夢見ぬ蛙は終末に鳴く
――今だから語ろう。それはまるで、雷に打たれたような衝撃であったと。この瞬間、僕の未来は決まったようなものだった。その瞬間からの記憶は、海馬に穿たれでもしたかのように明瞭に、僕の視覚と聴覚に刻み込まれている。僕は息を切り詰め、長門さんを見据えた。疑い出せば切がないあらゆる可能性を思い浮かべ、迷い、……僕が最終的に選んだのは、彼女の視線に合わせ、微笑むことだった。 それが上辺だけのものとは気取られないように気遣いつつ。「それは、何とお返しすればいいか……。とにかく、ありがとうございます。今のあなたの言葉を、僕は告白と受け取ってもいいでしょうか」「……それで、構わない」それは彼女らしいすげない肯定だった。だが、これで、逃げ場はなくなった。拳を固めて笑う。「では、僕もあなたの告白に誠心誠意お応えしたいと思います。よろしくお願いします、長門さん」長門さんの眼が、不思議そうに瞬いた。餌を与えられるとは思っていなかった親鳥から、嘴を突き出された雛鳥のように無垢な瞳が僕を映す。「それは、わたしの言葉を受け入れるということ」そういうことです、と僕は笑みを深めた。彼女がどのような思考の果てに「僕が好き」という結論を導き出したのかは分からない。人間とは製造過程から完全に異なっているのであろう彼女の思惑など、僕の与り知るところではない。 ただ、彼女は「彼」が好きなのだと思っていた。それが好きと当人に自覚できているかは別にして。この告白は好機といえるものだった。僕にとってではなく、「機関」にとっての好機である。殊に涼宮ハルヒの安定を願う上層部にとっては、願ったり叶ったりというところだろう。神の鍵に近しくある宇宙人端末という不安要素を一つ、何のリスクもなしに排除出来るのだから。 彼女と彼の間の障害は、少しでも削り取っておいたほうがいい。そこに僕の自由意志など、元よりあってないようなものだ。ここで判断を保留し指示を仰いだところで同じこと、機関から下される命など分かりきっていた。本当に、長門有希が古泉一樹に恋をしたというのなら、この僕の判断と対応は、卑劣そのものだろうけれど。僕は信じていなかった。彼女に恋をされるようなきっかけが、僕と彼女の間にあったとは到底思えない。
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