涼宮ハルヒの情報連結解除 第一章
「あれは突然のことだったのさ……」 朝比奈さんが鶴屋さんの隣に腰掛けるのを見た俺は、適当な場所に座る。「違和感を覚え始めたのは昼休みくらいからだったんだっ。どうも頭らへんがもぞもぞするっていうか。今までに味わったことない感覚が襲ってきてね。あまりに気になったからさ、鏡を見に行ったんさ。」 俺は聞き耳を立てる。やはり鶴屋さんの声には芯が通っていない。「でもね、その時は何の変化も無かったのさ。気のせいってことにしてずっと帰りのホームルームまでそうしていたんだけど、やっぱり気になって。掃除当番だったんだけど、掃除が終わってからまた鏡を見てみたら……こういうことになってんさ。」 ……なるほど。全く原因が解からん。「円形脱毛症とか……病気なんですかねぇ? キョンくん。」 できれば俺に問わないでいただけると助かるんですが、ここはそうも言ってられない。何といっても朝比奈さんの大親友、鶴屋さんの一大事だ。「ストレスが溜まっていたんですか?」「いいや、そんなことは無いと思うけど。いつも通りにしてたよ。」「うーむ……」 とりあえず顎に手を当てて考えてみる。こりゃきっと何かが絡んでるな。宇宙的、未来的、超能力者的な何かの力が関わっていると見て間違いなさそうだ。「俺なんかが力になれるかどうか解かりませんが、色々と調べてきますよ。」「頼むよ、キョンくん。前髪が戻って来るとかそういうのは望んでないんさ……ただ、原因が知りたくてね。」 できる限りを尽くします。必ず。 その後俺は朝比奈さんと共に文芸部室へ帰還した。「おや、あなたがたのペアとは珍しいですね。」「悪いか?」「いいえ、まったく。」 戻って来た部室にニヤケ面の顔はあったが、ハルヒの顔は無かった。「ハルヒはまだなのか? てっきりもう来てると思っていたんだが。」「どうやらそのようです。」「まあいい。むしろ好都合だ。ちょっと話があるんだが、いいか?」 俺はパイプ椅子に腰掛ける。「なんでしょう?」「鶴屋さんの前髪についてなんだが……」 ――ぽとん。 唐突に古泉の後方から、物が床に落下したような音が俺の耳に届き、古泉と俺が音のした方向へ首を動かす。「……あ……」 信じられない光景が広がっていた。見ると、長門が手をすべらせて本を落としているようだった。「…………」 長門は無言でそれを取り直し、また読書に戻る。数秒の沈黙のあと、古泉が口を開いた。「……それで、話とは?」「あ、ああ、実はだな――」 「――ってことなんだ。何か知ってるか?」「前髪が無くなるなんて……まず普通ではありえませんね。」「だろ? また誰かの仕業なのか?」「僕にはまだ解かりかねますよ。」 やはり解からないか……。「そういえばハルヒのやつ、本当に遅いな。どっかで道草食ってんのか?」 ――ぽとん。 まただ。二度も説明する必要はないだろう。「どうしたんだ長門? 今日のお前、おかしいぞ?」「……ごめんなさい。」 謝られると何か自分が悪いことをしたような衝動に駆られちまう。「いや別に、何も謝らなくても……」「ごめんなさい……わたしは……」 俺はすぐに気付いた。長門がおかしい。「ど、どうしたんだよ、長門。」「……その前髪の件は、わたしがやったこと……」「な、なんだって!?」「………………。」 そのまま長門は黙り込んでしまった。しかし、ここぞとばかりに古泉が近寄る。「教えてくれませんか? 詳しい事情を。」「……わかった。」 そう言うと長門は、きちんと背筋を真っ直ぐに伸ばし、いつもの淡々とした声で語り始めた。 第二章に続く
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。