雨と傘
ザー ザー ザー
「古泉君、今日からテストが終わるまで団活は中止だから。」涼宮さんは9組に入って僕を見るや否やそう仰った。「了解しました。でも、どうして急に?」本当はわかっているのですが、ここは聞くのが礼儀でしょう。「バカキョンのテスト勉強をみるためよ。あいつ今回の期末で良い点を取らないと塾に入れられんだって。」「そういうことですか。」涼宮さんの返答は僕の予想道理のものでした。「今日の朝聞いたの。全くあいつはそういうことは早く言いなさいよね。テストは明後日からじゃない。」「まあ、彼にも色々あるのでしょう。」プライドやら何やらね。「ふーん。そんなもんかしらね。あっ、もうこんな時間。それじゃっ、そう言う事だから、またテストが終わったらね!」「ええ。」彼には頑張って頂きたいですね。世界のためにも、僕達の放課後のひと時のためにも。おっと、人事でもないですね。何せ"古泉一樹”は優等生と言う事になっていますから、僕も頑張らないと。
…ですが、さしあたっての問題はこの雨ですね。傘を持っていません。「さて、どうしたものでしょう。」
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団活は中止ですが、やはり足は部室に向かってしまいます。涼宮さんが以前拝借していた職員用の傘が確か部室に置き傘として置かれていたのを思い出したからです。それにもし無くても長門さんなら傘の1本や2本くらい出してくれそうですし。そんなことしなくても、例の黒タクシーに迎えに来てもらったら良いと思う方がいらっしゃるかもしれまえんが、そんなことをすると後で森さんにこってりヤキを入れられますからねぇ。
コンコン
ガキッ
「おやっ。」珍しく長門さんと朝比奈さんのどちらも部室にいらっしゃらないようですね。特に長門さんは団活が無くともよく部室で本を読んでいるので、かなり意外です。さてどうしましょうか。"古泉一樹"のキャラクター上、涼宮さんみたいに職員用の傘を拝借するわけにもいきません、かと言って雨が止むのを待とうにも一向にその気配は無さそうですし…。僕はあれこれ考え、結局、機関のタクシーに迎えに来てもらうという結論に達したときに、後ろから急に声をかけられました。「やあやあっ。そこにいるのは古泉君じゃないかっ!部室前で何やってんにの?」振り返ってみるとそこにいたのは元気一杯の先輩、鶴屋さんでした。「ああ、鶴屋さん。実は傘を忘れてしまいまして…。」「それで部室に行って傘を調達しようと思ってきてみたら鍵がかかってたんだね!」さすが鶴屋さん鋭いですね。「ええ、そのとうりです。」「あははっ、当ったり。」鶴屋さんはおどけたかと思うと一瞬真顔になり僕の顔を覗き込んだ。「所で、さっきポケットに手を伸ばそうとしてたのは、ひょっとしてお迎えを呼ぼうとしてたのかな?」ちょっと鋭すぎません?僕よりもよっぽど超能力者っぽいですね。「よくわかりましたね。」「ははは、偶々だよ。た、ま、た、ま。」本当に偶然ですよね…。「でもさっ、いくらテスト期間で放課後は生徒が少ないって言っても古泉君のお迎えさんはさ、ちょっと学校じゃ目立つんじゃない?図書館帰りの生徒に見られちゃうかもよ。」まあ確かに、学校にタクシーを呼んで帰宅する高校生は目立つかもしれませんね。図書館でテスト勉強をして帰って来る学生に見られる可能性もゼロじゃあないですしね。「ふふふ。こういう事で目立つと不味いんじゃない?」「確かに…不味いかもしれません。」そこまでは考えていませんでしたね。しかし、機関に関する噂が涼宮さんに届きでもしたら、想像しただけでも恐ろしいですね。「入れてあげよっか?」「えっ?」「傘。」そう言って鶴屋さんは僕に一本の傘を突き出した。「いいんですか?」「いいよ!あたしと古泉君って家近いしさっ。」さて、機関のタクシーで帰宅するのを見られる事と、鶴屋さんと相合傘をして帰っているのを見られる事、どちらが"古泉一樹"として不味いんでしょうね?
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「古泉君、もっとこっち寄らないと濡れるよ。」「あっ、どうも。」
女子と二人一つの傘で下校すというのはいかにもドラマやアニメ的で、僕もそういうことを夢見なかったと言えば嘘になります。今僕はその夢を実現させているのですが…、正直な所気分は複雑です。確かに鶴屋さんのような美人な先輩と相合傘で帰れるのは嬉しいのですが、こんな所を誰かに見られて学校で噂になるようなことになると、色々ややこしい事になりそうですし…。
「にしてもさー、雨ってめんどいよねっ。傘差さないといけないし、湿気で髪がくっ付くしさっ。」「確かに雨の日は面倒なことが多いですよね、特に女性は。ですが、雨も悪い事ばかりではありませんよ。」「確かにねっ。その口ぶりからするとひょっとして古泉君はわりと雨が好きなのかな?」」「ええ、わりと好きですね。」「どんなところが好き?」「雨は降った後は晴れ空がとても綺麗になることでしょうか。
雨で空気中の埃が地面に落ちて空気が澄んでいることと曇り空と
青空の光の対比のお陰で。」これは嘘ではありません。だけどこれは単なる比喩で本当は…。「んんっ?それはひょっとして経験者は語るってやつかなっ?」なっ…。「どうしてそう思うんですか?」「何となくだけど、古泉君の顔を見てたらそんな気がしたっさ!」この人は鋭さは本当に凄いですね。「さすが…と言うべきですかね。当たりですよ。」雨を見ると思い出すんです。超能力得て混乱している時に機関に助けられた事、秋の文化祭前に映画作りによる現実の揺らぎと劇の練習で一杯になっていた所を彼に救われた事、そしてそれらが終わった後より今の世界が輝いて見えた事を。「あははっ、あったり~。賞品でるかなっ?」「そうですね。喫茶店でデザートを奢るというのは如何でしょう?」ちょうどおやつ時ですし。「本当っ!?やったー!」鶴屋さんはそう言って僕の腕に抱きついてきた。あの…あたってます。「駅前にSOS団の御用達の店がそこに行きましょう。」「うんっ。」僕達は進路を変え光陽園駅絵へと向かった。
「古泉君。」「何でしょう。」「何時かさっ、雨が好きになった理由詳しく教えて欲しいなっ。」「いいですよ。今すぐにとはいきませんけど。」全てが終わったときにでも。その時には…、「約束してくれる?」「ええ。」今以上に雨が好きになっているといいですね。そう思いながら僕は鶴屋さんと一緒に長い、長い坂を下った。
Fin
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