最終楽譜『The Live』
○俺とENOZのZとのラブソング 最終楽譜『The Live』 運命の日は雨で幕を開けたこの雨じゃ昨日まで咲き誇っていた桜も散ってしまうな雨の日は心が憂鬱になるが今日はいつもの倍だ 教室に着くとハルヒは自分の席で寝ていたそれから目を覚ますことなく全ての授業を寝て過ごしていたこれから全校生徒の前で一曲演奏するのに何とも肝っ玉のでかい奴だとこの時は思っていたが後でこいつがこんなに寝ていた理由を知ることになる ハルヒは2時限目が終ると何も言わずに教室から飛び出していった俺もそろそろ生徒会室に行くとするかな 生徒会室に向かう途中に何度か逃げようかなと考えたが心を奮い立たせて、何とか生徒会室の前へ到着したノックをして入ると中には喜緑さんだけだった俺と喜緑さんは少し世間話をしてから体育館へと移動した部屋を出るときに喜緑さんから「期待しているわ」と言われた 体育館に着くと喜緑さんから今回の段取りを教わった予定ではライブ対決が一番最後のトリに行われるそうだそこで司会進行をする生徒から審査員として俺が紹介されるのでそこで俺は登場する2組のライブ終了後に判定を行ってグランドフィナーレだそうだ妙にショー的な要素が強いのは機関の趣向なのかと思った 司会進行役はSOS団名誉顧問の鶴屋さんでアシスタントは喜緑さんだそうだまー鶴屋さんなら朝比奈さんと財前さんの友達だから偏った贔屓はしないなと思ったしかし古泉の野郎もそんなことにまで気を使ってくれるとは涙が出てくるよ一番手の野球部の紹介が始まった頃はあれ程に逃げ出したかった俺の心境も明鏡止水のように穏やかになっていったここまできたら、深く考えずに俺が良かったと思った方を選ぼう 演劇部のエチュードも終わり、残すは軽音楽部とSOS団のみとなった喜緑「部活紹介も早いもので残すは後2組となりました」鶴屋「新入生のみんな悲しいけどそろそろ終りにょろよ」喜緑「最後はライブ対決という形式で行います」鶴屋「はいっさ、ENOZとSOS団の対決だよ」喜緑「新入生の為に説明致します、ENOZは軽音楽部の榎本さん・根岸さん・岡島さん・財前さんの4人で結成されたバンドグループです、そしてSOS団とは涼宮さんを団長として生徒社会を応援する世界造りのための奉仕団体で現在は生徒会へ申請中の同好会です」 鶴屋「この2組のバンドが演奏で対決するっさ!」喜緑「ではライブ対決の審査員を紹介します」鶴屋「審査員はSOS団雑用その一のキョン君だよ」はい、後輩達へ俺は雑用係のキョンと認識された本当に誰も本名で呼ばなくなったな…紹介された俺は全校生徒の前で小さくお辞儀をして審査員席へと座った全校生徒の前で座るだけでも緊張するのにあいつ等はここで演奏をするのか 喜緑「では先行はENOZからお願いします」鶴屋「財前ちゃん頑張るさっよ!」 袖からENOZの面々が登場した、ドラムの岡島さん、新メンバーの根岸さんはベースそして榎本さんと舞さんのツインボーカルとツインギターの構成となっている 新生ENOZの記念するファーストソングは以前に文化祭で聴いた【God knows...】だった俺は聞いた瞬間にオマージュした、文化祭やその後のライブで聴いた【God knows...】を遥かに凌駕している生で聞いたのはこれで3回目だがこんなにも進化することが可能なのだろうかツインボーカルとツインギターの演奏になんともいえない立体感を表現しているそれにつられて観客のボルテージも最高潮へと上がり舞さんの喉がかすれるようとした寸前で曲は締め括られた 終った瞬間に観客から割れんばかりの拍手と歓声が体育館中を響かせた舞さんは俺を見つめて、全てを出し尽くした顔で微笑んでいるギターを降ろすと俺がプレゼントしたネックレスを握り締めた ENOZは一旦袖に下がって審判の時を待つ喜緑「以上ENOZでした、では続いてSOS団お願いします」鶴屋「みくるにハルにゃんファイトにょろよ!」 袖からまずは古泉が登場してドラムの前へ腰掛けた、続いてはベースを担いだ長門が現れたその次は朝比奈さんが登場した、手にはタンバリンを持ちマイクに立ったのでステージの飾りではなくてコーラス担当かなそしてどんじりはバニー姿のわれらの団長が登場した俺はハルヒのバニー姿よりも左肩に巻かれた痛々しい包帯とサポーターに目が留まっていた後日古泉から聞いた話によるこの負傷の件は3日前に遡る その日、SOS団の面々は3日後に迫まった本番に対して今日の練習で十分なクオリティにまでなったので満足気に帰宅していたそうだ事件が起こったのはハイキングコースを下っている最中に起こったそこでベビーカーに乗った赤ちゃんと母親に遭遇した面々が赤ちゃんの方に目をやると固定具が緩んでいたのか赤ちゃんは半分落ちかけていたしかも運が悪く母親は目を離している各自が危ないと声を上げる前に赤ちゃんはベビーカーから落下してしまった地面に衝突する寸前でハルヒが赤ちゃんをダイビングキャッチをして大惨事は免れたがその代償でハルヒは左肩を強打して痛めたそうだこれが古泉の言っていたアクシデントとハルヒがこの2日間寝ていた理由だ腕は大いに腫れ上がっており、痛み止めの薬で紛らわしているそうだが本当なら動かすのもきつい状態だったらしい ハルヒの合図で演奏は始まったその曲は【God knows...】だったまさかENOZと曲が被っているなんて不幸過ぎるぞ 演奏は以前にも聞いたハルヒの月まで届きそうな澄み切った声で始まった長門はやはりベースも超絶テクで演奏を行い、古泉のドラム捌きも素人ながら奮闘していた朝比奈さんのコーラスとタンバリンは…大変愛くるしかった 相手がENOZでなければ、かなりの善戦に思えたがアクシデントの傷は甘くなく初めは無難にギターを弾いていたハルヒだがやがて痛みからか演奏が乱れるようになったその影響で長門以外の二人の演奏にも影響を及ぼしたハルヒは歌声を上げるのも辛そうでいつ演奏が止まってもおかしくない状況だ俺はそんな満身創痍なハルヒの演奏をすぐにでも止めてやりたかった俺が見るのも辛くなり、目を逸らした時に信じられない出来事が始まった いつ倒れてもおかしくないハルヒが急に超絶技巧なギターテクをかき鳴らしたそして、歌声はこの憂鬱な雨雲を吹く飛ばすかのような澄み渡った声を体育館中に響かせた俺は急に覚醒したハルヒの演奏を訳が分からずに唖然として聴いていた俺の勝手な解釈だが俺を取られたくない気持ちが引き起こしたハルヒの力なのだろう このハルヒの演奏に朝比奈さんや古泉はついていけなかった、あの長門でさえついていくのに必死なようだ他の3人がついていけずにハルヒの独奏のような感じに思えるが3人もこの曲のエッセンスとして混ざり合って、なんともいえない絶妙な四重奏を奏でているこの演奏に対する感想を一言でいうならば奇跡としか言いようがない ハルヒの演奏が終ったときに分厚い雨雲がかき消されて、体育館に光が差し込んだこのミラクルな演奏にふさわしいフィナーレとなった 俺も含めたこの場にいる全ての者がこの演奏を理解できずにしばらく反応できずにいたがしばらくすると何処からともなく拍手が起こり、それが全校生徒へと広がり歓声とともに爆発したハルヒ自身も自分の行動を理解していないのか呆然と左肩を押えながらその場にへたり込んでいる 皆が唖然としている中、喜緑さんは冷静に司会を進行させた喜緑「SOS団の皆さんでした、それではENOZの皆さん出てきてください」袖に引っ込んでいたENOZが再び舞台に上がった、同時にハルヒも朝比奈さんと古泉に抱えられるように立ち上がった舞さんはハルヒの演奏を聴いて落胆していているようだったが、手のネックレスを握り締めて諦めない眼差しで顔を上げた 喜緑「では審査に移ります」鶴屋「じゃ、キョン君お願い…あれ、どうしたの」鶴屋さんの言葉で気がついたのだが俺は涙を流しているらしい俺はSOS団とENOZの演奏に猛烈に感動して涙を零していた泣き顔を全校生徒に見せる訳にはいかないので涙を止めようとしたが溢れ出る涙は止まらない俺が涙を流していることにハルヒも舞さんも心配そうにこちらを見ているとりあえず涙は脇に置いて、判定を下さないといけないのだが判定を出すのが難しい文句なしにハルヒの演奏は奇跡としか言えない演奏だったが舞さんのENOZもそれに負けないぐらい俺の心を打ったどっちを選べばいいんだと苦悩しているとある記憶が蘇ってきた 朝比奈さん(大)に言われた『その時は自分の心に正直な気持ちで決めてください』という言葉だ 俺は演奏だけでなく全てを含めてもう一度振り返ってみた舞さんとの一ヶ月余りの出来事SOS団との一年間の思い出両方とも俺には楽しすぎて忘れることなんてできないだろうそのどちらかを失うことはできるのだろうかいや、そんなことはできない欲張りな願望かもしれないがこれからも両方と付き合っていきたいどちらを一番愛しているかなんて今の俺には正直いって決められんまだハルヒと舞さんと色々語り合いたいたくさん話してたくさん笑いたいそれからどちらかを選びたいそれならばこの演奏についての答えは決まったはずだ自分に正直な気持ちでみんなに伝えよう 俺は止まらない涙を流しながら判定を下したキョン「…俺は演奏を聴いてこんなに感動したことは初めてです…2組の演奏を聴いて優劣は決めるのは俺には無理です…申し訳ないのですがこの対決は引き分け…いえ、両者の勝利にしたいと思います」 俺の判定が言い終わると全校生徒からの暖かい拍手が鳴り響いたそこで今年の部活紹介は幕を閉じたハルヒも舞さんもホッとした顔で互いの健闘を称えて抱擁を交わした他のSOS団はというと朝比奈さんは俺と同じで大粒な涙を零している、古泉は安堵の表情、長門はいつも通りの無表情だが少しだけホッとした顔をしているんじゃないかな こうしてSOS団とENOZとのライブ対決と俺の短い恋愛は終わりを告げた… エピローグへ続く
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。