涼宮ハルヒの誰時 通常ルート
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涼宮ハルヒの誰時
お前は、俺をその名前で呼ぶな。半眼で睨む俺を、朝倉は少し怒った顔で見つめていた。「長門さんだったら、貴方をキョン君って呼んでも怒らないの?」なんでここで長門の名前が出るんだ?それに第一、長門は俺をその名前で呼んだ事はない。突き放すように答える俺に、朝倉は目を丸くしている。「え? そうなの?」ああ、俺の覚えている限りはないな。俺の言葉に、何故か朝倉は笑顔を浮かべる。「そっかぁ、そうなんだ。へ~」なんだよ。何が気に入ったのかわからないが、不機嫌になったはずの朝倉は急に楽しそうにしている。振り払われた手で、今度は俺の服を掴む朝倉は何か企んだ様な笑顔……つまりいつものハルヒの様な笑顔を浮かべた。「怒らないでね?嘘をついてたわけじゃないんだけど、実は今の私には宇宙人的な能力はあるの」な!俺の言葉を朝倉の手が遮る。「ストップ、最後まで聞いてよ?宇宙人的な能力はあるけど、それはスペック上での話。今の私を例えるならガソリンの無い車だと思ってもらえればわかりやすいかな?涼宮さんによって再構成された私は本当に普通の高校生になったのではなくて、涼宮さんの意識の中にある普通の高校生としてしか行動できない制約があったのよ。まあ同じ事だけどね。でも、涼宮さんが居ない今その枷はない。だけど統合思念体の存在も涼宮さんによって無くなってしまったから、やっぱり今はただの高校生でしかないけどね」小さく舌を出す朝倉に、俺はため息をつく。わざわざそれを俺に言うって事は、他に何かあるんじゃないのか?でなきゃ言う必要もない事だろうに。「正解。このまま普通の高校生として貴方と暮すのもいいかな?って思ってたけど。どうやら私にはまだやる事が残ってたみたい」やる事?俺を殺すとか言い出すんじゃないだろうな。楽しそうな顔で朝倉は首を横に振る。「ないしょ。それよりも貴方に聞きたい事があるの」聞きたい事?「そう。貴方は涼宮さんや長門さん、他の人達も含めて取り戻したいのよね?」そうだ。「結論だけ言うとね、長門さんから何か預かってたりしない?私が力を取り戻せれば、少なくとも貴方の望みを叶えるチャンスを作ってあげるくらいはできるはずよ」何かってなんだよ。「それはわからないわ。そうね、別に長門さんからじゃなくても何かこう、不思議な物とか持ってない?貴方にとってはただ不思議な物だとしても、私にとっては力を使う為の鍵になる可能性はあるの」長門や古泉、朝比奈さんから何か預かってないかだって?急いで考える中に浮かんで来るものといえば……そうだな。長門から借りた本。ああ、駄目だあれは今朝本棚を見た時には無くなってたんだっけ。朝比奈さんの私物……部室にあった衣装も何もかも無くなってたから思いつかないな。古泉は駄目だ。あいつから何か受け取った覚えなんてない。「よ~く考えてね。貴方の記憶を直接読み取れば早いんだけど、正直それだけの力も残ってないのよ」そんな事されてたまるか。ハルヒはどうだ?何かあいつが残した物はないのか……。あいつの家がどこにあるのかなんて知らないし、今となっては調べようもない。部室は文芸部だった頃に戻ってしまってたよな。教室は? 駄目だ、机も無くなってたんだった。腕を組んで雑然とした部屋を歩き回る俺の脳裏に、何かが浮かび上がる。なんだ、今のは? あれは……えっと、夏より前だった様な気がするぞ。必死に記憶を辿っていく中で俺が辿り着いた答え、は。カーテンの閉められた暗い部屋の中、モニターの小さな光が俺と朝倉の顔を照らす。深夜の北高に忍び込んだ俺と朝倉は、元SOS団の部室……の隣、コンピ研に来ていた。立ち上がったばかりの部長氏のパソコンのカリカリという小さな音と、俺の不器用なタイプ音だけが深夜の部室に響く。「これがそうなの?確かにこれは涼宮さんの痕跡と言えなくはないけど……。残念、これはハズレよ」モニターに映っているのはSOS団のウェブサイトだ。いや、見せたいのはこれじゃない。これを見せるだけなら別に深夜の校舎に不法侵入する必要はないんだ、ネット環境さえあればいい。俺は手慣れた操作でキーボードを操作してURLを変更し、今日入力したばかりのパスワードを再び入力する。切り替わる画面。画面に編集機能と各種登録項目が表示され、俺はその中の一つ「画像登録」を選択した。コンピ研の部長氏が閉鎖空間の様な物に閉じ込められた事件の原因となった、ハルヒの描いたあの画像。長門が画像をいじってくれたおかげであの時は助かったんだったな。無料レンタルウェブサーバーに登録済みの画像一覧には、長門改編によるZOZ団のシンボルマークがあった。そして、「……ビンゴ」朝倉が食い入るようにモニターを見つめている。そこには確かに残っていたのだ、俺が最初に画像をTOP画面に張り付ける時、念の為名前を変えて保存しておいたハルヒの描いたあのSOS団のシンボルマークが。いけそうか?俺の質問に朝倉は嬉しそうに頷く。「今の私でもこの画像から力を引き出すのは簡単よ。凄いじゃない、流石涼宮さんが選んだ人ね」俺はパソコンデスクの席を朝倉に明け渡した。……なあ朝倉。「なあに?」俺に返事をしながらも朝倉は意味不明なコードをパソコンに打ち込み続けている。知ってたら教えてくれ、ハルヒが俺を選んだのか?それとも、俺がハルヒを選んだのか?不思議そうな顔で朝倉が俺を見つめる。「それって何か違うの?」そりゃあ違うだろ?なんていうか……俺はハルヒが神様みたいな存在だって聞いてたんだが、ここ数日色んな人から話を聞いている間にそうじゃないかもって思えて来たんだ。「……そうね、貴方が涼宮さんに選ばれた理由は私にも統合思念体にもわからなかった。あの子が貴方を好きになった理由もね。でもね?女の子にとって好きな男の子はみんな神様なの。自分が思う理想の存在であって欲しい、それこそ神様みたいな……。なんて、男の子は好きな女の子にそんな幻想を抱いたりはしないかな?」どうだろうな。少なくとも俺の知っている神様って奴は、横暴で我儘で見てて落ち着く暇がないような奴だったが。「あら、貴方がそんな女の子を望んでいた可能性はない?」何故だろう、俺はそこで朝倉に何も言い返せなかった。朝倉は朝倉で答えを聞くまでもないとでも言いたげに微笑み、沈黙させられた俺を無視してキーをタイプしていく。「いい、この世界の涼宮さんは確かにもう存在しないわ。でも、完全に消えてしまった訳じゃないの」場所は変わり、俺達は元SOS団の部室、現文芸部の部室の中に来ていた。朝倉は窓際の長門がいつも居た場所に、俺はいつものパイプ椅子にそれぞれ座っている。「今、涼宮さんは誰も居ない世界を作って一人で居るの。自分の思考も閉ざし、何も考えないまま一人で、ね。それを助けられるのは、この世界に多分貴方しかいない。貴方が涼宮ハルヒの思考を取り戻せたら、私はこの世界に彼女を呼び戻してあげる。それからの作戦はこんな感じよ」そう言って話し始めた朝倉の作戦って奴は無茶苦茶という言葉を体現するかのような内容だった。言うなればお茶漬けを食べたいからまず粘土質の土を手に入れて、しかも空腹が始まる前に素材と食器を一式準備する……って所だろうか。すまん、上手く言語化できそうにない。意志の疎通に齟齬が発生しそうだから忘れてくれ。でもまあ、これだけで朝倉の作戦を理解できた奴がいたら素直に尊敬するぜ、古泉に代わって俺が一般人ではないってお墨付きをくれてやる。「作戦は以上、質問はある?」なあ朝倉。「なあに?」今更聞いても仕方のない事かもしれない、でも聞かないわけにはいかないよな。何でお前は俺に協力してくれるんだ?「何よ今更。でもまあ気持はわかるから教えてあげるね。私が貴方を手助けするのは、あくまで個人的な理由よ」個人的な理由?「そう、貴方に全く関係のない事ではないけれどね。今からする事は、貴方を殺そうとした事の罪滅ぼしだとでも考えていてほしいな?」そう言って微笑んだ朝倉の姿が一瞬歪み、次の瞬間そこに居たのは。朝倉より髪は短く、小柄で無表情な見覚えのある元文芸部の宇宙人。なが……朝倉か。「そう」俺の言葉に朝倉は頷く。その声は聞きなれた宇宙人の声にしか聞こえなかった。声まで長門そっくりなんだな「でしょ?」無表情だったその顔に、突然愛想がいい笑顔が浮かんだ瞬間確信した。中身はやっぱり朝倉だ。「それじゃあ、今から貴方を涼宮さんの居る世界に送るわ。準備はいい?」準備はいいが朝倉、眼鏡は外した方がいい。「何それ、貴方の趣味?」それもあるが、今の長門は眼鏡をしていないんだ。「あ、そうなんだ。……これでいいわね。さ、目を閉じて。それと、私を呼ぶときはちゃんと長門って呼んでね?」朝倉……長門の言葉が途切れるのに合わせたかのように俺の視界は前触れもなくブラックアウトし、体重を支えていたはずの床の感覚もなくなる。それでいて落下するわけでもなく自分がどの向きを向いているのかもわからない時間を数秒体験したあと――最初に俺が感じたのは静かな風の音だった。気がついた時、俺はやけに暗い場所に居た。そこはどこまでも広がっているような果ての見えない暗い草原で、暗い空と草原以外は何も見えない。ここはどこなのか? なんて考えても意味はないんだろうな。現状を確認しようにも、俺の意識は確かにそこにあるというのに俺の体はそこにない、まるで夢の中の出来事みたいな感じだ。見えている物にも、体が無いのに確かに感じる風にも何もかもに現実感が感じられない、何故だかわからないが俺はここに長く居てはいけない気がした。「正解、あんまりこの世界に長居をすると普通の人間は精神が先に崩壊して廃人になってしまうから気をつけてね?」朝倉、どこにいるんだ?俺の思考に割り込むように聞こえてきた朝倉の声だったが、その姿はどこにも見えない。「残念だけどその世界に私は行く事はできないの、涼宮さんが無意識で拒んでるからね。というよりも、貴方だけが許可されてるって言った方が正しいのかな」じゃあハルヒはどこに居るんだ?「涼宮さんは貴方の目の前に居るわよ。でも貴方がそれを見ようと思わなければ見えない、感じてみて?涼宮さんの事」感じろったってどうすればいいんだ……。いくら周りを見回しても、草原には何も無いようにしか俺には見えない。「そこに居るって信じなければ見つけられないの、気づいてあげて?涼宮さんはずっと以前から貴方を待っていた。そのサインを貴方も知ってるはず」俺が知っている……何のことだ?とにかく今は朝倉の言う通りにするしかないな。ハルヒの事を考えて最初に思い出されたのは、入学式で俺の後ろで不機嫌な顔をしていたハルヒだった。次に浮かんできたのは急に長かった髪の毛を切って登校してきたハルヒ。ホームルーム前の時間を何気ない会話で、いつもつまらなそうだったハルヒ。部活を作り出してから、急に笑顔が増えたハルヒ……。次々と思いだされるハルヒの顔の中、俺は違和感を感じた。親しくなって表情を増やしていく記憶の中のハルヒ中に、そこだけ急に不機嫌なハルヒがいる。そのハルヒは何故か幼く、俺へ向ける視線には不信感が浮かんでいる。あれは……あのハルヒは!「私はここにいる」どこからか、ハルヒの声が聞こえた気がした。まるでその声に呼び寄せられるように、目の前にハルヒの姿が現れる。何故か少し幼い感じのそのハルヒは北高校の制服ではなく私服を着ていて、じっと夜空を見上げていた。つられて視線を上に向けると、そこには眩いほどの星空が広がっている。「……誰か居るの?」幼いハルヒが突然俺の方に顔を向ける。姿は見えてないんじゃなかったのか?俺は朝倉に聞いてみたつもりだったのだが。「何、今の声。誰か居るの?出てきなさいよ」そう言ってハルヒは辺りに誰か居ないか探し始めた。どうやら俺の声は聞こえるが、姿は見えないらしいな。いくら待っても朝倉は何も言ってこない。後は俺がなんとかするしかないか。ハルヒ、お前なんでこんな所に居るんだ。「え……何で私の名前を?もしかして宇宙人?」少し違うが、まあそんな様な者だ。俺の言葉に幼いハルヒの顔が急に笑顔になる。「じゃあ未来人?それとも超能力者とか?まあなんだっていいわ、私に会いに来たのよね?そうなんでしょ?」そうだ。「私はここに居る」ってお前のメッセージを見て俺はここに来たんだ。「宇宙人語が読めるの?凄い、やっぱり居たんだ!」俺にはお前が宇宙人語を書ける事の方が驚きだよ。ところで、お前はどうして俺に会いたかったんだ? 何か理由があったんだろ。俺の言葉に、急にハルヒの笑顔が消えて悲しそうな表情が浮かぶ。そのままじっと待っていると、ハルヒはゆっくりと呟きはじめた。「とんでもない事をしちゃったのよ。あたしが信じてあげられなかったから大事な友達が消えちゃったのよ。全部、あたしのせいなの。だから、本当に宇宙人が居るなら会ってみたかったの」なるほどね。で、満足かい?「そうね、もっと早く貴方に会えればこんな事にならなかったのに」気が済んだならみんなの所へ戻ればいい。多分、お前が望めばそうなるはずだぞ?「無理よ。……もうみんなには会えないし会えたとして誰にも許してなんてもらえない。勝手に巻き込んでおいて突き放して、しかも自分が好きな人だけ独占したいから心から信じてあげられないなんて……本当、自分でも嫌になる」そうかい。「……なによ、そんな適当に。……どうせ他人事だもんね」なあ、ハルヒ。「何」俺はな。お前を探して今も走り回ってる奴を一人知ってる。お前も知ってる奴だぞ。「え?」俺の知る限りそいつは不器用で特に取り柄もないただの高校生で、残念ながらお前が望んでる様な宇宙人でも未来人でも超能力者でもなく不思議とは縁遠いただの一般人だ。でもな? ただお前に会いたいってだけで今も必死に探しまわってる。「嘘……そんなの嘘よ、キョ……あいつはいつもあたしに振り回されて迷惑そうな顔してたもん!」迷惑なだけだったら一緒になんか居ないさ。嘘なら嘘だと思ってもいい、それにまあお前が会いたくないと思えばそれっきりだろうさ。でもな、例えお前が会いたくなくてもそいつは絶対にお前を見つけるまであきらめないぞ。例えお前に嫌われても、だ。俺はお前にまだ言ってない事がいっぱいあるんだからな。「え?」ハルヒの目が大きく開かれる。本当にそいつが好きなら告白でもなんでもすればいいさ、そいつもまんざらでもないかもしれないしな。これからどうするかって答えはお前の胸にしかない、ここで一人残るって選択肢もあるかもしれない。でも俺はお前に戻ってきて欲しいんだ。「駄目、これ以上は貴方がもたないわ。ごめんね?」どこからか聞こえてきた朝倉の声と同時に俺の視界が少しずつ上昇していくのがわかる。ええい、ハルヒを置いていけるかよ!体なんてないが俺は必死にハルヒに向かって手を伸ばそうともがく。その時俺の意識がある周囲が急に明るく光出し、真下に居たハルヒの体を明るく照らした。戻ってこいよハルヒ、SOS団は不滅なんだろ?光の中でハルヒが笑顔を浮かべて手を伸ばしてくる、実態が無かったはずの俺の手はその手を確かに掴んだ。ハルヒ。……おいハルヒ!机の上でつっぷしたまま眠り続ける団長さんの頭を、俺はわざと乱暴に揺らした。そこにはあの俺好みなポニーテルは揺れていなかったんだが……。こうしてみると普段のこの髪形も可愛いもんだな。窓の外は夕闇が近づいてきていて、部室の中は少し肌寒い。数秒後、「ふぇ……キョ、キョン?」寝ぼけた声を出すハルヒの横を、長門がのんびりと通り過ぎていった。その姿を見たハルヒは何も言えず目を見開いて固まってしまったが、長門はそれに気づかないふりをしたまま本棚へと歩いて行く。いいぞ。ナイス演技だ朝倉。長門の後姿を見つめながら心の中で俺は小さくガッツポーズをする。第一段階はクリアって所だな。「え……有希? 消えちゃったんじゃ……」消える? ……ハルヒ。お前、寝ぼけてるのか?「え?え?」混乱して俺と長門を交互に見比べているハルヒを無視して、長門は持っていた本を本棚へと戻して出口へと歩いて行った。さあ、間違えるなよ? コンティニューはもう使ってしまったんだ。長門、明日は9時に駅前だからな。休日だから間違って学校に来るなよ?ドアを開けた所で俺がそう呼びかけると、長門は振り向いて小さくうなずいて部室を出て行った。扉が閉まる音と同時にハルヒが立ち上がる。「明日が休日って……待って、ねえキョン。今日は何日で何曜日?」今日か?ポケットから取り出した携帯に表示されているのは、金曜の文字と4日前の日付だ。俺がやってる事は後で朝比奈さんに怒られる事なのかもしれないが、まあそれでもいいさ。あの可愛らしい天使様にまた会えるんならそれくらいどうってことない。顔いっぱいにクエスチョンマークを浮かべたハルヒを見ながら、俺は顔がにやけるのを止められなかった。それは作戦が上手くいっているからってだけじゃない、またハルヒに会え……いや、やっぱり作戦が上手くいってるからだな。まだ寝ぼけてるのか? ……まあいいか、なあハルヒ。実はお前に秘密にしてたんだが。「な、なによ改まって。言ってみなさいよ聞いてあげるから」まだどこか普段より大人しい雰囲気を残したハルヒだが、きっとこれには食いつく。そうでなければゲームオーバーだ。俺はハルヒの両肩にそっと手をおいて、じっとハルヒの目を見つめた。「ちょ……え、何? ……キョン?」ハルヒの瞳の中で俺が大きくなり、そっとその瞼が閉じられようとしたその時。実はな、朝倉がこっそりカナダから帰ってきてるらしい。俺はそう呟いた。――刹那。「なんですって!」急に目を見開いたハルヒの手がすぐそばにあった俺のネクタイに伸び、途端に酸欠に襲われだした俺が笑顔だったのは何故だろうね?まだだ、まだ俺の出番は終わってない。揺さぶられるまま俺は朝倉の台本通りのセリフを続ける。しかも朝倉は、あのマンションの同じ部屋にまた住んでるらしいんだ。なのに北高には出てこない、何か変だと思わないか?「キョン!そんな面白そうな情報を見つけたのに黙ってるなんて厳罰ものよ!」言う事は物騒だが、ハルヒの言葉は楽しみで満ちていた。おそらくこいつの頭の中では、誰も考え付かない様な展開が回りまわってるんだろうよ。黙ってて悪かったよ、俺も古泉から聞いた時は信じてなかったんだが駅で偶然見ちまったんだ。間違いなく朝倉だったよ。――いい?涼宮さんが戻って来るまでに私は世界を4日前の状態に再構成しておくわ。そして私は、長門さんの姿で涼宮さんの前に現れる。貴方は涼宮さんを誘導して「私と同じ方法」でみんなを復活させてあげてね。そうなるように私もフォローするから彼女の中の認識を変えて欲しいの。この意味、わかる?――さて、世界を元に戻す魔法の言葉をハルヒに言わせないとな。お前が寝てる間に明日はみんなで一緒に朝倉に会いに行こうって決めたんだが、それでよかったか?俺の言葉にハルヒの顔が笑顔に綻ぶ。「当たり前じゃない!SOS団創立時の謎がついに解き明かされるのね!あ~もう今から行きたい所だけどみんな帰っちゃったの?」お前が起きないからだ。明日全員が集まれるように今日は早めに解散したんだよ。「あんたにしては気がきいた行動ね。駅前に9時よね?い~い?絶対にきなさいよ!来なきゃ死刑だからね!」「結局、この世界の朝比奈さんは何も知らないままだった様ですね」その口調からすると、お前は全部覚えてるみたいだな。家に戻った俺を待ち構えていたのは、営業スマイルを取り戻した超能力者だった。いつもは小憎らしいその顔も、正直今は嬉しくて仕方がない。「超能力者、ですから。……冗談です、協力者から全て聞いたんですよ。正直今でも信じられない程に驚いています。正に驚天動地ですね。まさか数年先に起きると思っていた破滅が数日後に迫っていて、しかもただの人間にすぎない貴方が見事解決してしまうなんて。流石は涼宮さんが選んだ」おい! お前今なんていった?聞き逃せない単語を耳にして、俺は思わず古泉に詰め寄った。「え、貴方が解決するとは驚いたと」その前だ!「貴方はただの人間に過ぎない」そう、そこだ。俺はただの人間なんだな?営業スマイルに不審げな表情を混ぜながら古泉は確かに頷いた。「何をいまさら、以前も言いましたが貴方は普通の人間です。保証します」……この顔は嘘をついてるって感じじゃないな。って事はあの時の言葉はいったい……だめだわからん。何もかも無かった事になってるって事なのか?まあいいか。消去法で全部解明できるほど世の中簡単だったら、試験なんて余裕だよな。夕食を終えて部屋に戻った時、まるで俺が部屋に戻るのを待っていたかのように携帯が鳴り始めた。ディスプレイに映っている着信相手は……。「ありがとう」携帯越しに聞こえるその静かな声に、自然と笑みが浮かぶのを感じる。それは間違いなく長門の声だった。お前も全部覚えてるみたいだな。「覚えている」今回の事はあまりにも意味不明で、俺が完全に理解するには何年会っても足りないだろうな。だけどひとつだけ聞いておきたい事がある。長門、やっぱりハルヒは明日SOS団を解散してしまうのか?みんなが消えてしまうのは避けられないのか?しばらくの沈黙の後。「SOS団は解散されるかもしれない」そっか。やっぱり、これで全てが元通りってわけにはいかないか。「ただ、現時点の涼宮ハルヒの力では時空改編や広範囲の情報操作は行えない」なんだそりゃ?「原因はわかっているが上手く言語化できない」「ねえ誰からなの? あ、もしかしてキョン君? 代わって代わって!」携帯電話越しに、何故か聞き覚えのある声が聞こえてきた。「大丈夫すぐに代わるから、そんなにすねないでよ? ……もしもし、キョン君?」長門に代わって聞こえてきたその愛想のいい声は、何故か朝倉だった。なんでお前が長門の部屋に居るんだ。「現状の確認と明日の打ち合わせよ。私が長門さんのそばにいると心配?なんなら遊びに来てもいいわよ」辞退させてもらう。その組み合わせは長門の世界で十分に体験してきたからな。「残念。長門さんが代わって欲しそうだから簡単に伝えるね?」ああ。しかし長門が電話を代わって欲しそうにしているってのはどうも想像できないな。「私が見てきた中でも今の涼宮さんの力はとても小さな物なの。今回みたいな大規模な情報の改竄ができたなんて信じられないくらいにね。だから何か起きても私と長門さんでフォローしてあげるからキョン君は心配しなくていいよ。あ、ごめん。私はキョン君って呼んじゃいけないんだったよね?」いや、好きに呼んでくれていいさ。俺だってお前にはそれなりに恩は感じているつもりだ。「長門さんが凄い睨んでるからもう代わるね? ……はい、そんなに怒らないでよ? ごめんごめん」長門が……睨むだと?駄目だ、やっぱり想像できない。数十秒後。「……もしもし」聞こえてきた長門の声が、携帯越しのせいかいつもより僅かに低い気がした。長門か、大体の話はわかった。「そう」何故だろう、呟くだけのその返事がやけに冷たく感じる。長門。朝倉が居たら話しにくい事もあるだろうし、今度遊びに行ってもいいか?再び数十秒の沈黙の後。「待ってる」そう聞こえてきた長門の声は、携帯越しのせいかいつもより暖かい気がした。長門との電話が終わった後、朝比奈さんに今回の事を伝えるべきかどうか迷ったが、結局俺は電話しない事にした。これ以上、あの人に悩みごとを増やすようなまねはしたくない。ただでさえハルヒに一番振り回されてるんだから、楽をさせてあげられれる所はそうさせてあげないとな。と、思っていたのだが。うおわ!「きゃ! ごめんなさい?」深夜の部屋の中、眠っていた俺の腹部に突然何かが降ってきた。目を覚ました俺が見たものを、罰の悪そうな顔で見つめる眼差しと、口に触れるひんやりと冷たいその手の感触。そして僅かに香る覚えのある大人の女性の匂い。「……急に押しかけてごめんなさい。どうしてもすぐに貴方に会いたかったんだけど、中々チャンスが無くって」驚く俺の目の前に居たのは、照れ笑いを浮かべる朝比奈さん(大)だった。いや、だからといって深夜に男の部屋へ忍び込むのはどうかと……ってそれはとりあえずいいとして。何かあったんですか?「はい。キョン君にお礼をしに来ました」お礼?「ええ」って事は、貴女は今回の事を覚えているんですか?俺は朝比奈さんに今回の事を話すつもりはないんだが、どうやって知る事になるんだろう?やっぱり禁則事項だよな、これ。「私の存在が一度は消えてしまい。そしてキョン君のおかげで元に戻れた事も全部覚えています」とは言っても、全部朝倉のおかげで俺は何もしてないんですけどね。「そんな事ありません、私や長門さんや古泉君が今この世界に居られるのは間違いなく貴方のおかげなんです。誰もそれを覚えていなくても、私が覚えていますから」真剣な顔で近寄って来る朝比奈さんから逃れようにも、ベットの上で体を起しただけの俺はすぐに壁際に追い込まれた。あの、その。そう言ってもらえるのは嬉しいんですが、そんなに近寄られると色々大変なんです。部屋が薄暗くてよかったぜ、色々な意味で。「あ、ご、ごめんなさい。それで、今回の事であなたに何かお礼がしたいんです。上官の許可も出ているので、あまり時間はありませんが時間の流れに大きく関わらない事ならある程度の事はしてあげられます」あの、その言葉をどう取ればいいんでしょうか?これが夢だと言われたらすぐに納得してしまいそうな展開に、俺は無意味に喉が渇いていた。前にも気付かれないなら頬にキスしてもいいとか言っちゃってる人だからなぁ、二人っきりの時に貴女にそんな事を言われると妄想が止まらないんですが……あ、そうだ。こんなタイミングじゃなければ一生はぐらかされそうな質問があったじゃないか。じゃあ、朝比奈さんお願いです。「はい、何でしょう」貴女の本当の年齢を教えてください。俺の言葉に、朝比奈さんは見ていて微笑ましくなるほどに動揺していた。それって、そんなに秘密にしなきゃいけない事なんですか?「えー! ……うう。ぜ、絶対、絶対に内緒ですよ?」そう言って、当たり前だが部屋には俺と朝比奈さんしか居ないのに彼女は俺の耳元に口を寄せて来た。……ってぇ! あなたそんな短期間でそんなお姿になってしまうんですか?!翌日の朝、俺は昨日ハルヒに伝えた時間に丁度間に合う様に家を出た。それはつまり、「遅い! 罰金!」こうなるよな。まあ予定調和ってやつだ。大声で宣言するハルヒはいつもの全力スマイルで、隣に立つ朝比奈さんは困った笑顔。古泉は古泉で営業スマイルだし、無表情に見える長門にも楽しそうな気配を感じ取れなくもない気がしなくもない。どこまでもいつものSOS団、そしてどこまでもいつもの休日の光景。ハルヒ、やっぱりお前に泣き顔は似合わないぜ。そこにはもう、泣きながら叫んでいたハルヒの姿はなかった。「キョン、あんた人の顔を見て何にやついてるのよ」別に。いつも通りだから、じゃ駄目か?「何よそれ? ああもうキョンにかまってたんじゃ時間がもったいないし罰金は後でいいわ、さあみんな準備はいい? 今から朝倉涼子を捕獲しに行くわよ!」結局、俺が神様みたいな存在なのかハルヒが神様みたいな存在なのかはわからないままだ。だがまあそれでもいいさ、俺達のどちらかが神様みたいな存在だったら、もう一人はそれを見守ってればいい。そうすれば、いつまでも一緒に居られるだろ? な、ハルヒ。涼宮ハルヒの誰時 終わり
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