涼宮ハルヒのゆううつ 妖魔夜行ver. エピローグ
エピローグ 神はすべてを見守りたまう
翌朝・・・俺はほとんど徹夜明けの体を引きずるように学校へと向かう。親からは顔色が悪いから休んだら?といわれたわけだが、行かないと今夜も眠れなくなるだろう。
教室のドアを開けると・・・机に突っ伏しているハルヒと「大丈夫?」と声をかけている委員長の姿があった。
ハルヒの頭には後ろでくくった黒髪がちょんまげみたいに突き出していた。ポニーテールと呼ぶには無理がある。
「おはよう♪昨日はお疲れ様。」
俺に気づいた朝倉は笑顔でそういってきた。無事だったのか。
「じゃ、涼宮さんをお願いね。あと・・・」
朝倉は周りの連中に聞こえないように耳打ちしてきやがった。それもこんなことを・・・
「涼宮さんにはわたしが告白してふられて、あなたを無理やり押し倒そうとしたけど、あなたが好きな人の名前を叫んだから恥ずかしくて休んだってことにしてあるから。」
そうか・・・誤解が解けてよかったよ。
「ちなみに、好きな人っていうのは、涼宮さんね♪」
はあ?なんですと?
いつもの笑顔に悪戯に成功した子悪魔の表情が混じっていた・・・こいつ・・・
「じゃ、後はよろしく♪」
朝倉は、自分の席に戻っていった。
・・・声かけづれー
「よう、元気か?」
俺は、机に座り、少し心が落ち着くのを待ってから、後ろのやつに声をかける。
「元気じゃないわね。昨日、悪夢をみたから」
ほう、そいつは奇遇だな。
「おかげで全然眠れやしなかったのよ。今日ほど休もうと思った日もないわね」
「そうかい」
机に伏していた顔をあげ、ハルヒは窓から外を眺めた。こちらを直視したくないかのようなそのしぐさで表情を読み取れないが、すくなくとも上機嫌ではなさそうだ。声だけは・・・
「ハルヒ」
「なに?」
窓の外を流れる雲をじっとみているハルヒに、俺は言ってやった。
「似合ってるぞ」
その後のことを少しだけ話そう。
昼休みに古泉に呼び出されて、昨夜の説明をうけることになった。つくづく説明好きなやつだ。
「『機関』を・・・いえこの世界を代表してあなたには感謝の言葉を送りますよ。」
相変わらず無駄に爽やかな笑顔だ・・・俺としては昼休みに少しでも寝ていたかったんだがね。
「それは失礼。しかし、あなたもあの後のことを知っておきたいかと思いまして。」
あの後ねえ・・・思い出したくないんだがな、こっちとしては。
「『神』の再臨は防がれました。閉鎖空間崩壊後に逃げ出そうとした『天使』は僕たちが片付けましたよ。」
そうか、あのいやみな声の『天使』にはもう会わず済むわけだな。
「さあ、生き残りがほかにいないという保障はありません。」
おいおい、また面倒が起こるかもしれないということか?
「どうでしょうね。僕たちとしてはそれよりも不思議なことがあります。」
ほう?
「『神』は再臨直前でした。誰がそれを止めたのでしょう?」
「ハルヒじゃないのか?」
「僕たちは違うのではないかと考え始めています。中で起こったことは、確保した朝倉さんから聞くことができましたから。」
朝倉を治したのは、こいつらか。
「まず最初ですが、『天使』にけがを負わせたのをあなたは朝倉さんだと思っているでしょうが、実は違うのです。あのとき、朝倉さんは動くこともできない状態だったそうですから。
そして、『神』が再臨できなかった理由です。
朝倉さんに協力し、『神』を妨害したなにかがそこにいたからではないかと。」
よくわからないな。
「まあ、神はこの世でただひとつの存在ですから。」
なにがいいたい?
「あなたについて、普通の人間であると思っていました。しかし、それが空気のように全世界にあまねく広がり存在するものなら、僕たちが空気の存在を感じないのとおなじように、単に気づけなかったのではないかと考えはじめています。」
徹夜明けの頭がショートしそうだ。その後もいろいろ説明を付け加えてくれたが、半睡眠状態の頭では理解不能だ。
「まあ、神の奇跡ってことにしておきましょうか。」
と古泉は解説をまとめて、
「未だ涼宮さんの力は失われていません。僕たちのバイトもまだ終わらないというわけです。あなたとも長いつきあいになるかもしれませんね。では、また放課後に。」
と最後に不穏なことをいって去っていった。
放課後、部室には長門の姿があった。
「昨日はありがとな、長門。」
「わたしは何もしていない。」
相変わらずの無感情な声だ。それにほっとしている自分がいるわけだが・・・
「見て」
長門は机に置いてあった本をこちらに向ける。あれ、これは・・・
「再生できた。」
そうか、これは朝倉に破壊された本だったな。しかし、ばらばらになった本を直せるとは『妖怪』ってのは便利だな。
「違う。本当なら無理。でも、直せた。不思議。」
お前から不思議って言葉を聞く事になろうとは思わなかったよ。
「話しておかないといけないことがある。」
「なんだ?」
「朝倉 涼子はわたしと一緒に住むことになった。」
そうか・・・二人がどんな会話をしているのか、ちょっと気になった。朝倉が一方的にしゃべりそうだな。
「これからも二人であなたを守る。」
「キョンくん・・・」
呼ばれて振り返ると、小柄なマイエンジェルがドアのところで涙を滲ませて立っていた。
「よかった、また会えて・・・」
俺の胸に顔を埋めて朝比奈さんは涙声で、
「もう二度と・・・(ぐしゅ)戻ってこなんかと、思、」
つい抱きしめたくなる衝動にかられて、背中に手を回そうとすると、
「だめ、だめです。こんなところを涼宮さんに見られたら、同じ穴の二番煎じです。」
「意味わからないですよ、それ」
そんな朝比奈さんをみて、俺はあることを確認してみたくなった。ちょっとしたいたずら心だ。
「朝比奈さん、ここのところにほくろありますよね。星型の。」
左胸のところを指差す俺を、朝比奈さんは古泉の相棒が豆鉄砲をくらったような表情できょとんとした後、後ろを振り向き、なにかを確認すると、その耳はリトマス紙のようにわかりやすく真っ赤に染まった。
「どっ、どうして知ってるんですか?わたしも今まで星の形なんで気づかなかったのに!いいいいいいつ見たんですか?」
もっと未来のあなたが教えてくれました。と正直に言ったほうがいいかな。
「なにやってんの、あんたら?」
続いて、団長登場をいうわけか、戸口でハルヒがニマニマと笑っていた。
「みくるちゃん、この前買った服まだここでは着てなかったわよね~。さあ、着替えの時間よ♪」
といって、朝比奈さんを脱がしにかかる。
「や、だめ、せめて、ドアだけは閉じてぇ!」
という、願いをかなえるため、俺は部室を出て、ドアを閉める。
長門はというと、何事もないようにずっと窓際で本を読んでいた。
この世はある意味平和だった。
俺は、不思議探索のときハルヒと一緒になったなら、今回の一件を話してやろうと思う。 あいつは信じないだろうけど、それでもこんな不思議な体験を一緒に語れる人間は、ハルヒだけだからな。
涼宮ハルヒとの運命の・・・とは信じないぞ、奇妙なってことにしよう・・・出会いからはじまった俺の物語はいつまで続くのか・・・それはまさしく神のみぞ知るってやつだろう。
叶うならば、少し騒がしいくらいだが退屈しないこんな日々が続いて欲しいと雲ひとつない青い空を眺めながら想っていた。
FIN.
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