【L『s』M】 第一章「始回転」Ⅱ
全てを黒で装った人間。
巨大な時計塔の天辺に立ち大きく手を広げ、幻言夢言を口ずさむ
『狂い始めた歯車は止まる事を知らない。創造主は困惑し、歯車は錯乱する。
全ては、過去の産物。広大な遡行説。あの男の子は貴方の女の子の歯車を狂乱に咲き乱れさせ舞いさせて行きましたとさ…♪』
さて俺は久々に重大な懸案事項を抱えていた
そう、朝倉涼子の復活である。
本当なら今すぐにでも長門に色々と問い詰めたい気分ではあるが、現在授業中である。
ハルヒは「突然の転校に突然の転入なんて…絶対何かあるに違いないわ!キョン、放課後二人で朝倉の後をつけるわよ!!」
なんて言ってたが勿論俺はそれを固く反対した。
情報統合思念体が作り出した急進派のインターフェイス朝倉涼子。
そんな事実を知っちまっている俺からすれば、朝倉がハルヒ自身に直接なんらかの影響を及ぼす可能性も無いとは言い切れない訳で、そう考えるとハルヒを朝倉に近づける訳にはいかないからな
とりあえず放課後になったらハルヒの魔眼を避けつつ、長門のところへ行って全ての経緯を説明して貰うことにしよう
放課後、今週からハルヒが掃除当番だったという素晴らしいミラクルもあり
俺が以外と簡単に長門と二人っきりで話す機会を得た。
…まあ、まだ俺と長門以外団員がだれも来ていないSOS団団室もとい文芸部室でな訳だが
「さて、どういう事か説明して貰おうか」
長門は本を閉じ俺の方を見つめた。
余りにまっすぐなその瞳に、流石の俺も目をそらしそうになっちまった
よしてくれよ長門、そんな無垢な瞳で俺を見ないでくれ
何か悪い気になるぜ
「…朝倉涼子は情報統合思念体の意思により再構成された」
「てことは何だ、また俺を狙ってくるのか?」
「…彼女は再構成前に持っていた自身の記憶を九割無くしている」
「それは本当なのか!?」
「事実。再びバックアップとして再構成され此方に送られてきた時には、既に記憶の大半が欠如していた」
「…そうか、それじゃあアイツは俺を襲った事も覚えていないのか?」
「忘れている。彼女に唯一残っていた記憶は友人と過ごした学校での日々のみ」
「そんな話・・・」
「信じて。」
長門の眼は、まるで自分の大切な人を庇うような、そんな目をしていた
「……ああ、信じるよ。」
正直、信じたくはなかった。
俺はアイツに二度殺されかけている
どんな言葉で諭されても、許せないだろう。
だがそう言うしか無かった
長門の眼が訴える物は明らかに普段と違った
長門…お前はその瞳の奥に一体何を想っているんだ?
宇宙の意思によって作られた人間とは言えない人間…
お前にも感情はあるのか?
喜緑さんも、お前も、本当の感情が見えてこない
あの人は人口知性を持った機械なら楽々こなせそうなシナリオと表情をその個体で表現するだけだし、お前に至っては無口無表情だからな
…ん、待てよ?
そう考えると朝倉はどうなる?
アイツはクラスメイトと一切会話しないお前や、機械的な返答しかよこさない喜緑さんとは違い、クラスに溶け込んでいた。
友達も沢山いたみたいだし、誰とだって明るく接していた
少なくても【造られた】ようには見えなかった…
「彼女は今情報統合思念体の意思で動いていない。あくまで彼女自身の意思で身体を動かしている」
「どういう事だ?アイツはもう普通の人間なのか?」
「違う。彼女は私と同じ造られた存在」
その時、長門は少し悲しそうな顔をした
感情に富んだ言動。
俺と話した時もそうだった。
『私には有機生命体の持つ死の概念が良く分らないの』
あの一言を思い出した。
機械はプログラムに従って行動する。
だが長門や朝倉が造られたもので、プログラムによって行動する機械なんて風には思えない
教室で長門を抱いた(性的な意味じゃないぞ)時はあいつの…人間の温もりを感じたし、朝倉とクラスで会話した時も、どことない・・・しかし確実な人間ぽさとでも言うのだろうか?そういう物があった
よくよく考えればあれが造られたものだと?
馬鹿な…あいつらは…
…って何を俺は大げさに考えているんだろうね。
一つの疑問からここまで深い考えに発展するなんざ、人間は素晴らしいもんだ。
致命的な欠陥のような気もするけどな
とりあえず長門や朝倉がなんであれ、俺は普通に接していればいい
表面上は人間と変わらないし長門は頼りになる。朝倉もおそらくは無害なんだろう
「彼女は既に無害。何かあっても私が守る…信じて」
とにかく、ああ言われたらもう何も言及出来ないぜ。
俺だって過去の事を何時までもグチグチ言うつもりは毛頭ないし、とりあえず普通にしている事にしよう
俺がパイプ椅子に腰かけると同時に古泉が爽やかなイケメンスマイルで現れた
「おや、今日はお二人だけですか?」
そう言うと普段通り真正面の席に座り、持参したボードゲームを机の上にセットし始めた。
「古泉、今日は何か賭けないか?」
「と、言いますと?」
とりあえずハンデ戦を提案して余裕の勝利、それからジュースの一本でも奢って貰おうかと考えていた…が俺の野望はある圧倒的な存在によってあっさり打ち砕かれた!
「キョン!朝倉の家に行くわよ!!」
はい団長様の登場である。
そして長門がこちらを見ている。
まるでどうにかして止めてくれと言わんばかりの真摯な瞳…に見えた気がしないでもないような
まあ俺としてもご遠慮したい次第で、ここは何としてもハルヒを制する事にしよう
「冷静になれ。朝倉の転校にも転入にも可笑しな部分は一つもない。大体クラスメイトの家ってのはもっと仲良くなってから行くものであってだな、お前はそもそもそういう・・・・」
俺がハルヒを諭し始める事小一時間
流石に聞き手も疲れて来たようで比較的あっさりと降参した
「あーうるさいうるさい!もう…わかったわよ!!」
30分口を止めずに団長様を諭した俺の勝利である。
朝比奈さんの写真をトップページに掲載するという野望を制した時と合わせて二度めの大勝利だぜ
すると大人しくなったハルヒがまた何かを提案してきた
「ねえ・・・じゃあ・・・朝倉の家には行かないからアンタの家に・・・」
ん?俺の家がどうしたんだ?
「…な、なんでもないわよっ!やっぱり…いいわ」
???
どうしたんだハルヒ?何か今日は変だぜ?
何か訳の分からない重い空気が部室を取りこんだその時、その空気をブレイカーをするかの如く、愛しのマイエンジェルが華麗にドアを開けて舞い…いや入ってきた
「お、おそくなってすみませええ~ん そ、その…今日は鶴屋さんが委員会の仕事を手伝ってくだいと・・・」
「気にしなくていいですよ朝比奈さん。それより俺喉がからっからです」
「あっ・・・はい。すぐにお茶いれます!」
「キョンのバカ…」
んん?空耳か?
そんなこんなで放課後になった。
俺は教室に宿題用のノートを忘れていたので、取りに行ってから帰る皆に告げ部室党を後にした。
何処までも果てしない黒
果てしない黒のコートを身に纏い、空の上から吹き荒れる風もその黒だけを敬遠していた。
男は夜の宝石を見ていた
その鑑賞は深く、美しい
魅せる側よりも見る側が美しい不可思議な光景。
そして、それは【ヒト】
『引き合う。選ばれし貴方達は深く引き合う。違うイレモノでも、違う意思でも、無限に時を遡る至高の転生は、至高の運命を手繰る事に為るだろう。芸術は見方を変えれば非常に不細工で、運命の見方を変えればそれは絶望。伝説と呪の終焉を見届け形作り誘い抱きしめ魅せ誓い浸る……
ああ…そんな私を形容する私自身の全ては…そう、【LEGENDARY】・・・』
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