ハルヒの反動
…あたしの誕生日まで、残り4日間ね。
最近ヒマでしょうがないし、クリスマスなんてイベントがある位だからSOS団団長のあたしの誕生日を祝わないのは道理に反するわ。いや…とゆーか、既にどうあっても祝わざるをえない事態だわ!SOS団に早く知らせなきゃね!授業なんて受けてる場合じゃないわ!
「ねぇキョン!緊急事態よ!そろそろ…
あたしが前の席に座るキョンを引っ張って話しかけると、キョンはいつに無く真剣な顔であたしを見つめ、あたしの言葉を遮った。
なぁハルヒ、とキョンは喋りだして
「いま俺は非常に大事な案件を抱えているんだ。 これはとっても大切な事だから、今はそれに集中していたいんでな。 すまんが暫くはSOS団にも顔を出せそうにない」
「え?あ…あぁ、そうなんだ…」
普段のあたしなら気にもしないで突っ込んで行くけど、この時は自分の誕生日パーティの話だったから少し引け目になってたのかな。放課後、キョンは部室に来なかった。
(ま、パーティなんてここで簡単にやればいいんだし、 キョンに用事が終わる頃でも聞いて計画を立てれば大丈夫よね。 …みくるちゃん古泉くん有希にはまだ黙っていていいわね。 当日に団長を最も敬うべき立場の人間が不在だと、団長の威厳にかかわるから)
なんて思って、あたしはいつも通りの活動をする事にした。
…次の日の活動にも、やっぱりキョンは来なかった。
それどころか、私が何か話しかけてもキョンは曖昧な返事ではぐらかすばかりであたしに取り合おうとすらもしなかった。よっぽど怒鳴りつけてやろうかと思ったけど、誕生日が近いという事があたしに変なためらいを起こして言葉を言いつぐんでしまった。
「なによ。」
帰宅して自分のベッドに突っ伏して仰向けになり、そう呟いてあたしはすこしダウナーな気分を味わった。
(せっかく誕生日が近いっていうのに、なんでこんな思いしなきゃなんないのよ… 悪い事は最悪のタイミングでやってくるって本当ね。 いつものあたしらしくしてたなら良かったのかな。大体、 あのためらいは何よ。みっともない。変な期待でもしてたのかしら。 もう…なんか馬鹿馬鹿しいわ。誕生日ごときで浮かれてんじゃないわよ自分。)
夜になっても自分を卑下する思考で頭が冴えていたあたしは、時間の感覚すら無くなってきた頃合いに睡魔から一瞬で意識を刈り取られた。
その日、あたしは中学の時の夢を見た。ずっと一人で過ごしていた中学生の頃。夢の中でもあたしは一人っきりで、普段通りの生活を送っていた。でも何故だか…
まるで、悪夢を見ているかのようだった。
朝、あたしが教室に入ると珍しく既にキョンが席に着いていて驚いた。
あたしを目に映すと何処か物憂げな顔になったキョンは、あたしが席に着いたのと同時に、
「今日の放課後、SOS団の部室には行かないで…長門の部屋に来てくれないか? …とても大事な話があるんだ。」
と、キョンは重く暗い顔で申し訳なさげに話しかけてきた。
……
あたしは不機嫌な顔を作って、窓の外へ顔を向けた。
放課後、あたしは教室で皆が帰ってしまったのを見計らってから一人で下校し、有希の部屋に足を運んだ。
「なによ…古泉君も今日は学校休んじゃってるし、何でいきなりこんななの!?」
そう呟きながらあたしは色々考えた。これから…どうなるのか。
「…ひょっとして、サプライズパーティとか?…」
そう思った時、あたしの中で期待感と安堵の色が広がってきた。
「……でも」
あたしの誕生日には2日も早いし、最近のキョンの態度だとかを考えるとそれは、…あたしが現実逃避をしているだけにしか思えない。
変に期待してしまったら、悪い事が起きてしまった時の事が恐ろしすぎて何も考えられない。それにどれだけ良い結果を考えてみても、それを打ち消す不安要素の方が沢山…ある。
有希の部屋の前に立って、あたしは乾いた口の中を潤す様に息を飲み込んだ。
(来るならこいってものよ。例え一人になったって中学時代と一緒なんだし、別になにも変わらないわ。…今までありがとうって位は言ってあげる)
「………よしっ」
一息入れて、あたしはガチャリ、と扉を開けた
『誕生日おめでとーーーーー!!!!!』
パンパンとクラッカーが鳴って色付き紙があたしに舞い落ちる。玄関には古泉くん、有希、みくるちゃん、キョンが立っていて、みんなモールの付いたトンガリ帽を被ってクラッカーを持っていた。
「すまんなハルヒ、…こういう事だ。 お前の誕生日にはまだ早いが… まぁ、誕生日当日だと露骨過ぎるからな。今日にしたって訳だ。」
「……………」
「今まで話を聞かなくて悪かった。 なんたって、お前は自分からパーティを開きかねんからな。 …それでも良かったんだが、やっぱり誕生日は人から祝ってもらう方が 気持ちいいだろ?これは強制じゃなく俺達の気持ちだ。誕生日おめでとう」
「………ふぇっ…」
「―なっ!?ハル…
「グスッ…ふぅぅぅぅぅッ……ヒグッ!…うぅッふえぇぇぇぇん!」
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SOS団一同は今、大変にあたふたしている!
古泉は世話しなく動き回っているし、朝比奈さんは大変だとばかりにハルヒに駆け寄り肩を揉み、長門はハルヒにトンガリ帽を被せ鼻メガネを掛けようか手を迷わせている。
…いちばん動揺したのは俺だった。まさかハルヒが泣きだすなんてな。俺がなにをしていたかというと、オロオロしたりオタオタしたり等、その場でハルヒを見ながらの奇々怪々な踊りだ。
誕生日パーティの発案自体は古泉からだった。俺達はその計画に同意を示し、ハルヒが自分で計画を立てないよう気を配った。パーティの役割に関しては、古泉の組織が先立つ物を用立ててくれるし、サプライズ的な要素もあるので部室では不便だと長門の部屋を借りるとの話だし、朝比奈さんに重い荷物を持たせて準備を頼む事などもってのほかだ。まぁ色々とそんなんがあって、俺は買い出し兼仕度係となった。
各自そろそろ準備を始めようとしていた矢先、丁度ハルヒが俺に団活の計画を持ちかけてこようとしたので俺はとっさに浮かんだ理由をあげて話を中断させた。そしてその後、俺は放課後にお菓子や小道具の買出しや準備なんかに手を取られていた。
…実の所、、ハルヒの誕生日より二日早く開催されたのは予定外の事だった。何故かと聞かれれば、昨日の夜から例の閉鎖空間が絶え間なく発生し始め、また、明け方には観測史上最大規模の閉鎖空間が現れたらしい。それによって俺達はハルヒが俺の対応に相当なショックを受けているのを知り、これはいかんと開催を急遽本日に繰上げしたいう訳だ。
古泉は過去最大火力の神人討伐に時間を取られ、どっちみち学校へ行く程の時間も無かったのでそのままパーティの準備に勤しんで貰った。おかげで皆がパーティの雰囲気の中はしゃぎまわしてる最中も古泉はうつらうつらとしていた。…ご苦労だったな。
すっかり元気を取り戻してくれたハルヒを含むSOS団の面々と鶴屋さん、谷口、国木田、俺の妹…等々SOS団に関わりをもった人達でお菓子やシャンパン、ケーキが乗った台を囲んで暫くワイワイやっていたが、みんなそれぞれ頃合いだろうとハルヒに贈り物を贈呈し始めた。
…非常にやばい。まだ俺はハルヒへのプレゼントを…用意出来てないぞ…
パーティの準備に忙しかったのと、なにを選ぶべきかさっぱり解らずにずっと決めあぐねていた結果、今日の急な開催までついには間に合わなかった。…どうしようか。家に忘れた?いや、家に来られでもしたらアウトだ。下手したら虚偽の罪に対し鉄拳制裁が執行されかねん…
ここは正直に言っとくのが得策だな。
「ハルヒ…すまないが、俺はまだプレゼントを選べていないんだ… その、誕生日当日に渡すって事で良いか?」
「……」
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「…いいわよ、もう満足してるから」
あたしの言葉に一瞬キョトンとしたキョンは、
「じゃあ当日にな。待っててくれ。」
と右の手のひらをこっちに向けて、済まないという意思表示をした。
…ホントにプレゼントなんてどうでも良いのに。
あたしは最後の最後でSOS団の皆を疑ってしまった事を忘れるかのようにパーティでは思いっきりテンションを上げていた。みんな、ありがとう。…ごめんね。
そしてキョン。2日前のあの言葉…
…キョンの気持ちとして受け取っておくから。
了
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