ハルヒと春日
11月も後半に突入し、日に日に冬らしさが増えてくる。最近は部活から帰る時点ですでに真っ暗だ。
「今日は転校生が来たぞー」岡部は教室に入ってくるなり、そう言った。教室がざわつく。お前らは小学生か?と突っ込みつつ俺も少しそわそわする。「すっごい綺麗な女の子だと良いなー」谷口、だとしたらお前には振り向かないぞ。「入ってくれ。」岡部の掛け声と共に、男子が入ってきた。男子のため息と、女子の囁きが聞こえる。入ってきた奴は古泉ほどではないものの、なかなかのイケメンだった。「よし、じゃあ自己紹介をしてくれ。」「こんにちは、春日清(きよ)です。」春日とか言う男は澄んだ、綺麗な声で自己紹介を始める。「趣味は本を読むこと、特にSFが大好きです。宇宙人、未来人、超能力者などに興味があります。」…え?その時、ハルヒがガバッと立ち上がった。「ねぇ、春日君。だったらSOS団に入団しない?」「涼宮、勧誘は後で良い。んーとじゃぁ春日、うるさい奴だが、涼宮の隣に座ってくれ。」「よろしく、春日君。」後ろを振り向くと、ハルヒが春日に挨拶をしている。「こちらこそ。よろしくお願いします。涼宮さんといいましたっけ?」「そうよ、涼宮ハルヒ。SOS団の団長よ。」俺はこいつらの会話を聞きながら、何でこんな微妙な時期に転校してきたのか、疑問に思っていた。まるで朝倉の時のようだ。嫌な記憶がよみがえる。…後で部室に行けばあいつらが教えてくれるだろう。
授業中、春日とハルヒはずっと超能力者、未来人や宇宙人がいるかどうかについて話し合っていた。ったく、春日は転校生なんだからそんなにしょっぱなから先生に悪印象を与えてどうするんだよ?
途中休みになると、ハルヒは春日に俺を紹介した。「こいつはキョン、SOS団の雑用係。」あぁ、雑用係とわざわざつけられたのが気に食わないがよろしく。「キョン君か、よろしく。」キョンで良い、なんかくすぐったいからな。俺も春日でいいか?「どうぞ、むしろ僕もその方が気が楽だよ。」「さぁ、春日君!校舎の案内するからついてらっしゃい!」そう言い走り始めるハルヒの後を、春日は微笑を浮かべてついていった。
さてと、俺は部室に行くか。
「来ると思っていましたよ。」なら話は早い、春日、あいつは誰だ?「彼は涼宮さんが生み出したものですよ。」何のためにだ?話が合う友達が欲しかったのか?「いえ、違います。」じゃぁ何だよ。「こればかりはあなた自身で気付いてください。一つ、私からヒントのような質問です。あなたは彼と涼宮さんが仲良くしているのを見て、何か感じますか?」あいつらが仲良くしてるのを見て…なんとなくハルヒを取られた気がしてイライラする。しかし、何故ハルヒを取られた気がするのかも、それでイライラするのかもわからん。 「素直じゃないですね…」「さらに鈍感。」うぉ!長門、居たのか。「居た、最初から。」そ、そうか…「おや、そろそろ次の授業ですね。では、私は行きます。」じゃぁな。「あなたは?」もう少し後で行くよ。そう言ったが、あまり授業に出る気は無かった。あの二人が仲良くしてるせいでうるさくて、どうせ集中なんか出来ないしな。
「キョーーーーーン!」ったく、何だよ。あれ?ハルヒ?「あんたなんで授業サボってたの?」あ、いや、何でもない、ただ単にだ。「そう。」いつの間にか周りを見回すと、俺以外全員が揃っている。「さて、今日は新団員を紹介するわよ!」って、春日?!お前入るのか?!「うん、楽しそうだしね。」お前、本当に自分の意思か?ハルヒに強制させられていないか?「えーと、キョンは放って置いて紹介よ!これが春日君、私たちの同じ1年生よ。今日転校してきて、未来人、宇宙人、超能力者とかに興味があるみたい。ってことで今日から団員だから、皆も自己紹介してね。じゃ、みくるちゃん。」 「あぁ、え?私からですかぁ?えぇと、朝比奈みくると言います。唯一の2年生です。一般的にはお茶汲みをやっています。よろしくおねがいします。」「美しい方ですね、よろしくお願いします。」「あ、ありがとうございます。」「じゃぁ、次は有希!」「長門有希、趣味は読書。よろしく。」「私たちはもう自己紹介したから、最後は古泉君!」「こんにちは、あなたの噂は彼や涼宮さんから聞いています。私は古泉一樹で、SOS団の副団長を務めさせて頂いています。」「みなさん、よろしくお願いします。」「新団員も入ってきたことだし、みんな気合入れてね!」
そこから一週間、春日は毎日部室に来て、俺達と打ち解けていった。しかし、俺のイライラは溜まる一方だった。何故か、春日と一緒にいるときにハルヒが笑顔になるのを見ていると嫌になる。クソッ、俺が閉鎖空間発生させたいぐらいだぜ…だが、この気持ちがなんなのかが分からない。今は金曜日の放課後で、今部室には長門、朝比奈さんと俺しか居ない。「あのー…キョン君、どうしたんですか?最近イライラしているようですが。」あぁ、朝比奈さん。気にしないで下さい。「どうしたんですか?私の力になれることなら…」そこで、俺は一部始終を話してみた。朝比奈さんは俺の話を何も言わずに聞き、静かに頷くと「キョン君は涼宮さんのことが好きだから、春日君に嫉妬してるんですよ。」えーと…俺がハルヒを好き?春日に嫉妬?確かに、もしかしたらこの感情は好き、それにこのイライラは嫉妬なのかもしれない。だとしたらつじつまは合う。そう…ですね。そうかもしれません。「キョン君、気付いてよかったですね。じゃぁ、涼宮さんにアタックしてみてください。」え、でもあいつは春日が…「ここからは僕が説明しましょう。」ん?古泉?「今少しドアの外で聞いてしまいました。春日君は涼宮さんが、あなたに嫉妬をさせるために作り出したものです。」相変わらずハルヒってすごいな…「そこじゃないですよ、つまり嫉妬をして欲しいということは」ということは?「あなたはここまで来ても鈍感なんですか…?」…何だ?朝比奈さんまでそんな軽蔑した目で見ないで下さい…。長門、お前もだ。「ならいいです、明日は不思議探索があります。多分何かが起こるので、ちゃんと心の準備を。」何が起こるんだ?何のための心の準備だ?「「「…」」」「よし、みんないるわね!明日は土曜日だから不思議探索をするわ!午前は団長の私用があるから、いつもの場所に1時集合ね!春日君は初めてだから、説明するわね。」 そういうとハルヒは不思議探索について説明を始めたが、ほとんど俺の耳には入っていなかった。
「キョン!遅いわよ!初めての春日君でもあんたより早いわよ!」おい、春日、お前何故時間より早く来る事を知っている?「いえ、ただ単に集合時間より早めにくるべきかな、と思ったので。」…こいつとハルヒを取り合って勝てる自信がない。「じゃぁいつもの喫茶店に移動!」
おいおい、神様はどんなにひどいんだよ。午後のペアは俺と古泉長門と朝比奈さんハルヒと春日だった。俺の怒りのマグマが心の中でブクブクいっている。「やったー春日君と同じね!私がこの町の良いところ教えてあげるわ!」………「ありがとう、涼宮さん。」………何だよ何だよ、ケッ、両方とも微笑みやがってさぁ。「大丈夫?性格に悪化が見られる。」あぁ、長門。気にするな。「じゃぁ出発!春日君、早く行きましょう!」ハルヒが春日の手を引っ張る。一瞬怒りで脳味噌が吹っ飛んでいくかと思った。いつも春日が来る前はハルヒにやられていたが、端から見るとこんなにもカップルに見えるのか…。「私たちも行きましょうか。」るせぇな、どこに行くんだよ。「あなたの好きなところで良いですよ。」じゃぁ、あいつらをつけるぞ。「いつからストーカーになったんですか?」モラルとかルールとか、正直そんなものは今どうでも良い。俺は、ハルヒを春日に何があっても絶対に取られたくない。…ここまで俺がハルヒを好きだとは思わなかったぜ。「気付いて良かったじゃないですか。しかし、男の嫉妬は醜いですよ?」放っとけ。
ハルヒと春日は、仲良く喋りながらいろいろな場所を回っていった。大したことはしていないが、俺にしたら二人が傍にいるだけで嫌になる。そして暗くなり始め、そろそろ集合場所に戻るかと思っていると、春日が何かを言い出した。俺達の位置からは何を言っているのかは聞こえない。ハルヒはその言葉に頷き、春日の後をついていった。「どうぞ。」古泉が俺にケータイを少し小さくしたような機械を手渡す。これは何だ?「長門さんがさっき仕掛けておいた盗聴器の受信機です。」そういえばさっき長門とハルヒ達がすれ違ったような…何故仕掛けたのかが気になるが、まぁここは感謝してせっかくだから使おう。俺今完全なる犯罪者だな…
『ねぇ、春日君、こっちに何があるの?』『まぁまぁ、僕についてきて下さい。』二人はテクテクと人気のないほうに歩いていく。俺達はコソコソとその後をつけて行く。すると、春日はハルヒを人気のない公園に連れ込んだ。「これは、もしかして、彼は涼宮さんに告白する気では…」なぁんだぁってぇぇぇ?!春日がハルヒに好意があるのは知っていたが、さすがにこんなに早く告白するとは思わなかった。やばい、ハルヒは中学時代、どんな男に告白されても、その場でふったことは無いらしい。つまり、春日がハルヒに告白したとしたら、どんなに短時間だとしてもあの二人は恋人関係になるわけである。しかも、ハルヒもあまり春日を嫌っていないようだ。ということは本気で付き合いだすかもしれないという事か?!『どうしたのよ、春日君。こんなところに連れ込んで。』『俺…ハルヒのことが好きだ!付き合ってくれ!』『え…』俺が飛び出そうとすると、古泉に抑えられた。「後少し待ってください。」『え、そんな、春日君?』『僕は本気です。』『ちょ、春日君、キャッ!』するとその時、春日がハルヒをベンチに押し倒したのだ。一瞬、古泉の腕の力が抜けた。俺はそのまま、ハルヒと春日の前に出て行く。おい、春日、何やってるんだよ?春日がこっちを振り向く。「キョ、キョン?」「何って、涼宮さんに告白してるんだよ。」「違うの、キョン、これは…」そのことじゃない、何故お前はすでにハルヒを襲おうとしてるんだ?「涼宮さんは告白は断らない主義だそうなのでね。」だからと言ってお前何故服を脱がそうとしてるんだよ…俺は黙々と春日に近付き、ドスッと春日を殴った。「キョン?!」「何するんだ!」女を襲ってる奴を殴って何が悪い?「別に僕が涼宮さんに何をしようと僕の勝手だろう?」違う。俺はな、ハルヒが好きなんだ。「…え?キョン?!」最初お前が転校してきた時、俺は自分がハルヒを好きだとは思っていなかった。だが、お前らが仲良くしているうちに俺は自分がハルヒを好きだって気が付いたんだ。「キョン…」「そんなこと言ったって…僕だって涼宮さんのことが好きなんだよ?」あぁ、だろうな。でも俺だって好きなんだよ。おいハルヒ、お前は俺と春日、どっちを選ぶんだ?「…キョン、ごめんね。」え…。「春日君もごめん。」どっちも振るのか?「うぅん、キョンにはやきもち妬かせてごめんね?後、春日君、気持ちに答えられなくて、ごめん。」「涼宮さんは、キョンを選ぶのかい?」「ごめんね、春日君。春日君はすっごく優しいし、頼りにもなるし、趣味も合う。頼りにならなくて、気も利かなくて、ヘタレなキョンとは大違い。だけど…何故か分からないけど…私はキョンが好きなの。ごめんね。」
すると、ハルヒがいきなり倒れた。お、おい?!ハルヒ?!
「大丈夫、安心して。私がやったこと。」長門?!「キョン、君と争えて良かったよ。」春日の影が薄くなっていく。おいおい、どうなってるんだよ?「春日君は涼宮さんがあなたにやきもちを妬かせる為に作ったもの。あなたがやきもちを妬き、告白した今、用はない。」「だから、彼は消えるんですよ。」…春日、お前、意外と良い奴だったな。「君もだよ、キョン。じゃぁ」「「またいつか、どこかで」」
「キョーン、一緒に帰ろ♪」ということで、あの日の告白以来、俺とハルヒは付き合うことになった。春日のことを長門に聞いてみると、一言「情報操作は得意。」と言われてしまった。つまり、多分みんなの記憶から消したんだろうな。だが、俺は春日のことを忘れるつもりはない。もしかしたら、あいつとは、良い友達になれたかもな。しかし、ハルヒが今、俺の隣で笑っているのは春日のおかげだ。「何考えてるの?」いや、別に。お前のこと考えてたんだ。と適当にごまかす。「もう、キョンったら」そういうハルヒの顔は、うっすらと紅色に染まっていた。
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