宇宙刑事キョン
「前回までのあらすじ」
宇宙警察機構から、地球に派遣されてきた、宇宙刑事キョンとその相棒の宇宙刑事古泉イツキ。悪の秘密結社SOS団との数々の死闘をくぐり抜け、ついに残すは団長の涼宮ハルヒを倒すのみとなった!だがその直前、イツキがハルヒの仕掛けたワナにはまり、殉職してしまう。 (●<ひどい扱いですね)同僚を倒された怒りに燃えるキョンは、ハルヒを絶対に倒す事を誓うのだった。
宇宙刑事キョン 最終話 さらば平穏なる日々
イツキ!お前の仇は絶対に俺が取る!ハルヒの奴は、俺が絶対に倒してやるからな!俺は、元SOS団で、いまは寝返って宇宙警察機構の助手として働いている、長門ユキと朝比奈ミクルの先導に従い、SOS団最後のアジトへと向かっていた。うっそうと茂ったジャングルを抜けると、目的地の洞窟が見えてきた、この中にSOS団最後の拠点があるという。「気をつけてください、こちらは裏口になります。裏口は天然の洞窟なんで、歩道も何も整備されていません」「照明も無い。完全な暗闇」2人とも情報ありがとう。よーし、ここから忍び込んでハルヒの寝首を…
「ちょおぉぉぉぉぉぉっと、まったぁぁぁぁぁぁっ!」
突如、洞窟に立ちはだかる、1人の影。現れたのは、なんとSOS団の団長、涼宮ハルヒ!「あんたのことだから、どうせ裏からこそこそとやってくるだろうと思って、待ち伏せしておいたのよ。どうやら大正解のようね」出たなハルヒめ、イツキの仇だ!お前だけは絶対に倒す!「な、なにいってんのよ、イツキ刑事のことなんて知らないわよ」とぼけるな!長門、朝比奈さん、ハルヒを取り囲め!「ちょっと卑劣よ!元々はあたしの仲間だった子なのに、あんたが手篭めにして引き抜いて…」人聞きの悪いこと言うな、手篭めになんかしてないぞ。「そうですよぉ。キョンくんはいくら誘いをかけても全然のってこない、朴念仁なんですから」「むしろ、手篭めにされたい」何の話をしてるんだ、2人とも!「そうでなくても3対1なんて卑怯だわ。あんたそれでも正義の味方なの?」相手よりも多数の兵力を集める事は、戦術の基本だ。少数で多数を破るのは、一見華麗だが、驕れば自滅するだけだ。「なに、ヤン・ウェンリーみたいな事言ってんのよ。…まあ、いいわ、こういうこともあろうかと、コレを用意しておいたから」ハルヒは懐からリモコンみたいな装置を取り出し、ボタンを押す。「しびびびびびびびび」「状況・麻痺」途端に長門と朝比奈さんの動きが固まった。なんだ?「いつ裏切ってもいいように、あらかじめ仕込んでおいたのよ、麻痺装置をね」仲間にそんな事をするとは、凄い奴だな、お前って。「実際役に立ったんだし、いいじゃない。…そんな事より、1対1で勝負よっ!」ぶーん、と鳴る、ライトセイバーみたいな物を取り出すハルヒ、俺の方もライトセイバーを抜く。「ちょりゃあ!」以下、某スターウォーズみたいなチャンバラ劇が始まる。ハルヒと俺の腕は、ほぼ互角だ。過去に何度も戦ったが、全然決着がつかない。「ふふ、あたしと互角に戦えるなんて、本当にあんたは良い腕をしているわ。…刑事じゃなかったら、SOS団に入れてあげるところなのに」俺と戦っている時、本当にコイツは楽しそうな顔をする。理由はわからんのだが。
ふとそのとき、イツキ刑事の無意味な営業スマイルが頭に浮かんできた。そうだ、俺はアイツの仇をとらねばならん。そのためなら、こんな綺麗なチャンバラごっこなんかやってる場合じゃないぞ、肉を切らせて骨を断つぐらいの泥臭いことはやらないとな。ハルヒの次の攻撃は…左腕狙いか、いいだろう。俺はハルヒの攻撃を受け流す事を止め、左腕をくれてやる代わりに、ハルヒの右腕めがけてライトセイバーを繰り出した。「あっ…」途中で俺の意図に気がついたハルヒが、俺の左腕への攻撃を止め、避けに徹する行動を取った。だが上手く避けきる事ができず、俺はハルヒの制服の右肩のあたりを切り裂く事に成功した。「くっ…、あんた、いま…」切り裂けたのは服だけの様だった、ハルヒはいったん後ずさり、俺との距離を稼ごうとする。「相打ち狙いだったわね」ああ、俺は絶対にお前を倒したいんでね。「キョン…」ハルヒの顔色が変わった、激しく動揺しているのがわかる。そこから先の戦いは、ハルヒが防戦一方に回る展開となる、やっぱりコイツは自分の身体に傷がつくのが嫌なんだろうな。「そ、そうじゃ…なくて…」妙に歯切れの悪くなったハルヒ。「涼宮さーん。もう降伏しちゃいましょうよぅ。SOS団は特に悪事らしい悪事もやってないんですし~」「禿同」麻痺して動けない2人がハルヒに声をかける。俺も前はそう考えていたのだが、イツキが殉職してからは、そうもいかなくなった。「だから、イツキ刑事のことなんて、知らないって!それにSOS団に敗北の文字は無いんだからね!降伏なんか、絶対しないわよ!」その時ハルヒが見せた隙を、俺は見逃さなかった。鋭く突きこまれた俺のライトセイバーが、ハルヒの身体に迫る。「ああっ!」ハルヒはなんとか回避に成功したが、切り裂かれたポケットからポロリとリモコンみたいな装置が転げ落ちた。俺はすばやくリモコンを拾い上げ、ボタンを押す。麻痺から解除されて動き出す2人。これでまた3対1だぜ。どうする?ハルヒ。「っく…ここはひとまず引くべきね」洞窟へ向かって走り出すハルヒ。待て!俺もその後を追いかける。「み、みくるびーむ」「長門ボム」ちょうど俺とハルヒが洞窟の中に入ったぐらいで、2人の攻撃が炸裂し…洞窟の入り口付近でぶつかって、大爆発を起こした。「きゃっ!」うわあ!爆風で洞窟の内側に吹き飛ばされる、俺とハルヒ。入り口付近で大規模な崩落が始まったらしく、轟音が洞窟内に鳴り響いている。あの2人、俺もいるってのに、少しは手加減しろよな。
崩落が収まったのを確認してから、俺は懐から電灯を取り出した。僅かな明かりが洞窟内を照らし出す。やや遅れて、ハルヒの方も電灯を使用したようだ、俺のよりも明るい光が眩しい。「…!」ハルヒと目が合った瞬間、ほぼ同時にライトセイバーを抜いていた。…このまま戦いを続けるべき、か? だが、今の状況は…。待て、今は戦っている場合じゃないだろう、ここは一時休戦としないか?「…。」ハルヒはいぶかしむ様な顔をした後、「そうね、今はここからの脱出が最優先だわ。それまで、休戦にしましょう」意外と物分りが良くて、助かる。
洞窟内は完全な暗闇だ。唯一俺たちの持っている電灯だけが、あたりを照らしている。俺は入り口の崩落を調べてみたが、かなりの規模で崩落しているようで、岩をどかして入り口を開くのは、相当な時間がかかると思われた。すくなくとも、1日やそこらで出来る事ではない。参ったな、他に出口は無いのかよ。「この洞窟を先に進めば、SOS団の本拠地に続いているわ。ただ…さっきの振動で奥の方が崩れていなければ、だけど」まだそっちに望みをかけた方が、良い様な気がするな。
休戦したとはいえ、完全に気を許せるわけではない。いきなり不意打ちという事もあるだろうしな。俺とハルヒは少し距離を取って、洞窟の奥へと進む道を歩いている。先頭はハルヒ、その後ろにやや離れて俺。「…。」お互い黙々と洞窟を進んでいく。しばしそのままだったが、先に沈黙に耐え切れなくなったのは、ハルヒの方だった。「ねえ、あんた、なんで宇宙警察になんて入ったのよ?」さて、なんでだろうな。なんとなく、周りに流されて、平凡な道を歩んできたつもりなのだが。「だったら、平凡なサラリーマンにでもなったはずじゃない?」その通りだな。恐らく…俺の心の中に、まだ何か、普通とは違う物を見たり体験したいという願望が残っていたから、かもしれん。ガキの頃に、とうに諦めてしまったと、思っていたのだが。俺がそう答えると、不意に振り返ったハルヒは、なぜか上機嫌な表情で、「やっぱりね…。あんたと何度かやり取りをしてきたけど、薄々感づいていたわ。あんたも、平凡な日常に飽き飽きしてる人なんじゃないかって」そういうお前は、秘密結社なんか作って、何をやってるんだ?俺がそう聞くと、ハルヒは良くぞ聞いてくれましたとばかりに胸を張り、「教えて上げましょう。SOS団の活動内容、それはね。…この世の面白い不思議を見つけ出して、遊ぶ事よ!」全世界が停止するかと思われた。というのは冗談だが、お前は本当にそんな事の理由で、秘密結社を作ったのか。「当然よ。待ってるだけじゃ、不思議は向こうからやってこないんだもん」根拠不明の自信でもって断言した後、ニヤリとした表情で俺を見て、「もし、あんたともっと早く会っていたら、真っ先にSOS団に勧誘したのにね。ううん、無理矢理にでも入れてた。ねえ、今からでも遅くは無いから、あんた、SOS団に入りなさいよ」 冗談じゃない。正義の味方の宇宙警察が、秘密結社の一員とか、ありえねえだろ。「あたしは全然かまわないけど?そっちの方が面白いし、あんただって有希やみくるちゃんをあたしから引き抜いたじゃない」どうやらハルヒは本気のようだった。その眼は、見るのが気恥ずかしいぐらいに純粋だった。
ハルヒと話しているうちに、俺にはコイツが悪の秘密結社の団長だとは思えなくなってきていた。確かに団長ではある。だが、「悪」か?だが、警察機構本部からの資料では、SOS団は最優先摘発対象の1つに上げられているし、なによりコイツは古泉を殉職させた…。本当か?本当にお前は古泉を倒したのか?このハルヒの純粋な瞳の輝きは、高度な演技による物なのか?俺がとっくの昔に諦めてしまった物を、今もまだ追い続けるお前は…。
歩いているうちに、洞窟の先にほのかな明かりが燈っているのが見えた。洞窟の出口?「あ、丁度中間ぐらいの位置よ、あそこが」ハルヒは急に明かりに向かって駆け出した。ちょっとまて、転ぶぞ。俺も後を追って走り出す。
そこは洞窟の中に広がる、ちょっとした大広間だった。学校の体育館なみの広さの空間に、遥か彼方の上にある天井から、淡い日の光が射している。壁際には一面の鍾乳石。そして、広間のほぼ中央に広がる、地底湖。ハルヒは湖の傍まで走って行き、「どう?綺麗なところでしょ?」と、得意満面の表情で言い、「これがあったから、ここをSOS団の本拠地にしたのよ。自然にこういう所が作られるなんて、不思議な事だと思わない?」確かに、何万年もの歳月をかけて作られた鍾乳洞というものは、自然の神秘と言ってもいいかも知れないな。
その時、静寂を破るように獣の咆哮が、洞窟にコダマした。「…!」瞬間的に振り向いた俺とハルヒの前に、1体の怪物が現れた。「宇宙怪獣アサクラ!」おいおい、なんで物騒なモンがこんなところにいるんだよ。「SOS団の最終兵器として、捕獲しておいたのよ。でも全然制御が利かない存在だから、洞窟の奥に隔離しておいたの。どうやらさっきの崩落で、檻が破壊されたか、脆くなったのね」まずいな、こいつは前後の見境なく鋭利な爪で相手を突きまくる、かなり危ない奴だ。「捕獲した時は、SOS団総出…あたしと有希とみくるちゃんとでね、なんとかギリギリだった」今は俺とお前しかいないんだぜ…それでも戦うしかないわけだが。俺とハルヒはライトセイバーを抜き、アサクラと対峙した。
アサクラは不恰好だが人型の2足歩行怪獣だ。眼は人と同じ様に、前にしかついていない。つまりは死角が存在する。俺はハルヒに目配せすると、アサクラの後ろに回りこむ。ハルヒの実力は、過去に何度か戦ったから大体解っている。俺の意図している事は、ハルヒにも伝わるはずだ。俺は鋭い突きを放ってくるアサクラの攻撃を交わしつつ、常にハルヒか俺かのどちらかがアサクラの死角へ回るように脚を運ばせる。アサクラが攻撃を狙ってる方は防御に徹し、アサクラの死角に入った方だけが攻撃を仕掛ける。ハルヒも俺の意図を汲み取ってくれたようだな。俺たちは少しずつアサクラに傷を負わせ、徐々にアサクラの体力を奪っていく。戦いは長時間に及んだ。やがて完全に動作が緩慢になった宇宙怪獣アサクラに、俺とハルヒはほぼ同時にトドメを打ち込んだ。断末魔の声を上げる、凶暴な宇宙怪獣。俺とハルヒの視線が絡み合い、お互いに何かを成し遂げた笑みを浮かべる。お前と連携を組むのは初めてだが…なかなか、相性が良い様じゃないか。と、その時、アサクラが最後の力を振り絞って鋭利な爪を大きく振り上げた。ハルヒ!俺はハルヒを抱きかかえるようにして、その場から飛び退いた。ギリギリのところで爪を避け、もつれ合う様に地面に倒れこむ。急いで顔を起こし、アサクラを見ると、既に事切れていた。
抱きかかえたハルヒの身体は、思っていた物よりも華奢な身体で、そして柔らかかった。この身体でどうして俺とほぼ互角なんだろうな?…っと、今はそんな場合じゃないな。まったく、危ないところだったぜ。ハルヒ、大丈夫か?「う、うん…痛っ」倒れた時に足首を捻ってしまったらしい。ちょっと待て、いま治療してやる。俺は医療用パックを開き、中から湿布薬を取り出す。取り出した弾みに、何かがカラーンと音を立てて落ちた。医療用のメスだった。
危ないな、こんな物が落ちてくるとは。俺は何気なく、その医療用メスを掴み…「あ…」ハルヒが短く声を上げるのが聞こえた。医療用のメス。切っ先は鋭利に磨かれている、十分に殺傷能力がある。…馬鹿な、何を考えてるんだ、俺は。時間にして1秒も停止していなかったと思う。俺は医療用メスを仕舞い込み、ハルヒの治療を再開した。だがそれからハルヒは、黙り込んでしまった。
足首に異常は無いようだ。捻ったから腫れてしまっているが、いま湿布薬を塗ったから、腫れが引いたら、もう大丈夫だろう。俺がそう説明すると、ハルヒは黙ったままコクリと首を縦に振った。いかんな…変な空気になってしまった。俺はハルヒに無防備な背中を見せ、しゃがみこんだ。ほら、今はまだ、歩くのも辛いだろう。俺がおんぶしてやる。
俺はハルヒを背負って、更に洞窟の先へと進んでいく。また無言の時間が過ぎていったが、やはり先に沈黙に耐え切れなくなったのは、ハルヒだった。「ねえ、キョン」なんだ?「今なら、…あたしを楽に倒せるはずよ」先ほどまでの元気ハツラツな声ではなく、妙に沈んだ声。「なんで助けたの?そんな事をする義理なんか、無いはず」そんな事はないだろう。今は休戦中なんだろ?「それは…そうだけど」だったらいいじゃないか。十分な理由だろ。「…。」なぜか解らんのだが、ハルヒの沈んだ声を聞いていると、変に胸がもやもやして不安な気持ちになる。さっきまでみたいに、元気なお前に戻ってくれよ。その方がお前らしいぜ?…俺は声には出さず、そう思った。「そうか…そうよね…」ハルヒは何かを吹っ切るように、そう言い、「キョン。治療してくれて、ありがとう」俺の身体に廻された腕に、ギュッと力が加わえられた。俺は、心臓の鼓動が少し早まるのを感じた。
どれぐらい時間がたったのか、ハルヒを背負ったまま洞窟を進む俺の前に、明らかに人工的と思われる光が見えてきた。「そろそろアジトだわ。良かった、途中で洞窟が塞がってなくて」まったくだ、どうやら助かりそうだぜ。
アジトに到着するや否や、ハルヒは俺の背中から飛び降りた。もう足はすっかり大丈夫のようだな。「この奥が、司令室になるの。特別にあんたにも見せて上げるわ。ありがたく思いなさいよね」元気の方もすっかり元通りになった様で、その心の切り替えの早さには見習いたい物があるな。ハルヒはアジトの奥の部屋へと入って行き、俺もその後に続いた。
色とりどりの光を点滅させながら、妙に自己主張している古臭いコンピュータ。本棚にこれでもかと積み込まれた、ハードカバーの本。部屋の片隅にある、ポットと給湯器。なぜか吊るされている、メイドとかバニーとか、ナースとかの変な服。そして部屋の一番偉そうな位置においてある、団長用の机。何しろ、わざわざ団長と書かれた四角錐が机に置いてあるからな。ハルヒはその机に腰をかけて座り、「どう?なかなか良いもんでしょ。…ま、本棚の主と、給湯係の人は、いなくなってしまったけどね」と、複雑な表情を見せた。仲間2人を引き抜かれて、ここに1人で座っていたのか…。その時のハルヒは、一体何を思ってここに座っていたのだろうか?少し、罪悪感が、俺の心に芽生える。
…いやいや、俺は宇宙刑事だぜ?悪の秘密結社を倒すために、俺はここにいるはずだ。それに古泉の仇も…。俺は、ライトセーバーを抜き、ブーンと唸らせて光の刃を露出させた。ギクリとしたハルヒが、身体を硬くするのが解る。洞窟は抜けた。休戦期間はもう終わりだな。「…そうね、決着を付けましょうか」不敵な表情を見せるハルヒ。だが、その前に、一瞬だけ酷く悲しそうな顔をしたのを、俺は見逃さなかった。
本拠地のボスの部屋で行われる、最後の戦いというシチュエーションだ。俺とハルヒの力はほぼ互角だった…ついさっきまではな。今は俺がハルヒを圧倒し、ハルヒは押される形になっていた。「…っ、なぜ?あんた、いままで手加減してたっていうの?」壁際まで追い詰められたハルヒが、荒い呼吸をしながら、俺を見つめている。それはなハルヒ。あの洞窟で、お前の身体が、予想よりも華奢だって事が解ったからだ。にもかかわらず互角だったのは、お前が身体の柔らかさを利用したバネと、機動力を重視した戦い方をしていたからだ。俺は律儀にもそれに合せて戦っていた。だが、今は違う。俺は今、剣圧でお前を圧倒するように、力でお前と勝負している。「…!」それに対抗するには、お前はさらに機動力を駆使した戦いに徹すればいいだろう。そうすれば、恐らく互角に戻る。だが、野外ならともかく、この司令室の中では、そこまでの機動性は発揮できまい。俺はライトセーバーの切っ先をハルヒに突き付ける。「くっ…!」ここまでだ、お前も諦めて、降伏しろ。「誰が!SOS団は降伏なんてしないんだから!降伏するぐらいならっ…」ほとんど自棄になった様に、無茶苦茶にライトセーバーを振り回すハルヒ。止めろ…もういいじゃないか、ハルヒ…。俺はハルヒのライトセーバーを押さえ込むようにして払い退け、返す刀でハルヒの首を、「あ…」寸前で刃を止めて、少し下がってハルヒと距離取った。「なによ、そのまま斬り付ければ良かったのに」いいわけないだろ。「なんでよ!あたしを倒せる、チャンスだったじゃない!」無理だ。俺はもう、お前を傷つけることは…多分、出来ない。「哀れんでるの?情けをかけるため?…ふざけないで、あたしはSOS団の団長なんだからね!」再び攻撃を再開するハルヒをあしらいながら、後退する俺。そうじゃない、そうじゃないんだ…ハルヒ。余裕の無くなったハルヒの攻撃は、隙だらけだった。俺はハルヒのライトセイバーを下から切上げると、そのまま手首を捻らせて、ハルヒの手からライトセイバーを跳ね飛ばす。「あっ…」跳ね飛ばされたライトセイバーは、放物線を描いて飛んで行き、壁際においてあったコンピュータに突き刺さる。途端、いかにもヤバそうな警告音が部屋中に響き渡った。
「警告。。。自爆モードに入りました。。。自爆まで。。。あと5分。。。」
なんてお約束なモンを用意しておくんだよ、お前は!「だって、秘密結社のアジトには、自爆装置があるもんじゃない」バカかお前は!脱出装置は無いのか?「脱出用のシュートなら、そこの壁の穴から…」俺はハルヒを抱きかかえると、即座にシュートに飛び込んだ。「ちょっと…まっ…」いかにもありそうな、ウォータースライダーみたいな脱出ルート。水が流れててよかったぜ。無いなら摩擦熱で相当熱そうだ。
長いトンネルを抜けるとそこは湖の上だった。空中に放り出されるように滑り出た俺とハルヒは、そのまま湖にざっぱーんと盛大な水しぶきを上げて落下する。とりあえず陸地まで泳いだその時、遠くの山で大爆発が起きているのが見えた。ふう、間一髪だったな。「だったなじゃないわよ、バカキョン!最後のアジトが吹っ飛んじゃったじゃないの!」それが俺の仕事だ。お前も命が助かって、良かったじゃないか。「自爆装置を停止させれば良かったのよ!ちゃんと停止装置があるんだから!」え、あるの?「あるに決まってるでしょ?誤動作したときどうすんのよ!」う…。しかし秘密結社を倒す事が宇宙警察の仕事だ。後はお前を逮捕すれば、任務完了というわけだな。
「いやあ、こんなところで痴話喧嘩ですか。あなたも隅に置けませんね」何にこやかな声で言ってんだ古泉。これの何所がそう見える。あ?古泉?振り返ると、古泉イツキ刑事が、そこに立っていた。何でお前がここに…殉職したのでは…。「殉職?何の事ですか?…宇宙警察機構の本部の方へ行ってきたんですよ。手紙を書いておきませんでしたっけ?」何だそうだったのか。SOS団アジトの探索に行ったきりいなくなったから、殉職したと思い込んでいたよ。「ええ、例のSOS団が最優先摘発対象になっているのが、どうしても解せなかったので、本部で確認してきたんですよ。調べてみたら、案の定、本部の手違いでした。本来はただの観察対象です」何だと?「お役所仕事で、間違いを訂正するのに時間がかかりましたよ。あっちの部署こっちの部署にたらいまわしで、ようやく戻してもらいました」…。「大体、こんな辺境の太陽系なんかに、宇宙犯罪組織なんか滅多にきませんよ。言うなれば、僕達は左遷されてるんですね」なんてこった…じゃあ、ハルヒのSOS団を壊滅させちまった俺は…。ハルヒは俺の胸をポカポカ叩きながら、「どうしてくれんのよ!あたしと有希とみくるちゃんとでキグルミのバイトまでして溜めたお金で作った、最後のアジトなのに~」大泣きされてしまった。まずいな、誤認逮捕どころじゃないぞ、全面的に俺の失態だ…。すまない、ハルヒ。俺に出来る事があったら言ってくれ、なんとかやれるだけの償いはするから。「その言葉、二言はないわね」急に泣き止んで、すっくと立ち上がるハルヒ。なんだ?演技かよ!「古泉くん、誓約書持ってきて」「かしこまりました、閣下」おい古泉、いつからお前はハルヒ側に寝返った。
〔エピローグ〕
かくして俺は今日も宇宙警察機構地球支部に出社した。支部と言っても隊員は2名、助手3名の小さな部署である。廊下を進んだ先にある、元々は隊員室だった部屋に張られたプレート。「SOS団部室」ちわーっすと言いながら俺が中に入ると、既に全員が出社してきていた。窓際の定位置でいつも本を呼んでいる、助手の長門。給湯ポットの前でお茶の準備をしている、助手の朝比奈さん。長テーブルの席について、暇そうに詰め将棋をやっている、隊員の古泉。そして、部屋の一番偉そうな位置に机を置いて、そこの席に座っている、助手のハルヒ。机に置かれている四角錐に「団長」と書いてある。「いつも遅いわよ、キョン。あんた一番下っ端の団員その1なんだから、みんなより先に来るぐらいの心構えでいなさいよね」遅刻してないんだからいいだろ?別に。そう言いながら、俺は宇宙警察機構地球支部にして、SOS団アジトにもなってしまった部屋の椅子に腰掛けた。
ハルヒとの取り決めで、正義の味方の太陽系本拠地にして秘密結社の本拠地にもなってしまった、宇宙警察機構地球支部。俺も古泉もSOS団に入団させられる事になり、なぜか俺は下っ端で古泉は副団長になっていた。
「さて、今日は10時から不思議探索に全員で出かける事になってるからね。みんなそれまでに準備しておく事」警察業務的には、パトロールと言う事になるか。
正義の味方にして秘密結社の団員という、わけの解らない立場になってしまった俺だが、まあ、これはこれで慣れてくるとそんなに悪いもんじゃない。これ以後、ハルヒに太陽系所狭しと連れまわされて、面倒な事件にたびたび巻き込まれる事になり、俺の平穏だった日々は終わりを告げるのだが、まあ、それでもいいさ。なにより、ハルヒ。お前が宇宙犯罪なんかやらかす奴じゃなくて、ほっとしたぜ。なぜほっとしたかって?さあ、なぜだろうな。
おわり
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