思っていたらダブルマザーが古泉に何やら封筒を渡していた。それを見た古泉はみるみる内にいつものニヤケ顔に戻りライトアップされたマイクの方へと歩き出した。「えー、急遽仲人を任されました古泉一樹と申します。よろしくお願いします」古泉がそう言うと拍手が起こる。「お二人の出会いは今から11年前、丁度中学1年生の頃になります」あぁ、そうだな。もうそんなになるのか。って、なんでそんな事を知ってるんだ!?「その時、公園で一人泣いていたハルヒさんに声を掛けたのが彼でした。彼は何も聞かず泣いているハルヒさんを慰めるとおぶってハルヒさんを家まで送りました」何故だっ!?何故そこまで知っている!?そこでこっちをニヤニヤしながら見ているダブルマザーに目がいった。まさか!?さっきの封筒の中身は・・・・「その後、互いに何も聞かずに別れた二人は運命的な再会を果たすのです」古泉の手元を見てみると何やら紙を持っていた。あの紙には北高に入るまでのエピソードが記されているのだろう。どうでもいいが、あのドキュメンタリー口調はなんとかならないものか・・・「3年後お二人はなんと同じ高校へ進学しました。しかも同じクラスで席も隣同士だったのです。もう、これは運命としか言い様が無いでしょう」古泉よ、そろそろ勘弁してくれ・・・「こうしてお二人の交際がスタートして今日を迎えたという訳です。この後もまぁ、色々あったのですがどうやらお二人とも限界の様なのでそこは割合させて頂きます」 ようやく終わった・・・なんだかどっと疲れたな・・・お次は定番の隠し芸大会の様だ。またしても嫌な予感が止まらないのだが・・・1番手は長門のようだ。「来て」久々にあのインチキパワーが見られるのか等と考えていた俺は長門から指名を受けた。「あぁ、分かった。じゃあ、ちょっと行ってくるな」そうハルヒに言い残し、俺は長門について行った。ついて行った先には人間ルーレットがあり、俺は長門の手によってそれに磔にされた。「おい、これは一体どんな隠し芸なんだ?」
「対象が回転しながらのナイフ投げ」ナイフと聞くとあいつを思い出すな・・・あぁ、今考えてもゾッとする。「大丈夫。投げるのはナイフのプロ」長門がそう言って指差した方向を見るとなんとドレスアップした朝倉が立っていたのだ!!「な、長門さん、これは何の冗談なのかな?」
「冗談ではない。涼宮ハルヒが朝倉涼子へ招待状を出したため、情報統合思念体に再構成を依頼した」ハルヒの奴、朝倉も招待していたのか・・・「おめでとうキョン君。今日はよろしくね。なるべく痛くないようにするからね」この天使の如き笑顔に騙されてはいけない。「あ、朝倉!お前やっぱりまだ俺を殺すつもりなのか!?」
「大丈夫、もう殺したりしないわよ。涼宮さんの力が無くなっちゃったのにあなたを殺しても意味が無いからね」どうでもいいが、さっきからの物騒な会話に客がドン引きしている・・・ここはさっさと終わらせよう。「そ、そうか、分かった。思いっきりやってくれ!!」
「うん。じゃあ、長門さんお願いね」
「分かった」長門が何かを呟くとルーレットがかなりのスピードで回り出した。いかん、こりゃ吐きそうだ・・・そう思ったのも束の間、無数のナイフが俺目掛けて飛んできたのだ。かなりの高速で回転しているにも関わらずナイフは俺の身体の形に添ってルーレット板に突き刺さる。いやぁ、流石は情報統合思念体の作った対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースだ。何でもアリっていうのはきっとこいつ等の事を言うんだろうな・・・やっとルーレットが止まり無事解放された俺はヘロヘロになりながら席に戻ったのだ・・・
ここで一旦俺とハルヒはお色直しのために会場を後にした。控え室に戻った俺は朝と同じ様にひん剥かれた。もちろん今度はパンツを徹底的に死守したのは言うまでも無い。そして着替えが終わりハルヒの支度が終わるのを待っていると、支度が終わったらしく黄色いドレスに身を包んだハルヒが登場した。「どう、キョンこれ似合ってる?変じゃないかしら?」そりゃ、もう似合い過ぎってものだ・・・「あぁ、ヤバイ位似合ってるぞ」その返答に満足したらしくハルヒは俺に抱きついてきた。「ん?どうしたんだ?」
「だって、会場に入ったらこういう事出来そうに無いから・・・今の内に一杯抱きついておこうと思ったんだけどダメ?」あぁ、もう我慢出来ない!!「そうだな。もう少しこうしてような」
「うん・・・」
・・・20分後・・・「えー、あのー、お二人ともそろそろいいでしょうか?」職員の一言によって二人の世界から強制退去させられたハルヒはご機嫌斜めだった。会場の入り口に着いてもハルヒの機嫌は直りそうに無かったので、ハルヒを強制的にお姫様抱っこした。「ちょ、キョン?ど、どうしたの?」
「いや、これで入場するのもいいかなと思ったんだが嫌か?」
「い、嫌じゃないわ!それいいわね、そうしましょう!!」もう、ご機嫌が直ったようだ。「じゃあ、行くぞ」入場した瞬間に、俺とハルヒは大量のフラッシュを浴びた。もはや、軽い芸能人気分だ。こんなのをよくあれだけ浴びれるもんだと感心しつつ席に戻った俺とハルヒを待っていたのはさっきまで椅子ではなくデカデカとハートマークがあしらわれたソファーだった。 さて、これはなんの冗談だ?「さぁさぁ、座っとくれよ。折角用意したんだから、ちゃんと使って欲しいっさー」鶴屋さん、あなたの仕業でしたか・・・「いいじゃない、使わせてもらいましょ?」ハルヒがご機嫌な様なので俺はソファーを使うことにした。「あぁ、そうしよう。鶴屋さん、ありがとうございます。使わせてもらいますよ」
「うんうん、そうでなくっちゃ。こっちも用意した甲斐があるってもんだい」俺とハルヒがソファーに座ると、鶴屋さんは満足そうに自分の席へと戻っていった。ハルヒは俺にくっ付いていられるのに満足らしく、ニコニコと子供のような笑顔をしている。さて、やっと落ち着いたので辺りを見回してみるとスクリーンで「朝比奈ミクルの冒険 Episode00」が流されていた。なんで、ここであれが流されてるんだ?等という俺の疑問は些細な事だったようで結婚式の定番キャンドルサービスの時間がやってきた。これが夫婦の初の共同作業である。まぁ、みんな蝋燭を濡らしたりだとか先っぽの紐を切ったりというベタベタな事をしてくれたのは言うまでもない。そして、今は最後の「SOS団とその友人御一行様」のテーブルに向かっている。此処では一人一人ちゃんと挨拶しよう。まずは鶴屋さんだ。「やぁやぁ、よく来たね」
「どうも。さっきはソファーありがとうございました」
「気にしなくていいっさ。それより、キョン君もハルにゃんもちゃんとめがっさ幸せになるにょろよ」
「えぇ、分かってますよ」
「もちろん!絶対幸せになってみせるわ」
「うんうん、それでこそ君達っさー」次に朝比奈さんだ。「キョン君、涼宮さん。本当におめでとうございます。涼宮さん、とっても綺麗ですよ」
「朝比奈さんありがとうございます」
「みくるちゃんありがとね!あなたも早くいい人見つけてね。あたし応援してるわ」
「はい、よろしくお願いしますね」次に古泉だ。「どうも、御二方とも本当にお似合いですよ。これから色々大変だとは思いますが、お二人ならどんな窮地に立たされても互いを支え合って乗り越えられると僕は信じていますよ」
「あぁ、古泉ありがとうな。これからはどんな事があっても挫けない様に頑張るよ」
「古泉君、今日は来てくれてありがと!あたし頑張ってキョンを支えるわ」
「えぇ、頑張って下さいね」次に朝倉だ。「キョン君、涼宮さん。おめでとう。二人とも、お幸せにね」
「おう、朝倉来てくれてありがとうな」
「えぇ、あなたも幸せになるのよ?いいわね?」
「分かったわ。努力してみる」最後は長門だ。「おめでとう」
「あぁ、長門もありがとうな」
「有希、ありがとね。あなた可愛いんだから妥協しちゃだめよ!!理想は高く持ちなさい!!」
「分かった」こうして最後のテーブルに明かりを灯した俺とハルヒは自分達の席へと戻った。そしていよいよメインイベントであるウェディングケーキ入刀である。また、沢山のフラッシュが浴びせられるがさっきほど違和感は無い。これが慣れというものなのだろうか・・・無事ケーキカットも終わり、またハルヒとソファーの上でベタベタしている。ケーキを食べていたらいよいよ最後のイベントが始まった。それは「新郎新婦からご両親への挨拶」である。まずは俺からだ。「父さん、母さん、本当に今までお世話になりました。今、思えば俺はいつも二人に迷惑を掛けてばっかりでしたね。親の心子知らずという言葉がありますが、まさに俺はその典型的な例だったと思います。しかしながら、今日俺はハルヒと結婚し、最愛の妻のためにもこれから生まれてくる子供のためにもしっかりしていきたいと思います。ですから、これからも俺がヘマをやらかしたらどんどん叱ってやって下さい。よろしくお願いします。最後にもう一度、本当に今までお世話になりました。」 そう言い終わると母さんは泣いていた。俺も泣きたくなるが今は堪える。夫としてハルヒを支えてやらなきゃならないからな。さぁ、ハルヒの番だ。「お父さん、お母さん、あたしはほんとにワガママで一杯一杯苦労を掛けました。そしてその恩をあたしは全く返せていません。あたし・・・は・・っく・・・ほんとに何をやっても・・・周りから浮くだけで・・・・ホントに駄目で・・・ヒック・・・」 俺は泣き崩れそうになるハルヒを支える。此処で崩れたらきっと後悔する。俺の目を見たハルヒは俺に寄り掛かりながら続けた。「・・・でも・・・あたしはありのままのあたしを受け入れてくれる人と出会いました。今日、あたしはこの人の元へお嫁に行きます。この人とこれからの人生を精一杯生きていきます。だから見てて下さい。これからのあたしを。精一杯生きてるあたしを。お父さん、お母さん、本当に今までお世話になりました。そして・・・ありがとうございました」 ハルヒが泣いている。ハルヒの両親も俺の両親も泣いている。でも、これは悲しいから涙が出るんじゃない・・・嬉しいから・・・幸せだから出る涙がある事を俺は知っている。それを教えてくれたのは今、俺の腕の中で泣いてるハルヒなのだ。なんという幸せな空間なのだろう・・・いつまでもこんな幸せが続けばいいと思う・・・そしてそんな幸せな気分のまま俺達の結婚式は終わったのだ・・・
無事結婚式を終えアパートへと帰宅した俺とハルヒはベッドに入るや否や新婚初夜という事で激しくお互いを求め合った。ようやくハルヒが安定期に入った事と「これでホントにあたしはキョンのものになれたのよね。さぁ、好きなだけあたしを求めて、キョンの好きにして?」というハルヒの言葉に俺の理性は完全に陥落したのである。だが、詳しい内容は割合させてもらおう。何故かって?そんなの決まっている。あんなに可愛いハルヒは誰にも見せたくないからな。なんたってハルヒは俺だけのものになった訳だしな。まぁ、俺もハルヒだけのものな訳なのだが・・・さて、ノロケ話はこれ位にして本題に入るとしよう。今日から俺とハルヒは新婚旅行へ行く訳なのだが、昨晩、頑張り過ぎた為に二人して寝坊してしまったのである。「ちょっと、この目覚まし時計壊れてるんじゃないかしらっ!?」見ての通りハルヒは朝からご立腹のようだ。「いや、それはないだろう。ちゃんと時間通りに鳴ってた気がするぞ」
「じゃあ、なんで起きられなかったのよ?」
「そ、それは、その、昨晩頑張り過ぎたからな・・・・」あ、ハルヒの顔がみるみる赤くなる。あぁ、ほんとにカワイイなぁ。「こ、このバカキョン!!朝から何言ってるのよ!?」等とイチャイチャしてたらマジで時間が無くなった!!「さぁ、時間も無いしそろそろ支度を始めましょ」
「あぁ、そうだな」ハルヒ特製の朝食を食べ、着替えを済ませいよいよ俺達は家を出た。目的地はここから電車を使って4時間ほどの場所にある温泉が有名な観光地だ。「さぁ、行くわよキョン!!いざ新婚旅行へ出発よっ!!」
「あぁ!!行こう!!」さぁ、遂に新婚旅行のはじまりであるっ!!
さて地元の駅から電車で6時間ほどの旅だった訳だが・・・電車の車内で色々あった俺は今日一日分の精神力を見事に使い果たしていた。ハルヒは到着早々遊ぶ気満々だったが朝の寝坊もあって辺りは日が暮れ始めていた。「さぁ、キョン何処に行きましょうか?」
「とりあえず、旅館に荷物を置きに行きたいな。このままじゃ動きづらくて堪らん」
「そうね、じゃあ行きましょっ!!」そう言ってまた俺の腕に抱きついてくる。あぁ幸せ過ぎて俺は死にそうだ。「ちょっと、キョン!!あたしの前で死ぬとか言わないでよねっ!!今度言ったら罰金だからね!!」また俺の悪い癖が出ていた様だ。ホント、どうにかならんかね・・・これ。「キョンが死んじゃったら・・・・あたし・・・あたし・・・」あぁ、そうだよな・・・俺だってハルヒが突然死んでしまったら生きていけないだろう・・・「済まなかった、俺は死なないよ。ハルヒの傍にずっといるから安心しろ」
「絶対よ?約束だからね!!破ったらひどいんだから!!」
「あぁ、約束だ」それを聞くとハルヒはいつもの太陽の如き笑顔に戻った。「じゃあ行くわよ!!泊まる旅館、駅から送迎バスが出てるのよ。急ぎましょ」
「おう」そう言って俺達は送迎バスへと向かった。無事バスを見つけ移動すること20分程で旅館に到着した。フロントで受付を済ませ、鍵を受け取った俺とハルヒは部屋に向かっている。「やっぱりこの苗字にはまだ違和感があるわ」おいおい・・・「しっかりしてくれよ?」
「分かってるわ。あ、ここじゃない?」ハルヒが部屋の前で立ち止まり鍵を開けた。部屋は割りと広めで中々風情があった。「わぁ、素敵な部屋じゃない!!」ハルヒも大満足のようだ。荷物を置いた後、出掛けたがるハルヒをどうにか説得しその日はそのままゆっくりする事にした。豪勢な夕食を堪能した俺とハルヒは混浴露天風呂に向かった。いやぁ、名物と言うだけの事はあったね。風呂を上がりさっぱりした俺達は部屋の布団の上でダラーっとしていた。「今日は疲れたし、もう寝るか?」
「そうね。明日もあるし今日は寝ましょう」そう言ってハルヒが部屋の電気を消した。真っ暗な部屋で睡魔の誘惑を受けているとハルヒが俺の布団に潜り込んできた。「どうした?」
「ずっと、キョンと一緒に寝てたから一人だと寝れないの。だから一緒に寝ていい?」
「あぁ、いいぞ」
「じゃあ、おやすみキョン」
「おやすみハルヒ」こうして新婚旅行初日は幕を閉じた。
翌日、朝食を済ますや否や俺はハルヒに観光名所巡りに引っ張り出されていた。「さぁ、行くわよ!!何かがあたし達を待ってるわ!!」
「その何かとは何だ?教えてくれ」
「何かは何かよ!言葉で表せるものに興味は無いわ!!」久々にハルヒ節が炸裂している。こうなっては誰にも止められないのを俺はよく知っている。「分かったよ。幾らでも付き合うよ」
「当たり前でしょ!!なんたってあたしの夫なんだからどこまでもついて来てもらわなきゃ困るわ!」
「あぁ、そうだな」その日は観光のパンフレットに載っていた場所のほとんどに行った。そして今は本日最後の観光名所である夕日が一番綺麗に見えると評判の場所に来ている。「うっわー、ホントに綺麗に見えるわねー」お前の方が綺麗だけどな・・・「あぁ、ホントだな」しばらくお互い黙って夕日を見ているとハルヒが切り出した。「ねぇ、みくるちゃんと有希すっかり綺麗になってたわね」
「あぁ、そうだな。正直見違えたな」
「ふーん、やっぱりそう思ったのね」ハルヒの声のトーンが急激に下がる。これはヤバイな。早くも離婚の危機か!?「あの子達ね、あんたの事好きだったのよ・・・」
「そ、そうなのか?」いや、それは気が付かなかったな・・・「全く、白々しいわね」ほんとに気付かなかったんだよ!!「あたしはそれを知っててあんたを独占したの。団長っていう立場を利用してあの子達とあんたが必要以上に近づかないようにしてたの」俺は黙ってハルヒの話を聞く。「ホントあたしって最低よね・・・・・・いつも「団長だから団員のために」とか言ってたくせに結局最後は自分を守ってた。キョンを誰にも渡したくなかった。だってキョンが居なかったらあたしはきっと壊れちゃうから・・・」 抱きしめてやりたい。でも、今はまだそれをしちゃいけない気がする。「あたしは自分が情けない。みくるちゃんや有希の幸せを願っているのに・・・なのにキョンを手放す事だけは絶対出来なかった」こんなハルヒを見ているのは辛い。だが、ハルヒの夫としてここは耐えなければならない。「あたしは今とっても幸せだけど・・・これはあの子達の幸せを犠牲にして得た幸せなの・・・だからあたしはあの子達に憎まれても・・・それは仕方がないわ・・・」 そこまで聞くと俺はもう我慢出来なかった。ハルヒを思いっきり抱きしめた。「・・・キョン?・・・」
「バカか!?お前は!!」
「・・え?・・・」
「いつ長門と朝比奈さんがそんな事を言ったっ!?言ってないだろう!?」
「・・・でも・・・でもっ!!」
「結婚式に来てくれた二人の顔をお前だって見ただろっ!?お前を憎んでる顔をしてたかっ!?して無かっただろっ!?二人とも心の底から祝福してくれてたじゃないか!!」
「・・・それは・・・そうだけど・・・」
「確かに二人は俺の事が好きだったかもしれない!!でもな、それでも俺はお前を選んでたさっ!!」
「・・・ホント・・・に?・・・・・ホントにあたしを選んでくれた?・・・」
「あぁ、選んでたよ。俺は始めて会ったあの日からずっとお前が好きだったんだからな!!だから、何があっても俺は、俺だけは最後までお前の傍にずっと居てやる!!」
「キョン!!あたしも・・・あたしもキョンが大好き!!」
「いいか?誰だって何かを犠牲にして生きてるんだ。長門も朝比奈さんも古泉も俺もな。だからそれから逃げるな!!ちゃんと向かい合え!!倒れそうになったら幾らでも俺が支えてやる」
「・・・うん・・・ック・・分かった・・・ヒック・・・もう・・絶対に・・逃げないわ・・・」
「あぁ、だから今は泣け。そして泣いた分だけ強くなれ。そうしないと生まれてくる子供に笑われちまうぞ」
「・・うん・・・うん・・・ふわぁぁぁぁぁぁああん・・・」気が付くと辺りはすっかり暗くなっていた。
俺は泣き止んだハルヒを背負って旅館に戻った。食事の時間はとっくに過ぎていたが旅館の人が夜食を用意してくれた。その夜食を食べ終わるとハルヒは横になりそのまま眠ってしまった。今日は一日動きっぱなしだったし、沢山泣いたもんな・・・ハルヒお疲れ様・・・俺はその言葉に沢山の意味を込めた。そして俺もそのまま寝床に着いた。旅行も明日で終わりだな・・・そんな事を考えつつ俺の意識は薄れていった・・・
最終日は旅館をチェックアウトした後、昨日の内に観光を思う存分満喫した俺達は御土産屋を回る事にした。ハルヒはお土産と一緒に「宇宙人全集 温泉地限定浴衣バージョン」なる物を買っていた。何でも此処でしか売っていない限定物らしいのだが・・・まさか、それが目的で此処を選んだんじゃないよな?あらかたお土産を買った俺達はそのまま帰路に着いた。無事帰宅した俺達に残された大きなイベントはこれでハルヒの出産だけとなった。
それから6ヶ月程の時間が過ぎた。現在はハルヒは妊娠8ヶ月半で、出産まであと少しである。もうハルヒのお腹も大分大きくなっていて確実に成長しているのだと妊娠していない俺にも実感出来る程だった。この子もハルヒのように毎日を元気に過ごして欲しいと俺は思っている。「あ、キョンこの子今動いたわ!!」子供が生まれても俺はその名で呼ばれ続けるのだろうか?結婚して以来、俺はハルヒに何度か本名で呼んでくれと頼んでいるのだがそれは悉く却下されている。最悪子供にまで「キョン」と呼ばれる事が無い様に努力しよう。「何っ!?ほんとか?」
「あんたバカ?そんな嘘ついてどうすんのよっ!?そんなに疑うなら触ってみなさいよ!!」そう言いハルヒが俺の手を取り自分のお腹に当てる。その時、子供がハルヒの中から蹴ってきた。どうやらこの子もハルヒと同じ位に気が強いらしいな・・・文句でも言っているのだろうか?「ね?今動いたでしょ?」
「あぁ、ほんとに動いたな。正直感動した。早く顔が見たいな」
「ホントよね!!さっさと出てこないもんかしら?」おいおい・・・「そんなにポンっと出てくる訳無いだろ?てかそれじゃあ感動が全く無いじゃないか。それにその子にもタイミングってもんがあるだろうし気長に待とうぜ」
「そんなの分かってるわよ!!いちいち冗談を真に受けないでよね?ほんっとにあんたって進歩しないわよね」ハルヒは本日も絶好調のご様子だ。いやはや、結婚式前後の時のしおらしかったハルヒが恋しいねぇ・・・あの時のハルヒはそれはそれは可愛かったね・・・「なーに鼻の下伸ばしてんのよ!?このエロキョンっ!!」どうやら顔に出ていたようで、ハルヒの視線がさっきから痛すぎる。「どーせ、みくるちゃんや有希の事でも考えてたんでしょ?」なんでここで長門と朝比奈さんの名前が出てくるんだ?さっぱり理解出来ん。「いや、俺はお前の事を考えていたんだが」
「そうなの?まぁ、それなら高級レストラン1回で特別に許してあげるわ」
「はいはい、それはどうも」
「それはそうと、ねぇ名前はもう決めてくれた?」
「あぁ、今最後の2択で悩んでいるところなんだ」
「へぇ、あんたにしては仕事が早いわね。じゃあ、その最後の2択とやらを聞かせてちょうだい。あたしが採点してやるわ!」
「それは生まれた時のお楽しみだ」
「あんた、あたしにそんな口聞いていいと思ってんの?あんた何様よ!?」
「俺か?俺はハルヒの旦那様だが」
「ま、まぁそうね、間違っちゃいないわね。って開き直るな!!」こんな夫婦喧嘩のような会話をしていて子供に悪影響を与えないのかとたまに心配になる。だが同時に、これが俺達の自然体なのだからこのままでいいとも俺は思っている。今はとりあえずこの怒りが収まらない俺の奥様をどう鎮めたものか・・・「ちょっとキョン!!ちゃんと聞いてんのっ!?さっさと答えなさい!!30秒以内!!」それだけを考えている・・・
その3週間後、いつものように労働に勤しんでいると突然俺の携帯が鳴り出した。急いで廊下に出てディスプレイをチェックすると発信はハルヒの携帯からだった。「どうした?何かあったか?」
「あ、キョン?あたしきたみたいなの!!」相変わらず主語が抜けている。「来たって何が?まさか宇宙人か?」
「あんたってホントにアホでしょっ!?陣痛がきたみたいって言ってんのよ!!」
「え?だって予定日まであと3週間もあるじゃないか?」
「そうだけど、きちゃったもんはきちゃったのよ!!」確かに電話の向こうのハルヒは苦しそうである。落ち着け・・・落ち着くんだ、俺!!「大丈夫なのか?病院までちゃんと行けるか?」
「今、母さんが来てくれてるから大丈夫。タクシー来たら病院に行くからアンタも急いで来なさいっ!!」
「いきなりそんな事を言われてもな、まだ仕事残ってるし。出来るだけ急いで行くよ」
「はぁっ!?アンタ、あたしと仕事とどっちが大事なのよっ!?いいからさっさと来なさい!!3秒以内!!遅刻したら離婚だからね!!じゃ!!」ブチッ!!ツー ツー ツーはぁ、どうすりゃいいんだよ・・・俺だって今すぐにでも行きたいが、いきなり早退させてもらえる訳も無いしな・・・そう思いつつドアを開けると部長が俺の鞄を持って立っていた。「話は全部聞かせてもらった。今日はお前が居ると何故かみんなの仕事が捗らんからさっさと帰れ」
「え?で、でも」
「でももヘチマもあるか!とにかく今日のお前は邪魔なんだ。だから帰れ!!」
「あ、ありがとうございます!!」
「お礼を言われるような事はしとらん。邪魔だから追い出すだけだ」
「はい。失礼します」俺は部長に頭を下げると病院を目指して走り出した。その際、部署から声援が聞こえたのはきっと気のせいではないだろう。会社を出てタクシーを捜したが中々来ない。こんな所でタイムロスをしたくないので俺はがむしゃらに走り出した。病院はここから車で1時間は掛かるが、この場でタクシーを待っている余裕は今の俺には無いので、今はただ一歩でも病院に近づく様に走っているのだ。暫く走っていると偶然にも信号待ちをしているタクシーを発見した俺は慌ててドアをノックした。幸い、客は乗せておらず俺はそのタクシーに乗って病院へ急いだ。事情を聞いたタクシーの運ちゃんが一般道で混雑する時間帯に120キロを出すという中々スリリングな事をしてくれたおかげで30分程で病院に到着する事が出来た。 願わくばあの運ちゃんが違反で捕まりませんように・・・そう願いつつ病院の中へ入った。俺は受付でハルヒが何処か聞こうとしたが、俺の顔を見るなり看護師さんが俺をハルヒの元へ案内してくれた。そういえば、診察室でキスしたバカップルって事で有名だったな、俺達・・・案内された分娩室の前には、ハルヒの母さんと俺の母さんが待っていた。「ちょっと、キョン!遅いじゃない!?」
「あぁ、スマン。お義母さん、すいませんお世話になりました」
「いいのよ。それよりハルちゃんが無理言ってごめんなさいね」
「いえ、それでハルヒは?」
「20分位前に分娩室に入ったところよ」
「そう・・ですか」すると分娩室から看護師さんが出てきた。「あ、旦那さんやっときたぁ!!さぁ、早く中に入って下さい。奥さんがお待ちですよ」と言って俺を分娩室に連れ込む。廊下と分娩室との間にある部屋に入った俺は看護師さんに怒られていた。「もう、遅いじゃないですか。ダメですよ?出産も立派な夫婦の共同作業なんですからね!分かりましたか?」
「はい、ごめんなさい」
「よろしい。じゃあこれ着て下さい」と言って自分達が着ているものと同じものを俺に渡してきた。俺がそれを着終わるのを確認すると俺をハルヒのいる分娩室へと通した。「奥さん、さっきからカンカンですから覚悟しといた方がいいですよ」
「でしょうね。慣れてるから大丈夫ですよ」分娩室にはかなり苦しそうにしているハルヒと担当の先生と看護師さん数人が居た。「あら、やっと来たの?遅かったじゃない」ハルヒの担当の先生が話し掛けてきた。「どうも、遅くなってすいませんでした」
「まぁ、それはいいから奥さんに話し掛けて励ましてあげて。なんだったらまたキスしちゃってもいいからね」きっとこれがこの人流の励まし方なのだろう。そう・・・信じたい・・・「はい、分かりました」俺はハルヒの隣に立って話し掛けた。「よう、遅くなって済まなかったな」
「お・・そいわ・よ・・・何や・・ってたのよ・・・」怒ってはいるがいつもの勢いは無い。それほどまでに苦しいのだろう。「ホントにスマン。これでも大急ぎで来たんだぜ?」
「・・・遅刻し・・たら・・離婚・・・って言った・・でしょ・・・」
「文句なら後で幾らでも聞いてやるから、今は子供を生む事だけを考えてくれ。俺もずっとここに居るからな」そう言って俺はハルヒの手を握った。「分かった・・・わ・・覚悟し・・・ておきなさいよ・・・」
「あぁ」
もうそこから何時間経っただろうか・・・ハルヒは未だに苦しんでいる。早く終わって欲しい・・・俺はハルヒの手を握りながらそれだけを願っていた。こんな時「ハルヒ頑張れ!!」としか言ってやれない自分に嫌気が差す。ハルヒは激しい痛みによって気絶し、また痛みによって覚醒する行為を何回も何回も繰り返した。正直、その姿を見ていられなかったがここで目を閉じてしまったらハルヒは一人ぼっちになってしまう。俺は何度も目を瞑りそうになる度に自分に「瞑るな!!」と言い聞かせた。そして遂にその時がやってきた。「おぎゃー、おぎゃー」と元気な泣き声が聞こえる。俺がふっとその泣き声のする方へ目線を上げるとそこには看護師さんに抱かれた小さな赤ちゃんの姿があった。俺はやっと終わったと安心した。「やったな、ハルヒ。無事に生まれたぞ」
「・・・・・・・・・・」ハルヒの反応が無い。俺の頭の中で最悪の予感が起こる。「は、ハルヒ?おい、これはなんの冗談だ?」いつの間にか握っているハルヒの手に力が無くなっている。そんな事はある筈が無い・・・・・・・・「ハルヒっ!?ハルヒーーーーっ!!」俺は目の前が真っ暗になっていた・・・・「旦那さん、落ち着いて!!大丈夫、気絶してるだけよ。ほらちゃんと呼吸してるでしょ?」え?本当に・・・・・・・?俺は恐る恐る確認する。すー はー すー はー本当だ。ハルヒは生きてる。良かった、本当に良かった。再びハルヒの手に力が戻る。「・・・・ぅっさいわね・・・・勝手に殺すんじゃないわよ・・・・・」ハルヒはゆっくり目を開いた。「あぁ、そうだな。済まなかった」
「・・・全く・・・他に言う事・・・あるでしょ・・・」
「あぁ、ハルヒ良く頑張ったな。ありがとう、お疲れ様」それを聞いたハルヒは力無く微笑むと再び目を閉じ深い眠りについた。眠ったハルヒと一緒に分娩室を出ると母さん達だけでなく俺の親父にハルヒの父、そして妹が待っていた。。「無事生まれました。ご心配お掛けしました」おれがそう言うと歓声が沸いた。なぁ、ハルヒ、ほんと俺達はいい家族に恵まれたよな。俺はそのままハルヒに付き添い、みんなは保育器に入っている俺達の子供を見に行っていた。「生まれてすぐに離れ離れになるのはなんか寂しいな」俺は眠っているハルヒにそんな事を話掛けていた。幸いハルヒの部屋は個室だったので、俺はその晩ハルヒに付きっきりで居ることにした。
翌日、会社に電話をして子供が無事生まれた事、一日仕事を休ませて欲しいという事を部長に話した。部長が「無事生まれたか、そうかそうか。それは良かった」と言うと部署内で歓声が沸いているのが聞こえた。「有休って事にしとくから、気にせず休め」
「ありがとうございます。では」俺はそう言って電話を切り、受付で車椅子を借りてハルヒが眠る病室へと戻った。ハルヒはその日の昼位にやっと目を覚ました。「お、やっと起きたか?おはよう」
「ん?おはよ。今何時?」
「あぁ、12時半位だな」
「そう。ねぇ、赤ちゃんは?」
「新生児室にいるよ」
「そう、じゃあ今から見に行ってくるわ」
「おいおい無理するなよ?」
「無理なんてしてないわ」そう言って立ち上がろうとするが足に力が入らないようだ。「そうかい、じゃあこれに乗れ。そしたら連れて行ってやる」そう言って車椅子を引っ張り出した。
俺は車椅子に乗ったハルヒを連れて新生児室に来ている。俺はハルヒに付きっきりだったので、ここに子供を見に来るのは始めてである。「ねぇ、あたし達の子供ってあれよね」ハルヒが自分の部屋の番号が書かれたプレートの下がった保育器を指差す。「あぁ、そうだな。可愛いな」
「ホントね。アンタに似なくて良かったわ」
「おいおい・・・」
「冗談よ!!いちいち真に受けるなっていつも言ってるでしょ?」
「お前の冗談は冗談に聞こえないんだ」
「そんな事はどうだっていいわよっ!!」いや、よくはないと思うんだが・・・「それより、あの子の名前をそろそろ教えてくれない?」
「あぁ、そうだな。あの子の名前は「はづき」だ。「春」の「月」って書くんだがどうだ?」
「ふーん。まぁ、あんたにしちゃ中々なんじゃない?」
「そうかい?そりゃ良かった」
「あなたの名前は春月よ!!美人のママとダメダメヘッポコのパパだけどこれからよろしくね!!」おいおい、いきなりその自己紹介は無いだろ?まぁ、いいか。そこはこれから幾らでも修正して行けばいいしな。まずはこの子に挨拶だ。「ワガママなママとそのママに全然頭が上がらないパパだけどこれからよろしくな春月」
そして1週間後・・・ハルヒは無事退院する事になった。体調を完全に回復したハルヒと春月を連れて俺は家へと帰ってきた。1週間程は静かだったこの部屋もまた賑やかになるだろう。いや、ここは以前にも増して賑やかになると言い換えておこう。まぁ、この子が始めて喋った言葉が「キョン」だったとか色々騒動はあったのだがそれは別の機会にしよう。なんたって、一人でも手を焼いていたのが今度は二人になってしまったんだからな。また、俺の気苦労も増えそうだ・・・・あぁ、名前の意味?それは、「ハルヒ」っていう太陽から光を一杯もらって、いつか自分自身で光り輝いて欲しいって思いを込めて「春月」って名前にしたのさ。「ちょっとキョン!!何してんのよっ!?早く来なさい!!」早速、春月が何かしでかしたようだな。そろそろこの言葉も封印したいのだがそれはまだ先の話になりそうだ。「あぁ、今行くよ。はぁ、やれやれ」
fin
エピローグ
その後の話を少しだけしたいと思う。春月は無事4歳となり今日も元気に外をハルヒと一緒に走り回っている。無論、俺も二人に引っ張り回されている最中だ。「きょんくん、おそいよ!!おくれたらばっきんなんだよ!!」
「そうそう、遅れたら罰金よ!!それが嫌ならさっさと来なさい!!」はぁ、すっかり似たもの親子になっちまったな。これからがある意味では楽しみで、ある意味では怖いな・・・もうお気付きの方も多いと思うが、そう俺の努力虚しく俺は我が子にも「キョン」と呼ばれているのである。今は、大きいハルヒと小さいハルヒである春月に振り回される忙しい毎日を過ごしている。大変だが充実した日々を送れている事を俺は二人に感謝したいと思う。じゃあ、二人が呼んでいるのでそろそろ行くとしよう。罰金は嫌だしな・・・「おい、待ってくれよ!!」そう言って俺は二人の元に走り出した・・・・・
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