秘めてた想い(後編)
俺が目が覚めて真っ先に感じた事は『後悔』だ。……くそ、俺は何であんなことしちまったんだ。俺は涼宮に告白して、途中で自分でも何しようとしてんのかわかんなくって。そう思いながら唇に手を当てる。涼宮とキスしてからなんにも口にせずに寝たからな、温もりがあったわけではないが、感触は生々しく残っていた。何であんなことしちまったんだろう、俺が涼宮にキスしたときあいつは震えてたじゃねえか。目を閉じてたからわかんねぇけど、きっと恐怖で目を見開いてたに違いねぇ。
俺は何にも考えたくなくって久しぶりに午前の授業は寝て過ごした。昼休みのチャイムが聞こえると国木田に今日は一人で食うと伝えて教室を出た。もともと弁当を食う気になんてなれそうにもない。かと言って何か用事があるわけでもないし、ゆっくり考えるのにはあそこが一番良いだろ。そう思った俺は屋上に向かった。~キョンサイド~結局、なにも答えが出ぬまま浅い眠りに付き夜を過ごした。通学路の上り坂がいつも以上に厳しく感じるぜ。いつもなら『よ!キョーン』などと言って背中を叩くあいつがいるのだが。今日は出くわすことがなかった。教室に入ると既にハルヒが席に着いており、ぼんやりと窓の外を眺めていた。「あ、キョン。おはよ」「おう」いつも通りの挨拶なのだが昨日のあれがあった以上、普段と変わりなく挨拶しづらいな。俺は自分の席に座りハルヒを見やるが何も言ってこなさそうだったので自分から切り出した。「……昨日のあれはもう大丈夫なのか?」そう言うとハルヒはこちらに黙って目を向ける。ストレートに聞きすぎたか?しばらくの沈黙の後にハルヒがポツリ、ポツリと話し始めた。「……うん、もうぜんぜん平気。……平気なんだけどね……」平気ならそこまで言葉に詰まることもなさそうなんだが。そう思ってたのだがやがてハルヒが自分から言った。「……昨日のあれね、当たり障りの無いように断るわ。あいつの今までの行動は少し感謝しなくちゃいけないと思うし、あそこまで真剣な谷口を見たのも初めてだった。でも、同情なんかでOKされても谷口は喜ばないだろうし、長くは続かないと思うの。……お互いのためには絶対にならないから断るしかないよね……」最後の一言には俺に聞いてるというよりも、むしろ自分に言っているように感じた。自分の決定には絶対の自信をもっているハルヒにしてはかなりの珍しいことだ。そりゃあ、あんなに真剣な思いを伝えられたら誰だって迷うだろう。SOS団結成前のハルヒだったら迷うことなく断るだろうが、これでもハルヒは成長したって事かね。けど、不謹慎ながら当たり障りの無いように断ると言ったことに安堵した俺がいたのも事実だ。やがてチャイムが鳴り、岡部が教室に入ってきたので会話は中断となった。俺は前方にいる谷口を見ていたのだが、しばらくは入学当初のハルヒみたく頬杖をついて窓の外を見ていたのだがやがて机に突っ伏して眠ってしまった。あいつもあいつなりに昨日の事を気にしてるのだろうか、長門が言うには本来ならあいつ自身気付かないような感情を引っ張りだされてあんな行動をとったんだ、あいつもそんなつもりもなくて後悔してるのかもしれない。俺は自分の考えに没頭してたので教師の言葉など右から左に状態だったのっだが、チャイムが鳴りクラスの連中が弁当を取り出してるのを見てようやく昼休みになっていたことに気が付いた。俺も弁当を取り出し、いつものように国木田のところへ移動したのだが、谷口がいなかったのだ。「谷口はどうした?」「さっき、今日は一人で食うからって言ってどっか行っちゃったよ」「……そうか」「ねぇキョン、昨日何かあったの?二人ともなんか変だよ?」はっきり言えば図星なのだが、さすがにホントのことは言えないので適当に誤魔化しておいた。それにしても、谷口のやつはどこに行ったのだろう?~谷口サイド~…フゥー…。なんかモヤモヤしてると直ぐこれだからダメだね、中学ん時からの悪い癖だ。そんなことを思いながらまた少し肺の中に毒素を吸い込む。タバコなんて最初はカッコつけで吸ってたけど今じゃなんか考え事をするとき、いっつも屋上で吸うようになっちまったな。「やっぱりここにいたのね」一人物思いに耽っているときに予想外なやつが来やがった、出来れば今日話すのは勘弁してほしかのにな。「涼宮……、よくここがわかったな」「なに言ってんの、あたしは休み時間は校舎を隅々まで歩くようにしてんのよ?一回もあんたのタバコ吸ってるとこ見なかったとでも思ってるの?」そういえば、そうだったな。「あたし基本的にタバコは嫌いだけど、そのタバコのにおいは嫌いじゃないわね」「なんのようだ?俺のとこに来たからにはなんか言うことがあるんだろ?」そう言うと涼宮は俺に向かってちょっと睨んできた。「なによ、昨日あんなことしてなによその態度は」そのネタ出されると何も言えねぇな、俺は。「昨日のあれ、酷い言い方かもしれないけど忘れてくれ」俺は自分から切り出した。「俺も、今では何であんなことしちまったのかもわかんねぇんだ。かなり後悔してる。ホントにすまなかった、だから忘れてくれ。お前、いつだったか恋愛感情なんて精神病の一種だとか言ってたけど、半分くらい当たりかもな。昨日あんなことしたってのに、今じゃ信じられないほど気持ちが冷めてんだ」涼宮は少し驚いたようだがやがてこう言った。「そっか、もともとあたしも断るつもりだったから」……そっか、さっきは気持ちが冷めたって言ったけどそれでもちょっと寂しいな。俺の表情に出ていたのか、涼宮が困ったように言った。「なんて表情してんのよ、そうね、あんたが精神病にかかったって言うんだったら、あたしが治療してあげるわ」「なに言ってんだ?」「そうねぇ……、それじゃ一回だけデートしてあげるわ」「はぁ!?」我ながら素っ頓狂な声が出たね。でも、そりゃ驚くだろ、心のどこかで高嶺の花だと思い続けてた涼宮がデートしてくれるってんだぜ。昨日あんなことしたってのに。「なによ、行きたくないっての?」「いや、そんなこともないが……」「じゃあ決まりね。明日の土曜日9時に駅前に集合ね。来なかったら死刑だから」そんなこと言いながら涼宮は降りていきやがった。「お、おい!……死刑って。……ま、しょうがないよな」こんな時はキョンの口癖が言いたくなるね。俺は煙を吐きながら呟いた。「やれやれ、だな」~キョンサイド~ハルヒは昼休みの終わる直前に帰ってきて開口一番にこう言った。「次の不思議探索は日曜日にしましょ。明日は休みにするわ」「どうしたんだ急に」今朝もそう思ったが、いつもどおりの声を装うのにこんなに苦労したのは初めてかもな。「べ、別に、なんでもないわよ」こいつも隠し事が下手だな、明らかにキョドってんじゃねぇか。まあ、言うのがそんなに嫌なら無理して言う必要はねぇよ。「なによその言い方、まあいいわ、そんなに知りたいんだったら教えてあげるわよ。谷口の精神病がかなり重症みたいだから土曜日にあたしが直してあげんのよ」一瞬俺は、谷口のウイルスプログラムとやらがハルヒにばれたのかと思ったが、すぐにハルヒは恋愛感情を精神病の一種と言っていたのを思い出した。「直してやるって、なにする気だ?」「別に大したことしないわよ。土曜日に一回谷口に付き合ってあげるだけ」「そうか」恋愛感情を精神病として直すのに何をするんだと心配した俺は心の中で安堵した。声に出てないどろうな?と一瞬思った俺だがどうやらハルヒは気付いてないようで安心した。とは言っても、ようはハルヒは今度の土曜に谷口とデートするってことだよな。長門が言うには、もうウイルスの影響はないと言っていたから、道中谷口がハルヒを襲うとは思えないが、谷口がなにかアクションを起こす可能性大だ。自分の気持ちがわかった以上ほっとけるわけもないよな。こういう時に限って時間ってのは早く進んじまうもんなんだよな。俺の心配をよそにあっという間に翌日の土曜日だ。妹がボディプレスかましに来なくても、俺はいつもより早く起きちまった。おそらくハルヒのことだ9時に駅前に集合ってのがいつものハルヒだ。もしかしたら違うかもしれんが、それでも俺はいてもたってもいられなくなり、すぐに、寝巻きを着替えると朝食もそこそこに家を飛び出した。出る直前に妹が。「あれぇ~?キョン君が起きてる~。めずらし~。今日は雨でも降るのかなぁ~。ねぇ、シャミー♪」なんて言ってやがったが気にもしてられねぇ。俺は駅前に急いだ。チャリを適当なとこにとめた後、駅前のいつも俺たちが集合してる場所を窺うと40分前にも係わらずすでに谷口が待っていた、1年のときの第二回不思議探索で俺がハルヒを待ってた場所とまったく同じ場所で同じポーズで待ってやがった。俺は谷口に気付かれないように駅前の方からは見えない――駅からはたぶんはルヒが来るからな――話が聞こえそうな位の位置まで移動した。幸い、谷口はケータイをいじっていたので気付かれることはなかった。何やってんだろうな、俺。しばらく待ってると15分前くらいにハルヒがやって来た。谷口のとこまでやってくるとおもむろに口を開いた。「早いのね」「まあな、キョンに一番最後にきたら罰金って聞いたことがあったからな。でも、今回は俺のために時間割いてくれたんだ、今日は全部俺が奢るぜ」「そう、あんたがそう言うならいいけど」「それにしても、お前の私服姿かわいいな」「何恥ずかしいこと言ってんのよ。馬鹿」ハルヒの頬が赤いのはここから見てもわかるな。そう言ったハルヒはスタスタと俺たちがいつも利用している喫茶店に向かって歩き出し、谷口はそれを小走りで追いかけて行った。~谷口サイド~ここって、いっつも涼宮たちが来てるっていう喫茶店だよな。そう思いながら、俺は席に着く。店員が注文とりに来たら涼宮のやつ容赦なく注文してやがる。こんなことも俺は想定済みさ。昨日、高校生が持っていてギリギリ大丈夫なくらいの量で金を引き出しておいたからな。……って言っても俺も涼宮みたく注文出来るほどは無いんだけどさ。「谷口は今日の予定決めてるの?」涼宮はサンドイッチを頬張りながら聞いてきた。こいつ、自分でデートって決めたくせに。まあ、これも予想はしてたんだけどさ。「ああ、まあな。今日ここの近くで俺の好きなバンドのライブイベントがあるんだ。午前はそこに行かないか?んで、午後はお前の欲しいもんなんか買ってやるよ」「ふ~ん、谷口にしてはそこそこの企画じゃない」これは褒められてるって素直に喜ぶべきなのか?……でも、涼宮のこんな笑顔見たら馬鹿にしてたとしても嬉しいね。食事のほうもそこそこに俺たちは喫茶店を後にした。一瞬、よく見慣れた後姿が見えた気がした。「どうしたの?」「ん?いや。別になんでもないぞ」とは言っても、もうわかってた。よくある後姿だが、間違えるはずも無い。何やってんだろうなあいつ。別に涼宮を襲う気はもうねぇってのに。……まあ、いっか。もしもの時はまたあいつに殴り飛ばしてもらおう。「結構混んでるわね」涼宮は驚いたような声を上げる。俺も驚いたさ。少し狭いライブハウスにすし詰めって言うほどでもないが、かなりの観客だ。このバンドがそんなにメジャーだった記憶はないぞ。そう思いつつ、遂、隣の涼宮の手を握っちまった。「……ああ……、ほら、はぐれちまうと大変だろ。だから……、ダメだったか?」弱気になって聞いちまう。俺って本当にヘタレだなぁ。ナンパばっかりしてるのに。しかも、言い訳がガキみてぇだし。「別に今日はいいわよ。そんな気にしないで」そっか、安心した。そんなこんなしてるうちにライブが始まった。小規模のライブイベントは予想以上のヒートアップ見せた。涼宮も結構楽しんでるみたいだし、ここを選んどいて正解だったぜ。
……って、いつのまにか俺が涼宮の顔色窺ってないか?まあいっか、涼宮が楽しんでるなら俺はそれでよかった。ライブも終わり、ライブハウスから出ると初夏の風が吹いていた。生ぬるい風でも今の火照っちまった体にはちょうど良いや。昼食はライブハウスの近くにあったちょっとオシャレなレストランだ。……思ったんだが、涼宮って他人が奢るとなると本当に容赦しねぇんだな。キョンの気持ちがわかっちまうぜ。まったく。「なんか言った?」「いや、別に」「そ、ならいいんだけど」しかし、こんな涼宮の顔中学のときは想像も出来なかったんだが。俺はこのメチャクチャ輝いてるこの笑顔が見たくて、なんべんも機会を見つけて涼宮に話しかけてたんだよな。こんな笑顔見てると俺の顔までほころんじまう。やっぱり、キョンのおかげなのかな。昼食をすませた後はデパートに行った。最初は涼宮が『あんただってそれなりのカッコすれば、それなりに見れるようになるんだから』と言われ、俺の服を見繕ってもらっていた。本当は涼宮になんか買ってやるつもりだったのに。「なにやってんだ?」試着してた服を元に戻し涼宮を探してると、アクセサリーショップの前でなんかをジッと見つめていた。それは、派手すぎず、地味すぎない綺麗な石の付いたネックレスだった。「もしかして、それ欲しいのか?」そう言うと涼宮はギクリと効果音が付きそうなほどのでかいリアクションしやがった。こいつ、絶対嘘は隠しとうせないタイプだな。「別に、ただ見てただけよ」「欲しいんだったら俺が買ってやるぞ」「ご飯もライブも奢ってもらってるのにそこまでしてもらわなくってもいいわよ。それよりもあんたの服でしょ。ほら、行くわよ」そう言って涼宮は俺の手を引っ張る。キョンっていっつもこんな感じだったのかな?結局、これからの夏に合ってそうな柄のシャツを一着だけ買った。「涼宮、ちょっと入り口のとこで待っててくれないか」「別にいいけど。どうしたの?」「ん、ちょっとな」そう言った俺はもと来た道を折り返す。目的地はさっきのアクセサリーショップさ。あのネックレスを買ってプレゼント用に包んでもらい、ちょっと小走りで涼宮の待つ入り口へと向かった。「遅かったじゃない。なにしてたの?」「ああ、ちょっとな」そう言ってさっき買ったネックレスを涼宮に差し出す。「これって……」「そう、さっきのネックレスさ。今日のお礼だ。もともとお前に何か買ってやるつもりで来たんだからな」涼宮は一瞬驚いたようだが、やがて満面の笑みで。「あんたがそう言うんだったら、ありがたく貰っとくわ」おもわずクラッときたね。これを見れただけでも買ったかいがあるというもんさ。「どうせだから付けてみてくれよ」俺の些細な要望に答え、涼宮は早速ネックレスを付けた。うん、いいな。「似合ってると思うぞ」「そう?だったら大事にさせてもらうわ」俺と付き合うわけでもないのに良いのか?と思っていたのだが口には出さないでおいた。「もう日も傾いてきちゃったけど、これからどうする?」そうだな。って言ってももう最後の場所は決まってんだけどな。「ああ、こっちだ」涼宮を連れて来たのはとある公園だ。って言ってもただの公園じゃない。俺たちの町は比較的海に近くて北高みたいに結構高い場所なら、海を臨むことが出来る。涼宮を連れてきた公園は北高ほど高さはないが、海により近くて海を一望することが出来る。
ちょうど夕暮れ時になってたおかげで、なんかロマンチックな景色だ。「へぇ~。綺麗なとこじゃない。よくこんなとこ見つけたわね」「まあな、俺もたまたま見つけたんだ。結構入り組んだ場所にあるから人もあんまし来ないし。いい場所なんだぜ」「ふ~ん」こっから涼宮のこと見ると海がバックになってかなり綺麗に見える。思わず見惚れちまったのはしょうがないよな。「どうしたの?」……やっぱり、俺は涼宮のこと好きなんだよな。でも、このままじゃ俺もスッキリしねぇ。やっぱここでハッキリさせるべきか。涼宮との距離もあるし、あいつのとこまで声も届くだろ。「……今日はありがとうな。本当に楽しかった。でも、最後に聞かせてくれないか?涼宮は……キョンのことどう思ってんだ?」あきらかに涼宮は動揺してる。「な、何で今そんなこと聞くのよ」「たのむ、正直に答えてくれ」そう言った俺の誠意が伝わったのか涼宮は切り出した。「なんて言うんだろ。正直なところよくわかんないのよね。あたしに一番最初に出来たSOS団の仲間であって、それでもって、ほかのみんなとは違う何かを感じるによね。文句言いながらもあたしの我侭を最後まで聞いてくれて。うまく表現できないけど。そこに居て当然のように思えるんだけど一番遠くへ行って欲しくない……そんな感じがするのよね」……やっぱりな。こいつはそういった経験がまったくないから、初めての感情に戸惑ってんだろ。そこに俺の気持ちが入り込む余地なんて本当にないんだよな。「……なら、その気持ちの答えを教えてやるよ。だけど、教えてやるのは俺じゃないな」涼宮は首を傾げてる。やっぱこいつを一番笑顔に出来るのは、お前しかいないだろうな。「おーい、そこらへんに居るんだろ?出てこいよ」この初心な女に答えを教えてやってくれ。~キョンサイド~こんな公園があったなんてな。ここからじゃ表情まで見えないが。ハルヒの姿がかなり絵になってることをお伝えしよう。それにしても、谷口は本当に楽しそうだったな。あそこまで幸せそうに笑ってるのははじめてみたぞ。ハルヒもなんかまんざらでもなさそうに見えたのは俺の見間違いだったのか。ハルヒは当たり障りのないように断ったって言っていたが、このデートで気が変わったって言うんじゃないんだろうな。すると、なにやら会話の中に俺の名前が聞こえた。「……今日はありがとうな。本当に楽しかった。でも、最後に聞かせてくれないか?涼宮は……キョンのことどう思ってんだ?」なんだ?なんでこんな場面で俺のこと聞くんだ?いくらアホの谷口でも空気読まなさすぎだろう。ほれ見ろ。ハルヒだって戸惑ってんじゃねぇか。「な、何で今そんなこと聞くのよ」「たのむ、正直に答えてくれ」後姿だけで表情まで見えないが。まじめに聞いてることは声だけでわかった。それがハルヒに伝わったのか、やがて口を開いた。「なんて言うんだろ。正直なところよくわかんないの。あたしに一番最初に出来たSOS団の仲間であって、それでもって、ほかのみんなとは違う何かを感じるによね。文句言いながらもあたしの我侭を最後まで聞いてくれて。うまく表現できないけど。そこに居て当然のように思えるんだけど一番遠くへ行って欲しくない……そんな感じがするのよね」俺は自分の鼓動が加速していたのがわかった。今俺、顔赤いんだろうな。そんなこと思ってると谷口が少し寂しそうな声で。「……なら、その気持ちの答えを教えてやるよ。だけど、教えてやるのは俺じゃないな」まさか、あの野郎……。「おーい、そこらへんに居るんだろ?出てこいよ」……まさかばれてたなんてな。逃げる暇も考える暇もなかった。しょうがない、行くしかないよな。俺は隠れてた茂みから姿を現した。「キョン!?」ハルヒが見るからに驚愕してるのがわかる。そりゃそうだよな、たった今どう思ってんのか聞かれた相手がここに居るんだもんな。「いつから気付いてたんだ?」「喫茶店を出るときくらいだな」それってほとんど最初からじゃねぇか。結局谷口には全部ばれてたってのか。そんなこと考えてると、谷口が近寄ってきて俺に囁いた。「あいつの気持ちもわかったことだし、お膳立ても出来てる。あとはお前しだいなんだから、ちゃんとやれよ。泣かしたらまた殴るからな」俺が何か言う前に谷口はハルヒに向かって。「わりぃ涼宮、ちょっととトイレ行ってくるわ」そう言ってどっか行っちまいやがった。俺とハルヒは気まずい沈黙の中取り残されてた。ここからでも漣の音が聞こえてくるんだな。「……なんで、あんたがここに居るのよ」「お前のことが心配で、この前みたいなことが起きないかと思って、付いてきてた」「ばっかじゃないの?そんなことしなくたっていいのに」そうだよな。ハルヒは俺の気持ちを知らない。だから俺が気になってたのもわからない。ハルヒは俺の気持ちを知ったらどうするんだろう。やがてハルヒはおもむろに口を開いた。「……さっきの話、聞いてた?」「……ああ、まあな」「谷口が、この気持ちを教えるのはあんただって言ってた。ねぇ、教えてよ。この気持ちの正体って一体何なの?」谷口、いくらなんでも荷が重過ぎるだろ。こんな気まずい状況でどう言えばいいんだよ。『あとはお前しだいなんだから、ちゃんとやれよ。泣かしたらまた殴るからな』谷口の俺に言った言葉が脳内でリピートされる。そういうことなのか?お前は俺にハルヒにちゃんと自分の気持ち伝えろってことなのか?勝手な解釈の仕方かもしれないが。俺の解釈が間違ってないと信じるしかないか。「なあ、ハルヒ。俺の言葉を聞いて。そんでもってもう一度さっきのこと考えてみてくれ」「え?」「俺も最初はお前のことSOS団団長で、我侭なやつだと思ってた。でも、だんだんお前の持ち込んでくることが楽しくなってきて。でも、それはお前が居るからこそ楽しいと思えるようになってたんだ。もちろん、ほかのメンバーや谷口や国木田、鶴屋さんや俺の妹とかの準団員も含めて、みんな居るから楽しいのかもしれないけど、やっぱり、お前が中心に居たからこそそう思えるようになってたんだ。俺もお前が近くに居て当たり前だと思ってた。でも、一番遠くへ行ってほしくないのがお前なんだ」そこで一呼吸おいて次の言葉を切り出す。「俺はお前のことが好きだ。たぶん、この世界の誰にも負けない。そんくらいお前のことが大好きだ。この前、お前が谷口にキスされてたのを見てぶち切れたことでようやく気付かされた」……ああ。かなり恥ずかしいこと言っちまったんだなぁ。ハルヒは少しの間だけ驚きで目を見開いてたが、すぐに元の表情に戻り、やがて言った。「……あたしも、やっとわかったわ。あたしもあんたのことが好き。大好き」そう言うとハルヒは俺に抱きついてきた。……もう、いいよな。俺はハルヒの顎に手を添えて顔を上げさせハルヒにキスをした。目を閉じていたのでどんな表情をしてるのかはわからないが、きっとハルヒも目を閉じてることだろう。谷口のそれとは違って、心が通じ合ったキスだからな。やがて、どちらともなく唇を離した。ハルヒの顔はこれでもかと言うほど夕日に負けず劣らず真っ赤だった。たぶん俺の顔もだな。「いきなりすると思わなかった」「ダメだったか?」そう聞いた俺は次の答えがなんとなくわかる気がした。「ダメじゃないけど。もっとこう雰囲気ってものがあるでしょ」「そりゃまぁそうなんだが……「ハイハイ、ストーップ」俺もハルヒも固まったまま顔だけ振り向いた。「お前ら熱いのは一向に構わないけど、俺の存在まで忘れてんじゃねぇのか?」そうだったすっかり頭の中から欠落していた。谷口はかなりのニヤニヤ顔だ。「キョン、涼宮のこと送ってってやれよ。涼宮、最後に夢見させてくれてありがとな。おかげで踏ん切りがついた。また学校で、そんじゃな、ごゆっくり、ご両人」谷口はそのまま帰ろうとしたのだが。「あ、そうそう、このことは人には話さないでおいてやるけど、たぶんあっという間に広まっちまうと思うぜ。なんせ、付き合ってないってのにかなりのバカップルに見えたからな」最後の一言がなければカッコよかったにな。ほら見ろハルヒもなんか怒鳴ってんじゃねぇか。「帰るか?」ひとしきり悪口雑言吐いたハルヒに俺は問いかけた。「そうね、もう帰りましょ」そう言って俺の手を握る。もう暗くなってた空にはすでに星が瞬き始めてるが。一昨日ハルヒを送った時の星よりひたすら輝いて見えた。~谷口サイド~まさか、今日中にキスシーンを見ることになるなんてなぁ。おかげで踏ん切りがついたけどよ。後ろから涼宮の声が聞こえるが無視してやった。
……これでよかったんだよな。よかったんだよ。だから、泣くんじゃねぇよ、俺。明日からまたナンパして新しい出会いでも見つけりゃいいじゃねえか。月曜から思う存分あいつらを冷やかしてやるよ。だから、こんなときは涙拭って、あのお気に入りの歌を歌うのさ。「……グスッ……。WAWAWA忘れ物~♪」ほら見ろ。元気出てきたじゃねぇか。「受かってるといいわね」「そうだな」俺たちつまり俺とハルヒは今、大学の合格発表の会場に来ている。俺の受験結果を見るためだ。ハルヒはと言うともうすでにこの大学に推薦で合格している。『どうせ、一緒になるんだから』とハルヒは三年当初入学を希望していた大学を数ランク落として、俺のギリギリは入れるくらいのレベル位まで落としたのだ。当然、成績優秀なハルヒのことなので、推薦で通ってしまうのは明白だったわけで。今は俺の付き添いとしてこの場にいる。ハルヒとはあの一件以来正式なカップルとして付き合うこととなった。谷口の言ったとおり、何もせずとも噂があっという間に広まってしまい。今では学校一番のバカップルと言われている。まあ、言われて悪い気はしないが。谷口はと言えば、あの日の次の月曜日からまたいつものような関係に戻っていた。ハルヒの態度も以前より少し柔らかいものになった気がする。余談だが、谷口がデートのときに買ったネックレスは今もハルヒの首にかかっている。ハルヒいわく、結婚しても大事にとっておくそうだ。いつもはアホとか言ってるがハルヒも谷口に俺に対するのとは違う特別な感情があるって事かね。それに関してどうこう言うつもりもないし、ネックレスもかなり似合っていたので外してもらう理由など皆無だ、そこまで俺は支配欲が強い人間ではない。「ほらキョン。もう張り出されてるわよ」ハルヒの言うとおりもうすでに結果発表は張り出されていた。しばらく俺とハルヒは俺の受験番号がないか、沈黙のまま探してたのだが……。「あったあった!あったわよキョン!」ハルヒの指差す先には俺の受験番号がはっきりと書かれていた。心の中で安堵してた俺をよそにハルヒはかなりのハイテンションぶりで。「よかったじゃない。これで心置きなくお祝いが出来るってもんよ!!」「おいおい、いきなり話を飛ばしすぎなんじゃないのか?」「そんなことないわよ。祝い事なら早いほうが良いに決まってんじゃない」俺が反論しようと口を開く前にほかの声に遮られた。「よ、お二人さん。何やってんだこんなところで」「「谷口!?」」それはもう見事なまでに声がそろったと思うね。「なんであんたがここにいるのよ」ハルヒの谷口に対する態度は一学期の一件以来少し柔らかいものとなっていたのだが、さすがにハルヒも驚いたようだ。「ん?言ってなかったか?俺もこの大学受けてたんだぜ」そんなこと初耳だぞ。「で?結果はどうだったんだ?」「俺か?もちろん、合格だったぜ。キョンはどうだったんだ?もっとも今の話し聞く限りじゃ聞くまでもないだろうけどな」……ってつまり俺もハルヒも少なくとも4年間また谷口と顔合わせんのか。やれやれ、腐れ縁だな。「ところで涼宮。祝い事するんだったら俺と国木田も混ぜてくれよ。そういうのは人数多いほうが盛り上がるし、俺たちも二人だけじゃ寂しいなって思ってたんだ」国木田は確かもっと上のランクの大学を受けていたはずだが、谷口の話しを聞く限りじゃ受かったらしい。「そうね、あんたたちがそう言うんだったら参加させてあげてもいいわよ」ちょっと待て、それっていつの間にか合格祝いがもう決定してる話の進め方じゃないか?「そうと決まれば善は急げよ!早速みんなに召集かけなくっちゃ!」そう言って校門に向かってハルヒは走り出した。「やれやれ」ハルヒとのやり取りは付き合う前とあまり変わらないが、いつもより一緒にいる時間もハルヒに振り回されることも多くなった。けどまあ、あいつの100Wの笑顔を今まで以上に見れるんだったら安いもんだけどな。「ところでキョン、涼宮とはうまくいってんのか?」ハルヒに聞こえないくらいの声で谷口が問いかけてきた。無論、YESだ。ハルヒとうまくいってないんだったら一緒に合格発表なんか来ないだろうし。些細なケンカはたまにするけど、それでも大体仲直りしてるし。円満にやってると思うぞ。「そっか、なら安心した。俺だってお前以外のやつに涼宮のこと認める気はないからな」なんか、お父さんみたいなことを言い出したな。もっとも、ハルヒの家族にもご挨拶はしたけどな。今では両家族公認でお付き合いさせてもらってる。「絶対離すんじゃねぇぞ。離したら即お前を殴りに行くからな」「コラ~、キョンと谷口、早く来なさい」そう言われ谷口と歩き出した。無論そのつもりだった。手放す気もないし誰かに渡すつもりもない。ハルヒに追いついて手を握る。いつもより少し強く握りしめた。誰にも言われなくったって、この手を絶対に離すもんかと、そう心の中で誓いながら。 Fin.
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